魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
明確に響く魔力の波動と一帯を振動させる轟音。体内のサイオン波動が自然と放射されてしまうぐらいに恐ろしい兆候が、身体を緊張させてしまう。
「始まったか……」
「しかし警部―――よろしいんでしょうか?」
「外国の魔法師やバケモノじみた連中が、この日本の東京で好き勝手やるというのは、確かに良い気はしない」
シガレットケースからタバコを一本取り出して火を着ける。警察車両に寄りかかりながら寿和は言う。
「だが、それでも十師族経由での『要請』でもある。そして、我々には手に余ることはよく分かる……」
言いながらも納得しきれていない寿和の吐き出す紫煙が夜空に上がっていく。その紫煙にどうやら、寿和の不満が含まれているようだ。
「とはいえ……そんな所に入り込んだらば、膾に切り刻まれるだけでは済まされないんだろうな」
だが、それでも周囲半径10kmで、完全に人やモノをシャットアウトさせられる公的機関というのは警察だけなので、その辺りは職務に忠実であった。
都内の公園一つが灰燼になっても飽き足らない闘争劇の中に、弟妹が入り込んだことに対して心配もある―――もしくは嫉妬も。
そんな感情を飲み下しながら寿和は、職務に邁進するのだった。聞きたくもない轟音が立て続けに起きて、今にも東京が崩れ去るのではないかという予感を持ちながらも―――。
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現れたラニたち―――髪型とか服装に若干の違いはあるが、それでも―――同じような顔立ちに推測を出す。
「クローン型ホムンクルスだったのか。まぁラニⅧなんて名前ならば、何となく予想は着いていたがな」
「その通りですロード・トオサカ。同時に私達は、『九人姉妹』と言える―――つまりは」
『『『『ラニ松さんと言えましょう』』』』
受け答えをしたラニ=Ⅷの言葉に追随する四人のラニ達は、全員が『鎧』を着込んでいた。
そしてその鎧は、明らかに強力無比なものだ。逆立つ棘を思わせる『鱗』で構成されたスケイルメイル。そしてその鱗に葉脈のように走る魔力光は『赤』。
カラーこそそれぞれで違うが、それでもその『鱗』の由来を良く知っていた。
それが何を由来とするマテリアルであるのか。どんな
ラニの1人。青色のスケイルメイルを着込んだものが腕を掲げる―――放たれるは―――。
じゃうっ!!
「ウワワワワ!!! れ、レーザー!? いやビーム!?」
腕から放たれたのは、俗に
都立公園の地面を範囲にして700mは灼き尽くすほどの威力に、リーナの出足が止まるのは当然。
「
「正解です。本来ならばアルビオンにでも潜らなければ、
色々の中身は興味がないわけではないが、その威力は驚異的だ。
見える限りではラニ9人に同じようなものを着込み、そしてシオン自身も灰白色の似て非なるものを着込んでいる―――つまりは―――。
「撃て!!!」
十門以上のビーム砲台による並列斉射であった。
「うっひゃあああ!!!」
水平射撃されていく熱線ビームの威力は、勢い込んで出てきたメンツを驚かせるに足りるものであった。
しかし―――。
そのビームを迎撃するものは当然いるのだ。
剣で、槍で、槍で、剣で、モップで(!?)―――五者による剣戟の軌跡が閃光をかき消した。
「「「「
「だぜ!」
アルトリア・オルタ、お虎、ラントリア、モードレッド、メイド・オルタの登場で、ラニたちの攻撃は無為に終わった。
だが―――。
「サーヴァントが出ることを予期しての装備だったのですが、成程。―――やはり足りませんかっ!!!」
そんなことは予測済みであるかのようにシオンは叫ぶ。
瞬間、公園の横合い―――草むらの茂みから出てきたのは、弓塚さつき、Vシオン―――リーズバイフェ……完全に蘇った形で、サーヴァントに襲いかかる。
だが、それでも手が足りないだろうが―――。
『『『『■■■■■■――――!!!』』』』
「生前は名のある騎士だったのだろうが、不死者の傀儡に成り果てたか。聖別されし武器の全てが呪われている……」
咆哮を上げし不死者の騎士たちに憐憫を抱くアルトリア・オルタ。
リーズバイフェ・ストリンドヴァリによる聖堂騎士たちの魔界転生で、サーヴァントの抑えをするようだ。
それもあるが――――。
(弓塚さんの『チカラ』が増している―――上級死徒クラスにまで上り詰めているのか……?)
