魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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長らくおまたせしました。

新話です。


第265話『DEATH(3)』

―――彷徨海の鬼子『フォアブロ・ロワイン』

 

教会名称『ネロ・カオス』

 

その正体とは、己の体を『固有結界』(異界常識)にすることで、『決して滅ぼせぬ体』を作り上げた存在であった。その為に使用されたものは多くの『獣』。特に、幻想種のランクに位置するものを身に取り込むことで、『存在』を強化することが出来ていたのだ。

 

取り込んだ獣ないし『生命』は、全てネロの中で混濁したものとして、『自我』をなくしてネロと合一していく。人間のように意識が『溶けやすい』ものならともかく、獣の多くは形あるものとしてネロの中に存在しているのだ。

意識はネロと一体化しているのだが。そして固有結界『獣王の巣』から出てくる獣は―――ランクはあれども、どれも強壮なものだ。特に『世界的寒冷化』で絶滅、そうでなくても野生の力を失い人間に飼われている中では、ただの野生の獣であっても『幻想種』になっているようなもの。

 

だからこそネロ・カオスは、この世界でこそ我が身の終着を見届けられると想っていた―――。想っていたからこそ、機械の半身を与えられたとしても、それを克服出来ると想っていたのだ。

 

だが―――。

 

「動物園で見たものとは運動性能がダンチだ。生き残っている野生ともまた―――違う」

 

一匹、一羽、一頭の獣達が斬殺解体されていく様は何の冗談かと思う。サーヴァント(英霊)のように音速で動き回っているわけではない。

 

だが、それでも群れなす獣の速度は尋常ではないはずだ。人間では出せぬ疾さ。四足を使った筋力からの爪。あらゆるものを噛み砕く強靭鋭利な噛牙。

 

それらが――――。

 

白刃が煌めく。蹴撃が放たれる。『手刀』が解体をする。げに恐ろしきは、その眼だ。蒼く輝く眼は、先ほどから獣どもの『死』を見抜いているのだ。

 

記憶であり記録を思い出す。

 

真祖の使い魔。神秘のセカイにおける僻地『極東』に現れた特級の異能『直死の魔眼』を持ちし少年。その力がネロに最後を齎した。だが、ただの『魔眼持ち』の存在であれば、まだどうにでもなった。

 

あの少年―――後の神秘のセカイにて『殺人貴』と呼ばれるものの恐ろしさは、ネロが相対してきた埋葬者や魔術師の戦いを越えたところにあった。

 

東洋の武術『バリツ』などとイギリスの小説家が名称したように、極東には我々が知らぬものが多すぎたのだ。

 

即ち『ありえざる角度』からの攻撃の連続。四方八方あらゆる角度から繰り出される攻撃に、自動的に獣で迎撃できるネロとはいえ、人間態を基礎としている以上、視界はやはり正面の方が見えやすい。

 

その『正面』に容易に入らない。斜め、斜めに常に入り込んでくる足さばきが幻惑を生むのだ。

 

だからこそ―――。

 

「ぬぅうう!!!」

 

『殺人貴』よりも荒々しく、似て非なる戦闘法がネロを斬り裂いていくのだ。あの少年よりも苛烈な戦い方だ。

 

「―――殺す! バルト・アンデルスの名を背負う以上、二度、三度も神秘の僻地たる『極東』に負けるわけにはいかぬ!! 我が身にある系統樹に恐れおののけ! ニンゲン!!!」

 

「どんなものが出てきたって構わないさ。もっとだ。もっとお前のバケモノ(規格外)を見せろよ。ネロ・カオス!」

 

―――咆哮する獣に挑発の言葉を投げる『司波達也』は、生の実感など覚えていない。要は、こいつが細分化されていけばいくほど、『弱る』ということだ。

 

機能を失った獣達は、同時にただの『生命の欠片』と化す。ネロ・カオスの残骸は、己の生命強化に使える。

 

びゅるん。っと素早く動いて戻るはずの獣の残骸は全て『死んでいる』のだ。

 

屍肉を食んで生きながらえる―――こんな『生き方』なんてまっぴら御免だ。

 

次にネロが、コートの『中』から出してきたのは、恐らく『竜種』か『恐竜』。どちらにせよ、はるか昔に『星』からいなくなった生物種だ。

 

その体躯に相応しき膂力が、爪と手で叩き潰さんと振るわれる。魔力による身体強化などは出来ているが、竜種は全部で6体。難儀する数だが。

 

「手助けするぜ!!!」

 

流石にここぞという時に来てくれるボンバーキュートガール(死語)である。

 

モードレッドが、その魔力放出で竜を抑え込んでくれた。魔剣クラレントが竜の腕力を抑え込んで、押し相撲の状態となる。

 

