魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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うーーーむ。本当に賛否両論になってしまったが、とりあえず改訂は保留ということにしておきます。

しかし、型月の『ノーマル』な『魔術師』というのが、『異能が認知された』世界でそこまで隠し通せるかと言えば無理なような気がしながらも新話をお届けします。


第16話『変化への序章』

 

 

「成程。確かに事前情報の通りだ。だが、な。いくら何でも、あんな巨大な使い魔を使役するなんてやりすぎだ……」

 

「小さな使い魔だと大量の『蜂』か『蛇』になりましたが―――」

 

「すまん。そのガルゲンメンラインとやらで構わん―――未登録のSB魔法とも言えるしBS魔法とも言える……お前の手札が見えなさ過ぎる」

 

 

 見せたがるヤツもいないと思います。と内心で渡辺風紀委員長に返してから思うに、魔女術の全容が知れていないというのが、一番の脅威なのだろう。

 

 

「刹那君。あなたは私が『見ていたこと』に気付いていたわよね? 達也君も多分そうじゃない?」

 

「ええ、だから油断していました。刹那が、森崎の『魔弾』を摘まんで、ここまで強硬かつとんでもない手段に出るならば、そうなったとしても七草会長ならば止められるのではないかと」

 

「そうね……けど『何も出来なかった』。森崎くん…だったかしら? あなたが二科生を侮り、その上で己の実力に自負を持つのは構わないけれど―――ケンカを売る相手は考えた方が良かったわね。少なくとも『クドウ』の関係者である刹那君が、百家支流のあなたに劣る存在だと思えた根拠が知りたいわ?」

 

 

 正座をしていた森崎が呼びかけられてびくっ! となる。俯いたままで何も言葉を発さない彼は―――完全に絶望している。

 

 

「だ、だって―――トオサカなんて家名は、知らない上に……あ、あんなこと―――魔法で出来るなんて……」

 

「浅慮ね。家名なんてただの役に立たない物差しよ。かの『はじまりの魔法使い』とて、その辺にいるお巡りさんだったのだから……」

 

 

 日本のマスターマギクスの家の人間がそれを言うかという呆れがそこそこに出ながらも、 冷たい目をして森崎を見てから、その後で、刹那を見てくる七草会長。何か思う所はあるようだ。いやな予感がひしひしとする。

 

 

「ともあれ、刹那君は、今後あのような術式を使うの禁止。出来うることならば、親御さんの遺言もあまり真に受けないでほしいのだけど」

 

「森崎みたいなのが現れて、今後俺の前で『それ』が無い限りはしませんよ。ただ……一科が持つ差別意識が無くならない以上……どこかでドルイドの呪いが発揮しないなどとは確約できません」

 

「確約して―――でないとあなたを守りきれない」

 

ローンレンジャー(森の大戦士)になることは誰にも止められないんですよ」

 

 

 正義を気取るつもりはないが、それでも、あのような発言をよくも出来るものだ。自分の気に入らないことならば、何が何でも自分の思うままにしたいなど、反吐が出る。

 

 

 実に『魔術師』らしい思考だ。まぁ森崎を脅しつけた自分も同類と言えるか、バカを殴る為にバカになってしまったのは、完全なミスである。

 

 

 だからこそ、少しだけ寂しい思いを抱きながらも、『落としどころ』を提案する。

 

 

「もういいでしょう。俺は退学、森崎は二週間程度の停学―――あとの連中は、無罪放免で、勘弁してやった方が落としどころじゃないですか?」

 

「いいえ、そんなつもりはありません。私が望む学内改革に―――『遠坂刹那』、あなたは必要です。あなたのその『はじまりの魔法使い』にも似た力は、この世界に変革を齎します。そう私は確信しています」

 

 

 その言葉に周囲のギャラリーにもどよめきが走る。リーナが七草会長を睨み、何を知っているのかと言わんばかりの視線を向ける。

 

 

「それは本当に、アナタの意思なんですか『マユミ』? 『家』から何か言われているわけでは―――」

 

「私を見縊るなんて、実に『鍛えがい』がある後輩―――摩利。もういいんじゃないかしら? 私達の浅慮と知識の無さが遠坂君に強烈なことをさせた。森崎君の差別意識は全てこの学校の人間が負うべき罪科。澱であり膿。起こるべくして起こった事よ」

 

 

 前半で、リーナに冷たく返してから風紀委員長の渡辺摩利に話しかけた。結論としては、『どうであれ先に手を出したお前が悪い』という事で収まる。

 