「私が覗き見していたとは知らなかったでしょう。ネロ・カオスに存在せし『機械機構』は、私が仕込んでおいたものです」
「ああ、つまりはそういうことか。魔術師の手練手管を忘れていたよ―――」
再生されたとは言え、仮にも上級死徒を監視カメラ付きの使い魔も同然にして、更に言えばそれを、誰にも悟らせなかったとは―――。
(裏で一から十まで三味線弾きすぎだろ!)
言い合いながらも、ラニたちによるレーザーブレスの一斉射が始まる。
あまりにも開けた場所。アルトリアの能力を活かすためにもこの場所は良かったが、同時にあちらもそれは織り込み済みだったようだ。
「投影開始―――投影幻創!」
ドラゴンの膨大なエーテルを利用したブレスは、それだけで上位宝具も同然だ。刹那の魔術回路が魔盾の鍛造に特化して、花弁と鳥羽を組み合わせたような大盾が眼前に出来上がる。
刹那の背後に居た連中ごとすっぽりと全員を防御しきる―――。
「ぬう。高出力レーザーとはな。すでにビームも同然だな」
「しかも収束してやがります。とはいえ、穴蔵に籠もっているだけでは意味がない―――」
「大まかな威力は理解できた。あれが出力最大ではないことも分かる。だが―――」
十文字会頭も驚くが、それでもこのままでは意味がないということで―――。
「剛体剛力を意図して作られた十文字の名は伊達ではないのだよ!!!」
盾を分散して花弁も同然に散らしてから、再びの突進。内側にいたメンツが最初に見たものは―――。
「―――」
「―――」
無言でビームを撃つのは、2人のラニ。他は―――。
(上か)
すでにサーヴァント(疑似サーヴァント含め)達は、死徒たちと交戦しにかかっていた。
その上で戦闘集団を分散させるならば、有効な手だ。
浮遊しているラニとシオンを発見して狙いが分散するが―――。 中距離で打ち合うだけだ。
「ビームに関しちゃ、ワタシの方に
意図を理解したリーナが星晶石を変化させて手持砲へと変化させて、ビームを打ち出す。
シン・リナラの面目躍如である。熱線ビームによる水平射撃が、ラニ達の攻撃を乱す。
高速思考を果たす錬金術師にしては、かなり驚いている様子、理由は察する。
……結構むちゃくちゃな攻撃だからだろう。
ラニたちも、ここが大都会東京であることを察してそれなりにセーブしていたところに、遠慮も躊躇もなくの全力攻撃なのだ。
ホンマ、おっそろしい女やで(爆)
しかし、この展開も読んでいたのか、シオンはこちらを睥睨しながら口を開く。
「アビゲイル・ステューアットの理論など、既に我々が2000年前に通過した場所だッッッ」
光の槍が虚空より降り注ぐ。固形化したエネルギーの矛に対して、今度こそ―――。
頭上を貫けると思ったシオンだが―――――――。
「パンツァー・ルーンブルグ!!!」
シオンからすれば眼下、刹那からすれば頭上に盾が生まれた。
盾は、攻撃を封殺した―――と言い切れるものではないが、それでも間隙は出来たわけで、そこを狙って盾の範囲から抜け出て弓から矢、剣の矢―――カラドボルグを打ち出した。
射角としては真芯を狙えるものではなく、シオンの翼を撃ち抜く。
竜翼を模したらしきそれの強度は相当だったろうが、それでも上位宝具の攻撃で皮膜を貫くと同時に骨格が歪んで、竜翼は千切れ飛んだ。
地上から奔る流星を食らったことでバランスを崩したシオン。不時着していく様子。
そこを狙って弓矢による連射。シオンを無事に落着させるためにラニたちも圧力を強めていく。
「お、重てぇ!!」
「踏ん張れレオ!!」
「俺にも激励をくれ…!」
「ファイト! 克人くん!!」
その嵐のような攻撃に、
2人以外の連中が、ラニ達に対しても直接射撃を敢行。
しかし鎧の防御力は並外れており、現代魔法は当然だが、刹那の打ち出す宝具も『気合い』を入れれば防御出来るようだ。
流石に無防備に喰らい続けていれば、弊害は出るだろうが―――
連中も当然動き回る。よって打ち合いが、かなりとんでもなくなる。遠距離、中距離での打ち合いが続く。
その状況に変化を齎さなければ、レオも克人も楽にはならない。
誰もがそう思った瞬間―――。
じゃうっ!!
