魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
Interlude―――side DEATH―――
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死は唐突なものだった。明確な兆候があったわけではない。だが、TPピクシーから離れたほのかを狙っての殺気ではないが―――『何か』を感じ取った達也は、突き飛ばすことで襲撃から守った。
否、利用した。
やろうと想えば、ほのかと自分の安全を確保してからの離脱ぐらいは出来たはずだ。それをやらなかったのは―――。
(四葉が追い求めてきた解答。すなわち三位の関係……まさか『肉体』にそれがあるとは思わなかったな)
クリスマスの事件の後。魔宝使い『遠坂刹那』の理論を従弟から聞いた達也は、その時から考えていた。
今の自分は、母親が改造した『司波達也』であって、本来の『司波達也』ではない―――。
―――人は『精神』『魂』『肉体』という3つの事物で出来た生物だ。―――
―――精神は脳に、魂は肉体に宿る―――
―――つまり『司波達也』という人間、人格、魂をカタチにするものは、遍歴を重ねた知性とその『カラ』である肉体―――
―――知性を生む脳だけでは、人となりを表す人格は作られないもんさ。―――
これが四葉の求めてきた『正答』であるという確証はない。だが、それでも一つ分かることが在る。
(……今の改造された脳で出来た人格が俺であるならば……)
本来『あり得ただろう』シバタツヤの人格は何処に行く。言うなれば、今の自分によって居場所を追い出された本来の『シバタツヤ』は―――。
(肉体に、『人格』が宿る……、いや、本来的な自分が持つべきだった知性は、肉体に追いやられているはずだ)
それとの『邂逅』を達也は望んだ。それが、どんな変化を齎すかは分からない。あるいは、そんなものは自分の妄想でしかないのかもしれない。
だが、1人の好例を達也は見たのだ。
『遠野』という混血の一族の手で、『七夜』という退魔の一族であった自分を消し去られた……哀れで『誰よりも強い』騎士のことを……。
―――あんたが語るとおりならば―――俺は―――。
地面から勢いよく突き出てくる円錐に、胸の真ん中を貫かれる。五臓六腑全てを不全に陥れる感覚。
これは―――『再成』では完全に治りきらない。上位の神秘による圧倒的なまでの磨り潰しの押し潰し……自分が『死んだ』という事実を認識して、達也の世界は暗く、黒く、
Interlude DEATH out……。
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その様子を鮮明に見た。見たことで出てきたのはあらん限りの絶叫であった。叫び続けるそのHOWLINGが刹那の世界に響き、それでも兄は叫びに答えない。
死相を見せながら草原に力なく横たわる姿。胸に大きな空洞を作って口端からは血が一筋流れている―――。
沸騰しそうな血液。しかし己の属性故か、深雪は落ち着くのだ。
(五体の内、頭一つあれば、兄は『蘇生する』―――流石に身体まるごと、総体全体を『消滅』させられれば、無理だろうが―――)
少なくとも、『サーヴァント』の真名開放での焼灼攻撃を受けたわけではない。まだ身体は在る。
問題は神秘強度、幻想の域にある存在に致命傷を食らって無事なのかどうか、だ。
こういう時に専門家を呼びたいのだが―――。
「よくもお兄様を!!」
ともあれ、これ以上の狼藉は許されないとして、黒い沼から身を晒した巨牛の進撃を食い止める。
サイズの差はあるだろうが、それでも―――。
まずは足だ。鋭い蹴り足を叩きつける。
ごがんっ!!!
―――大きすぎる岩に剣でも叩きつけたように、メルトリリスの
続いて連撃。振り上げる蹴撃は、岩に対して殆ど無意味だ。小山のような体躯の牛は、こちらの攻撃を一切、意に介していない。
「―――ピクシー! ほのか!! お兄様を連れて遠くに逃げて!! 出来ることならば、刹那くんたちの方まで―――」
「深雪っ!!」
こちらの指示を了承するでもなく、何かに気付いたらしき言葉が届く。同時に理解する。
自分に影が差す。頭上にあるおぼろげな明かりをかき消す原因。
それは―――振り下ろされる巨大な脚。超質量による踏みつけ攻撃。
意図を
当たり前だがサイズが違うわけで、深雪の中に『居残る』聖女マルタの膂力を発現しておかなきゃどうなるか分かったものじゃない。
杖を滑らせて力を受け流すも、体の芯まで痺れるような威力があった。身体が潰れていないのは一つの奇跡だろう。
(こんな連中と渡り合っていた遠坂刹那は、本当に化け物ですね!!!)