「Thank you!Cute Girl!」

 

「お、お前、本当に『タツヤ』なのか!? イメージと違いすぎて、すごくチャラいんだが!! 車を買った中村(?)か!?」

 

「いいからトカゲを抑えておけよレッド。―――『死点』を貫く!!!」

 

如何に強壮な体躯をしているとはいえ、どんな生物にも弱所はある。死の線を束ねられた点は、それとは関係ないところにある。

 

ゆえに―――モードレッドからすれば全くもって不可解な所に短刀が突き刺さり、そして『竜』が霞のように消えたのだ。

 

不意に押し相撲をしていた相手がいなくなったことにバランスを崩したが、騎士としても百戦錬磨。すぐさま腹筋のみで起き上がり、モードレッドは構えなおす。

やってくる竜―――どれも鱗から目まで黒く塗りたくられたそれを、『司波達也』は次から次へと『抹殺』していく。恐るべき手際だ。

 

体格の大小も、そもそも正常な動物であるかどうかなども、この男には一切関係なく殺害対象なのだ。

 

「―――殺す。貴様の眼は―――私の死だ!!!」

 

「そいつはいいことを聞いた―――とはいえ、この数は!!!」

 

明らかなまでの人海戦術ならぬ『獣海戦術』―――数多の生物たちがネロの羽織ったコートの中―――というよりもその体の中から出てくるのだ。

大中小関わらず、生物としてのカテゴリーも雑多な動物の群れ。堤が決壊した河川の氾濫のように混沌が溢れ出てくる。

 

流石にこれを一体ずつというのは難儀な話だ。死点は見えていると言えば見えているが……。

黒水の全てが明確な形を取ってしまえば、それは一つの命だ。一つ一つ殺していくのは、『出来ない』わけではないが―――可能だからと言って、それを実行する道理もないのだ。

 

つまりは―――めんどくさい。

 

(だからお前(達也)でいいんだよ。こうなれば、こいつら無視してネロを狙う―――)

 

と、想っていた所―――『司波達也』の後ろで剣を振りかぶる、モードレッド・ブラックモアを認識する。

 

「さっきは曲芸も同然の振り下ろしだったが、『空間の強化』が終わった今ならば―――!!!」

 

クラレントの最大級の振り抜き。収束する魔力の輝きはかつてのエクスカリバーを思わせる。

 

確かなる大地に足を置き、剣戟に相応しいスタンスを取ったモードレッドは、朱雷と黄金の光を混ぜ合わせながら、剣を真っ直ぐに掲げる。

 

対『城』宝具の一撃の予兆に、ネロ・カオスも緊張を隠せない。教会の用意する概念武装の中には、『天変地異』クラスの現象を起こすことが出来るものもある。

それらの内の幾つかを降して、混沌と化すまで『放っておけ』という判断を下されたのが、ネロなのだった。

 

だからこそ――――。

 

(人理肯定世界の概念武装―――我が身で凌ぎきれるか!?)

 

好奇心の方が勝ってしまったのだ。否定世界ならば、ヒトの手にある限り、それらは死徒に対して非力の限り。

だが、このセカイならば……!

 

「輝きを放て!! 我が祈りは『黒き聖母』(ブラック・マリア)に捧げるもの!!―――『時空を超えて我が敬愛する(クロノス・クラレント)王への憧憬(シャイニングアーサー)』!!!」

 

『密度』を高めて、その光撃に備えるネロ・カオス。

 

魔獣・幻獣・神獣―――ランクの高い『獣』(おのれ)を燃やして、『獣王結界』と化して耐え抜く。

 

化物と化した己の姿は、術理戦とは真逆の姿。『武装999』というものに似ているが、非なるもの。攻撃よりも防御に性能を割り振ったものは、真祖の姫『アルクェイド・ブリュンスタッド』の空想具現化が、こちらの『予想』を超えていた場合を想定してのものであった。

 

最終的には、ミハイル・ロア・バルダムヨォンと研究をしていた創生の土による『取り込み』を優先したがために、これを使うことはなく―――。

 

されど放たれる光撃は、大地を削り飛ばしながら強烈な圧をネロの『身体』(セカイ)に与える。

 

(我が身は全てを呑み込む『混沌』。光も闇も我が前では等しく脆弱なる輝きにすぎん!! 深淵に沈むが―――)

 

後ずさりはしたものの、それでも『呑み込める』と確信した刹那の瞬間。『横』に体を広げようとした時に―――。

 

「―――『最果てにて輝ける槍』(ロンゴミニアド)!!!」

 

黒赤の魔力光線(レイビーム)が、横っ腹を貫く形で放たれるのだった。

 

「私を忘れてもらっては困るな混沌―――」

 

ニヤリという表現が似合う顔で、離れた場所から言うオルタのアルトリア・ペンドラゴンに、完全に抜かった気持ちを持つネロは、両側から加えられた圧に―――。

 

ゅぐおぉぉぉぉぉぉおぉぉおおおぉぉぉぉっ!