 刹那のスラングも『挑発されてそれに乗った時点でお前の負け』―――とことん森崎に軍配悪しの『喧嘩両成敗』ということで落ち着けてしまった。

 

 

(法政科の連中よりも甘い処分だ)

 

 

 奴らならば、両者を根こそぎ叩き潰す。風紀委員というのは、そういうもの(法政科)だと聞かされていたが、どうにも手間が違いすぎる。

 

 

「ところで司波―――お前はどうして遠坂が森崎の魔弾を摘まんでいるなんて表現出来たんだ? 他の連中は、森崎の魔法を『無効化』したと言っていたが……」

 

「ただ単に『眼』がいいだけです。分析する上で眼の良さは必須ですから」

 

「……成程な。二人して『只者』ではないということか―――いいだろう。今回は無罪放免だ。ただし森崎。お前は『立場上』。始末書と反省文の提出をあとで命じる。花の化け物(ブルーム)に食い殺されるよりは、マシだな?」

 

「は、はい――――寛大な処置ありがとうございます!!!」

 

 

 達也と刹那に得心した後で、森崎に言う。意味ありげな言葉だが、本当のところは分からない。どうでもいいとも言える。

 

 

「以後、気を付けるように―――」

 

 

 踵を返して校舎に戻る渡辺委員長と七草会長に一礼(正座をしたまま)―――見えなくなるまで見送ってから立ち上がる。

 

 誰もが言葉を発さない。負けたもの。勝ったもの。その区別に関して言えば―――何だか混沌としたものだ。

 

 

「何も言わなくて良かったのに」

 

「借りを返しただけだ。食堂でのことのな」

 

「あれは七草会長の匂いつきの服でチャラだと思っていたよ」

 

 

 その事を思い出したのか深雪がおっかない顔をして、こちらを睨んできた。余程自分の兄に他の女の匂いを着けたく無いようだ。

 

 そんな中、一人の男子が立ち上がってこちらに宣言をする。

 

 

「―――っ、お前ら、これで何かが変わったと思うなよ!! 一科と二科には厳然たる差があるんだ!! 司波さんは僕らといるべきなんだよ!!」

 

 

 捨て台詞のつもりか、何人かのA組の連中を後ろにして宣言する森崎の姿。やれやれだ。

 

 

「そして遠坂! お前が、どれだけの秘術を隠し持っていたとしても―――俺はお前を超えてやる!! 爪隠す能ある鷹よりも、ちゃんと群れを守れる獣の方がいいに決まっている!! 小便ちびって鼻水流していて、情けなかろうが何だろうが、守る人間が必要なんだよ」

 

 

 言葉の意味合いは分かる。恐らくこの男は誰かを守るということに従事している。そして従事する家系なのだろう。

 

 本質的にはガキ大将タイプではないが……生憎、『生業』からそういったことをせざるを得なくなった……。

 

 

 校内から完全に出ていく森崎一味を見送る。

 

 

 俺がもしもトップを取っていれば遜っただろうか。とも考えるが、そもそも刹那とてリーダーみたいな気質ではない……。

 

 自分のお役ではない。と思いつつ、何か切欠さえあれば『化ける』かな? と値踏みをするのであった。

 

 

(―――と、セツナは考えているだろうけど、スターズにおいて私が『アイドルリーダー』であれたのは、本当の意味での指揮者はセツナだったからよね)

 

 

 兄貴分に世話をされてきた。だから下に就いていたい。と語る自分の恋人の本質を掴んでいたリーナは、ここでもそうであれば良かったのに。と感じつつも―――。

 

 

 結局、成るようにしかならない。そんなこんなしてきた時に、行くぞ。と思念で通話してきた刹那。

 

 光井ほのかと北山雫が達也に自己紹介している時に―――。

 

 

 こそっ、と出ていく。そういう算段だろうと感じて隠れ身のルーン。セツナ曰く『マナナンのルーン』を発動させて抜き足差し足忍び足で出て行こうとする。

 

 出て行こうとしたのだが……。

 

 

「あー……言おうかどうか、少し戸惑うけど…司波くん、遠坂君とシールズさんが姿消し(迷彩化)をして、出て行こうとしているよ」

 

「ええ。何だか逢引きするから……出て行こうとしているように見えます……吉田君も見えるんですね」

 

 

