魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第294話『その後の話Ⅳ』 

―――あまりにも強烈な存在の登場に、オルガマリーから頼まれていた2人の教師は即座に議場に乱入した。

 

隣室に詰めていたはずの2人が音もなく入ってきたことに、気づけたものは多くはない。だが稀有な気づけた一人である刹那は、議場に立つ前の『先生』から肩を叩かれた。

 

 

「―――陽神あらば陰神あり。物事全てに光と闇があり、それらは調和もとい均衡を保つことで、この世界は成り立つ。

お前は《獣》ではあるが、同時に『太陽神』という側面も持つ、己の性質に強すぎる『光』を持つがゆえ、愛玩の獣になるために、どうしてもそれを切り離さなければならなかった―――しかし、古来より光と闇はやはり表裏一体。万物全てに欠けてはならぬもの」

 

「ジャパンのメジャーカートゥーン『DRAGON BALL』とて、最後に『大魔王』と『神』は元の一人の『地球に生きる宇宙人』に戻る。これは実に興味深い一例だ。物語を綴るものは誰であれ、大なり小なり―――陰と陽を理解しているということなんだな♪」

 

本来の予定よりも少々登場が早い2人に、気づいていない人間たちが面食らう。しかし、今の刹那にとっては、百人力どころか万人力を得た気分だ。

 

「おやおや、まさかここで登場とは、随分と―――出しゃばりがすぎませんかね? 『孔明先生』『司馬懿さん』?」

 

扇子で口元を隠しながら鋭く2人を見据えるコヤンスカヤ。まだ何かをするつもりはないようだ。

 

「お前が十師族を懐柔・誘惑する気配を見せなければ、隣で静かに見ていたさ―――しかし、刹那―――お前ならば『全力』でやろうと思えば、このデビル・ザ・フォックスを即時抹殺出来ただろうに」

 

冗長な。と言外に言ってくる『先生』に、ぎくり!としつつも言い訳をする。確かに『結界』に捕らえれば、殺せたかもしれない―――いや、その可能性を論じたとしても五分五分どころか7:3で少しばかり分が悪かった。

 

という説明が通用するかどうかは分からないが、言っておく。

 

「それをさせてくれる状況じゃなかった。言い訳になりますが、『先生』と『菱理』さんみたいな関係だったんですよ……。こちらに線を踏み込ませないように、上手く立ち回られていた」

 

実際、ここまで好き勝手されてきたのは、コヤンスカヤの影響力が、この世界では『大きすぎた』のだ。下手に殺せば、『どんなこと』が起きてもおかしくない。

 

その言葉に呻く『先生』は、それならばと納得したようだ。単純な力自慢だけでなく、そういう搦手は、師弟そろって弱い相手には弱い。

 

などとシンパシーを感じていた時に―――。

 

「なんだ。それじゃ義兄上と同じく『相性バッチリ』ってことじゃないか」

 

「「ふざけんな(FUCK)!」」

 

イイ笑顔をする『お師匠』『義妹』からの言葉に、そろって反論するのだった。それはともかく―――。

 

「弟子の代弁ではないが、話すことはない。カエレ」

 

「冬場だからな、人ん家(ひとんち)の縁側サンダルを、エサだと想って持っていくなよ」

 

こいつと交渉事をするなんて、それだけで悪手だ。話に乗った時点で、どんな代価を要求されるかわからないのだ。

 

「師弟そろってなんたる塩対応! およよ……これではご主人さまである真夜様の為になる話が、ここで何一つ出来ないではないですか。地獄の閻魔大王とて、「沙汰」を下すにまずは話を聞くというのに。地蔵菩薩の化身も、これには激おこぷんぷん丸でしょう!!」

 

その話に出てきた人物の名前に、殆どの耳目が惹かれる。

 

「あなたが……伝承にある大化生『九尾の狐』が―――四葉殿のサーヴァントだと?」

 

「はい♪ と言っても、ご主人さまは何一つ自覚していないでしょう。何せ私ってば、そういう所は日陰の女よろしく見守るタイプなので」

 

一条師の硬質な声に、甘ったるさを覚える声音で返答をするコヤンスカヤ。

 

まずい。全員が話に乗る構えだが―――とりあえず――――。

 

「全員、レジスト(対抗防御)誘惑さ(呑まれ)れていますよ!!」

 

「「「「――――」」」」

 

その言葉、魔力を乗せた言葉で『気付け』(覚醒)をさせると、全員がコヤンスカヤの『チャームブレス』に対抗するようになった。

 

「あ、危うかった……すまない遠坂君」

 

「お気になさらず一条師―――ですが……話を聞くんですね?」

 

議場に突如現れた無礼者。だが、あまりにも訳知り・物知りだろう相手を前に、十師族が前のめり、そして幹比古に介抱されている気絶中の美月と頭痛を起こしてレオに寄りかかる沓子を除けば、全員がこの女からの情報を求めるようだ。

