魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
あるいはラントリア時を狙うべきか!?
なにはともあれ新話お送りします。
全ての人間たちが沈黙・動きを止めざるを得ない状況に陥った。
あるものは恐怖から。
あるものは信仰から。
あるものは親愛から。
だが、全ては些事だ。結局の所、この真祖の姫一人の登場で全てが停止させられたのだ。
真祖の姫『アルクェイド・ブリュンスタッド』は、『既知』の人間である遠坂刹那から全ての事情を聞いて、何度か頷きながら、とりあえず最後まで聞き届けた……。
「ふむふむ。ようするに、『この世界』のシオンたちアトラス院の錬金術師は、『魔法師』という存在が進める宇宙終焉の加速を止めたい。そのためにタタリという現象が擬人化を果たす事象を打ち付けることで、現代魔法とやらを使った場合の『パラドックス』を引き起こしたい―――。
で、『私たちの世界』寄りのシオンたちは、自分たちが『安寧』を得られる場所が得たい―――分かりやすいわね……」
前半の興味深げな声音とは逆に、後半の方では少し冷たい声音が聞こえる。
真祖の姫は、死徒に対する断罪者。吸血行為で『生者』を手に掛けたものに対しては容赦はしない。どれだけ狂わされても、その芯にブレはないのだから。
「で、刹那―――あなたはどうしたいの?」
「シオンの実験を阻止したい」
「
「……殺すしかない。もはや彼女たちはこの世界で人喰いをしたんだ……グールをいくつも作り上げたんだ。分水嶺は超えている……」
「正当ね。そして私も
「アルクェイドさん……」
弓塚さつきの苦しげな呼びかけが、聞こえる。そういった『人間らしさ』さえ無ければ、もっと早くに決着は着けられた。
弓塚さんやその周りにいる連中が、
風が肌を撫でる。現在の事態に対して真祖アルクェイドは、どういう沙汰を下すのか―――。
誰もが緊張をする……。
「我、此処に星の意思を伝え、裁定を下す」
瞬間、『空気』が変わるのを認識―――。
アルクェイド・ブリュンスタッドの発した声と言葉で、脳髄に警告が走る。あまりにも強烈な死の匂い。
そして、真祖アルクェイド・ブリュンスタッドに強烈な存在が『乗り移る』。
自然と七色の魔眼が発動して、その人物を認識。
あまりにも唐突な登場だが。それでもわかる。
アルクェイドさんの中の『朱月』が目覚めているのだと。
―――『ARCHETYPE:EARTH』……『朱い月のブリュンスタッド』の口が開かれる。
『この星、この
『私』がそこを脅かすわけにはいかない。残念ながらこの『星』はもう夢を見ていない。
「ば、ばかな―――!? それが『星』の決定だというのですか!? TYPE-EARTH!!」
『不服か? 星見の錬金術師よ』
「当たり前です。それが、本当ならば―――この世界の未来は閉ざされる! 何のために星は
『未来、か。それは別にお前達が導くものではあるまい。ましてや『粗悪な魔術師』たちが思い描くものでもあるまい。さりとて『魔法使い』が示すものでもない―――』
ぐるり、ぐるりと―――三人ほどの人間に眼を向けたアルクェイドさんだが―――、どうやら、シオンの『計画』こそが『破棄』されるべきものだと『裁定』を下したようだ。
だが、それでも―――まだシオンが『やる』と望むならば、それはそれで『良し』とする心象のようだ。
つまりは――――。
(ヒトまかせか!)