 ゲェー!! などとキン肉マンのように叫びたい心地で振り返ると二人の男女の眼はこちらから離れていない。

 

 不味いと思った時には―――。

 

 

「そうは問屋が―――」「―――卸さないって言葉知っている? リーナ」

 

「とりあえず神妙にお縄について」「駅前までの白州裁きを受けるべきだぜ刹那」

 

 

 リーナは、左右の肩をエリカと深雪に、刹那も同じく達也とレオに掴まれることで、追求から逃げられなくなってしまった。

 

 

「くぅ……男二人が女一人を左右から捕まえる。これが『嬲る』の文字の起源なのねセツナ……」

 

「誰が男だ!?」「失礼ですよ!」

 

 

 エリカと深雪の怒りの言葉。当然ながらも何だか納得いかない。こんな罪人のような扱い―――いや確かに悪いことしたのは事実なのだが……。

 

 

「やれやれ、いいよ。『何でも』とまでは言わんが駅前までに聞きたいことは大体答えるさ。だからリーナを解放よろ」

 

「いいのか?」

 

「神秘は確かに秘匿すべきものという大原則はあれども、概念としての信仰心を『確立』するためにもある程度の『漏れ』が必要なのも事実だしな」

 

 

 現代における神秘の濃度というのは、『概念』の『安定性』も重要視される。そして殆ど神秘が駆逐されたように思えたこの現代においても、完全に『信仰』の全てを捨てきれていないのだから―――。

 

 そんな風な言葉を『漏らした』のだが、やはり達也たちにはあまりピンと来ないようだ。

 

 

 † † † †

 

 

 魔術とは世界の『基盤』に訴えて、オドとマナを用いて、それらを原動力として世界で『あり得る限り』の『事象』を起こす秘儀。

 

 

 この辺りは、魔法師の使う『魔法』と少し似ている。問題はその『性質』である。

 

 

 事象を『改変』する魔法。

 

 事象を『歪曲』する魔術。

 

 

 その二つは似ているようで、似ていない。

 

 

 事象を改変する魔法のエネルギー総量はともすればとてつもないものだ。

 

 戦略級魔法に代表されるものの多くは、大都市の大半を機能不全にするだけの―――つまり『裾野の広がり』があるもの。

 

 高山があったとして、その天辺を目指すのではなく、山頂部から勢いよく駆け下りる。活火山で言えば、裾野を駆けていくマグマや土石流のようなものだ。

 

 

 逆に魔術は、エネルギー総量ではあまりにも及ばない時もある。まぁ種類にもよるが、事象に歪曲を齎すだけに、大都市の人間を一瞬で消滅させられるようなことはそうそう出来ない。

 

 大都市の人間全てを消滅させたいならば、消滅させられるだけのエネルギーを自分で用立てなければならない。

 

 高山があったとして、その天辺を目指してひたすら歩き、その上に見える『星界』や『天球』からさらにエネルギーを貰う。活火山で言えば、吹き出した時にそこにあるエネルギーを己のものとするようなもの。

 

 

「魔法で言えば複雑な起動式や魔法式で物体や領域の『情報』に対して『運動干渉』を仕掛けるが、魔術は、ある程度のルールはあれども全て『世界』そのものに対して『干渉』をすることで現実を『すり替えている』んだよ」

 

「似ているようで違うんだな……」

 

「そうだな。それゆえ『世界』は『本来あるべきもの』を改変された反動を術者や施術者に負わせる。まぁ本当に不味いものでは宇宙の寿命が100年縮んだんじゃないかというものもある」

 

 

 やばいだろうが、と誰もが思う。しかし、そこまでの規模の大魔術を使うには大霊地とでも言うべき土地の魔力も使わなければいけない。

 

 もはや『魔法』の域であるが、その辺りは話さないでおく。

 

 

「それじゃ森崎の前に出したあの花の化け物も、そうなの?」

 

「普通に考えれば植物があんな風な進化は遂げんわな。だが、そういった『種類の花』を知っていれば、その原理を知っていれば、歪曲させ進化を強要させることが出来る」

 

 

 そもそもあの時点で妖花の種子を刹那は地中深くに送り込んでいた。その上で魔力による干渉と地中深くならばある『土地の霊力』を融合させて、あとは開花させるだけだった。

 

 

「達也。俺は昨日の入学式にもお前に早駆けのルーンを見せたな? あの後、見てどうした?」

 

「鋭いな。実を言うと、見たのを再現して魔力を通そうとしたんだが……」

 