そう胸中でのみ言う深雪だが、横浜魔法戦争において、炎の鳥をステゴロで殴り飛ばしていたことはすでに忘却されている事実だ。
そもそもあれは英霊マルタが主体となった形なのだから。
とはいえ動き出した巨牛、正しく神話に謳われる神の獣と形容するに相応しいそれが、不動のままなわけが無かったのだ。
飛行デバイスで飛び上がろうとした時に―――直感が働く。上空は不味いのだと。
「ほぅ……狐のように逃げ惑うならば、教訓をくれてやるところだった」
小刻みに突進をして深雪に突きかかる神獣の背中に、上半身だけを出現させて見下ろしてくる『ネロ・カオス』という獣の吸血鬼が言ってくる。
「しかし、別にここからでも『獣』を放つことも出来よう」
不定形の泥と化した概念の沼―――そこから出てくる獣は、ある程度はネロの意図通りの獣として攻撃してくれる。神牛グガランナの亜種とでもいうべきものを取り込んだ時は、流石のネロことフォアブロとて死ぬかと想ったが、こうして取り込んでしまえば―――。
だが、意図したよりも『凶暴』なものだ。いざ混沌から出したはいいが、あまりにも『自意識』が強すぎるグガランナ(亜種)に対して、やむをえない思いで半同化しながら、戦いを敢行する。
狙いは少女二人と機械仕掛けの人形、そして屍体からも聞こえる命の脈動放つ少年だ。
ご同胞ではないことは確認済みだ。ならば、やるべきことは決まっている。
―――その身を喰らいて我が身の補完を果たす。
あまり屍体を損壊させないとしていた『気遣い』をやめて、ネロはグガランナに怒涛攻勢をさせる。
攻撃の圧が強まったことで擬似英霊の少女が顔を歪ませていく様子は実に愉悦であったが、草原を土気色にしてしまう戦いを演じていく。
「ミユキ様、援護いたします―――」
TPピクシーの援護が巨牛の横っ腹に突き刺さる。
兄を襲ったロボ研とダ・ヴィンチの忌々しいトンデモ兵器だが、こういう時には役に立つことこの上なしだ。
レーザービームやホーミングミサイルの飽和攻撃が、巨牛の岩の如き肌を焼き尽くしていくが―――。
「攻撃箇所全てにヒット―――しかし敵性にダメージ無し」
「あれだけの火力を受けたというのに……」
岩肌を火で焼いたところで、それがいかほどのものかと言わんばかりに、平然としているグガランナにほのかは驚く。
単純な物理的火力では、どうやっても生命体として『上位』に存在しているものを害することは出来ない。理屈としては教えられていても、肌感覚ではどうしても納得出来なかったことが、ここにてようやく理解できた。
「推論:ネロ・カオスの身体は無数の獣の素で構成された身体。同時にネロそのものが『一つの世界』―――己の身を固有結界としていることで、ネロを害する外的干渉のレベルは、世界全てを『一撃で砕く』ほどのものでなければ、完全消滅は不可能と推測―――」
その困難さが今ならば分かる。恐らくエクスカリバーなどの総体消滅系統の武装ならば、ネロ・カオスを倒すことも出来るのだろう。
だが―――。
「――――――ぐっ!!!!!」
「能力不足に着ける良い策はなかろうよ」
その暇を与えてくれるかどうか、だ。そう想っていると援軍がやってきた。
「ミユキ―――!! がんばれ!! モードレッドが参ったぞ!!」
「―――遅くなりましたが、騎兵隊の到着です!!」
ドイツ第三帝国以来のドーバー海峡を越えた英仏連合軍の存在に、深雪は感謝。圧倒的感謝! それだけだったのだが……。
(モードレッドのアレは、何なのかしら?)
