魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第274話『アクトレスアゲイン―Ⅵ』

「そうでしたか、そんなことが……」

 

 遠坂邸から司波家に移った四葉家の執事 葉山は、一連の達也と深雪の『越権行為』に対する釈明を聞いていた。本来ならば、そんなことはしなくてもいいはずなのだ。

 

 何故ならば、この兄妹こそが四葉の全てを受け継ぐべき次期当主候補なのだから。

 

 公表をするというのならば、それはそれで―――と言いたいが拙速ではないかというのが、葉山の考えであった。

 

 しかし、それでも兄妹は決断したのだった―――。とりあえず友人一同に対してだけはスジを通すべきだと……。

 

「叔母上を意識不明にした直接の原因が、アトラスのヘルメスコンピューターなのかは分かりませんが、それでもシオンを捕縛しなければならない―――」

 

「変わられましたな達也殿……以前のアナタならば、シオン嬢を殺すことを前提とした捕縛を提案したというのに」

 

「……『殺す』だの『消す』だの……正直、最近怖くなりましたので……」

 

 だからといって最終的な判断を揺るがすことは無いのだが、それでも自分の中の本物の達也―――便宜的にアレを『和也』とでも名付けておき、彼の視界にタダ乗りさせられた時に―――。

 

(ヒビ割れそうな頭で見たセカイは全てが壊れかけで崩れそうだった……目眩どころか吐き気を覚えた―――)

 

 確かに、達也の分解は全ての構造物質を見た上で細分化するものだ。だが、『直死の魔眼』で見たセカイとは、それとは本質的に真逆だ。

 

 アレはただ単に全ての死を『見抜いている』だけ。

 老いも若きも、男女の区別も、無機有機、人であるか魔であるか、現象であったとしても―――何の区別もなく『全て』を殺せる―――。

 

 そんな『死にやすいカタチ』を見たせいか、今の達也は分解を使うことに若干の『忌避』をしている。

 いずれは死ぬものを何故、態々―――『そんな風』に殺す必要があるというのだ……?

 

 死を速めることに何の意味がある。

 

 マテリアル・バーストとて、今では十全に使えるかどうかは自信がない。

 

 もはやマインドセットが上手くいかない。その魔法式を解き放てないのだ……。

 

 

 ―――死んだ人間は生き返らないんですよ―――

 

 

 ―――魔■王の攻撃から『彼』を守った『彼女』の気持ちがいまならば分かる―――

 

 

 ―――第四の獣の奇跡は『いまの私』にはいらない―――

 

 

 ―――少年、君の力はいずれ『人理』を崩壊させるだろう。あるいは腐食させる―――

 

 

 ―――それが『世界の選択』にならないことを祈るだけだ―――

 

 

 ―――再び会う時に、君がどうなっているか。それ次第だな―――

 

 

 沖縄での戦いで守護者として四葉に作られた人と、世界に召し上げられた錬鉄の英霊の声が、達也の中で木霊する。

 

 その声が自分を苛んで、そして見えた世界の脆さに戦慄を覚えたのだから。

 

 

「―――直死の魔眼。発現されたのですな」

 

「葉山さん……!?」

 

「今は詳細にお伝えは出来ませんが、私は四葉に送り込まれたスパイのようなものです。四葉家の『未来』を『予測』した『とある組織』から、いずれその可能性を『引き当てる』ということを言われていたのです―――それがどういう結果になるかを見届けよ。と、ね」

 

 深雪共々沈黙してしまう達也。祖父や大叔父の時代から四葉に仕えていた篤実忠良という形容詞が似合うこの人が、よもや外部のイヌだったとは―――。

 

「―――私を消しますか?」

 

「それをするほど実害を被ったわけではないので、やりませんよ……そもそもやりたくないですし」

 

 ただどういう『予測』をしたから、そういう風なことになったかは少しだけ知りたかった。

 

 今は話してくれないだろうが……。それ以上に葉山を殺す・消すなどという恥知らずな行いは出来ないのだ。彼がいたからこそ四葉という家は回っているのだから。

 

「分家連中も、まさかこれを失点に当主の座を狙おうとは思えませんが、とりあえず我々は、当主・四葉真夜への攻撃に対する報復・及び回復の手を得るため、遠坂刹那に協力する形でアトラス院錬金術師『シオン・エルトナム・アトラシア』の身柄を抑えます―――これを四葉分家全てに流してください」