「お兄様?」

 

 

 どちらかと言えば何事にでも明朗かつ明晰なことを言う兄の歯切れの悪い返答を怪訝に想う深雪。

 

 苦笑してから―――達也は現代の魔術師に真相を告げることにした。

 

 

「何度やっても発動しなかった。俺の眼は起動式や魔法式を見ることに特化しているが、刹那、お前のルーンは確かに魔力を伴っているのに、同じものを書いて魔力を通そうとしても―――結果が伴わなかった。結構悔しかったぞ。お前に担がれていたんじゃないかとな」

 

「まぁある意味では、担いだわけだが」

 

「お兄様を騙したんですか?」

 

 

 人聞きが悪い。だが、あの早く走っている中でも、それを覚えて再現しようとするということは、本当にこいつは『魔術師』向きである。

 

 先生のようなタイプだろうかと思う。

 

 確かに文字としてのルーンを知っていたとしても、それが効力を発揮する『書き方』『書き順』『意味』『その成り立ち』を知らなければ、それはただの『文字』でしかない。

 

 

「その書き方、書き順なんかを正確に知っており、独占しちゃってるのが刹那君ということか、なんかズルくない?」

 

「魔術は秘されてこそ意味がある。つまりは原理さえ知られなければ、そのまま『神秘』として認識される。その上で大勢の人間にルーンという『神秘』が知られていれば、『信仰心』と同じものである『魔術基盤』は強化される」

 

「お前の田舎じゃ、そういうものだったのか……古式魔法といえども侮れんな―――そしてお前はまだまだ『手札』を持っていそうだ。お前にとって、今まで俺たちに見せたものは見せても『構わない』ものだからだな」

 

正解(エサクタ)

 

 

 何故にスペイン語?と思うも、達也に対して指さしながらの言葉はどこか重いものがあった。

 

 

「ちなみに言えば、校門前を元に戻したのは一種の『時間制御』。魔術のもう一つの特性―――『逆行』だが、今はこれぐらいでいいか?」

 

「ああ、まだまだ知りたいことも多いが、これ以上リーナとお前の時間を奪うのも悪いし、もう一人……二人の質問者を放置するのも不味いからな」

 

「成程、吉田―――何か聞きたい事があるのか?」

 

 

 あの時、美月と同様にガルゲンメンラインの『真実』を見通して制止をした人間の一人。E組の人間でかいつまんで言えば、少し前に聞いたエリカの馴染みらしい。

 

 スマートな美形と呼んでも過言ではない人間は何か決意を秘めているようだ。

 

 

「幹比古でいいよ。遠坂君―――僕にさっきから言っていた魔術を教えてほしいんだ!」

 

「断る。そして俺も刹那でいい」

 

 

 前半で突き放しておいて、後半でフレンドリーさを要求。どういう神経だ。と馴染みのエリカが怒ろうとする前に―――。

 

 

「一先ず落ち着こう。アーネンエルベに寄ってからでも問題は無いだろう。チカたちが手を振っているしな。それと―――私見ではあるが、『何か』に引っ張られている以上は、魔術をどうこうしても意味は無いな」

 

「引っ張られている?」

 

 

 疑問を持ちながらも何か『覚え』があるのか、考え込む様子の幹比古。どうやらアタリのようである。

 

 

「幹比古の症例はとり憑かれているだけ。『よりまし』『憑代』になっているだけだと思う」

 

「同感だな。とりあえず腰を落ち着けよう―――」

 

 

 色々と規格外な分析官二人の言葉に誰もが頷く。魔法科高校に入学して二日目にして、何たる変化の連続。

 

 そんな中……何故か北山は俺を睨んでくる。本当に俺は何をしたんだろうか……。

 

 

 ともあれチカとビッキーに呼ばれている以上、行かないわけにはいかなくなる。

 

 

(魔法使いの箱―――大師父も面倒なものを作ってくれたもんだよ)

 

 

 つまりは―――レオ、幹比古、光井、北山も何かしらの『特異点』となりえる可能性があるということだ。

 

 余計なものを引っ張り何かしらの事象編纂に関わらせる……。そういう手並みなのだろう。

 

 

 まずは幹比古の症例、降霊科ほどの手並みではないが、そういった高次の情報体が乗っかっているのを『調律』することぐらいは出来る。

 

 別にやれることをやらないほど意地腐れではないのだ。

 

 

