魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
無情非情の情け容赦ないファイトが始まります(え
勝負は一瞬でついた。如何に発動速度で上回ろうと『心』の速度で上回っていた『断』の方が上であり、慮外の速度で動いて至近距離まで近づかれた時に、全ては決していた。
魔法の模擬戦を行う闘技場における戦いは、大方(一年組)の予想通り達也の勝利で終わった。その感嘆たる中に深雪は、刹那の呟きを聞き入れる。
その単語は聞いたことが無いものであったが、少しだけ疑問を持つかのような呟きは―――。
「あの動き―――『ナナヤ』か……まぁ……が、違えど『似たもの』は伝わるか……」
ナナヤ―――どんな字を書くのか分からないが、兄の運動能力を見た刹那は、途切れ途切れの言葉の後に、予定調和のように倒れ伏した服部副会長に近づき、何かの『呪文』を呟く。
音声認識のCADを使っているようには見えないので、古式なのだろうが、それにしても歌うような調子の呪文で―――深い眠りに就かせたようだ。
「子守り歌か?」
「そんな所だ。ここから先は―――あんまり見せたいものでもないだろう? 副会長に自信を失わせたくない」
「まぁな。運動不足解消に付き合ってくれてありがとう。―――深雪」
一連の流れ、服部副会長を壁際に退けてから、再び対戦場の中央に陣取る男二人。全員がポカンとしてしまうほどに呆気ない勝利の後に連戦をしようとする達也に更に呆然。
リーナは面白がるように壁に寄り掛りながら見ている。そして深雪も何となく分かっていたので呼び掛けられる前から兄の愛用のCADケースを持っていた。
対する刹那は、ポケットから手袋―――この時期にしては珍しい。というか殆ど見ない黒いものを取り出して左右の手に嵌めていた。
古めかしい殺し屋を連想させる姿だ。そしてタップを踏むように、踵を二度ほど叩く様子。
対する達也も二丁の拳銃型CADを持ち内部の術式を変えるべく、弾倉を交換するようにストレージを変えていた。
「ビリー・ザ・キッドかよ」
「生憎、パット・ギャレットほど正々堂々で戦えないんだ」
「お互いアウトロー。正々堂々なんて縁遠いわな」
言いながら、お互いの戦闘準備が整い――――、されど号令は掛けられなかった。
「ちょ、ちょっと待て! 色々聞きたい事があるが、その前に―――何でお前たち二人が戦うことになっているんだ!?」
「先程、服部副会長を瞬殺した達也はもう風紀委員としての資格ありでしょ? ならば、その『風紀委員』に俺が、風紀委員としてやっていけるかどうかテストしてもらうということです」
何たる屁理屈。しかし、摩利としても願ってもいない機会だ。服部が予想外に持ってくれなかったせいで、ただ『一発の魔法』で終わっていた。
そして、この結果に不満を覚える七草真由美も、毒と毒。『おもちゃとおもちゃ』で競い合わせることに異論はない。
どうやらお互いが刃を向け合うことをなにも驚かず受け入れる辺り、この機会を狙っていたな。と思う。
「い、いいんですか会長? 司波くんが持つCADはシルバー・ホーンですよ!」
「あーちゃんのCAD好きはとりあえず置いておくとしても、こんな私闘じみた行為は本来認められません―――ですが、私としても本年度の新入生の中で『異端』二人の激突は、いずれにせよ早めに見ておきたいものです」
生徒会長。全ての生徒達の規範となるべき人間としては不適すぎる発言に二人の男は苦笑いしてから相対する。
「摩利。お願い」
「……分かった。では先と同じルールでの一本勝負。時間は20分間、魔法使用は『無制限』―――では始め!!」
その少しだけ苦さを残した言葉を皮切りに―――異端者どうしの戦いが始まったのだった……。
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この戦いを願っていたか、否か―――その観点で言えば当然だ。達也にとって古臭い言い方で言えば『主家』に当たる家の当主からの情報で、二人がUSNAの間者であることなど明白であった。
風間少佐からの報告でも同様であり、その目的が何であるかは分からないが、達也と深雪の生活に食い込んで浸食するようならば、殺す想いだった。
だが、予想外に尻尾を掴ませない二人。更に言えば人目も憚らぬバカップルであることで警戒を緩めていた。否、緩めていたわけではないが、少し弛んでいた。
だからこそ、その真意を戦いの中で見出したかった。こんな思考。平素の達也ならば『あり得ない』。
何かの『狂い』が生じているのかもしれない―――バイアス調整のためにも、ぶつかり合いたかった。
一丁を腰のホルスターに仕舞いながら、先の服部副会長のように動く。銃の『威力』が問題なのではない、銃弾を当てられる『技術』が必要なのだ。
刹那の背後を取らんと動くが、ボクシングスタイルのままに達也から視線を外さない刹那に容易に動けない。
それだけで『戦闘者』として違うと思える。ネタは割れているだろうが―――サイオン波の合成を正面から刹那に食らわせる。
向けた銃口。放たれる魔法式。三つの異なる魔力の波の合成点に入る刹那。
対して――――
消滅する波動。瞠目する暇もあらばこそ、次は刹那が接近してこようとする。
サイオン弾で牽制。顔を覆うように防御する。もちろん狙っていたが、その行動を『奇異』に思った矢先には―――、達也の動きが固まる。
(何―――?)