 

「―――……承知しました」

 

 その意図を分からないわけではないが、そんな『ギャンブル』に手を突っ込んで大丈夫なのか? そう葉山は達也に視線で問うが……。

 

「―――」

 

「―――よい友人をお持ちになりましたな」

 

 男として決意したことがある。そう無言で言う達也の姿を見て、葉山はもはや何も言えなくなった。

 

 そも四葉の管理地というのは、歴史を知っている人間からすれば、あまりゲンが良くない。第四研の本拠地がそこだったからだが―――。

 

 だが、もしもそのことを理解していたならば大いなる皮肉だ。

 

(甲斐源氏の名門『武田氏』の如く、滅ぼされることも織り込み済みだったならば……)

 

 悪趣味の限りだ。だから四葉の男子―――かつての当主たちを思わせる司波達也が、『武田勝頼』をなぞった運命に、ならないように。と祈りながら、老人は舞台から去る。

 

 状況の全ては―――若者たちに委ねられたのだ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ―――おめでとうございます。シオン・ソカリス。

 

 ―――あなたの業績は、歴代のアトラスにも刻まれるべきものです。

 

 ―――ロンドン時計塔が無い『線』を選んでしまった世界(われら)にしても、素晴らしいものだ。

 

 ―――であるからこそ、我々は魔法師たちから『取り戻さなければ』ならない。

 

 

 ―――魔宝使いはアナタと我々の計算(よてい)通りに、かの新興国に訪れるでしょう。

 

 

 ―――アナタの働きに『期待』しています。

 

 

「―――くそったれが」

 

 

『貧乏くじ』を引かされたことを思い返して、終ぞなき悪罵が口を衝いた。

 

 これ以上の星の『退化』『退行』は、『奴ら』を星の彼方から呼び醒ます。

 

 魔法師たち(デミヒューマン)の『危険な遊び』を止めるために呼び寄せたものは、1000人以上もの生贄を以てして全てを打ち砕く。

 

 ただでさえ『獣』が発現したのだ。まさかあのような形で顕現するとは思わなかったが、それを倒すのは、魔宝使いであるとは計算出来ていた。

 

 つまるところ。予定違いは起きていないということだ。

 

 ただそれでも……。

 

 ―――別に正しい道ばかり歩んだって、それが良好な結果になるとは限らんのだしな―――。

 

 

 正しい道。そう言われて全てを計算した所で、そんなものがあるとは思えない。

 

 ただ、これが『良』であると、シオン自身の『天秤』で量っているだけだ。

 

 結局の所、それは傾きが強すぎるのだ。だからこそ、アトラスの連中は『我の見たもの』だけが『滅び』の道だと思って、それぞれで勝手な解答を出していく。

 

「―――馬鹿げたものだ」

 

 魔術とは違う現代魔法―――それがもたらすものとは、即ち……。

 

 思案をしていた時に気配を感じる。殊更に音を立てて、ブーツを鳴らしながらやってきた存在を感知する。

 

 シオンに正面を向いて相対する姿。

 

 ……お互いの距離は徐々に近づく。

 

 時刻は午後7時45分……。約束通りの刻限。

 

 星夜の月光を受けた赤い聖骸布を纏いし、この世界で唯一の魔術師(メイガス)がいたのだ……。

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 辿り着いた公園の中には、幽き月光と弱い街灯のみが差し込んで、彼女の姿を晒していた。

 

 それを見ながらも、言葉をかわす。

 

「―――デートの時間には少々、遅いと思いませんか?」

 

「君の指定通りの時間だと思うんだが……まぁ男の方が先着しておくべきだったかな」

 

 誘われて、それに乗ってやってきただけだというのに、目の前にいるシオンは、それを不満に思っているようだ。

 

 錬金術師は、いつもどおり過ぎた。だからこそ、拍子抜けする。

 

 

「―――世の中には、決戦の時には、悪役は高笑いを交えつつ、事情説明をしなくてはいけない、という法律がある。……あったはずだ。

 崖っぷちに追い詰めた訳ではないが―――お前の話を聞いておきたいもんだ」

 

 (おど)けて言うことで、会話のテンポを速める。

 

