魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
「リーズ……申し訳ありません。どうやら、ここまでのようです……」
「いいさシオン……正直、刹那くんとの連続の戦いで限界が近かったんだ。あっちのシオンの申し出は……最期のチャンスだったね」
いい夢を見させてもらったよ。そう言わんばかりのリーズバイフェの微苦笑を見て、弓塚さつきはボロボロと涙を零す。
「なんで、ふたりと一緒に……もういちど――――」
あの路地裏に帰りたかったというのに……。そして、いつの日か……再び日の下を歩ける生活を三人でしたかったのに。
「さつき、どうやら我々は『強制排除』されるようです……アナタだけは、『この土地』に縁があったようですね―――不覚です」
「シオン、シオン!!」
「泣かないでください。私まで……泣いてしまいそうになる……」
「そうだな。女の子を泣かせてしまうなんて騎士として、音楽家として失格だ。最期の音色が、これだなんて」
「リーズさぁん……!」
涙をためる錬金術師と聖堂騎士に駆け寄る制服姿の死徒の少女を、二人は抱きとめる。その眼から涙が溢れる―――三人の少女が泣きはらすその様子に景虎は―――何も言えない。
離別。人が死ねば、それは当然の話だ。
弱ければ殺されるし、食われる。それは摂理。
だが……。いま『さつき』と二人の少女は弱いから負けたのか? 違うはずだ。
こんな道理も筋も通っていない敗北など、あっていいわけがない。そう感じるのは―――きっと、それは……。
―――アンタに必要なのは、ヒトと繋がることだ。神仏だけに身を預けたとしても、それは苦界に生きる人々を何も助けない!!―――
―――長尾景虎! アンタの国をアタシが奪って、越の人々に、人の世の幸せを、本当の意味でアタシが教えてやるんだ!!―――
―――アンタも、その一人にしてやりたいよ! 温泉入って、美味しいもの食べて、そして―――生きていることを楽しませたい!―――
―――こんな世の中だからこそ、生きるのを諦めるなッ!!!―――
そんな自分勝手な言葉ばかりを言いながら、何度も殺し合った相手は、呆気なく他国で死んでしまった。
時の将軍の要請を受けて、上洛しようとする途中でのことだった。
そんな獅子兜を被った武将のことを……お虎は何故か思い出してしまった。
ナゼかは理解できない。だが一つ言えることは―――。
「さつきは、私がお守りします。安心して浄土か『ぱらいそ』か……はたまた何であるかはわかりませんが、憂いは解消してみせます」
言葉と同時にさつきの側に寄って肩に手をやる。そうすることが『正しい』のだと、何故か思えたのだから。
「ああ、安心した―――だが、『影』だけは残せる……さつきを守るために『使ってくれ』―――人理の守護者よ。頼んだぞ!!!」
「リーズさん!!!」
持っていた弦楽器であり槍であるものを握りしめて『魔力』を込める、リーズバイフェ・ストリンドヴァリの消滅が加速する。
「どうやら、私も覚悟を決めるときのようですね……魔神柱、いいや『大淫婦の使い魔』―――アナタの好きにはさせませんよ……」
奥歯を噛み締めて『シオン』は、四方八方にエーテライトを飛ばしていく。その放射された『糸』の軌跡がかろうじて見えるだけであり、何をしているかは、よく分からないのだが。
だが、その行為が消滅を間近に控えた彼女の負担でないわけがないのだ。
「生きてください。さつき―――そして、アナタの街。■揶の街へと必ず帰ってくださいね」
「シオン!!」
涙を流しながら、光の粒子に還る『シオン』を掴もうとしたさつきではあるが、その笑みを浮かべたシオンから全ての感触が無くなった瞬間……その手は空振ってしまった。同時に、今までのことが嘘であったかのように、死徒たち……リーズバイフェの騎士たちも、団長であるリーズバイフェともども消え去ったのだ。
まるで夏夜の幻霊、一夜だけの奇跡のように。
「………!」
空振った腕の中になにもないことを嘆くさつきに対して―――。
『厄介な死徒崩れどもには、『意味消滅』が利くものだ。しかし、一匹余計なのが残った―――貴様はこの『TOKYO』に縁を持つようだな……魔宝使いもろとも―――貴様もこの場で消し飛ばす!!』
「さつき!」
崩れ落ちた弓塚さつきを抱えて、砲撃合図をする魔竜から逃れようとした景虎ではあったが―――その前に闖入するものが、一人と
(マスターの運命は、随分と苛烈なものがあるようですね)