 魔術師としては本当に『正しくない』ことばかり、自分の代で遠坂の家門は落ちぶれたと言っても過言ではないだろう。

 

 

 だけれど、結局、何もしないでいたらば、後悔してばかりになりそうだ。

 

 何でも『出来てしまえば』、また失ってしまうかもしれないから―――。怖くて踏み出すことも出来ないでいたのだ。

 

 

「ほらセツナ、ミキヒコの症例はジェロニモ大尉とおんなじなんでしょ。だったら直してあげなくちゃ♪」

 

「―――そうだな。なにもしたくなければ引きこもっていりゃ良かったんだ」

 

 

 外に出たのならば、変化が訪れる。ならば、その中で自分の出来ることをやらなければならない。

 

 関わったものに最後まで関わり続ける。どんな問題児、成績不良者だろうと放り出さないで面倒を見ていった師匠の姿―――ロード・エルメロイⅡ世という『お役』を演じ続けた人の姿が残っているから―――。

 

 

 刹那は、魔術師としては『正しくなくて』構わないのだ。そうして隣で微笑む『スイートスター』の髪を撫でながら、ありがとうと無言で伝える。

 

 

「にしてもミキ、よくあのガルゲンメンラインとか言う使い魔が『殺傷』的な能力が出来ないって分かったわね?」

 

「エリカ、僕の事をミキと呼ばないでくれよ……真面目な話をすれば、あの使い魔の声が聞こえていたから『あーめんどくせー。こんなエサにもなんねーもの縛っていたくない』って」

 

「……マジで?」

 

 

 刹那とは無関係な所で話し合う幼なじみズ。その会話で自分のハッタリが完全にバレる。別にいいけど―――。

 

 光井と北山も―――本当か? と真偽を問いただすようにこちらを見てきた。

 

 

「魔術的なことは分からないが、あの植物には、いわゆる『捕食器官』が無かったからな。森崎のしょ―――体液を吸収したのは、樹木の幹に見立てた維管束。発声器官は……お前の仕込みだな?」

 

「仰々しいトリックだったかね? まぁ本来ならば捕獲した段で原始的な武器なりで貫くためのもの、ドルイドは、古木に捧げる贄をああして捕えてから持っていくのさ」

 

 

 名探偵シバのNGワードギリギリ回避の推理によって、あの場における顛末が知らされる。ガルゲンメンラインの真正の姿は、『アルラウネ』―――。

 

 巻き上げた土塊も身体とした樹精人形(トレントロイド)。ずんぐりむっくりの『無農薬戦士』(命名ハリエット・フリーゼ)が出来上がって『直接攻撃』するはずだったのだ。

 

 

「趣味が悪いわね」

 

「だが『落としどころ』だよ。あの会長だけでなく、多くの連中の『監視の目』が光っていたからな……まぁエリカの出そうとしていた警棒型のCADでぶっ叩かれるのを見ていても良かったけどな」

 

 

 確かにバゼットとの誓いはあった。が、それでも本気で殺害しようとまでは思わなかった。そうすればバゼットは悲しむはずだから……。

 

 とはいえ、会長たちの思惑を崩す為でもあった。

 

 何かのボロを出すのではないかと、要するに森崎を『当て馬』として、『彼ら』は、あそこまで争いを看過していたのだ。

 

 第一、食堂での一件がどこからか漏れていたはずなのに、風紀委員が駆けつけなかった時点でおかしかった。

 

 

「趣味が悪いのは七草会長及び多くの連中だな。……お前があそこまでの激発をしたのが一番の予想外か」

 

「若気の至りであった。だが反省はしない。大義は我にあり」

 

 

 その結論もどうなのだろうと全員が思いながら、アーネンエルベの中に入る。

 

 

 中に入ると同時に、ここまであまり口を開かなかったレオを怪訝に思ったのかエリカが問うてきた。

 

 

「さっきから口を開いていないけど何を思い悩んでるのよ?」

 

「いや、なんか刹那の育ての親って人の名前を聞いてから、なんか引っ掛かるものがあるんだよなぁ……聞き覚えはないはずなのに『知っている』とか言えばいいのか―――」

 

「名前からしてドイツ圏の血のあるアンタだから、アイルランド人の名前を知っていても変って事も無いんじゃない?」

 

「安易な結論だが、まぁそんぐらい気楽な方がいいのかもな……」

 

 

 腕組みしての思考から頭を掻いているレオの疑問を解決するほどの知識は残念ながら、その時の刹那には無かった。

 

