魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ちと短いです。合計しても4000文字ちょいぐらいでして、ただ続きが場面転換多いので、これはこれで独立した話として投稿しようと思いました。

新話どうぞ。


第266話『母親として』

 

 

 

「―――お別れね。まぁどういったところで『私達』は亡霊にすぎないもの。いつまでも、ここにいるわけにはいかないわ」

 

多くの英霊たちが霊子と魔力に変換され、その御霊が得た情報が座へと送還(かえ)っていく。

 

黄金の柱があちこちで出来上がっている。その輝きは全て―――英霊たちの魂の輝きだ。

 

その中で―――一柱(ひとり)、霊基を統合してマスターの一番知っている『母の姿』を取ったトオサカリンは、目の前に立つ息子を見る。

 

意志の強い瞳。生まれた時から、こうなることは予想できていたかんばせ()。きっと自分たち(両親)と同じく多くの異性を振り回してしまう罪深さ……。

 

成長すれば、(時臣)に似たものも得てしまう―――まぁつまりは、本当に色男に育ちすぎたものである。

 

悩ましい限りだが、それが本人にとって何かの足しになっているならば、自分が口出しする義理はなかろう。女の子を大事にしているといえばそうなのだが、背後からグサリとアゾット剣でも突き立てられる刃傷沙汰にならないように祈るだけだ。

 

いや、本当にそこだけはちょっと不安な点である。

 

「そうだね……本当にそうだよ―――けれど」

 

一拍置いて刹那は続ける。

 

「大丈夫だよ。ご飯はちゃんと食べている。この時代、この世界はメチャクチャ機械技術が進展していて、手作りなんてあんまり意味がないけれども、それでも、さ―――それじゃ俺の知っている『味』に行き着かないから、手作りしているよ」

 

「―――刹那」

 

「あそこで封印指定されても、根性見せてどっかで隠者をやれなくて、それは怒られると思う。ごめんなさい―――」

 

「そんなこと思うわけ無いでしょ」

 

自分の息子がよくて冷たい牢屋に入れられるか、悪くてホルマリン漬けにされるところなんて、誰が見たがるものか。静かな怒りを込めて刹那を見ながら言うリンに―――淋しげな笑顔を見せながら刹那は言う。

 

「けれど、俺は―――オヤジと同じく、母さんが繋げてきたものを切ってしまった。

冬木の管理者としての責務、そこにいた人々―――大河おばちゃん。子虎兄ちゃん。雷画じいちゃん……一成さん。綾子さん、氷室市長、詠鳥庵の楓さん、ユキカさん……色んな人の前から消えてしまった」

 

それは、本当に自分の繋がりだった。それを切ってしまったことを『悪いこと』をしたかのように言う刹那は、それでも―――。

 

「そのことは申し訳ないとは思うけど―――あんまり後悔しないことにするよ。もう、俺は―――この世界に根ざした1人の男だからさ」

 

決意を込めて見てくる顔は、男として決意したものだ。その顔に喜びながらもいい含めたいことは多くなる。

 

「―――『男子三日会わざれば刮目して見よ』というところかしら? まぁ甘ったれな部分は抜けきれないけど、そこはしょうがないかもね。心の贅肉を背負いながら生きるのが、私達の生き様なのだから」

 

「……母さん―――」

 

遠坂の魔術師は、やはりどうしてもそういう所がある。要は魔術師としても人間としても甘いのだ。完全なる魔術師・魔女にはなりきれない。そうであるならば、どの世界でも『遠坂桜』との関係は断ち切れていたのだから。

 

 

「どんなことでも半人前は許さないわ。教え導くことを決めたならば、最後までエルメロイ講師―――ウェイバー先生みたいにやってみなさい。今はアーカイブっていうんだっけか?授業内容の『ビデオ再生』とかも出来るらしいし、それ以上もね。

神秘の流布とか、元の世界ならば色々と言われるかもしれないけど、私は何も言わないわ。アンタは色んな人から色んなものを託されすぎなのよ。少しは他の人にも『何か』を持ってもらいなさい。

遠坂家も元々は武士の家。時に徳政を行うべきなのよ。それが高貴なるものの務め―――貧乏お嬢だった私には望めなかったものだけど、刹那ならば出来るわ」

 

 

どうしても小言が多くなってしまうのは、やはり教えきれなかったことが多すぎたからだろうか。トオサカリンの魂が、多くの言葉を残してしまう。若干レトロな表現なのは仕方ないのだが。

 

「―――隠すことが当たり前だった魔術師としての私はあんまり望めるものではなかったけれど、いい友達を持ちなさいよ。生涯に1人ぐらいは腹を割って本心を明かせる友人がいるといいわね。あっ、お酒は体がハタチを越えてからにしなさいよ。家でちびちび舐める程度は許すけど、私も良くやっていたからね」

 

酒を飲みながら腹を割って話せる友人という言葉。まるで昭和の政治家『佐藤栄作と池田勇人』のような関係―――その小言に息子は―――。

 

「母さんにとってのルヴィアさんみたいに?」

「その発言は減点1よ!」

「どういうこと!?」

 

あり得ざる人物の名前を出したことで、息子の答案にマイナスを付けておくことにするのだった。

 

―――咳払いしてから話を戻す。

 

