魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第267話『終幕に向けて―――』

 

 

固有結界の展開が終わる。維持していたセカイの終わりは呆気ないものだ。幻想的な光景は途端に霞のように消え去り、浮島のような大地も無くなり―――昔からのコンクリートジャングル『TOKYO』の反転世界(鏡面界)に帰還する。

 

「―――オニキス、死徒の反応は?」

『消滅を確認。同時に現在時刻は、7時30分―――何とも派手な勝利だな。揺り戻しがあるだろうから負担を分散したまえよ』

「お袋の小言の後には、お前からかよ」

『何はともあれお疲れさまだ。―――とりあえず涙は拭いといた方がいいね』

 

オニキスに言われて眼を乱暴に拭った刹那は、全員の無事を確認する。とりあえず一番の重傷者は―――。

 

「達也君! 大丈夫なの!?」

 

世界から刀の業物をちょろまかしたのか、それとも譲られたのか分からないが、4振りほどの刀を持ち、ガシャガシャという音を立てながら、エリカが達也に近づく。

詳細は知らないが自動治癒を持つはずの達也だが、今の状態では『使用』することは出来ないようだ。

 

エリカはまだ気づいていないことを悟ったのか、『司波達也』が口を開く。

 

「いや、結構ヤバい。血が足りないのもあるが、というか今の俺には近づくな」

 

「―――うん?」

 

『疑問』『不審感』を感じたのか、駆け寄る犬のような足が寸前で止まり、エリカは達也の2m前で停まるのだった。

 

「刹那、お袋さんと話したおセンチな感情の直後で悪いが、魔眼封じあるか?」

 

「今は無いから、聖骸布でも巻いておけ。つーかやかましいわ」

 

風に乗せて魔眼封じの聖骸布を寄越すと、初めて会った頃の志貴さんのように眼を封じる達也。数言程度のやり取りではあるが気付いた―――。

 

「お兄様………」

 

「―――今『代わる』。すまないな―――アイツの体を『そんなことを言っていません……!アナタは、お母様に押し殺される前の』―――やめろ」

 

「――――――」

 

大声ではない。だが、それでも言い募ろうとする深雪を黙らせるだけの圧を感じるものだ。

言ってはなんだが、本当に兄貴として妹を嗜めるような言い方だ。どちらかと言えば、寿和さんに通じるものがある。

 

「俺は失われた司波達也だ。それ以上は言わせるな」

 

兄さん(・・・)……」

 

意味が分からない会話という訳ではないが、刹那の魔眼が達也の中で『人格』が切り替わるのを見届けた。今の達也は―――自分たちがよく知る司波達也のようだ。

 

「――――――フラレてしまったか」

 

「詳しい事情は聞かない。が―――無茶をやったな」

 

「『俺』に切り替わると『あの世界』は無くなる。それが……お前の両腕と同じく、これが『親の愛』なのか?」

 

自嘲気味の達也だが、事態はそこまで悠長にしていられない。

全ての事態が終わったからか、あの錠前吸血鬼は、この空間の維持をやめつつある様子だ。

 

空も大地もひび割れて、レッドが砕いた高層ビルの殆ども、形を虚ろにしていく。

そんな予感の元、帰還のための反射炉を形成することに―――。大地に刻まれた光り輝く魔法陣に集った面子―――今日の戦友たちは、色々と聞きたいことは多そうだ。

 

「セルナ―――司波君も、後で色々と教えてくれますか?」

 

その中でも、意を決して話しかけてきた愛梨。先ほどは色々とエキサイティングしていて、諸々の疑問を押し退けていたのだろうが……。

 

「……まぁ俺は構わんが、達也は?」

 

「話すさ―――もっとも……少々長い話になりそうだぞ?」

 

「構いません……チョコレートとホットミルクを肴に一晩でも付き合って、その後はセルナの部屋にベッド・イン」

 

「アンタのその野望はもう打ち止めにしなさいよ! リンお義母さんは、ワタシにセツナを託したんだから!!」

 

「アレはズルすぎや(チート)しませんか!! あの場に擬似サーヴァントとして、セルナのお母様が現れるならば、一も二もなくご挨拶に向かったのに―――!!」

 

「言葉と同時にラッシュ(突き)の速さ比べをするな―――!! オニキス! ジャンプ(接界)!!」

 

肉体言語で会話をする2人の金髪美少女を窘めつつ、帰還を急ぐことにする。

 

『キミにライネス嬢のような『快眠! 安眠! スヤリスト生活』が来るのは、まだまだのようだね〜』

 