 ただ知っていたとしても変わらなかっただろうと思いながら……ジョージ店長渾身のカレーパスタをごちそうになるのだった。

 

 

「やっぱパスタばっか食ってるヤツはダメだな! とか言いながら、五皿も食べていった人もいるわよ。それじゃこれ伝票だから」

 

 

 チカの何気ない話と気安い対応が少しだけ嬉しい。何せさっきから北山は、刹那を見てくるだけ―――その視線の意味は何なのやら測りかねながら親睦会は滞りなく終わるのだった。

 

 

「シズクは何が不満なのかな?」

 

「さぁな。ただ連絡先交換する以上は、まだ会話する気はあるみたいだ」

 

 

 キャビネットに乗りながらの帰路の中でのリーナとの会話。その中で考えるに、最後の方に光井が言った言葉が気になる。

 

 

『何でもできるのに、トップに立たないのは無責任って―――遠坂君のことを言っていたよ。森崎ほどじゃないけど、もう少し一科の男子勢で達也さんみたいになってもいいんじゃないかな?』

 

 

 意味合いは分かる言葉だが、何故―――北山がそこまで俺を評価するのか―――見抜かれたとしてもおかしくない変な入試成績だったが…それだけか―――。

 

 そんな風に思案に耽っていると、「あんまり他の女考えるな」と、無理やり視線を固定された。

 

 

「悪い」

 

「悪いと思っているならば、私を見ていなさい」

 

 

 こういう時だけは、共用電車のプライベートスペース化が嬉しい。周りに同じ学生やらの視線とか、企業戦士のお父さん方の視線を気にしなくていいのだから……。

 

 見つめるブルーアイズの深淵と金色の髪のコントラストの前には、宝石は逆らえないのだから―――その姿が重なるのは必然だった。

 

 

 

 † † † †

 

 

 

「というわけでお昼休みに生徒会室に来るように♪」

 

「―――どういったご用件で? 昨日の事ならば手打ちに終わって序でに言えばさっきから、武勇伝聞かせろと言わんばかりにクラスメイトが押しかけてるんですけど」

 

「それは、まぁ有名税ということで、とにかくこの事は、一年生総代の深雪さんにも伝わっている事なので、シールズさんと一緒に来訪するように―――いいですね?」

 

 

 拒否は出来ないということか。諦めて了解の意を取るとリーナもまた頷く。何となく予想はしているのだが、生徒会に入るだけならば深雪一人で十分だろうに……。

 

 そうして教室から出ていく七草会長。自分の周りに集まっていた有象無象が再度終結。

 

 

「厄介なことになりそうだ……」

 

『ご愁傷様です♪』

 

 

 言葉の割には楽しそうだなオイ。と言ってやりたいが、言わんでおく。面倒だから―――。

 

 頬杖突きながら考えることとしては―――この学園に存在する一科二科の壁と言うのは厚いものだということだ。

 

 

 その格差を何とかするためにも自分はそうしなければならない。

 

 

『―――日本の魔法教育における分断状況の打破。即ち彼ら、日本の魔法師たちが『分裂』することは避けてもらいたいんだ』

 

 

 ロズウェルにいるバランス大佐からの依頼。恐らく現状において『才無し』と呼ばれているのが『連中』の改造を受けて魔法師社会に敵対する事だけは避けたいのだろう。

 

 

 裏の思惑など透けて見える中で、七草会長の思惑―――=日本の『マイスター』、『十師族』の意向とも言い切れないのが、状況を理解させないでいた。

 

 

(ジジイの奴は俺を取り込んで、その力で魔法師社会を安定させたい。寧ろ―――『発展』させたい)

 

 

 末は国の治安維持の部門だけでなく行政――国政分野にも本格的な魔法師の影響を出したい。その思惑の為にドギツイことをやっていることも知っている。

 

 だが、こちらがコントロール出来ない存在であることなど今さらだ。

 

 

「混沌だな……」

 

 

 あらゆるものが渦巻き、そして黒々としたものが蜷局を巻いてこちらを睨みつけるイメージ。

 

 見えぬものが―――こちらを狙い撃とうとしている中、B組の指導教員である『栗井』先生がやってきたことで、全員が席に戻った。

 

 

「全員、準備は出来たかな?―――ならば、始めるよ」

 

 

 第一高校に入学してからの二日目が始まる――――。波乱の日々は続くのだ……。

 


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