魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第293話『その後の話Ⅲ』 

「……念のために聞くが……この報告書には間違いないんだね?」

 

「間違いはありません」

 

「ふむ……そうか…………しかし正直言って……素直に信じることができん、というのが本当のところだよ……話が途方もなさすぎる……」

 

「ですが『生き証人』は多いわけですからね。それとも、全員が口裏合わせしてフカシこいているなんて考えます?」

 

「まぁ分かった……現実にあの戦いの映像は既に観させてもらった……」

 

納得せざるをえないという五輪師の言葉と表情に、少し同情しておく。

事件の原因やその為に起こった騒動の規模だのは、もはやあれこれ云うのも烏滸がましい。

 

単純に大亜や新ソ連から攻め手が寄せてきたという方が、まだ彼には分かりやすかっただろうから。

 

「……過去のことをアレコレと穿ったり、責任追及だのは止しておこう。いま近畿地方が危機的な状況で、君をぐずらせるのも得策ではない」

 

「九島師から、要請とこちらの要求を呑んでいただければ、即見参いたしますけどね」

 

『無用な話だ。五輪君、十文字君、議題を進めたまえ』

 

この中では唯一肉声ではなく、電子的な音声の伝播である九島真言の言葉で、刹那は会話から外れた。

 

用意された席に着きながら議題の進行を見守る。

 

「では、四葉家に対する話をしたいと思います。報告書に上げられている通り、現・四葉当主 真夜殿がある類の『覗き見』端末を使っていたことに対するペナルティに関してですが……」

 

十文字和樹の言葉に、挙手をしてから立ち上がるは司波兄妹である。

 

「それに関しては自分と妹がお話します。これで納得いただければ……と思いますが……ご寛恕願いたいものです」

 

「司波達也、司波深雪―――ご両名を四葉家の名代として認めた上での、公式の発言と捉えてよろしい?」

 

六塚温子の言葉が兄妹を射抜いたが、それに臆すようでは先はない。

 

「構いません。その為に私達は自らの出自を隠すことをやめたのですから」

 

「……分かりました。ではお聞かせ願えますか?」

 

深雪の言葉、その容貌に、今更ながら憧憬を寄せる女性との『血の繋がり』を見た六塚師は、先を促す。

 

一礼をしたあと、深雪は懐から『血判状』なのか、紅い指紋らしきものが何人分も押されたものを取り出して開く。

 

そして読み上げる姿は―――次期当主といえるかもしれない。

 

語られたことを全てまとめると……。

 

1,現当主 四葉真夜は当主を引退。また今回のことの責任を取り他家にて蟄居。

 

2,四葉家は第四研究所関連の親族全てを公表。これによって次期当主は、親族から選ぶことにする。

 

3,今回の賠償請求は、一括して四葉及び四葉の関連会社の資産から出すゆえ、個人請求に関しては破棄を求める。

 

4,次期当主は黒羽 貢―――改め 四葉 貢を推挙する。

 

 

「―――以上です。ここに書かれていることは四葉の分家全てで話し合い、また親族総出で血判を押したものです。ご確認を。コピーを取ってもらっても構いません」

 

「拝見させてもらうよ」

 

その言葉で深雪が最初に渡したのは三矢師であった。似た年頃の娘がいるからか口調が柔らかい。

 

廻し読みする形で全員が読み終わるまで10分もかからなかったのは、予め伝えられていた面子もいたからである。

 

そしてここからが弁論の時間である。

 

心のなかで逆転○判のBGMを流しつつ、十師族からの追求にたいしてダンガン○ンパする心構えを持つ。

 

「まず第一に四葉家が、多くの魔法師を有しているのは理解できました。今まで大漢に対する『落とし前戦争』では、四葉親類たちだけでここまで出来るのかと思っていましたが……となると、四葉家の総戦力というのは侮れないのでしょうな」

 

「あまり探られるのは好きではありませんが、祖父、大叔父などだけでなく、四葉に忠義を尽くしてくれる執事・家宰などもおりましたから、彼らも希望あれば我が家の墓に入ってもらいますよ。そして大漢で亡くなられた家人たちは、子々孫々の英雄として我が家で丁重に弔っております」

 

「なるほど、ですが―――この黒羽貢という真夜殿の従弟である魔法師の『チカラ』を、我々は知り得ない。そこは四葉の弊害ですな」

 

深雪はその言葉に―――。

 

「ごもっともですね」

 

同意して四葉の秘密主義こそが弊害とすることで、ジャブを躱すのだった。

 

スウェーバックも同然だが、問題は次である。

 

「ですが、貢叔父上とて表に出てこなかったわけではありません。当然、魔法師として修練を積んできたのですから、証拠というわけではありませんが―――」

 

「失礼、リトル・ミス司波、それに適したものは僕が提供しよう。まさか……黒羽君の名字は『クローバー』から来ていたのか」

 

嘆くかのように口を挟んできたのは、この会議では異質ではないが、それでも自分たちのような学生よりは相応しい相手―――師補十八家の当主の一人、七宝 琢巳氏であった。

 

魔法師の世代としては、弘一氏などより1世代違う人間で、どうやら学生時代の黒羽貢のことを知っている人物だった。

 

当然、これはある種の政治劇である。予め予定されていたことである。

貢氏は自分が四葉の『代理当主』になることは承諾した。もちろんその後も自分の子女子息に引き継いでいくのならば、何か権謀術数あるだろうが、ひとまず代理当主―――本人は『武田勝頼の気分だよ……』と嘆いていた。