先ほどの初撃と同じレーザーブレスの音が、『こちら』から響いた。
「―――ぐっ!!!」
「ラニ=
空中で浮遊していた1人のラニ。青色のシュラウドを着込んでいた子が呻く。
その名前も判明したが、今は何が起こったかを理解する。
レーザーブレスが『反射』されたのだ。そして反射先であるラニ=Ⅵの鎧は、その圧力に耐えきれず穴が空いたのだ。
反射したのは―――。
「う、上手くいきましたぁ……」
『鏡』を操る柴田美月(脱力状態)。
「適切な位置につけたからね。柴田さんのコントロールは的確だったよ」
「ワシとて水を相乗させて、屈折に一役買ったんじゃが」
ドヤ顔の三高一年トリオの2人、十七夜 栞と四十九院 沓子とがそれを成したようだ。
「察するに『反射鏡』を使える美月に、適切な反射・屈折位置を『魔眼』で見抜いた栞が伝えて、そこに美月でも受け止めきれない圧を沓子が『水』で和らげたというところか……」
恐ろしいほどに歯車が噛み合った反射攻撃である。花マル満点くれてやりたい。
しかし美月は本来ならば、こういう荒事に向かないニンゲン。
幾らかは覚悟出来ていても、魔獣やシャドウサーヴァントなどと違って、自分が『人』を傷つけたことに少々放心しているようだ。
だが、レーザーブレスの圧は止まらないわけで、彼女も何とか、それに対応していく。
そんな奮闘を見た『おんな城主直虎』のような2人が突撃を開始する。
「美月が慣れないことで金星上げてくれたんだ!! 私がそれに臆していられるか!!」
「
赤毛の剣士と金髪の剣士が前に出て、リーナとビームを打ち合っていた2人のラニに突っかかる。
「ちょっ! フタリとも―――!!」
リーナが嘆くのも分かる。正直に言えば、あのままならばリーナの勝利というか鎧を星晶石の魔力砲は砕いていたはずだ。
砲撃の真っ只中に入り込んだ2人に、流石に中断せざるをえない。
そのプランを崩されたことで嘆くリーナに声を掛ける。
「切り替えろ! シオンを叩く!!」
「―――オーライ!! その子達はマカセタわよ!」
刹那の言葉に逡巡したリーナだが、それでも最後にはCHANGE出来たようだ。
「アナタに言われるまでもないですわ!!」
言葉に返したのは愛梨だけだが、それでもまさか、こちらの砲撃に恐れず接近戦を挑むものたちが現れるとは―――しかし、同じく切り替えたラニ2人は、持ち手から打撃部分まで光で構成された得物で応じる。
剣か槍か棍棒か―――どうとでも言える武器を手にした褐色の肌の娘たちが、剣士たちと戦いを演じる。
まるで砂漠にて
むしろ周囲の人々に挑みかかるような激しい舞で剣戟は刻まれていく。
―――魔力の迸りが、煌めきとなって夜の闇を照らす。
それを後ろに刹那は落着したシオンを目指す。当然護衛よろしく、手負いの
「シオン師を守れ!!」
声を発したのは、恐らく刹那も見てきた
(サーヴァントとやり合うことも想定していたんだろうな。しかし―――)
(どうやら昨夜の固有結界の損失は埋まりきっていないようですね)
こちらの内心の苦悩に対して返されているような気がするシオンの目。だが、無理無茶無謀なんてのは若い内にしておくべき特権。
「安全策なんて取るかよ! クラスカード『セイバー』、
「クラスカード『ランサー』、