見えぬ鎖のようなものが全身を縛る感覚。だが、心臓は動く。呼吸は少し息苦しいが、眼は―――開かれている。
達也の眼が、魔術師のトリックの正体を見抜いた。
(刹那の眼―――左目にサイオンの異常集中。視線による
これが本格的なものであれば達也は
赤色の小剣―――数十本を『塀』のように達也に巻きつけていた。
そういうイメージは正しく、それに対してのレジストの為に―――『莫大なまでのサイオン』を撒き散らす。
放たれる己のサイオンの前に拘束が緩み、近づいていた刹那の拳を間一髪躱す。
未だに達也を拘束していた小剣は、刹那の視線が外れると急激にイメージをあやふやにさせる。
だが、そんなことは隙でしかなく、一発の拳の不発を契機に連射が始まる。絶え間ないラッシュ。ショットガンかと思うような拳の連打は、達也にとって予想外だ。
対応するために格闘戦を演じるが、防戦一方。瞬間―――槍のような蹴りを胴に叩き込もうとしたが、狙いは同一。タイミングを合わせたかのように、靴底が重なり合い弾かれる。
部屋の端から端まで―――お互いの距離が開いたことで振出。その際に、刹那は手の甲―――グローブの上、グローブ越しに二本指で擦る動作。
淡く光り輝く拳。CAD越しの照準器で見えたのは、そこにルーンの輝きが存在している事。
(あのラッシュは、ルーンで強化されたものではなかったのか……)
しかし、あの赤い眼―――あれは恐ろしい。如何にCADを持たない古式魔法師に速さで勝れたとしても、『視た』だけで発動する魔法の前では、CADを触る動作すら制限されてしまう。
ベラルーシが開発した光波振動系魔法『邪眼』ならば、達也に効かない。それ以外の理屈があの『眼』にある。
事前情報として知っていたとしても、『対応』は難しいだろう。魔法師と言えど、視界にいる敵を認識出来なければ、魔法は効果を発揮しない。
――――そして、そんな風な達也の値踏みと同じく刹那も、まさか自分の
最速の
眼球と言う『受容』だけを『機能』とするはずの身体器官から放たれる神秘を力づくで打ち破るとは。
(まぁ本来ならば縛ったままに視線を外さずに『魔術』で滅多撃ちにするものだからな)
ガンドを撃ってしまえば終わるものだったろうか、とも思う。『呪い』というものに、斯様に弱すぎる『魔法師』相手にはオーバーキルすぎるので封印しているものだったが……。
あらゆる運動を止めてしまう
『セングレンの四肢、マグニの身体―――
彼我の距離30mといったところか―――それを瞬発で終わらせる。放たれる豪拳。恐ろしいまでの風音に、至近距離で躱した達也の緊張が伝わる。
だが攻撃は続く。至近距離で放たれるサイオン弾。連射、マシンガンも同然の量を拳で『肩』で弾きながら接近。ラッシュ―――空を切る拳の連打。大気が撹拌されて、達也の姿は――――。
「上っ!!」
「っ!!」
声での威嚇と同時に、着地点を狙っての回し蹴り―――まともに受けるわけにもいかないのか、左手で防御。
叩き込まれた回し蹴りの勢いを殺せず吹き飛ぶ達也。しかし即座に回転しながら着地してバランスを取る。四肢をネコのように闘技場の床に着けながらのそれ―――。
(既に『回復』している―――打たれると同時に、回復術でも発動させたのか?)
