魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第259話『Fate/stay night(6)』

 英霊からのいきなりの『通信』。念話という形で、こちらと明朗にやり取り出来るのは、戦場の『中心』が自分にあるということなのかもしれない。

 

 その責任を十分に認識する……。

 

「分かっちゃいたが、お前の見解は?」

 

『俺の考えですが、後ろに置き去りにしている人たちがマズイでしょうね。俺は孤軍でも何とかなりますし、死んだとしても霊子に変えるだけですから、いいんすけど』

 

「ヘクトールに合流してくれ。いざとなれば後ろに転進することも考えに入れておいてくれ」

 

 英霊進撃の最中に飛んできた、タタール族の王マンドリカルドからの少しだけやさぐれた通信内容と見解に答えながら考える。

 

 こちらの指示に『ちょっ、マスター!?』などと狼狽するのを、通信を打ち切ることで、有無を言わせないのだった。

 

 形骸なき混沌の泥。まるでパニックホラー映画のように、見えぬように進んでくることも出来るだろう。

 

 具体的には、『ザ・サンド』の訳の分からない生物のように、砂浜の下からの捕食行動も出来る……。

 今は『ネロ・カオス』という死徒は捉えることが出来ている。―――その姿は、何故かメカメカしい。俗に言えば『松本零士』的なスコープでこちらを見据えているのは如何なものかと思う。

 

 

「観測した限りでは、アレは『総体を消し飛ばす一撃』か『会心の一撃』でも食らわせれば、倒せるんだろうけど」

「まぁ中々に難しいね。下手に対城・対界・対星なんて使えば、ここ(セカイ)の維持は出来ないからね」

 

 

 その対城宝具を持つアーサー王が言いながら、ネロ・カオスの欠片たる蟹のような蠍のような魔獣を細切りにしながら言う。

 

 

「―――ならば、どうする?」

 

「簡単だ。あの裸マントの死徒―――エドモンに引っ付かれている死徒を先ずは倒す」

 

 何かの因縁があるのか、単騎で突っ込んでいったエドモン・ダンテスというサーヴァントは、途中にいた死将たちの攻撃も紙一重で『分身』して躱しながら一気に王手を掛けたのだ。

 その際の会話は………。

 

『すまないマスター。私には、この男が生きていることが、この上なく許せない……! 我が師……第二の父である『ファリア神父』を己が欲で監獄塔(じごく)に入れたこの男が、私に『殺される』こともなく、生き延びた世界など―――心が許せないのだ!!』

 

 いつになく激情を以て語るアヴェンジャー・エドモン・ダンテスは、レイピア2本を要求して無茶な進撃を開始したのだった。

 

 実際、エドモンの暗黒のビームに対して、ミハイル・ロア・バルダムヨォンも雷で対抗する。

 

 肉体的な性能では、サーヴァントであるエドモンに分がある。時に空中戦にすら移行する戦いの中で、如何に死徒であろうと……。

 

(エレイシアさんが、あそこまでのステゴロを得られたのは、教会でのとんでもない『修行』『苦行』ゆえだ。魔術回路による肉体強化をしたところで……)

 

 元は大航海時代に未知の世界を目指して(星の開拓者)船を漕ぎ出すマルセイユの船乗りにして、シャトー・ディフの監獄にて、10年間を『代行者ファリア』によって人知れず鍛えられてきた男だ。

 

 性能差は元々にあるのだ。

 

 だが、そういったものを覆すのも我らが世界。

 

 呪詛を操り、多重結界という秘技を用いてエドモンに対抗していく。

 

 己が身を燃やして結界崩しをするエドモン。その恩讐のほどは深いものだと感じる。

 

 再びの激突を繰り返す復讐者と転生者。

 その戦いは激しく、血沸き立つものだが……。

 

「―――とはいえ、このまま見ているわけにもいかないな。スピードアップだ。ランサー、ライダー、前面の敵を『磨り潰せ』」

 