 

見回して見渡して、刹那は少しだけ嘆息する。

 

「……お前が根っからの『観客』で、筋書きを正すために、筋書きを混乱させるためだけに、必要量をよこさない、商人の風上にも風下にも置けない害獣であっても―――いま、何か四葉師に関して何か知っているならば、それを言え。サーヴァント界の喪黒■造が」

 

「随分と嫌われましたね。よほどニューヨークでアルトマとのことを恨まれている……というか喪■福造呼ばわりはご勘弁を。私、そこまで悪辣じゃあありません。藤子不二雄A先生に謝っていただきましょう」

 

「恨まれていないって考える方がオカシイとおもうケド」

 

げんなりした、としか言いようがないリーナの言葉。この狐が、あの被害を拡大させた。そう言えるのだから

 

「おやおや、アンジェリーナさんまで私に塩対応。こうなれば、いつぞやのお礼として、となりの殿方を誘惑しまくりの『 スーパーセクシー』な衣装でもあげましょうか?」

 

厭な笑みだ。こんな風な顔をして、善意がありますなんてのは無理筋すぎる。

 

「ソンナモノなくても、セツナはココロもカラダもワタシにメロメロだもの。ノーサンキューよ」

 

という自信満々の言葉で、心動かされずに返してくれたということに感動する。

 

もっとも……後ろの方から感じる視線がトゲトゲしすぎるのだが……。

 

話す相手は再び変わり、次は達也が食って掛かるように口を開く。

 

「お前こそが、叔母上の不幸の原因なんじゃないかと想っているよ。刹那の話だけならば、マスターが知られぬ内に契約するようなサーヴァントもいるそうだからな……寄生型の霊体というところか」

 

それは以前から達也などに伝えていたことだ。もっとも誰が契約者であるかは不確定だったのだが。

 

「まぁそれは正解ですね。ですが、同時にご主人さまを守ってきたのも私であることも、理解力あるものには分かるはずですけどね―――とくに……ドクターロマン、レオナルド・ダ・ヴィンチ―――あなた方ならば、分かるはずです……四葉 真夜という女性の『異常性』が」

 

問われた2人は少しの渋面を浮かべつつも、周囲の期待に応える形で知見を述べる。

 

「彼女を私もロマニもよく知るわけではないけど……まぁ確かに芸術家として、『この被写体』は、ちょっと変だとは思っていたよ。けれど、この時代の医療技術ならば、特にその辺りはどうにでもなるだろう」

 

「実際、肥満を不摂生ではなく病理として、切除も可能にしているんだから無くはないんだろうが……四葉の侍医である芦家くんからも聞かされていたんだが―――『代替機能』を会得することは……分かった。聞かせてもらおうか。医者の僕としては、本当の意味で治せる患者がいるというのならば、何も躊躇わない―――今の僕は……不感ではいられないんだから」

 

その長いセリフから読み取れたものは―――そう多くない。だが、それでも神剣な眼差しどころか射抜くような眼で、コヤンスカヤに虚言を許さないという態度でいたロマン先生に、誰もが気圧される。

 

「―――ドクター。少し抑えたまえ。今の(・・)アナタは、私と同じ教師でもあるのだ。生徒を怯えさせては本末転倒だ」

 

「……すまない孔明―――いや、『ロード・エルメロイII世』と言うべきかな?」

 

「どちらでも構わないさ。もっとも私は、あなたをドクターと呼ばせてもらうがね。『ロマニ・アーキマン』」

 

古い友人、それを思わせる2人の会話に気絶していた美月が復活。何かの衆道臭(BL臭)でも感じたのだろうか。

 

ともあれ、コヤンスカヤに口を開かせようと促すように全員が見たのだが……。

 

「ところで刹那さん。私―――かなりお腹が空いているわけでして、少々あなたがお持ちのきびだんごならぬ『いなり寿司』でも所望するわけなんですが、いかが?」

 

なんて図々しいキツネだ。一方的に会議に乱入しておきながら『メシを出せ』と言う態度。

オレの知っている図々しい女の代表格である黒豹でもこんなことはしない。

 

 

「刹那、私という師匠の為に作ってくれた『おいなりさん』だが、別に『それは私のおいなりさんだ』などとは言わん。振る舞ってやれ」

 

「そのネタはシモすぎますが、まぁ『ライネス師匠』がそういうならば……」

 

「うんうん。そういう時に気前よく対応出来る弟子だと私は理解しているんだ。トリムマウ、玉露(ギョクロ)を淹れてやれ。口を湿らせれば余計なことまで口走ってくれるかもしれんからなぁ」

 

デビルスマイルでコヤンスカヤに流し目を送る師匠の姿だが、コヤンスカヤはそれを風と流す。

 

「おほほほ。なんという奸計。これが司馬懿の有名な『混元一気の陣』というものでしょうか―――それはさておき、チャイナドレスでこれを食べるのも如何なものかと存じますので、タマモチェェエエ―――ンジ!!!」