 

もはやヒトが出せる声域ではない悲鳴で絶叫が上がる。それは、ネロ自身かネロの中にある獣のものかは『達也』には分からなかった。

 

だが、確実に弱体化を果たしていくネロ・カオスだということだけは分かった。それを前にして、レティシアの『聖句』が響く……。

 

光がネロの体を突っ切り『交差し通り抜けた』(クロスオーバー)時には、半身を維持するのもやっとなネロの姿。

 

十字に刻まれた大地の削り跡の交差点に立ちすくむネロの凶眼が達也に向けられる。

 

「―――!!!!」

 

最後の振り絞りのつもりか、絶叫とともに体を変成させるネロ・カオス。2m―――いや3mはゆうにある身長と、それに違わない筋肉の付き方は、まさしく灰色の体を持つ異形の獣だ。

 

刹那に付いていったクマの姿をしたサーヴァントの真の姿。アーチャー『超人狩人オリオン』といい勝負だろうか。

そんな感想を出しつつも達也は駆け出した。当然迎え撃とうと爪を前に出して掴みかかる態勢を取ろうとするネロ。

 

「――――ぬっ!?」

 

だが、その動きが緩慢となる。旗を手にして聖句をとなえて聖歌(チャント)を歌うレティの戒めの術が、ネロを金縛りに掛けていた。

 

「小賢しいわぁぁぁぁぁぁッ!」

 

咆哮がレティの戒めを無理やり斬り裂いた。その勢いで旗を持つレティに―――何事もなかった。

 

彼女の中にいる『ジャネット』の魂が、掲げる旗(フラッグ)を下ろすことを許さなかった。その聖句を止めることを許さなかった。

 

尊き御業が、神意を語るものの声がネロを戒めて―――その間に死神はネロの『死』を直視した。

 

「……狙いさえ分かれば! 貫かせん!!!」

 

視線の向かう先から『死点』の位置を見抜いたネロの防御行動。如何に数多の体を削り取られようと、死の点というべきものを崩されなければ―――。

 

緩慢な体を動かして、腕を交差させて『達也』の直死を避けようとする。しかし―――。

 

その腕を邪魔な枝木でも砕くかのように横から走った光線―――ライフル銃から放たれたそれ(セクエンス・モルガン)が砕き―――。

 

達也の直死の魔眼が見抜いたネロ・カオスというセカイの終焉――『極点』―――『2つ』を達也の手にある獲物は貫いていた。

 

―――混沌が終焉(おわ)る。

 

 

『死』を与えられたネロ・カオスは、『何度目』になるか分からぬ自分の消滅を実感する。

 

足先から黒い塵のようなものに還っていく我が身。

 

「まさか、な」

 

あり得ぬことを与えられた、告げられた気分のネロ・カオスは、それでも呟く。『あの時』と同じく―――。

 

その『青い眼』を眼下に収めながら呟いた言葉は。

 

 

「――――おまえが、おまえたち(・・・・・)が、私の死か」

 

霧のように体全てが霧散しながらの言葉を、達也は聞き届けた。

 

―――おまえたちというのが、何処の『誰』を差すのかは分からない。

 

だが、それでも『ネロ・カオス』という畜生道の化身―――再生されたタタリの現象の一つは消えて、そして刹那の築いたセカイが砕け散ろうとしていた。

 

「―――向こうも同時に決めてくれたか。流石だな刹那、もっとも―――それを期待しなきゃ、こんな無茶を『達也』もやろうとは思わなかったんだろうが」

 

大地に落ちた短刀。ネロ・カオスという死徒を殺した武器を手にしながら『達也』は呟く。

 

その呟きに応じるかのように―――。

 

「お兄様……」

 

呆然とした様子の深雪がやってきたことで、『達也』ならば絶対に浮かべぬ自嘲気味の笑みを浮かべながら口を開く。

 

「畏まった呼ばれ方は、『俺』は好きじゃない。どこぞの妹のように『兄貴』とか『お兄ちゃん』とか呼ばれていたほうが、まだいいんだがな、深雪―――」

 

その言いようと、未だに『傷だらけ』どころか、かなり重篤な怪我を直せずにいる『達也』を見て、深雪は息を呑んだ。

 

目の前にいる人は―――もしや………。深雪の疑念と疑問が解消される前に、セカイが終わろうとしていた。

 

 

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