 ただの『命令』ではあるが、その言葉は呪文のように2騎のサーヴァントを高揚させるのだ。

 

「敵将めがけて一陣の矢となるか。いいぞ。そういう戦い方も、また1つだ」

 

 

 槍の美女が笑みを浮かべたあとに―――。

 

「我が身を掛けて活路を切り開く。アマゾネスにもその戦いは有る―――来いカリオン!! ではマスター! 我が駿馬に跨るが――――――ん?」

 

 

 アマゾネスの女王が地中より強壮な駿馬―――現代のサラブレッド種よりも3回りは体躯が大きいものを出した時には、マスターの姿は、ライダーの前から忽然と消えていた。

 

「ヒッポリュテ、セツナは、スカサハに連れて行かれたよ。『大将一騎駆けの心得をお前に教えてやろう!!』とか脇にマスターを抱えてね。いや、いくら自分の『養母』に似ているからと、アレを己の近衛(ガード)に据えるセツナは―――ドMだね」

 

 

 なんでも無い顔で『毒』を吐くアーサー王を筆頭に……。

 

「ゴールデン、あっちの方でママンが、『母もあれやりたいです♡』みたいになってるぜ」

 

「リトルベアー、見なかったことにしやがれ。オレのサングラス越しに頼光サンの姿は見えていない(必死)」

 

 いつの間にかバーサーカーの肩に乗っかっていた子熊との会話。

 

 だが、英霊たちは、普通通りだ。ライダーもアーサー王の言葉を受けた後には超速、否―――神速で駆け出した。

 

 神気を操りて人馬一体と化したアマゾネスの女王は、すぐさまスカサハに追いついたのだ。

 

 当然、その進撃を食い止めんと、黒色の獣達は四方八方から迫りくるも―――。

 

 

「「させるかぁ!!!」」

 

 双槍を風車のように―――もちろん勢いは、風車の速度ではない。

 

 それでもそのような尋常ではない武術が、殺しの技として成立するほどに、2人の美女の技は極まっていた。

 

 黒色の獣たちは、身をさんざっぱらに砕かれて蟠る泥に還っても、それが次に『ナニカ』へと変性するものであることは分かっていたので、2人はそれを細粒以下にまで砕いていく。

 

 

 そこに道化師(クラウン)のような姿をした双子の『死徒』が邪魔をしに現れる。白粉が塗りたくられた顔でもそう『断じれた』のは、魔力の流れが『完全』に同期していたからだ。

 

 

「―――恐らくだが2人で1つの存在だ」

 

「成程、面倒な吸血鬼だな! マスター下がっていろ」

 

「しかし、我々の前に出るとは―――大いに! 自信満々と見た!!」

 

 朱槍を手にするスカサハは、槍をなぞることでルーンを発動。ヒッポリュテはアレスの軍旗から発する神気を魔力で構成した槍に宿す。

 

 

 力の発露を眼にしたジェミニの死徒は、ある意味では血分けをした自分たちの『チカラ』の総量など意味を成さないことに瞠目した。

 

 

「お前達には魂の安寧もないだろうが、永劫の苦悶に灼かれ続けるは忍びない」

 

「不死者に永遠の眠りを与えるために―――」

 

 言葉を合わせ、前に進み出る2人の美女が言葉を合わせて―――。

 

 

『私達が―――ダン・スカー(タルタロス)だ!!』

 

 ―――要は『地獄』ということを示したいらしい。

 

 分かりづらいことこの上ない表現だが、魔人にして魔神でもある2騎にとっては、そうではないらしい。

 ・

 ・

 ・

 

 ―――そんな激突の様子を遠くから見ていた達也組の面子は、少しだけ呆然とする。自分たちがあれだけ苦労していた連中が、サーヴァントにとってはなんてことのない相手なのだ……。

 

 理不尽極まりない差。もしかしたらば、こういう風なものが常日頃、魔法師ではない人(非魔法師)たちが魔法師に抱いているものなのかもしれない。

 