単純に考えれば、魔剣クラレントの機能なのかもしれないが、控えめに言ってもそれは強化外骨格―――俗な表現でパワードスーツ『インフィ○ット・スト○トス』や『フ○ーム○ームズ・ガール』としか言えないものを纏っていた。
もしくはパワーローダーかもしれないが、ともあれ伸張した五体を元にモードレッドは……。
「どわらっしゃあああ!!!!!」
牛に対してステゴロを挑むことだった。猛烈な勢いでやってきたギガント・モードレッドの一撃を受けて、たたらを踏む巨牛。
「へっ!! 流石にかてぇな! けれどよ!!」
神像が神牛を叩こうと取っ組み合いを演じる。図体で言えばまだ《牛》の方に分があるが、《巨人》も負けじとインファイターのように、牛の下に入り込んで、ボディを叩いていく。
痛痒があるのかどうかは分からないが、それでも同サイズの敵の出現に頭を低くして単角を槍のように向けて高速での打突。連続して行われるそれが、頭を振ることで角度を微妙に変えつつ、《巨人》に叩き込まれる。
当然、応じる《巨人》の方も、剣や盾を使ってその攻撃に対応していく。
戦いは一進一退。変化を齎すには―――。
「とおぅ!!!」
巨人の肩に乗っていたレティが、巨人が角をつかんだ一瞬を狙って、《牛》の背中に飛び移るように乗り込んだ。
狙いは上半身だけを晒しているネロ・カオスか。闊達に滑り出して走り出すレティシアの身が光り輝く。
神罰を下すべき不浄の輩がいるのだから、当然といえば当然なのかもしれないが。
牛の背が沼のようにわだかまり、そこから蛇やネズミなどが湧き出る。女性ならずとも嫌悪感を覚える様子であっても、レティが振るう
踊るように、舞うように、路上の汚れを箒で払うようにレティは、不浄を祓いながら進んでいく。
確かな歩みを刻んでいく姿は聖女のそれだ。
その攻勢に合わせるように、モーターバイクと馬にまたがった騎兵が《牛》の側面と背後に襲いかかる。
ライフル銃からの水流と槍から放つ魔力放出の圧とが襲いかかる。
図体が仇となった形だ。
(もしも、これが『戦術的』なものであるならば、自分たちなど放っておいて、進撃する英雄軍を背後から叩けばいいだろうに)
愚痴るように言いながら、深雪も水晶の脚で攻撃しつつ、干渉するには『重苦しい空気』だが《牛》の頭上、空を無数の氷槍で埋めた。
広範囲に生じるソレに対して―――。
「墜ちろ!」
命ずる言葉すら不要な現代魔法だが、それでも意思を明朗にすることで『何か』が宿ると信じる心は失われてはいない。
天から無数の氷柱が、極点におけるサスツルギのように虚空を擦過して降下してくる。
「うわっととと! マドモアゼル!!! ちょっと私のことも考えて攻撃を!!」
ひゅどどどど! 鋭い音で《牛》の背中に突き立っていく氷柱だが、さしたるダメージはないようだ。
「当然か。コイツにはもとより『カタチ』なんて無い『いのちの集合』。今は一定のカタチを保っているけど、同時に無限のいのちを内包しているようなもんだもんな!!!」
《牛》と取っ組み合いをしている赤い《巨人》の操者たるモードレッドの言葉が響く。
巨剣の一撃一撃が、あちらの霊子・魔力を減じているならば慰めにもなろうが、まるで斬れぬものを斬っているかのように、ダメージが無いことが分かるのだ。
レティが上半身だけのネロ・カオスを砕いた後には、頭部に同じ用に出現する様―――不死身の怪物。
真正面で相対する形のモードレッドは、怪物の言葉を誰よりも正確に聞いた……。
「―――
眼を真っ赤に輝かせて凶相をたたえた怪物に恐怖を覚えた瞬間……。
―――まごうことなき《死》が訪れた―――。