 

本心かどうかはわからないが、まぁともあれ現在のことに話を戻せば、自分が当主になるためのチカラ―――魔法師として、どれだけのものであるかを示すための証人として、旧知というほどではないが、繋がりを持っていた同世代で、魔法家としても有力な七宝家に証言してもらうことにしたようだ。

 

こういった裏工作というのが政治の妙であり、『お師匠』からは、否が応でも習ってしまったことであるのだが……。

 

そして再生された、何年度かは分からない九校戦の映像。

 

相対し合う2人の青年。その狭間に立つものは、氷柱――――その映像を見ながらも予定を詰めていく。

 

誰にも聞かれないように念話での秘匿通信。―――次の段階に移行する。

 

 

「……成程、七宝殿と互角以上に渡り合えたならば、実力、そして保有している戦力においても問題は無いのでしょうな。しかしご家中は定まっているのですかな?」

 

その八代雷蔵の言葉に即の反論をするは、達也である。

 

「その辺りは、いざとなれば山梨(地元)の英雄『武田信玄公』に倣い、何が何でも安定させましょう。ですが、いまは家全てで貢叔父貴を支えることで合致しています。ご理解いただきたい」

 

「―――ふむ。跡目争いは、特に我々が首を突っ込む話ではないですからな」

 

九州地方を監視している八代師は、その地域(地元)の特性上、そういったことの『難儀さ』を理解している。

 

もしくは技術者肌として、そういったことの煩わしさを覚えているのかもしれない。そういう意味では、達也と同じタイプと言えるかも知れないが。

 

そんな訳で黒羽氏の当主就任は了承された形になる。そもそもは、四葉の方の家督相続の話であり、特にそこまで十師族が介入することではないのだが―――。

 

(問題はここからだな。頼みますから激発しないでくださいよ)

 

(別にここで大人気ないことするほど、私は分別が無いわけじゃないわよ)

 

念話で通した相手は、とりあえず不機嫌ではあるが、抑える気持ちはあるようだ―――。などと懸念していたのだが……。

 

「では真夜殿の人質先は……七草殿でいいですかね?」

 

「―――構いませんよ。この場に七草師がいない理由も分かっていますしね」

 

「叔母様、リハビリ中ですからね」

 

そんな懸念は議長である十文字和樹のファインプレーで、さらっと流された。

 

あとは家族で話し合いな。そんな所だろうか。十文字氏も色々だもんなーと思っていた所にーーー。

 

「―――――セツナ!?」

 

突如、魔眼が虹色に明滅する。

 

隣の部屋では、『師匠』が燃えるような色をした魔眼に苦慮しているだろうが―――こちらも、余裕はない。

 

「大丈夫だ。それより―――」

 

『『『『『!!!!!』』』』』

 

この中でも感覚が鋭敏な魔法師たちが、セツナに次いで気づく。

 

この議場にろくでもないものが入り込んだのだと―――。

 

あまりにも強烈な圧に、全員が緊張を果たしたその時―――、先程まで深雪が立っていた場所に、術式が展開されて―――そこから一人の『女』がせり出してきた。

 

突如、床から出てきたように見えるそれは、正しく単独顕現、空間魔術の極みだ。

 

現れた女―――――『美女』は、扇子で口物を隠しながらの登場で、何ともサマになるものだった。

 

そんな美女は遂に口を開く。

 

「全くもって、ご主人さまに対する温情ありすぎて、ワタシってば涙がほろりはらりと滝のように流れますわ。ア・リ・ガ・ト・ゴ・ザ・イ・ます!」

 

どう考えても滝のような流れ方には思えない表現だが、今にも微笑みながら談笑相手の喉元を切り裂きそうな女が、議場の中心に現れるのだった。

 

「よいこもわるいこもみんな大好き。ナインフォックスファウンデーション(N F F)サービスの、タマモヴィッチ・コヤンスカヤの登場ですよ―――♪」

 

ぞわっ、とするようなプレッシャーを浴びせながらも、現れたのは―――下乳丸見えの桃色旗袍(セクシーチャイナドレス)を着たケモミミ眼鏡。

 

誰が差しているのかは分からないピンク色のスポットライトを浴びながら(会議場は真っ暗)ポーズを取る女は、血の香をこちらにも届けるほどの『劇毒』だ。

 

「サーヴァント界の峰不二子を自称するこのワタシが、少々ばかり議場ジャック!!!

不躾ながら、話の前に魔法師の皆さんに聞いてもらいたいことがあります♪―――そう、ワタシはかつて玉藻の前と呼ばれていたことがあり、またナミとナギとの間に生まれし陽神アマテラスとも言われていたものだ!!」

 

「こ、コヤンスカヤくん! キミが―――サーヴァント!?」

 

心底驚いた風の三矢師に、こちらも驚く。

 

(兵器ブローカーなんて生業上、業務関係を持っていることは前から疑っていたが―――そうか、横浜での戦いでのレポート、響子さん経由で、こっちに渡ったアレは国防軍にしか伝わってなかったのか……)

 

迂闊と言えば迂闊だが、タマモヴィッチ・コヤンスカヤ―――。

 

よくよく考えて、この事態に出てこないわけがなかった。

 

もはや刹那の中で確信はある。この女は―――。

 

―――四葉真夜のサーヴァントなのだ……

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