だが、勝利の二文字を手にするには、何かが足りないのだ。
補うべきなのは―――なんだろうか。もはや出かかっているにも関わらず―――『さいばーさーゔぁんとだんさーず』なる集団の過激な攻撃でもまだまだ消滅しない魔獣を、景虎は『にらみつける』のだった。
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「ずいぶんなザマね。セツナ、まぁ私を邪険にしてきたバチってところね」
「イリヤ……」
「リズ―――」
CYBER SERVANT DANCERSなる黒ギャルサーヴァント(爆)たちの背後から現れたのは、それとは真逆の、この季節に沿いすぎている雪のような肌をした―――「ハーフホムンクルスの娘」。刹那の記憶……というよりも『衛宮士郎』の刻印が見せてきた記憶だけならば、魔法師とは似て非なる魔導の被造物と人間のハイブリッドである。
赤い衣。マルティーンの聖骸布を元にしたコートを着込んだ彼女の姿に『英霊エミヤ』……克人に似た声のヒトを思い出した真由美は、そんな言動をするリズに食って掛かる。
「アナタにとっての
「さぁて、どうしてだろうね?」
おどけた態度を取るリズだが―――。
「イブキ、ヴリトラ、スズカ。魔獣嚇を抑えておいて」
「かしこまっ♪ アンタの頼みを聞くように、カズ君からも頼まれているからね♪」
「むしろ、そこの『脱皮途中』の美少年を食べたいんじゃが……」
「きひひっ! 死の淵から立ち上がろうとする勇者を守護するために、強敵でありライバルとして、時には仲違いもしてきた人間たちが決死で
「アンタの某海賊漫画好きに関しては、何も言わないでおくわ……」
小麦色の肌のミニスカサンタが横ピース+ウインクをしながら了承してくるが、他の2騎は少々違うようだ。
物欲しそうに刹那を見るノースリーブの縦セーターを着込んだ女性―――尋常の存在ではない証として角や尻尾が見えている。ただあまりにも、この戦場においては媚態を強調しすぎているともいえる。
ヒト(ではないだろうが)の悪い笑みを浮かべる黒いドレスにブロンドの美女は、そんな風に長々とこの状況に対する感想を述べてきた。
だが言っていることを要約すると。
『少年漫画的展開燃える!!』
それになってしまうのだった。
なんなんだこのサーヴァント達はと思ってしまうのだが―――。
それでも、刹那の戦線離脱に一時的に不明になっていた自分たちが立ち上がる余裕は出来たとして、克人は立ち上がり、声をあげる。
「心強い援軍だが、俺たちもこのまま座しているわけにはいかんな」
「こういう時に率先して行動出来る男子って、私 好きよカツト」
そんな克人に、ウインクひとつと共に魅了の呪文でもかけるように言葉をかけられた克人は、うめいてしまうのだった。
「う、うむ……遠坂を頼めるか。リズ?」
「直に目覚めるけど、少々手助けしてあげるのが道理でしょうね。私を邪険にする弟だけども……それでも家族だもの―――ね」
言葉と共に、高密度の魔力結晶を『いくつ』も出現させるリズ。
それを観測していたレオナルド・ダ・ヴィンチが驚く。
『大気中のマナを凝集させた魔晶石……随分と大盤振る舞いだね。イリヤくん』
「あとでアトラス院や魔法協会もろもろ、関係各所からふんだくるための先行投資ってものなので、アーティスト・ダ・ヴィンチ」
この女に何を要求されるのか分からないが、それでも限界が近かった連中も多い中、サイオンとは似て非なるエネルギー源だが、心身に活力が戻ってくる。
「どれぐらいの時間を稼げば?」
「40秒で十分よ」
端的なやり取り。達也とリズの間には特に交友関係は無いからだが、この場ではそれが幸いした。
リーナの膝枕で頭を預けられていた刹那に近づき、刹那の魔術回路に己の回路を繋げるイリヤ・リズ。
そして、魔力結晶を手にしたまでを見たあとには、戦光樹に捕らわれた魔神柱あらため魔獣嚇が動き出す。
40秒間の時間稼ぎ。その前に確認すべきことが一つ。
「幹比古、刹那が吐血したんだ。お前の鼻血は大丈夫なのか?」
なにかよろしくない『呪い』を食らったのではないかという疑念を吐き出したのだが……。
「だ、大丈夫だ達也、問題ないよ。僕自身に不調はないから」
それならばいいが、という言葉を吐き出す前に、魔獣嚇は攻撃を再開する。
それを前にして、幹比古は鼻血の原因を思い出していた。
(あのスズカとかいうミニスカサンタ―――『はいていない』!!)