「それと『女』の問題ね。アンタはお父さんや時臣お祖父ちゃんみたいに女にモテすぎよ。オルガマリーとの関係はお互いに火遊びの類と思えていても、他はどうなのか分からないんだから、変な女に引っかからないように―――これは、どちらかと言えばリーナちゃんに任せるべきことなのかもね」

 

「大丈夫です!! リン・マム!! ワタシがセツナの下半身を絶対に制御下に置いていきます!!! あちこちに血は残しません!!」

 

「だってー♪ よかったわねー。スタイルが抜群でこんなにカワイイ子が、アンタの青い情欲の限りを今後も受け止めてくれるんだって♪当然、リーナちゃんを泣かせたらば、私が呪うわよ♪」

 

息子(苦笑い気味)の左腕に巻き付いた、未来の嫁に安堵した矢先に―――。

 

「いいえ! セルナのお母様! 何でここにいらっしゃるかは存じませんが、それでも、セルナの嫁として相応しいのは私の方です!!」

 

右腕に巻き付く、ちょっとだけ『親友』に似ている少女。

記憶を探った限りでは、息子に横恋慕している女の子が現れるのだった。

 

座に帰りつつあるフランスの騎士たちの後押しを受けながら、やってきた真正のお嬢様―――どっかの誰かさんに似ている少女に、リンも少しだけ戸惑う。

 

「ええっと―――、愛梨ちゃんだっけか? 刹那がいつもお世話になっているみたいでありがたいけど、何というか、やっぱりウチの息子はどこに出しても恥ずかしい馬の骨だから……アナタのような名家の人間には合わないと思うわよ?」

 

「馬の骨って―――まぁ、愛梨のお袋さんにも、そうは言ったけどさ……」

 

自分で言うのと、親から言われるのとではダメージが違うのだろう。呻くような様子の刹那に苦笑するも―――。

 

「そんなことはありません!! セルナは魔法社会の変革者! マジックイノベイター!! アナタの愛息は、この世の奇跡の一つなのですから!!大人物です!!」

 

「殆どはウェイバー先生の受け売りなのにねぇ……」

 

「いいかげん泣くぞ!!」

 

半眼で見る母親に若干涙目になりながら言う刹那は、リーナに頭を撫でられて慰められている。ホンマにこいつは……などと想いながらも、どうやら帰還の時は近いようだ。

 

黄金の霊子に還元される自分と不安定になる刹那の世界を認識する……。

 

「それじゃ小言が長くなっちゃったけど―――もうそろそろ帰るわね。イシュタル・エレシュキガル神も結構、いいところあるわね。当然か、両柱は地球のグレート・マザーなのだから……ごめんね刹那。―――お別れよ」

 

その乾いた笑みを浮かべたリンに、刹那は必死で言葉を掛けてきた。

 

「大丈夫だよ。繰り返すようだけど飯はちゃんと食っている。魔術の鍛錬も怠っていない―――宝石も何とか賄えている。当然、他のこともやっているさ。遠坂の魔術の先へと俺は進めているから、バゼットから託されたものも……全部がうまくいってるとは言えないかもしれない、全てで一番を取ってきた完璧な母さんから合格点を貰えるかどうかは分からない。

けど―――そこそこガンバっている。

ウェイバー先生やライネス先生みたいにはなれなくとも、あの教室にいた同級の椿や兄さん(カウレス)姉さん(イヴェット)たちみたいな人たちを見捨てきれずに始めたことも―――オヤジみたいなヘッポコを教導してきた母さんみたいに、どうしようもなく心の贅肉を切り離せなかった。

けれど―――もう、一人(こどく)は嫌だったから―――」

 

「分かってるわよ」

 

必死の長言葉。一息に語られた言葉は、まるでテンカウントの術のようにリンに響く……。

 

笑顔を向けながら、既に自分の身長を越してしまった息子に近寄って抱きしめたい想いを押し殺す。

 

駆け寄って抱きしめられない我が身が辛い……。

 

「友達だっていっぱい出来た。色々な人間ばかりで飽きないんだ。宝石のように眩いんだ―――オルガマリー姉さんを結果的には捨てた形でも、彼女も出来たんだ。一緒にいて嬉しいんだ。楽しいんだ。

本当ならば、俺みたいなどうしようもない男の人生に巻き込みたくなかった。大事にしたかったのに―――それでも、着いてきてくれるといった―――女の子(リーナ)に、遠坂家伝来の『星晶石』をあげたんだ―――だから―――」

 

「わかってるわよ。いい子を見つけたわね。一生大切にしなさいよ――――――全てを『士郎』か『アーチャー』あるいは両方にも伝えておくわ。アナタは元気に、心配なく、しっかりやれてるって―――」

 

「………母さん―――」

 

全てを理解している。そうとしか安堵させられない。我が身が恨めしい。

もっと言いたいこともあるのに、もはや流れ出る涙を止めることも出来ない。

それでも言わなければならないことはただ一つだけあるのだ。

 

「愛しているわ刹那、こんなに健康で丈夫に育っただけでも私は嬉しいのよ。一度ぐらい、こんな『運命』を押し付けた(母親)を恨みに想っても良かったのに―――それでも、アナタは変わらないから、だから―――」

 

 

―――今からでも、自分の運命に許しを与えなさいよ―――。

 

その言葉が伝わったかどうかは、分からない。

 

しかし『トオサカリン』という憑坐が維持できている時間は終わり、遠坂刹那の世界が終わりを迎えるのだった―――。

 

 

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