『左様、ヒトが望むのならば、この星は如何なる扱いがあろうと『とりあえず』は許す。実に寛容なものだ。『限度』もあろうが―――まぁ人任せだな。その辺は許容してやれ』
こちらの思考を読んだ上での言葉に、正直ビビる。
薄い笑みを浮かべながら言われる度に、戯れに殺されるんじゃないかと―――――。
「そんなことするわけないじゃなーい! なんか刹那ってば、刹那すぎるわー、もうちょっと私を信じなさいよー。具体的には『ぼっち』を何とかしようとする現国教師のごとく」
「言ってることが意味不明です。そしていきなりな
ぷんすか腕を振り回しながら、こちらに抗議するアルクェイドさんに言いながら―――どうするのかを問う。
「まぁ結論を出すには、ここにいる面子だけじゃ不足よ。
だから
アルクェイドさんが『誰』に言っているのかは分からない。だが、手招きしつつ呼びかけた公園の一画。
まだ木々が残っている部分から三人と一匹(?)が出てきた。
その人間たちの登場は予想外であった……。
「
七草真由美とラニⅧの言葉が重なる。冬用の装いをした双子の登場だが……。
「お、お姉ちゃん! それにラニっぱち―――が多すぎる!?」
「ラニさんは『影分身の術』の使い手!?」
明らかにピントがズレた発言ではあるが、まぁ気持ちはわかる。しかし、見えているだろう都の管理公園の惨状とか気にならないんかいとも思う。
そして真っ当な意見を述べたのは―――。
「にゃんと、ここまでの状況とは吾輩ビックリ。飛び込んだ先はログアウト不可能なオンラインゲームの世界! 税金対策した『創造主』のせいで、シーズン2の放送が野比のび太!……いや、延びに延びた!!」
最後の方では、やけに語感がいいことをダンディボイスで言う、寸胴体型な猫。
ネコカオス(仮)であった。なんか違うネコ科の要素も含まれていやしないだろうか、という感じもするが。
そもそも、あれをネコと呼んでいいのか未だに刹那は判断出来ないのだが、くさった魚を連想させる瞳が見開かれる。
―――片目だけだけど。
「ドクター。あなたのニューフレンド、ミス・シオンが、どうにも吾輩の毛を逆立たせて『怖い』ですな」
カオスからマジメな警告がなされて、最後の闖入者たる人物を見る。双子とは一つ違いだが、背丈は遜色ない―――というかむしろ負けているだろうか?
赤毛で短い三編み2つを作って左右から垂らしている。鼻の辺りに薄いそばかすが浮いている少女はよく知っていた。
「―――シオン……」
「チアキ……」
訴えかけるような視線でシオンを見る平河千秋の言葉に、シオンは苦しげだ。先ほどは、『それでもやる』と豪語していたとしても、いざこうして相対すると、色々な想いがあるのだろう。
考えてみると、シオンは夜の活動以外ではロボ研に入り浸っていた。最初はダヴィンチちゃん目当てだったのだろうが、それでも―――。
「シオン師……」
「やめろラニⅧ……私は、それでも―――」
ここに来て遂に苦しげな顔をするシオンに対して―――。
「―――アトラスの先達としては、少々嘴を挟みたい気分ですね。
どうにも私達の意見や意思は無視されているようなので―――真祖アルクェイド、いいでしょうか?」
「ええ、構わないわ。言いたいことがあるならば言ってあげて」
吸血鬼シオンが口を開き、発言をしてきた。許可を出したアルクェイドの後にシオンに近づき口を開く。
一応は死徒なのだから少しだけ警戒をしておく、重心を入れ替えつつ、いざとなれば―――という気持ちでいたが―――
「―――、この世界の『別の可能性』を辿った『私』―――アナタの思考は随分と『狭い』のですね。アナタの頭はバブルヘッドも同然です」
……志貴さんと知り合いの『シオン』は、随分と容赦ない物言いをするのだった。
「なっ!?」
「アナタの計画を聞かされて協力をした時から計算していたのですが、それはあまりにも狭すぎる結論です。私の『父』ならば、こう言うでしょう。『六情の渦に塗れよ』とね―――」
「何を……!」
錬金術師としては珍しく激高するシオンに、『シオン』は更に口を開く。
「確かに魔法師という人種の使う『現代魔法』は、宇宙の滅びを加速させるかもしれない。
