魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
そしてエルメロイの冒険も間近ですねぇ。ワクワクしてくっぞ。
そんなこんなで新話どうぞ。
「中々の大所帯ですな。若人たちの集まりにお邪魔して申し訳ない」
「いえ、その辺はお構いなく。私個人もそうですが、我が家に現在いる魔法師たちも、十師族の一翼を担う四葉家の危難の一助になりたいぐらいの心はありましょう。悪評が立てども、この国の防衛にロード・クローバーのお力は必要不可欠です」
「持ち上げますな。ただ―――今はどのような不利な条件を呑んででも当主様の回復を優先したいのです」
客間にて対面に座る葉山という老執事―――正しくバトラーの鑑と言うべき人は、部屋の外で傍耳を立てている七草・十文字に聞かれても構わないともしてきたのだ。
先ほどまで全員が揃っていたリビングとは違い来客用の客間―――刹那が手ずからオーダーした畳の部屋はかつての衛宮邸を思わせる。
用意した座布団に座りながら出された紅茶に手をつける葉山氏は―――目を見開いてからこちらを見てきた。
「職業柄、淹れる側が主だった私ですが、たまにはこうして他人の淹れた茶を飲むのもよいですな……」
「気に入っていただけたならば何よりです。フィンランドの貴族より賜った『いにしえの技術』ゆえと言っておきます」
紅茶の淹れにも色々とあるものだな、と周り(客間の外にいる)が感心してから、執事らしいスーツ姿の老人が落ち着いた所で、話を伺う。
オブザーバーとして、魔法医療のスペシャリストであるドクターロマンと映像でつなげた上での会話。
あまり外部に知られるのは好まなくても、この場ではそれは致し方ないものと判断したのだろう葉山氏は言葉を続ける。
全てを聞き終えて―――考慮するに……。
「何か普通のアラフィフ女性の日常に思えますが?」
女子力皆無な気もしなくもないが、まぁどうでもいいことだ。資産家の令嬢で未婚というものを想定すれば納得できる。
若いツバメの1人や2人見繕うには―――まぁそこはどうでも良かったが、前後において何も不自然な点は無いように思える。
犯人を想定すれば外部犯が一番に考えられる。
現代魔法の『有効射程距離』というのは、時に恐ろしく遠隔で作用出来るが、あそこまで来ると
しかし、当然ながら四葉のセキュリティは深く硬いものであり、そうそう簡単に遠隔での魔法を通さないようになっている。
第一、術者そのもののレベルも高いのだから、そんなものが簡単に通るわけがない。となれば―――。
「内部、というか親族関連では?」
四葉真夜を害するほどの術者がいるとすれば、そちらが一番に疑われるだろう。
しかし――――。
「その可能性も考えましたが、四葉のルールの一つに、当主に求められるのは『魔法師の性能のみ』というのがあります。真夜様を害するほどの分家筋であれば、先代の後の後継者はそちらになっていたでしょう」
息を吐いて、でなければ日本という島国にて最強最凶などとあだ名されるわけは無いだろう。そういう結論を葉山氏の硬い言葉で出しておくのだった。
「ふむ………」
『バトラー・葉山、ウチの坊やをあまり困らせないでほしい。それだけの情報では、私もロマニも何も掴めない―――そこにいる魔術探偵も同様にな』
画面上にロマン先生の横に現れた万能の天才の姿に一度だけ驚くも、『情報』が少なかったかと、自嘲してから深度の高い情報が上がる。
「関係があるかどうかは分かりませんが、奥様が倒れた時に、傍で稼働していた端末があるのです。名前はフリズスキャルヴというものでして―――」
曰くエンロンシステムが云々、ハッキングがバックドアがエトセトラ……葉山さんの語る言葉が刹那の右の耳から左の耳に突き抜けていく―――よって!!!