「そんな法律が日本にあったとは知りませんでした。ですが、こういう場合、『探偵役』であるべき人間は、自分の知ったことを開示した上で『答え合わせ』をするべきなのでは?」

 

 言われてみれば、その通りであった。

 こういうのは先生の領分であって俺がやることではない。そう刹那は思いつつも、まぁいいだろうと思う―――たまには『探偵』をやるのも悪くない。

 

「シオンはシオンが見た『滅び』を覆すために動いた。それは間違いなく事実だろうな。錬金術師達は、『それ』ばかりを求める」

 

「私が見た『滅び』。それは何であるかお分かりで?」

 

 

 呆れるような刹那の口ぶりに対しても、微笑をこぼしながらシオンは促す。答えが合っているかどうかは分からない。

 

 だが、それでも突きつける―――。

 

「お前が見た滅び―――それは即ち『魔法師による星への蹂躙』。あるいは『剪定事象への進みの回避』だな?」

 

「こういう場合、『Excellent!』(すばらしい)とでも言うべきなのかもしれませんが、私のキャラではないので止しておきましょう。わかり易すぎましたかね?」

 

 

 大仰な米国人か生徒の『満点』の解答を見た『教師』のような言いざまは、シオンには少々似合わないなとは思うも、話は続く。

 

 

「そも、俺のような『外側』の視点を持った人間でなければ、こんなことには気づかない。

 魔法師達の破壊能力は極まった連中(戦略級魔法師)ならば、10万人都市を一撃で葬り去るからな。こんなもんがボカスカあっちこっちで放たれれば、即座に色んなものが『衰える』。星のテクスチャこそ剥がれないが……いや、それでも人理版図に歪みは生じる、か」

 

 だが、ロンゴミニアドやエクスカリバーなどを使ったような弊害が―――あるのだろうか? そんな口に出さない疑問にシオンは応える。

 

「そもそも、刹那―――アナタは疑問に思わなかったのですか? 魔法師の使う『現代魔法』(ぎじゅつ)は、明らかにおかしいと」

 

「ああ、等価交換の原則からは外れている。だがサイオンがエーテルとも違うし、真エーテル……後の世界に『ジン』などと称されるものとも違うのは、とっくの承知の上だ」

 

「ならば、彼らの使うサイオンだけでは賄いきれない破壊や現象構築のためのエネルギーは、果たして『何処』から来ているものかお分かりで?」

 

 その言葉に、周りの草木に葉擦れとは違う『ざわつき』が生まれるのを感じる。

 

 だが、それに対する答えは―――。

 

「さぁな。推測はあれども結論はないな。ただこれだけは言える―――――この世界に現れた《獣》は、魔法師に成りえる可能性がある人類全てを抹殺するために生まれた存在だ。

 ということは、魔法師がもたらす発展はある種の『歪み』なんだろうな……」

 

「ならばその推測を述べろ『魔法使い』。貴様が受け継いだ『魔法』とは、その為にあるものなのだ」

 

 急に居丈高な物言いになったシオン。月光と公園の灯りで映し出される影に―――正面のシオンとは違うものを見る。

 その姿は学者というよりも、古代エジプトの神官を思わせる姿の影絵だ……。

 

 その姿に『悲しい想い』を抱きながら口を開く。

 

「―――宇宙終焉の加速(ミズガルズソルムル)。恐らく戦略級魔法に代表されるものは、そこからエネルギーを得ている……ラインの逸脱分は、そうなんだろうな……まぁ確証はないけど」

 

「正解だ。宇宙の因果を崩すことで、現代魔法―――特に魔術王の細片を用いたものは、それを果たす―――」

 

 言葉の後に冷たい風が吹き荒ぶ。初めて錬金術師としてのシオンと出会った時―――こんな結末を予期できていたか?

 

 無理だ。

 

 無理なのだ。

 

 だって―――――――。

 

 

「私の目的は、アメリカネバダ州で『意図して暴走』させた『アクトレスアゲイン』の力……タタリという存在因子を以て、現代魔法に『楔』を打ち込む」

 

 

 ――――――それは霊長(にんげん)にとってすごくいいことなのだから。

 

 

「噂が、都市伝説が……『現象』が擬人化を果たすという『魔術基盤』を打ち付けることで、星を灼き尽くす業を全て封印する―――。

 代価を得ずに宇宙終焉を約束する『文明』など、間違いでなくても正解ではないのだ……!