文明そのものを滅ぼす可能性もあるかもしれない。
世界の未来を滅ぼすかもしれない。
星を荒廃させるかもしれない。
ええ、本当に『かもしれない』でしかないんですよ―――」
「それでも! 私の計算に間違いはない!!」
「ええ、『そうかもしれない』」
仮定ばかりを述べる『シオン』だが、それでも言葉は槍のように突きつけられる。
「しかし、それは『万人』の可能性を制限した狭い結論でしかありません。
かつて私も、同じような『問い』を投げかけられて、アナタと同じような『懊悩』をしていた女の子を見ました。
だからこそ、言いましょう。問いましょう。
―――アナタの『両手』。それを共に携えるヒトはいないのですか?」
「―――――――――」
瞬間、シオンの眼は平河に向けられた。
答が出つつある……。
「さつきもリーズも、『穴蔵』に篭って狭かった私の人生において、『仲間』ではなく私を頼りにしてくれた、数少ない親友だ。
彼女たちの『未来』は私の『未来』。自分の『未来』を守るために全霊を尽くすのは、極めて合理的な結論だ!」
「そんな……ことが、アナタの結論だと!?」
驚愕したシオンが問い返す。
「ええ、そこまで不可解ですか? アナタは『自分の未来』を守り、彩りあるものにしたいとは思わないので? 私は―――もう、そういうものを『切り捨て』たくはないんです。結果的に……この世界にご迷惑をお掛けしたのは、申し訳ない限りですけどね」
最後の方で乾いた笑みを浮かべた『シオン』を労るように、弓塚さつきとリーズバイフェが、両手を取る。
―――やったことは許されない。
だが、『勝手』に呼び出されて、そして今まで居たところから追い出されたことは、少しは同情できるか。
今更ながら考えると、ただ単に『死徒』である、『危険』であるというだけで追い回していたのは悪手だったのかもしれない。
まぁそれでも―――いや、交渉するぐらいは出来ただろう。
刹那は、限られた『答え』に拘泥していたのだ。
「一人だけでは限られたものにしか行き着けない。誰かに出逢えば、それだけ『可能性』は広がってゆく―――それは、刹那……アナタが一番分かっていることだったわよね?」
「ごもっともです。アルクェイド・ブリュンスタッド―――けれど、俺は……失うことが怖かったから、誰かの『未来』を閉ざしてしまうかもしれないから、此処に来てしまったんだ」
「そうね。アナタの気持ちは私にも、何となく浅い理解かもしれないけど分かる気がする。一人ぼっちはイヤだもんね……」
どれだけ繋がりを断ち切ろうとしても、どこかで縁は結ばれてしまう。
刹那の左手に抱きつく女の子も―――最初の出会いから『関わらず』にいることも出来たのだ。
けど出来なかった。例え、その果てに再びの『喪失』が起こり得るかもしれないと分かっていても、不幸に巻き込む可能性を認識していても―――。
「―――離したくはなかったから、だから繋いだ手はそのままなんだ」
少しだけ赤くなりながら微笑と共にリーナを見る。同じ想いが去来していたリーナは口を開く。
「ウン♪ 違う
けれど―――今のワタシならば、全ての世界の『アンジェリーナ・クドウ・シールズ』に対して、セツナが育てた胸を張って言い切れるわ」
―――ワタシは、いま十分に幸せなのよ!―――
―――そっちの『男』がセツナよりもいい男だとしても、ワタシにとっての『サイコーのダーリン』は『遠坂刹那』だけ―――
―――酸いも甘いも、苦しさも楽しさも、幸も不幸も、全部知らなきゃ、なんにも面白くない―――
―――平坦な
―――ドーヨ! このベリーハッピーなマイライフ!! それをアナタタチにも教えられないのがヒジョーに残念だわ―――
―――これが、
異論反論は認める。だが、これだけはゆずれない願いであり想いとして、いだき続けるとしたリーナに顔が真っ赤になるのを隠せない。
そんなリーナの告白、
シオンを結構な赤面にさせるのだった。
「た、確かにアナタの可能性世界は、どちらかと言えば『悲惨』なものが多い。いえ、主観でしかないけれど、それでも……」
それをお前は認められるのか? 怯えるように目で問うシオンに、リーナは快活に笑みながら語る。