 

 如何に自分たちが少数派だのマイノリティだの言おうと、人々からすれば魔法師は均衡を、秩序を、とにかくあるべきままにしておきさえすれば良かろうというようなものを、とにかく壊すのだ。

 

 スコップを振るう要領で大地を斬り裂き、拳銃程度の口径しかない銃ですら人体全てを圧潰するものに変化出来る。

 

 それだけの事ができる『辛い訓練』をしていると、自分たちが抗弁、強弁しても、それが明確に分かることは少ない。

 

 肌感覚でも、中々に分からない。

 

 行きつけの店のウェイトレスにサイオンの受け取り、そして魔法式を展開する云々、座標設定やらあれこれ説明すると……。

 

 『『なんか電波を受け取っている人みたいだ(ねー♪)』』(BY ふたりはヒビチカ♪MaxHeart)

 

 刹那とリーナを除いて全員が、ずずーんと沈んだのを覚えている。あの鉄面皮、司波達也ですらそうだったのだから。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 エリカ、幹比古―――ついでに言えば失神した美月が紛れたのは、恐らく『日本の英霊集団』であった。

 

 というよりも、美月が眼鏡でも抑えきれないほどの魂の輝き―――サーヴァントたちの一斉召喚。そこに居並ぶ連中を見た後にそうなってしまったのだ。

 

 その際に、美月を介抱したのは―――。

 

「ふむ。刹那くんが西洋の医神どのを寄越すようだ。まぁ一種の処理能力のオーバーヒートなんだろうけど、お竜さんの膝枕というのがいいのか悪いのか分からないからね」

 

「リョーマ、カエルを煎じて呑ませるとかどうだ?」

 

「そういう前時代的な医術はやめなさい。「ミナカタ」先生がいてくれればねぇ」

 

 などという息のあった掛け合いをする奇妙な夫婦であった。男の方は、今でも式典などで見られる白色の海軍制服に身を包んで軍帽ではない帽子を被っており、女の方は長い黒髪に赤い目―――そして着ている衣服は、黒い恐らくセーラー服だろうものを思わせるものに身を包んでいた。

 

 

 黒白の対照的な衣装に身を包んだ英雄。

 

 自己紹介されたとおりならば、幕末維新を駆け抜けた風雲児。ある意味では、ジャーディン・マセソンだかグラバー商会の『スパイ』とも言われる人物なのだが……。

 

 

「あの『坂本』さん―――あんまり『土佐弁』を話されないんですね?」

 

 幹比古が素朴な疑問を呟くと、苦笑しながら近代の英雄『坂本龍馬』は語る。

 

「うん、ああ、確かに『創作上』の僕は江戸でも京都でも訛った土佐弁を使っているけど―――何というか、あれは下級武士たちの間での砕けたものなんだよ。第一……今も昔も『よそ』に行ってジモティーな方言を使うこともそうそうないでしょ?」

 

 それはその通りだった。一色愛梨も、金沢弁が出るのは本当にキレた時とかばっかりなのだし。

 

 そんなわけで司馬遼太郎先生などには悪いが、龍馬の真実を自分たちは眼にしたのだった。

 

 ―――ちょっとだけ感動である。

 

 

「で、あそこでいがみ合いながら、銃撃したり、神速で剣を振るっているのは……?」

 

「銃撃しているのは、安土桃山時代の魔王『織田信長公』―――、そして神速の剣を振るうは幕末京都の人斬り剣鬼『沖田総司』さんだ」

 

 一同沈黙(美月は治療中)。

 

 特にエリカは、アレが? と言わんばかりに口を開く。

 

 

「まぁ歴史なんて結構、いい加減なものだっていうのは分かりますよ……けど―――」

 

「なんで両名とも『女』なんですか……?」

 

 既に長尾景虎やアーサー王が女であったという『世界』を見せつけられた2人だが、どうしても、この2人が女ということには納得がいかないのだ。

 