クラスカードを介した英霊召喚で、2騎の英霊を宿す刹那とリーナ。本来ならば、人間相手にやるものではないが―――龍鎧相手となればやるしかない。
「ラニ=Ⅵ、龍鎧を私に渡して、後方でエーテライトでの支援と自分の回復を」
「了解デす、マスター・シオン。そしてお気遣いアリガトウございマす」
日本語が少したどたどしいラニⅥは、その指示を受けて後方に下がる。
腹を押さえているところから察するに、傷は浅くないのだろう。
「恨むなよ!」
「恨みませんよ!!」
しかし、ラニⅥを狙うと見せかければ、他を釣れる。そんなことはシオンも計算しているだろう―――だからといって本気の攻撃をしなければ見透かされる。
そういう言葉の応酬の間にも、レーザーの雨が『一直線』に飛んでくる。
シグルドの技量と手にもつ魔剣とが、自動的に刹那にそれを成し遂げたのだ。
『神速どころか光速の矢とは、狩猟神ウル、スカディ殿に勝るとも劣らぬものだ。しかし―――』
『あの『ご夫婦』に勝るのが私達ですからね。同じ夫婦としてマスター夫婦にも力添えいたしましょうシグルド』
『我が愛よ。当然だ―――』
((人の体を介していちゃつかないでほしい))
まぁ無理だけど。全て終わったらば刹那もリーナも、サルのようにさかりながらいちゃつきたいから、しょうがないけど。
ともあれ、英霊の魂を『オーバーソウル』しきった刹那とリーナが、アトラスの錬金術師たちに挑みかかる。
その最中、閃光を打ち合い、閃光のような剣戟をぶつけ合う……そんな激しい戦いを演じながらも、錬金術師たちは計算する。
―――技量はかなり上、歴戦の戦士――神代時代の戦術認識―――
―――魔力量の資質に関しては本人に50%依存―――
―――しかし、英霊魂魄による上乗せもある―――
―――彼我の差を埋めるには―――
―――私の妹たちをやらせはしない―――
―――ラニ達の思考を受け止めたシオンが動き出す。
そして、その戦いの中で……タタリ・パラサイトは指向性を持った『最強個体』を生み出しつつある。
シオンが感じて、他数名も感じる霊圧に緊張を果たす。
本来ならば、この世界にはいない存在。刹那の線でも『偶然』によって生み出されたもの―――。
シオン・エルトナム・ソカリスの『意図したもの』が生み出された時に、全ては変わる。
それまでは『防御』の戦法を取るしか無いのだ。
―――Ⅰ〜Ⅲまでは手はず通りにⅤ,Ⅶ,Ⅸは竜牙兵の大量召喚を―――
―――御意―――
―――
「私の直援です。お願いしますよラニⅧ、ラニⅥ」
それだけは肉声で言われたことで、チカラが入る。
9人のラニたちは、シオンの為に動き出す……。
そして、刹那もシオンの『狙い』が理解できた。姿かたち、……能力を知るためには縁のある存在を呼び寄せる必要がある。
ある意味、迂遠なまでのやり方だ。
だが―――。
(やれるというのならば、確かに再現は出来るかもしれないが、『あの人』がお前に御しきれるもんかよ)
どっかピントがずれた結論だ。しかし、仮に『あの人』が現れたならば、確実に打ち付けられるだろう。
『白』でも『黒』でも、どちらが来ても嫌なものだが―――。
(まぁ『白い吸血姫』の方が、まだマシかも――――おっぱいデカいし)
幼女(見た目だけ)が人外魔境のチカラを振るって、こちらを滅殺しに来るよりも、
そんな思考はありったけリーナに筒抜けだとは知らずに……。
―――夜は続く―――。