専門家であり解説役を『召喚』することにした。別にダ・ヴィンチちゃんに任せてもいいのだが、とりあえず―――ご親族を呼ぶことにするのだった。
「
指パッチン一つで客間を仕切る襖の一つを自動で開ける所作。結果として聞き耳を立てていた―――その気になれば目で言葉を情報として見ることも出来るくせに、まぁともあれ―――達也が最初に客間に崩れるように入ってきて、その上に深雪が折り重なる形となった。
「「なっ……!?」」
彼らからすれば、どんなトリックだ?と思っただろうが、この家はそもそも刹那の工房なのだ。魔術師にとって工房とは秘術を最大限に発揮できる場所であり、ある程度はこういった『仕掛け』は存在しているものだ。
「我、古よりの盟約に基づき、忠良たる汝に求め訴えん!! 『解説よろ!』」
「威圧的なんだか友好的なんだか分からない
「というかそんな『古よりの盟約』とやらが、何で付き合い一年未満の友人でしかない刹那くんとお兄様の間にあるんですか!? 意味不明です!!」
ズビシッ! とガンドでも撃つように人差し指を向けながら放った言葉は、中々に司波兄妹の面の皮を剥がすに足るものであったが、そんな様子に四葉の家人たる葉山さんは驚いているようだ。
「―――中々に快活な『ご友人』ですな」
「見ていて飽きない一高での友人ですので」
「四葉家執事 葉山と申します。以後お見知りおきを」
取り繕った言動をしつつも見えぬところで、兄妹に一礼を入れる執事の鑑に『悪いことしたかな』と思いつつも、咳払いをした達也からの解説をもらう。
「……簡単に言えば、超巨大な情報検索システムであり、巨大データベースだ。全世界を網羅する巨大なネットワークで、存在が疑われる都市伝説的なものだったんだが―――」
「奥様は、その端末に選ばれたようです。ある時、『本家』に届いたそれは達也殿の語るような機能を有していました」
フリズスキャルヴ―――北欧神話の主神オーディンが
またオーディンは、魂の簒奪のため地上世界に不和を齎す際にも活用された……二羽のカラスを用いて……。
全ては神々の最終戦争に勝利するために―――。
浮かび上がるイメージ。そして連想される……。
情報、魂の簒奪、不和への誘い、世界の操作、全ての情報を蒐集するもの……導き出される結論は―――。
『ミスター、ウチの坊やも気付いたと思うが先んじて言わせてもらおう。いますぐ家に連絡して、その端末を有線は当たり前だが、無線でも繋がれないよう物理的に隔離した上で、家にある端末をあらゆるウイルスチェッカーに掛けるべきだ』
「ミス・ダ・ヴィンチ、それはどういう意味で?」
「口幅ったいこと言わせてもらいますが、そんな何処の誰から、『何の目的』で送られたかすら不明瞭なものを『あの四葉』が使う気になりましたね―――恐らくですけど、『あちら側』にあなた方の情報は筒抜けでしたよ」
「あちら側……?」
「恐らく設置したのは別の誰かでしょう。そいつの目的も情報窃盗ですが、『大本』は違う―――」
刹那の言葉の意図するところが分からず、誰もが固唾を飲む。しかし緊張感は増すのみ。その全ての意図が糸として繋がっていたのだ。
「アトラス院のオーパーツ……『疑似霊子演算装置トライヘルメス』。
その言葉を横で聞いた達也は、自分こそ『古よりの盟約に基づき、『解説
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「では、アナタが―――フリズスキャルヴの製作者であり、尚且つ『七賢人(笑)』のオペレーターであると?」
「ミスタ・ベンジャミン、一つ訂正させてもらうが、あなた方に情報を流していたのは、そこで眠る私の息子だ。勝手に
むっ、とした顔でベンジャミン・ロウズに抗議する様子だが、それが息子の恥をさらす結果になっていることに気付いているのだろうか。分からないが、娘を持つ身としては―――何故、こんな愉快犯じみたことをやらせていたのかと詰りたくなる。
ただ年頃の息子・娘に干渉することの是非とか、友達付き合いや趣味のあれこれに首を突っ込むことが過干渉になるとか―――今から考えてしまうのだ。
「そこはどうでもいいでしょうな。問題は―――そのようなシステムを、『何故』作り上げられたのかということでしょう―――話していただけますね?」
とはいえ、今のベンジャミンは、USNAの軍人『アンクルサム』だ。
聞くべきことは聞かねばなるまい。
息子が運び込まれた病院。その
彼が、フリズスキャルヴという巨大情報システムを構築する発端は、己の妻を失ったことに端を発する。
研究一筋の人生……などと息巻くには青すぎた学生時代に出会った……後に妻となる女性は、エドワードにとってどんな発明や頭の中にある数式や理論よりも―――とてつもない発見であった。
夢中になった。世界が一変して日々の光景の見え方が、三度変化するぐらいに眩い出会い―――。
結果として辻褄が合う形で『結婚』『妊娠』『出産』となったのは、エドワードにとっては掛け替えのない宝を作った。