 曰く、『解せぬ』。実は、女体化(TS)は刹那の趣味とか言われたほうが、まだマシな気がするのだ。

 

「うーん。中々に真面目だね。『世界の認識(アングル)』ってものに、もう少し遊び心ってのがあってもいいと思うよ」

 

「そういうもんですか……?」

 

「そういうもんさ。でなきゃ、歴史に名を残す英雄なんてものは生まれない。そして名を残した英雄は、大なり小なり常人とは考えも、生き方も、在り方も違うものさ」

 

 確かに、そう言われればそんなものかと思える。

 

 そもそもエリカと幹比古が話している人物とて、時代が佐幕か勤王かという舵取りをしている時代に、日の本全ての事を考え、その果てに『争い』を無くして―――

 

『全ての力を合わせて『列強』と『力』でも『口』でも『商』でも渡り合おうじゃないか』

 

 ―――と、想ったのだ。

 

 その中には、旧来の宗主たる徳川を政権運営に携わせることで、武力衝突(内乱)を回避する狙いもあったのだから……。

 

 もっとも、その目論見は外れて時代は、武力倒幕へと向かっていったのだが……。

 

 このヒトが近江屋で殺されなかった場合の日本の姿は、もしかしたらば、『かなり違った』のではないだろうか……。

 

 

「美月ちゃんの調子もいいようだからね。そろそろ僕も前線に行こうと思うよ。いつまでも以蔵さんを1人にしちゅうなかきに、すまんな」

 

「―――坂本さん……」

 

「土佐弁出ちゃうんですね……」

 

 その言葉に笑みを浮かべて、坂本龍馬―――幕末の快男児は口を開く。

 

「日の本のわらしが戦場に出ること、人を殺すことを是としてしまう。この世界の『人理』がワシは気に入らんきに。そういう話し方しちょったんじゃ。

 おんしらも、確かに武人として鍛えていたとしても、それをワシは許せんのじゃ―――。子供が戦場に立つ―――その『当たり前』に怒って、マスター刹那の『親父さん』も出てこんのじゃろうな」

 

 そう言って遠い目をする坂本龍馬の言葉を、甘ちゃんの言葉などとは言えない。このヒトが目指したものとは、刹那が、魔法師社会に対して目指したものと似ているのだから……少しだけ親近感を覚える。

 

「リョーマ。そろそろ―――」

 

「ん。では行こうか―――」

 

 下半身が幽霊のようになった、坂本さん曰く『お竜さん』とやらが促す形で、維新時代の風雲児は吸血鬼との戦いに向かっていく。

 

 その姿を見ながら―――それでも、自分も坂本さんのような2人の時代を動かす存在の一員、一欠片でいたいのだと想って―――前を向く。

 

 躍動する魂が―――ギャラリーでいることを、守られているだけなのを許さないのだ。

 

 メガネが似合う銀髪美男子に介護されている美月の姿に、若干思う所が幹比古はあったが、それでもこの場で留まるというのは無駄ごとなのだ。

 

 だからこそ医者のサーヴァントに任せて戦場へと向かうのだった……。

 

 

「それにしてもレオは何処行ったんだか……」

 

 達也たちの周囲にいないということは、どっかの英霊軍団に巻き込まれるか、自発的に着いていったかなのだが、果たして何処へ―――そういう想いにエリカは囚われるのである―――。

 

 

 

 




当初考えていたのは、ノッブと沖田さんがケンカしながらも、吸血鬼軍団に立ち向かい。

「わしらの攻撃効いてなくネ!?」

「いやーやっぱり神秘が薄いですからね。私たち。というかノッブの場合、そういうのを駆逐する立場では?」

「神秘といってもあ奴ら、完全に人理否定サイドじゃからな。人の身では中々に厳しいのじゃ!」

などという経験値先生的会話をする連中にエリカたちを紛れ込ませるのは―――無理と判断。

若干、説教臭くなりましたが坂本さんで一つ関わらせることにしました。

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