 人類史の異物が既に排除不可能ならば、制限を着ける。その力を『正常なもの』へと移行させる。その上で―――全ての人間(霊長)に『上位存在』に登れる階梯を与える―――神霊を据えた魔術基盤の創設を画策する者達もいるならば、私はそれを実現しよう……」

 

 

 けれど――――――。

 

 

「その為に―――1000人以上もの死者をこの街で出した上に、この街の住民すべてを―――『賢者の石』に錬成する、か―――」

 

 視線をシオンから背けて、高く聳える街並みに目を向けながら呟く。その呟きさえも彼女は、予想済みだったのだろう。

 

 

「獣の『殻』が地下に存在している以上、 それを無視することは出来ない。

 そして、来訪者『弓塚さつき』『シオン・エルトナム・アトラシア』『リーズバイフェ・ストリンドヴァリ』―――彼女たちへの対価として『一つの世界』を構築する―――この街を狂った異聞歴史帯への制御盤、楔へと変換……これ以上の星と宇宙への蹂躙を止めるための、最後の墓標を打ち立てる」

 

 

「―――――――」

 

 ざわつきが聞こえながらも、宗教的情熱を感じる語り口調のシオンに苦衷を覚えながらも―――。

 

「―――その中に平河、エイミィ、紅葉なども含まれているのが分かっているのか?」

 

 ―――その言葉を『楔』として打ち込む。

 

 

「……分かってないと思いますか?」

 

「―――無いな。魔術師は目的の為ならば、手段は選ばない。その行為の善悪もな」

 

 恨めしげな心を感じて、刹那は微笑を零しながら『宣言』をする。

 

 

「まっ、後々のための『保険』としてならばありだが、やっぱり俺としては、今のところ、その動力源となるモノと、その『プラン』は見過ごせない―――」

 

 

 吐き出す言葉を予備動作として魔術回路を叩き起こす。呼気にすら魔力を伴わせる『魔法使い』の様子にシオンは緊張をするようだ。

 

 表情には見せないが、それでも―――いざ戦うとなると、そういうことだろう。

 

 それでも――――。

 

「―――シオン・エルトナム・『ソカリス』。お前の示した人類(ニンゲン)航路図(みちしるべ)は、ここで一枚残らず破り捨てる」

 

 

 ―――霊長の守護を宿命づけられたならば、言うべきなのだった。

 

 

「その前に、アナタの魔法を破却する。宇宙の可能性を取捨選択するだけの、無情で無慈悲な力など―――始めから有ってはならなかったのだ――!」

 

 

 返す言葉で、アトラスの錬金術師としては在り得ざるほどの『魔術回路』の露出が見える。

 

 ……それはまるで乾いた大地、草木すら生えぬ場所に走るひび割れのような亀裂の連続だ。

 

 

Anfang(セット)―――」

 

「星よ。大地よ。」

 

 神秘の理を浸透させる合図。そして同時に―――。放たれるは神秘の御業。

 

 刹那の五指から放たれたガンドが、幾度も分裂し、螺旋を描く。

 

Pseudo-Edelsteine. (疑似宝石)Sieben,(七番) sechs,(六番) fünf,(五番) Spiegel, Blume, blühen und stolz sein!(鏡よ。華よ。咲き誇れ)

 

 美しい万華鏡にも似たその魔術は、全方位から尋常の相手を取り囲み、掠っただけで数日は昏倒させるだけの呪いを込めて殺到した。

 

 それを受けてシオンの『鎧』が自動防御を果たす。

 魔力甲冑(マジックガーダー)ぐらい用意してくるとは分かっていたが、それでも『これ』を出してきたことに、刹那は驚きながらも次手を打つべく駆け出す。

 

 ルーンの輝きを見せる拳と脚を見る。その激突の予感に―――。

 

「迎え撃て!! ラニ『シスターズ』!!」

 

「セツナ! いま加勢するわ!!!」

 

 公園の至る所から、今日の夜の決闘者たちが戦いの中心点に殺到する。

 

 東京を襲った戦いの結末が、今宵刻まれる……。

 

 

 

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