「
けれど、そんな色んなワタシをワタシは認められる。例え結末は悲惨だとしても、抱いた願い、刻んできた日々は―――きっと尊いモノよ……」
「お前が全人類のことを考えて行動できる、立派な人間であることは理解できている。けれどさ、終わりの悲惨さと凄惨さだけを『想像』して『仮定』して―――幕を引くことを嫌がっているだけじゃ、何も出来ないよ。
世界は―――
それは不死のシステム。あってはいけない腐食の原理なのだから―――。
『世界は、そこまでか弱きものではない。数多の可能性を許容するがゆえに、人理・人情に流れるものではない。
しかし、礫のごとき人々の意思が、いずれは『滅び』を打ち倒し、はたまた『滅び』のあとに立ち上がるものを作り上げる――――――』
再び、アルクェイド・ブリュンスタッドから放たれる、世界の意思としての声が全員に届く。
『足掻け。藻掻け。倒れてでも進むものにこそ道は開かれるのだから―――しかし倒れて『本当』に進めなくなった時には』
―――誰かの手が汝らを立ち上がらせてくれる―――
―――共に進み続けろ―――
その言葉のあとに、カオスの先導でシオンの近くにやってきた平河が声を掛ける。
「突然、銀髪の幽霊?に連れてこられて、正直ワケがわからないけれど……シオンが困っているならば、今度は私が助けるよ。
対司波達也兵装ピクシーの改造を手助けしてくれた時のお礼だよ」
「チアキ……私は―――」
力なくぶら下げていた手を取って労るように言う平河の言葉に、シオンは涙をこらえきれない様子だ。
「ラニっぱちってば、私達よりも姉妹多いんじゃん! なんで教えてくれなかったのさ!?」
「色々と事情がありまして、というか厳密には姉妹じゃないというか……」
「何と呼べばいいんでしょうね?」
完全に空気を読んでいない双子の会話を聞きながらも――――。
「いいとこ取りですねぇ……」
結局、タタリの再現体でやってきた真祖の姫が全てを解決してしまった。ジェバンニか。(爆)
そういう恨みごとを言うと、苦笑しながらアルクェイドさんは口を開く。
「私の存在って、そんなもんでしょ。それに私が言うのもなんだけど、後世に託すべき遥かな未来の救済なんて、気が遠い話よ」
「けれど見てしまったならば、それを何とかしたいと想っちゃうんでしょ。アトラスの人々は―――まぁ長期に渡る問題を、未来に先送りすることがいいことだとは言わないですよ」
いつでも世界は微妙なバランスで、生存と滅亡の両端を行き交っている。現代魔法の存在がその天秤を揺り動かすというのならば―――。
(生存へと繋がるものもあるんだろうな)
そんなことを考えつつ、この状況に対する疑問を解決することにした。
「色々と疑問が多すぎるんですが―――」
「なに?」
目を向けられたことでその魅惑的な目を返されつつも、刹那は口を開く。
「一点だけ。なんでアンタ、普通に自意識を持っているんだ?」
「―――そりゃ、刹那が私を喚びだしたからよ。言ったでしょ。私を喚びだした責任をとってもらうって」
「―――意味は何となく理解できた。というか、この世界でアルクェイドさんに対する『正しい認識』を持っているのなんて『限られている』から、俺のイメージ『ちっがうわよ。にっぶいわねー』――――え?」
ぷんすか怒っているポーズを取る真祖の姫。
どういう意味であろうか。
「アナタが、私を『サーヴァント』として喚び出したのよ。ちょっと『事情』や
「どういう意味―――」
驚愕する刹那が次いで詳しい事情を問いただす前に――――――。
「―――刹那の女の子の好みって、昔は『そっち』の娘や私みたいに金髪じゃなくて――――『銀髪の女の子』がスキだったでしょ?」
何の話だよと内心でのみ言いながら、顔の紅潮が隠せない。
こういう時に刹那の昔を明け透けに語る知人がいると、何とも間尺が合わない。
だが、ソレ以上にその言葉の真意が理解できない。分かることは―――――。
虚空の一点。そこにあるものに『気付いて』
眼を力いっぱい瞑った状態でいるリーナの頭を撫でつつ、疑問が夜に渦巻き―――そこから『破滅の意志』が出てくるのだった。