いつぞや狭い車内でラニⅧの『はいていない』を目撃した幹比古だが、耐性はそんなものではつかない。
ようは―――助平なのであった。
そんな幹比古の事情など知ったこっちゃない魔獣嚇は、魔力攻撃ではなく肉弾戦とでも言うべき攻撃を開始して、鎌首ごと地面を叩く。
俗にヘッドバンギング的な行いで大地を叩いてくるのだ。
巨大な質量による打撃の影響はスタン効果すら及ぼし、こちらを停滞させる。
だが……。
「カズくんの為にも、アンタたちの首を刈り取らせてもらうし! 首よこせー♪」
「あんなふざけた格好の英霊に負けられない!」
「同感です。ミス・エリカ。同じような声の持ち主として負けられません。MASTERタツヤが望むならば、私もパンツは穿きませんが」
……ピクシーだけは若干違うが、ともあれ英霊に対抗するように、エリカと駆け抜けていく。
スズカ……恐らく伝説にある鬼女『鈴鹿御前』であろう黒ギャルサンタ(爆)は、エリカ以上に軽快に得物を振るって魔獣の外皮に裂傷を負わせていく。
「……手で『操っていない』?」
槍だろう武器を左右で大車輪させての斬りつけ。高速で動き回る裁断機を思わせるそれを、鈴鹿御前は手で振るってはいない。
「恐らくだけど、鈴鹿御前はどちらかといえば『キャスター寄り』の英霊なんだと思う。刹那がいないから、当て推量だけど、かの鬼女に剣士としての逸話はあまりないんだ」
「どちらかと言えば、のちの奥州、出羽などの地域を治めることとなった、坂上田村麻呂の『助力役』としての逸話の方が有名じゃからな」
あまり伝説・伝承に詳しくない達也だが、幹比古と沓子からそう言われれば何となくは理解できる。英雄というのは、その武勇だけでなく『持っている武器』によっても固定されてしまうものなのだろう。
(しかし、キャスター寄り。エリカから見れば『雑な剣術』でも、サーヴァントの身では、どれもこれも魔法師では対抗しきれない殺しの技だ)
となると、ヴリトラ……イブキというのも何となく程度には出自を理解する。
理解しながらも、攻撃は続行。離れたところから魔弾を細々と放つもさしたるダメージではない。
やはり刹那のように直接的な魔力を叩き込む方法が、彼我の戦力差を覆すのだろう。だが呪いが還ることを考えると、武器による『間接的直接攻撃』がいいはずだ。
「セツナ!!!」
離れたところ、轟音がとめどなく響く真っ只中にいても、リーナの声を『情報』として『精霊の眼』で受け取った達也は、その声に安堵があることで、こちらも少しだけ安堵する。
だが、魔神柱改め、魔獣嚇に対する
眼を―――『直死』に変える―――『あんなもの』は見たくないが、それでも、これだけが、達也の―――。
「きひひっ! 待て、そこの
そう考えた時、ヴァジュラという法師の法具を達也の足元に紫電と共に投げ放たれたことで、発動はキャンセル。
同時に聞こえてきた快活ながらも面白がりで、愉悦を求める言葉に、むっとする。
こんな危急存亡の秋だというのに、そんな悠長なことしていていいのか?
そう邪龍ヴリトラに対して反感混じりに思っていたのだが、状況に変化が現れる。
「なんだ?」
後ろに集う連中――――その中でもレティシアの『力』が高まるのを感じる。
『フィアジカマター!!!』
危機を覚えたのか、鈴鹿御前やエリカにズンバラされている真っ最中でも、構わず多くの
巨大な魔力物質。まだこれだけの力を蓄えているとは……どこに力の根源があるんだ?
疑問を懐きつつも、あちこちに着弾する前に分解を仕掛ける。
これ以上、東京の土地を崩されては困る―――。
などと思っていたのだが……。
『―――ようやくこの窮屈な地面から飛び立てる……』
達也が魔力球を分解したことが契機であるかのように、魔獣嚇は、土砂を退けて土煙を上げながら、その身を空中に飛ばした。
その際の体積の急激な移動から戦塵が、とんでもない勢いで吹き荒れる。
全員が眼を覆って、吹き荒れる戦塵から眼を保護する。まるで西部劇にある荒野のように、既に公園は荒れ地へと化していた。
ついに東洋龍よろしく長い胴体を空中に踊らせた魔獣嚇を、誰もが見上げる。
『まさか飛行能力まで有するとはね。しかし魔力の供給源からは離れたようだな』
『魔獣嚇は、東京の地脈と地下にある『遺骸』から力を吸っていたようだ。こちらからの観測では何も見えなかった……何か『他の供給源』があったのか?』
『いい推理をありがとう。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ロマニ・アーキマン。しかし、それはまだ『先の話』だな。
だが、供給源ではなく『楔』という意味での人物ならばお見せしよう』
訳知り、まるで既知の友人同士のような会話が終わったあとに、荒野に吹き荒れる戦塵が収まったのを見計らって、魔獣は見せてきた。