ライネス先生も政治的立場が安定するまでは、ロクな食事も出来ないし、ロクな睡眠も取れなかったらしい。その所為か、母がロンドンにやってきた時には、15〜6歳にしては随分と小さかったらしいが―――。

 

そんな蛇足をしつつも、戻ってくるとあの血塗れの惨状のホテル内部であった。

 

忘れていたわけではないが、ここが『現実』なのだ。

 

「―――『こんなこと』しか出来なかったが、後始末としては上々だと思いたい―――思いたいだけだな……父と子と聖霊の御名において、Amen」

 

パーティー会場。名も知らぬ政治家が主催した今日のホテルが惨劇の場になったのだ。

 

「手伝おう。刑事さん達は怒るだろうが、それでも此処を安置所にするならば、場を整えることは必要だろう」

 

「悪い。そっちは頼んだ」

 

こちらの意図を読んだ達也がパーティー会場を『整地』した上で、簡素なベッドごと『犠牲者』の遺体を配置していく。

 

『固有結界内』で医療系サーヴァントに集中的に行わせていたエンバーミングによって、この『ビル内部』の犠牲者たちは、『投影再現』できた。

 

日本の葬儀儀礼に則れば―――まず納骨までは、何とかなるはず。宗派の違いはあるが、基本的に土葬は厳禁の日本なのだ。ご遺体(仏さん)の姿は火葬が済むまでは何とかなるはずだ。

 

「神田議員の政治パーティーだったのね。ここは……」

 

ベッドに横たわる女性の仏さんに、納棺師ほどではないが化粧を施していた七草先輩が、合掌一礼してから神田というご老人の方にも合掌一礼をするのだった。

 

見ながらも、ホテルに張られた結界の綻びは魔法師でも突破可能なものになっている。タイムリミットだろう。

 

「―――そろそろ安宿先生のダンナさんや寿和さんがやって来る頃だな。申し訳ないが、あとは彼らに任せるしかないな……言ってるそばから中途半端は、お袋に八極拳で殴られそうだが」

 

十分すぎるほどのことをやったと思うのだが、それでは満足しない刹那に苦笑しながら、変装用の服を纏わせられる。

 

リーナのパレード(仮装行列)含みのその手際が行われると同時に、ホテルに電源が入っていく。そして、スーツ姿の刑事たちを筆頭に警官たちが、突入してきたのだった。

 

そして見えたものを拝見して、こちらに一礼をしてきた―――。

 

「詳しくは分からないが、だが―――感謝をするプリズマキッド」

 

「今宵の私はただの死神です。何も盗めなかった上に取り戻せるものもなかった。礼を言われるもんじゃないです」

 

宝石剣を握りながら、安宿伯太郎氏に言っておく。

 

「ですが、此処にいる方々の菩提を弔えるようにと少しの手助けをしたとは想っています。一度は吸血鬼に魂を吸い取られた犠牲者です―――丁重に、ご家族との対面をお願いいたします」

 

「――――――承った。警視庁警視正 安宿 伯太郎の全てを以て行わせていただく。感謝する―――それと、夜ふかしは程々にしとけよ。マジカルステューデンツ」

 

バレバレなのは分かっていたが、ここから先は官憲が仕切るべき場面だ。いつまでも居残るわけにもいかず空間転移で移動をするのだった―――。

 

 

 

その顛末。全てを見届けたかった少年は地団駄を踏みそうな衝動で、端末の前に座っていた。遠坂の秘術を見届けんと、そして東京で行われている怪異に対して―――自分が演出することで、最良の結果を、自分が見たいものを見たかったというのに……!

 

(何なんだ―――この爛熟しきった情報社会において、僕は上位の存在のはずだぞ!? その僕を差し置いて、こんな乱痴気騒ぎを起こして、干渉することも、鑑賞することも出来ないだと―――)

 

 

「ふざけるなっ………! ふざけるなよトオサカ! 貴様がパラレルワールドからの『来訪者』(ビジター)であることなど、僕はお見通しだ! 僕の許しを得ることもなく、この世界で好き勝手するなど! 礼儀を知らぬ極東のサルめ!!! こうなれば、あらゆる欺瞞情報などを用いて、ヤツを社会の表裏から追い詰めてや――――」

 

 

内心でのいら立ちが遂に肉声を通して振るわれた瞬間、そのタイミングを見計らったように変化が訪れた。

少年の眼前にあった情報端末―――フリズスキャルヴという、巨大データベースであり世界中のネットワークへと接続していたものに異変が走る。

 

既に技術革新で駆逐されたはずの映像画面のノイズ―――ちらつきというものが断続的に走り、寄せては返す波のようなそれが終わると―――ブラックアウト。そしてふたたび立ち上がる端末、その画面には―――。