左腕を砕く勢いのそれでも達也は構わずに着地した。痛みで汗を流すぐらいの可愛げがあっても良さそうだが……。
しかし驚異的な体術だ。やはり―――自分の知識が正しければ、あれは、あの動きは―――。
値踏みをやめて達也の反撃に構える。如何に慮外の動き、そしてその『四次元性』『蜘蛛』の如きものを見せたとしても、そう弁えた上で間合いを見測ればいい。
全身を鋭い刃にして、どこに当たろうと『貫く』構え―――。魔眼に火を灯し『橙』に変更。照準を司波達也だけに向ける。
封印指定執行者にして封印指定の魔術師は、あちらの動きに合わせず、こちらから状況を変えることにするのだった。
―――颶風を巻いて迫る魔術師。その眼が再び色を変えていた。
その眼に囚われることは何かがあると戦訓を得ていた達也は、視界に収められないように動き、正面に陣取らないように半身になりながらサイオン弾を放つ。
ともあれ、何かを漸減させなければ、いずれは超速で動く刹那に捉えられる。この広々として何一つ遮蔽物がない空間では―――ステージが悪すぎる。
『精霊の眼』が捉えた刹那の身体を倍加しているルーンは『四つ』。入学式以来、にわか仕込みの知識で『一通り』を頭に入れていた達也。
ネットブラウジングで調べた限りでは……どれがどういう機能を持っているのか―――正直『類推』することは出来なかった。
とはいえ分かりやすいのは、アルファベットで言えば『R』に当たるルーン文字。
騎乗や馬―――『RIDE』を意味するだろうそれが行動の加速化を担っているはず。しかし、それ以外の『Z』『T』に当たるものも統括する『ダイヤモンド』のような文字が気になる。
これを砕けば連鎖的にルーンが消え去るのではないだろうか、そんな甘い誘惑に駆られる。
思考の間にも刹那は動き距離を詰めてこちらにとっての死角に入り込もうとする。即断。持っていたCADを投擲。中条あずさの悲鳴が聞こえながらも二丁目の銃を抜き出す。
起動式を展開。予想通りこちらのCADを拳で弾き飛ばした刹那の――――ルーンの一つ。それが持つ情報量に眼を細めながら、『サイオン粒子の塊』を叩きつける。
一瞬の拮抗。どんなマギ・グラムすらも弾き飛ばすそれが、拮抗する現実に底の深さを見たが、砕け散る『ルーン』。
だが、魔術の颶風は―――豪風程度に弱まったままに、達也に迫る。
「
「楽しそうに言うんじゃない―――!!」
言いながら弾くのではなく掴み取っていたシルバー・ホーンを返礼のように返す刹那。それを受け取れば、
受けて立つ。自分とて九重流の忍術で培っていた体術がある。強化された身体はスーパーヘビー級ボクサーから『ミドル級ボクサー』に落ちているだろうか、それをいなすことぐらい容易い。
愛銃を己の手に戻して、それを殴打武器とすることにする。再びの中条先輩の悲鳴を聞きながらも、銃身を持ち銃床部で叩く動き。
低く達也の懐に入り込もうとする刹那の頭を狙うも腕―――というか拳で止められる。
およそグローブがあるとはいえ無傷ではすむまいという予想は外れた。響く音ではない金属音が響いたことで、グローブの強化の程を知る。
(硬化魔法―――いや、こんな薄い手袋にここまでの硬さと重さを備えられるなど)
もはや秘中の秘たる
こいつは術式云々の前に『人間』ではないのではないかと疑う。疑いながらもその相手のルーンに対してグラムデモリッションよりも重い『分解』を仕掛ける。
同時に魔力の回転。炉心のように絶え間なく動く魔力が、ルーンを最大強化。達也の『分解』が弾かれる。
常識外。その結論に思わず『笑み』を浮かべる達也の姿と、こちらがやったことに気付いた刹那が笑みを浮かべる。
そして一髪千鈞を引く至近距離のぶつかり合いが始まるのだった――――。
† † † †
「やれやれ、手合せ程度で済ます