予想していなかったわけではない。
予期できていないわけではない。
予見は、示されていた。
とぐろを巻くような体から光り輝く球体が出る。その中心に女の姿を見る。
達也と深雪にとっては、よく見知った人だ。亡母とは瓜二つ―――魔術世界では鏡合わせの自分であるとも言える存在。
司波深夜の双子の妹、『四葉真夜』の精神体だかアストラル・バディなんだか知らないが―――それは裸体のままに、魔獣嚇という邪竜・魔竜に囚われた姫のようだった……。
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時は少し遡り、刹那の治療にかかったリズは、これならば『荒療治』でいいだろうと思えた。
「……リズ先輩、セルナは治るんですか?」
「問題ないわ。どうやら呪いがある種の魔力の循環を留めているようね。それが生命維持に澱みを生じさせている」
愛梨の言葉で説明すると、思い出すことがある。リズリーリエの母親が『父親』を拘束した際に、『父親』は強烈な魔力の奔流で暗示を洗い流したそうだ。
強心剤も同然の魔力結晶を使いながらも、細心の注意で魔術回路に処置を施していく。
アトラス院のエーテライトで保たせていてくれたことに感謝すると―――魔術刻印が急激に活性化、魔術回路は今まで堰き止められていたところを取り除かれたせいで流れを取り戻す。
(これだけのことがあっても魔術回路に変成することもないか。随分と強靭……)
そう思いながら手を離して、見下ろすような形で刹那を見ていると、意識を取り戻すように大きな呼吸が吐かれた。同時に少しの吐血も起きる。
代替呼吸をしていた刻印の効果が切れたようだ。
「―――がはっ!」
「グーテナハト、気分はいかがかしら? トオサカ」
「さいs『セツナ!!』ぶっ!!!」
恐らく自分に悪態をつこうとした刹那だが、その前に膝枕をしていたアンジェリーナ・クドウ・シールズの乳袋に顔を埋められて、こんな状況下でも愛梨の怒りが有頂天。
少しだけ頭を痛めながらも―――。
「やるべきことは『理解』しているわね?」
確認は怠らない。
「―――ああ、それを俺に『やらせよう』ってのが、あんたの考えなんだな?」
女に抱きしめられながらも、理解は及んでいるようだ。
そのために神霊級のサーヴァントを『連れてきた』のだ。
「その為に結んだ協定だったはずよ。刹那、あの場―――九校戦でつけた話は、いうなれば『アインツベルン』と『遠坂』の盟約確認も同然だったはず―――違えはしないわね?」
内心では『ぐずっている』弟を看破した言い分。周囲の連中は、訳が分かるようで分からない想いでいたのだが、状況は既に予断を許さないものになっていく。
リーナの抱きしめから離れて立ち上がる刹那は、まっすぐにリズを見ながら告げてきた。
「―――いいだろう。どの道、どう転ぶかなんてわかりゃしない。『運命』に対して改変を仕掛ける。馬鹿げたことを、俺が積極的にやると思うなよ姉貴。仕方ないなから―――やる。でなければ、ただ一人にしか支えきれない世界になるだけなんだから」
淋しげな、寂寥感を宿す言葉を吐き、そして大きく息を吸い込む。
決意するべき時が来た。魔獣嚇は遂にソラにその巨大な蛇身をくゆらせてきたのだ。
―――迷ってはいられない。
「―――『レティシア・ダンクルベール』=『ジャンヌ・ダルク』。力を貸してくれ!!」
刹那が『右手』を差し出して、声をかけた相手は、それを承諾した。
「心得ました。この時こそが、英霊ジャンヌ・ダルクが、私に憑いていた理由。理解しましたよ―――すべての運命を、あなたに、そしてこの世界の『アラヤ』に預ける時……!」
その右手を取り、聖女が霊基を最終降臨にした瞬間、背中にある『赤色の四枚羽』の刻印が大きく展開した。
何かが起ころうとしている。
明朗ではないが、それでも理解したものたちは多い。
そして……。
ソラを駆けていく何条もの流星が、見えた時……『奇跡』は一瞬にして始まるのだ。
おまけ『そのころ、ネコはのたもうた』
「もしもしコトミー? 吾輩覚えてるかい? そう。汝がペンフレンド ネコアルク・カオス・サード〜。HF出演おつかれ〜残虐無道なステゴロ堪能させて え? サードはついていなかった気がする。そいつは些末な鯖つ(?)だ。
まぁそれはともかくとして、現在進行系で吾輩を助けてほしいんだが―――何ぃ!? 『娘』が、行方不明になっただとぉ!? こいつは事件のニオイがぷんぷん魚粉のように漂うぜ!! ほうほう。現在TOKYOにいるわけね。で、『はいていない娘』は、いきなり荷を解いてどっかに行ってしまった、と――――――そのうち帰ってくんじゃね?
いずれにせよ、吾輩は現在謎の紙袋仮面によって――――――――」