仕事も時間に都合が着くものにした。家族との時間を大切にする。世の中を良くする研究にも意味はあったかもしれないが、それでもエドワードは―――そういった『席』から立ち上がり、『夫』で『父親』としての義務を果たそうと思えたのだ。
「だが……幸せというのは長続きしないものだ……」
悔いを残した顔でエドワードはつぶやく。妻の急な他界。何が原因であったかは不明。しかし、急な病に倒れたことでエドワードは己を責めた。
何故気付けなかったのか。数多の自責で窶れたはてにエドワードが向かったのは―――ガンジス川ならぬ……熱砂の大地『エジプト』であった。
最初は、学生時代に妻から薦められたジャパンの小説
だが、それと『交換』する形で、エドワードが貸したジャパンのカートゥーン……それが頭に引っ掛かる。
『エジプト』の
元・科学者にあるまじき子供の夢想じみたものに突き動かされて、エドワードが辿り着いたのは―――。
「彼らは星と
恐ろしいものと会ったことを思い出しているように、汗を流して、顔を青褪めるエドワード・クラークの独白は続く。
彼自身は、魔法師でなければ、ある種の神秘や異能持ちの能力者ではなかった。そして魔法師であれば『オカルティズム』の権化と思い込む彼らの言動は、エドワードの心を的確に突いてきたのだ。
『死んだ妻女に会いたいか?』
『私たちならば』
『声も』
『姿も』
『温もりも』
―――
それが悪魔の囁きであると分かっていても、見上げた先―――見えてしまった妻の姿……煙がエドワードを包んだ時には契約を結ばざるを得なかったのだ。
「アトラス院……彼らは、恐るべき技術者集団だ。現行の科学技術の2世紀―――もしくは3世紀は『先』の『未来』に生きていると言える
科学者として先に到った存在。ただの名誉と金銭を欲するだけの俗物ならば、それをモノにしただけだろうが、だがエドワードにとっては、そうではなかった。
科学者として、『禁忌の領域』に恐れもせずに手を突っ込めるアトラスの錬金術師に対して、『恐怖』を抱いているのだ……。
「そして、アナタは奥さんとの『再会』の為に、彼らからすれば『外の世界』に巨大情報システムを作り上げた。彼らから渡されたフォトニック結晶という『賢者の石』を用いて……そして、数多の情報操作―――もはや大亜と繋がった『ジード・ヘイグ』などを操って、ロズウェルにて彼らの言う可能性世界からの稀人―――死徒二十七祖『タタリ』を呼び寄せた」
会話の相手はヴァージニア・バランスに代わっていた。上官が聞き役であり尋問官となったことで、エドワードも少しばかり口が回りそうだ。
「ジードもまたアトラス院と接触を持っていたようです―――アトラスは、私がジードを
ジード・ヘイグもまた『アトラス院』によって間者となっていた1人。
(そしてネバダ州北部エリア51にて、与えられた『アクトレスアゲイン』という観測空間を生成する仮想実験の『シミュレーター』を起動。アトラス院の『意図』したとおりに、タタリはこの世界に舞い降りたということ、か……)
タタリに関わりが強く深い存在、もしくはアクトレスアゲインに設定されたパラメーターがゆえにか、『実体』を持った吸血鬼も世界に現れた。
ある種……二次元の存在が、三次元世界に現出するかのように。災厄は際限なく広がり―――。
シミュレーターに設定された『数値』との齟齬・矛盾を解消するために、『日本』へと彼ら……タタリの霊体と実体化を果たした吸血鬼は渡っていった。
(しかし、アトラス院はこの『暴走』すらも読み切っていたのか? もちろん、我々では『アクトレスアゲイン』が御しきれないという確証があるならば、当然だが……)
一度は『ビースト』という人類悪に立ち向かったUSNAだけに、此度の一件はどうにも『制御』がされすぎていると思えるのだ。
まるで、昔20世紀後半から21世紀初頭まで、合衆国でも行われていたビルの爆破解体のように、整然としたものに思えてならない。
考えれば、考えるほどドツボに嵌りそうな中、一先ず―――こちらが得た情報を、日本にいるメイガスに送ることにするのだった。
「大佐、ドクター・クラークのご子息に関しては……」
「心配要らない。護衛も付けている。君も心配ならば付いていても構わない。アンジー、セイエイに対する報告は私の方でやっておこう」
父親であるがゆえにか、ベンジャミンが若干ドクターに同情的なのは分かっていた。だからこその気遣いをしてから―――。
(私も結婚していれば、今頃は娘、息子がいた歳かな……)
別に晩婚が忌避されている社会ではないが、バランスが、『ジニーお嬢ちゃん』などと周囲から言われて遊びをせずに頑張る一方で、同期の女性軍人たちが殆ど結婚していく現実に、今度こそ寿退役してやる! という反発心を持ちつつも―――『今日』に到ってしまった。
そんなわけでヴァージニアは、ちょっとだけ自分の身の世知辛さに涙しつつも、レイモンド・クラークの同級生だろう短躯のガール―――日本人だろうか?と病院内ですれ違いつつも、つつが無く仕事に赴くのだった……。