 

奇怪な笑い顔を浮かべるものが現れた。それは一見すれば、『スマイリーフェイス』という米国発のシンボルにも似ていたが、受ける印象は大違いだ。

 

 

笑い顔は、丸い両目と三日月を描く口―――その3つから赤い血を滝のように流していた。

 

 

安手のホラー映画にも似た演出。魔法師ならば鼻で笑うこともありえる、ましてや『米国人』にとって馴染みがあるとはいえぬ―――怪異を思わせて―――少年―――レイモンド・クラークは引き攣った悲鳴を一度だけ上げる。

 

 

 

『どんな劇の演目でも、あまり他人の脚本(ホン)に対して、私はアレコレと口出しする手合ではないのだがね。しかし、だ。力量に合わぬ題材を扱ってストーリーが破綻しては、実に滑稽無残諧謔笑劇!―――』

 

 

悲鳴を上げた少年を認識している『泣き笑い顔』は、そんな言葉でレイモンドを嘲笑う。逆らえない。その言葉の重みは明らかにレイモンドよりも格上の演出家である。

 

バケモノの類であると―――認識して身体は固まったままだ。

 

 

『ともあれ、だ。茶番の道化芝居とはいえ、それはそれで場繋ぎという側面もあるのだ。だが、キミ程度では『現在』の舞台演者たちに、望みの劇芝居を要請も出来ない。かといって、『我々』ではない『異次元生命がやって来た』と『銃神』に吹聴して、それをどうこうするというのはマンネリズムがすぎる。ありきたりだ。使い古された手だ。たまには違う行動をとってみたまえ。

舞台の上手(かみて)下手(しもて)すら分かっていない二番煎じから脱却できなければ、それはキミに訪れる『悲劇』の『質』が少々変わるだけだ』

 

 

バケモノの言葉は、まるで演劇やシネマのレビュアーか、一流のショーマンシップ持つ演出家のように、次から次へとダメ出しばかりを出してくる。

 

全ては―――『キミは稚拙なのだよ』という結論を違う言葉で表現しているだけなのだが……。

 

 

 

『つまるところ、キミが干渉してしまえば演目は『原典』(オリジナル)と同じだからな。実につまらない限りだ。マンネリだよ。キミたちのいる線は『外典』(アポクリファ)と認識しておくべきだった。それを知っていれば違うものもあっただろう。

―――今更な話だがね。それを認識しきれなかった時点で、いや気付けることも出来なかっただろうが、それがキミの脚本(げんかい)だ』

 

 

何なんだ。何なんだ。何なんだ。

 

馬鹿にされている。虚仮にされている。足蹴にされている。

 

数多の屈辱の文句がレイモンドに浴びせられている。だが、それでもその話は超然としていて、されど明確な反論が出来ないほどに一息に浴びせられる―――『正論』であった。

 

理解してしまう。レイモンドが話している相手は―――自分以上に計算の権化、情報の蒐集者であり、自分以上に望んだものを『演出』する術に長けた一流どころだ。

 

 

『まぁキミの能力が不足していたわけではないよ。とどのつまり、あの魔法使いは全ての運命を捻じ曲げるのだ。それは良かれか、悪しかれか、あるいは『両方』かは分からない―――しかし、ようやく終着にして終幕が見えつつあるのだ。舞台ジャックが出来るほどではないだろうが、プロデューサーとしては、万が一にでも演者やストーリーに負担がかかる改変は迷惑でね』

 

 

 

言葉と同時にレイモンドの部屋全てがぐにゃぐにゃと歪んでいく。魔法による攻撃であると理解していても、対抗出来ないほどに強力なものだ。

 

逃げ出せば―――その時はどうなるかすら分からない。

 

そして―――。

 

 

『まぁ―――率直に言うと、シャットアウト(接触禁止)だよ。荒野の賢者になりきれぬ道化師くん』

 

 

呆気なく言われた後に―――画面から3D映像のように浮かんできた泣き笑い顔。

 

『それ』を真正面から受けてしまったレイモンド・S・クラークは、帰宅してきた父親に発見される形で、外傷が一切ない『意識不明』の重体となり、病院に運び込まれることとなったのだ。

 

 

 

 

「さてさて、六情の渦に塗れた仕儀もそろそろ終わりか。果たして―――『誰』が『誰』の『敵』になるのか―――。一番いい席は無理だとしても、演者からは見えぬ特等席に座りながら見届けさせてもらうよ。シオン、そして魔宝使いくん―――」

 

 

 

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