面倒な性分。倒すべき敵相手に対する態度とメチャクチャ嫌な奴相手に対する態度は大概、同じだが―――。
自然と燃え上がるライバルや『強敵』相手に対しては―――こうなってしまう。
「リーナは知っていたの? 刹那君がここまでの魔法師だって」
「
「予想外にも程があるぞ……入学前に提出した書類は、確かに参考程度のものだが……あまりにも偽装がすぎんじゃないか?」
深雪の質問に答えた後に、嘆くような渡辺摩利の言葉に、リーナとしても肩を竦めるしかない。
「魔女術というのにも種類があります。薬草学、呪殺、使い魔使役、占星術―――『宝石術』―――セツナの家、遠坂家は、それらを取り扱う家だっただけです。家業だからこその『得意手』。もちろん、『荒事』に使うものは、いつでも二番手なんですよ」
サギではないかと思う。確かにアンケートには、『得意な魔法。家が専攻している魔法は何ですか?』と書いてあった……大半は無回答だったり百家支流や得意手を持っているのは自信があるのか、そういう荒事専門のものを堂々と書いていた。
聞き方が悪かった。そう言えば―――そうとしか言えない。のだが……。
そしてリーナもあえて伏せたが、宝石『魔術』は、その荒事にも転用できるだけのものがある……あるのだが、本人いわく『札束で相手をぶん殴るような性分じゃない』と言っては、渋る。
本当に窮地ならば
そして、最大級の―――『一個都市』が壊滅しかねない時には最後の切り札が切られる。セツナの秘密を自分だけが知っていると言う優越感が少しだけある。
しかし、深雪としては面白くない思いだ。
兄が容赦なく、本当に真正の敵として戦うならば、もっと上の『分解魔法』が刹那に突き刺さる。
手加減できるだけの武器でもなくあまり見せるわけにはいかない禁じ手だけに、今は術式解体と低ランクの
「ふぅん。タツヤの『
「ええ、そうよ。お兄様の魔工技師としての腕は、正しく神業―――私のCADもお兄様の特注、『古いもの』の構造を疑い『破壊』することで
深雪の肯定と同時の感情的な反論。わざわざ『古いもの』と強調した辺りに、少しだけ『カチン』と来たリーナは、反論する。
「ミユキ、あなた日本人なのに『温故知新』って言葉知らないの? 古いものだからって『廃れたもの』だとは限らないの、大衆が
「なかなかに難しい言葉を知ってるわねリーナ。別にお兄様とて古いものを蔑にしていないわよ。そこから見えるものこそが新しきものへとつなげる先進性・創造性こそが、世界を変革するのよ。織田信長、アレキサンダー大王、チンギス・ハン―――お兄様もその中に加わる日は近いわ」
刹那から聞いたところ、アレキサンダー大王は
あとは睨みあうだけであった。
「ふふふふふ―――」「フフフフフ―――」
声だけは笑っているが目が笑っていないことに気付いた七草真由美が、戦慄を覚える。
「た、大変よ摩利!? 『私の後輩たちがこんなに怖いわけがない。』とか言うレベルじゃないぐらいふたりが怖いわよ! なんで彼氏自慢と兄貴自慢で、この二人こんなになれるのよ―――」
「二人とも! 私の恋人、『千葉
「あっ、ダメだ! こっちも少しばかり男の事になるとポンコツになるんだった!!」
気付いた時には真由美は、三人のとんでもないオーラを発する『魔性菩薩』の中で孤立無援となってしまっていた。
荒れ狂うサイオンの波の中で、泣きそうになりながらも目線だけは向こうに向ける。決められた『演舞』でも踊るかのように攻撃を繰り出している二人の後輩に向けた瞬間。
「―――決まるわ」
短い言葉で、三人の注意が向いたと同時に、セツナのアッパーが達也を吹き飛ばした。否、クリーンヒットにならないようにクロスガードした腕が、顎を守った。
同時、その勢いを借りて第三演習室の天井に飛んでいく達也。
決まったとは思えないが、それでも次手に詰まった形の刹那―――と達也は見て、天井に『逆さ』に足を張り付けた。
姿勢の天地を逆転させて、爪先で天井を踏んだ達也は、渾身の一撃―――。
殺傷性Aランクに属する『雲散霧消』の起動式を展開。銃口から魔術師に向けられる『殺人への意志力』。唯一見えた構造情報―――肩口に対して狙いを着ける。
達也のコンマ一秒にも満たない『刹那』の動きに対して―――『刹那』もまたその時には標的に対して、アッパーをした『左手』。五指を開いて掌として向けていた。
左手にある刻印が
お互いの『魔弾』が唸りを上げて、相手に着弾。虚空を飛ぼうとした瞬間に。――――。タイムアップの音が鳴り響き、お互いに『式』を消去した。
数秒ほど姿勢を逆さまにしていた達也だったが、しょせん人に蝙蝠のような真似は出来ず、ニュートンの法則に従い大地に降りる。
様々な魔法がぶつかっても大丈夫な『緩衝材』でもしかれているのか、特に衝撃は無かったが―――存在の重みを感じる。
「やれやれ―――クリーンヒットも無しで終わりとはな。負けたかな?」
「何を言っているんだお前は、このボロボロのルーングラブにイングズを砕かれた俺の姿―――負けなんて決まりだろ?」
一日千本以上も素振りしてきたようなバッティンググローブを見せるような刹那に、達也も返す。
「俺も制服がボロボロなんだが。ついでに言えば回復したとはいえ、『痛み』を感じないわけじゃない。リバーに五発だぞ。ついでにボディに三発!」
「百発以上も打ったんだ。そんぐらいは食らっておけ。蝶のように舞っても、ノーダメージで勝てないんだよ」
指を五本立ててから、そこから減らして三本指を立てる達也。何だか―――『違う人間』と会話している気分だ。
面白がっているようで、怒っているようで―――感情が出ているような『達也』だ。
「お兄様……」
その『変化』を一番に感じたのは深雪であり、少しショックを受けてる風にも見える。その表情に苦笑しながら、近づき頭を撫でる。
様子を見ていると、自分の近くにもリーナがやってきた。
「全く、随分とやったものね」
「あんな使い魔だけで、実力を測られるのも心外だったからな―――それと久々にリーナにカッコいいオレを見せたかった」
「そんなの今更過ぎるわよ。そして昔から知っていること……大好き。愛してる」
呆れるように言った後には、刹那の背中に額を当てて男を甘やかすリーナの姿に誰もが苦笑い。彼氏がいないものたちの精一杯の抵抗であった。
そして中条あずさはシルバーホーンをここぞとばかりに触って頬ずりして―――舐めようとしたところで達也に取り上げられる。
色気より『食い気』―――ちょっと違うが、そうとしか言えないあずさを見てから摩利は咳払いをして問うてくる。
「ところでだ。遠坂、お前のあの『眼』は何だ?」
「達也のCADや体術に関しては、よろしいので?」
「司波から聞いた。サイオン波の合成。三重の変数設定による意図的な『船酔い現象』―――その後の『グラム・デモリッション』に関しても真由美から聞いたよ。ついでに言えば忍術使いらしいな」
深雪によるアニキ自慢の成果が披露された。ふんぞり返る深雪の様子に、額を少し小突く達也。お前ら『インセストタブー』って言葉知っているか?と言いたい気分。
とはいえリーナ以外の『彼氏持ち』の言葉から、わけワカメな現象は刹那だけに限られていたようだ。その言葉で―――若干のウソをつきつつ刹那は説明をする。
「イビルアイではないの?」
「ベラルーシの『催眠術』なんかと一緒にされるとは心外ですね、七草会長―――この眼は俗に『魔術世界』において『魔眼』と称されるものです」
嘆息してから言葉の途中で左眼に掌を当ててから外すとそこにはルビーのように赤い眼。禍々しさと美しさの両立。正しく『宝石』の如き眼である。
思わず見惚れてしまうような輝きの前に真由美は眼を外せなくなってしまう。それが呪いの類だと分かっていても―――。
「視界に収めたものの肉体を否応なく『支配下』に置く『魔術』。本来ならば受容器官としての機能だけの眼球から放たれるものですよ」
「うっ……少し体がだるいわ……見えない鎖か剣が刺されている気分……」
「すみません。なるだけ『抑えて』いたんですが―――今の魔眼は『魅了の視線』であり『束縛』の魔眼の一種です。対象の外的な行動を全て阻害する類のもの―――同意なしの『ギアス』ですね」
再び言葉の途中で左目に掌を当てる刹那。今度は普通の眼球に変化しており、七草会長も変調を無くした。
そこから刹那の説明は―――『専門的すぎるからまた今度にしましょう』と言われて、誰もが(リーナ除き)不満を漏らしたが……。
「視ただけで発動する『魔法』、今はそう思っておけばいいでしょう―――それでいいか?」
マインドジャックされた達也としては、『精神干渉系魔法』ではないかと疑うも、よくよく考えれば、思考は正常で、動きを束縛されただけ。
系統魔法、系統外魔法の『どっちともいえる』なんとも判断が着かないものだ。『不正解』に誘導されているな。と感じる。
「ああ、構わんよ。ついでに言えばこういったものは『神話』の時代からある。手始めに『ゴルゴーン』のメデューサでもネットで調べてみるといい、もしくは『バロール』でもな」
そんな達也に対して刹那は思う。ルーンの時と同じく、その脅威を知っただけに調べるのは速かろうという思いで、ヒントを出しておく。
こうしてヒントを『小出し』にすることで術中に嵌っていく。ピントをずらした結論に至らせる―――そう分かっていても達也には、そうすることでしか刹那に近づけないのだ。
「しかし『束縛』か……案外、お前は風紀委員向きだったんだな」
「ただの監視目的で側に置くつもりだったんですか?」
「それもある。古式魔法師が『速度』でも勝る現実は、結構衝撃的だったからな」
校門前での森崎との一件は存外、多くの人々をあれこれ動かしていたようである。
面倒なことだ。と思いつつも、結局―――達也と刹那の風紀委員入りが決定した。後日あれこれ呼び出しがあると言われて、今日は帰るように言われる。
「悪だくみですか?」
「本来ならば、委員会室の『掃除』でも―――と思ったが、まぁ今は帰っていいぞ。ここも閉めるしな。気を付けて帰れよ」
そう言われて全員が出ていく。非公開の演武だったとはいえ、何かしら『記録装置』ぐらいはあったのかもしれない。
それを持って学校の『上位』―――様々な人間達と話し合いがあるのだろう……。
そうして、謀略渦巻く校舎から一年組と上級生組が分かれて――――校門前にていつものメンバーと合流した時点。その時点で、刹那はようやく気付いた。
「あっ、服部副会長の『眠り』を解くの忘れた」
「「「あっ!」」」
演習室にいた四人が気付いてしまうとんでもない現実。
しかし時間はギリギリということで、その事情を無視して十分後―――術が自然と解けたことで起き上がった服部刑部は―――。
「そんなに俺は存在感が薄いのか……」
電気が消えてロックが掛けられた演習室。体育座りで30分ほど壁に向かって思い悩んだ後に、生徒会室に戻り―――再び誰もいないので、人の厳しさに泣くことになるのであった……。
そんな風に落ち込んでいた所に現れるは、同級生の一人。剣術部の雄であり、一時のライバルでもあった。
「何やってるんだ服部? こんな所で?」
「心の友よー!! あの日の戦いからマイフレンド!! 俺はまだまだ戦える!!」
「……意味は少しわからないが、俺も『先輩と同級生』のことで色々なんだよ……ラーメンでも食いに行くか?」
服部刑部少丞範蔵―――二年生の四月 若干16歳―――まだまだおセンチになってしまう年頃。
剣術部のエースと食べたラーメンはちょっとばかり『しょっぱい』味がするのであった……。