 

どういう理屈であるかは分からないが、ぼわん! という間抜けな擬音の後には、その衣装を和服―――それも友禅染に変えたコヤンスカヤの姿。そして、どこから出したのか分からないが座卓を出して、議場の中央にて大胆にもいなり寿司を食う姿勢を取る。

 

着物の女にいい印象を持っていないウェイバー先生の『いやな顔』を見ながらも、時間は昼には少し早いが、それでもいいだろうという思い(ヤケクソ)で、食う人間には今からだが、お腹いっぱいな人間はあとで持たせると告げるが―――。

 

「きっと今は食べたくなくても、みんなが食べているのを見ていると、絶対にお腹が空くだろう」

 

「そうですか。ではリモート参加である九島師を除いて全員実食ということでよろしい」

 

少し早めの昼食会は、恐るべき獣との会食へと早変わりするのであった。

 

『いなり寿司は地方によって違う。君に西の方の出身である二木君や五輪君を満足させる―――』

 

仲間はずれが嫌だったのか、それとも何かの負け惜しみであったのかは分からないが、『俵形』だけと見た九島真言の言葉だが。

 

「まぁまぁ九島師―――郷に入っては郷に従えですから、私は関東風のうなぎの蒲焼も――――おや? ほう!! 中々の心配りだね!」

 

「まぁ客人に合わせるのも一つでしょ。俺も五輪さんと同じく西の出で、関東の『真っ黒なかけうどん』を見て一瞬は躊躇ったわけですし」

 

美味しかったけど、中々に土地それぞれで食の文化とは違うんだなと、しみじみ実感させられたのだから。

 

三段のお重ケースに入れられた一段目は三角稲荷。二段目に俵稲荷――― そして三段目は……。

 

全員が『おおっ!』と言うものであり、少しだけしてやったりという気分になるのだ。

 

「ほほう……三段目はフナガタ(舟形)―――『彩いなり』とは思い出深いな。シロウがニホンで作ったのは、これなのかな?」

 

「まぁ残されたレシピと作っていたものを参考に、『現在』ある食材で出来る限りを作ってみたわけです―――ご賞味ください」

 

「ふむ。彩りも中々に考えられている。色相関図で言えば、アゲの色味にあう鮮やかな大きめの緑豆がいいものだ。シロウが、グリーンピースでは不服を申していたのが理解できる」

 

「ロンドンでも枝豆が栽培できれば良かったんですけどねー」

 

師匠2人の言葉に苦笑しながら、冬木に戻った際のことを思い出す。

 

『夢か現か分からないが、そうだな。葛木宗一郎っていう俺の学生時代の教師―――その『奥さん』に教えたことがあるんだ。一成の寺にいた人なんだが』

 

その少しだけ口ごもる様子から刹那は察した。ともあれ、作った三段重のいなり寿司は全員に大好評であった。

 

『それでは皆さん。由緒あるゴーレムメイドとして、ゲスト(お客様)の為に思わずため息を突くようなお茶を淹れるのですよ』

 

『『はい。トリムお姉さま』』

 

水銀メイドに従う金と銀のメイド。カートを器用に動かしながら、狭い議場の全てに湯呑を置いていくのだった。

 

尋常の世にあらざる魔法師であってもかなり驚く光景が広がりながらも、全員してそれを受け入れる。

 

そのぐらいには、既に見慣れてしまった風景になってしまっていた。

 

そんな様子に水を差すわけではないが、性悪キツネは、ついに口を開く。

 

「さてさて、美味しい食事を楽しんでいるところなんですが、とりあえずお話しましょう。あの大漢崩壊に繋がる四葉真夜拉致事件の―――その裏側を」

 

ごくり。

 

誰が鳴らした喉の音かは分からない。しかし、キツネの声は存分に議場に伝わるのであった。

 

 

「始まりは、まず大陸にいる『仙人』『神仙』ともいえる存在の考えでした―――それは、神代回帰への試み――――」

 

厳かな声を出しながらも―――いなり寿司を頬張る口と手は動かしっぱなしのコヤンスカヤは語る。

 

 

大陸の奥深く、いまだに人の手が及ばぬ秘境にて、会議、話し合いとも言えぬ茶席が設けられていた。

 

居並ぶ面子は全て神秘の巨塊にして、仙域の巨魁。

 

しかして、その数はわずか五仙。されどその中で大いなる話し合いは持たれている。

 

―――1人の仙人は、おもむろに口を開いた。

 

 

これは我らが思い描いた『世界』の『風景』(かたち)ではない。これはあり得ざる未来だ。

 

―――もう1人の仙人は茶で潤した口を開く。

 

ならば、どうするというのだ。野にのさばる『亜霊』を殺し尽くすのか。我らならば不可能ではないだろうが、少々面倒だぞ。

 

―――反論された仙人は笑みを浮かべながら語る。

 

徐福の赴いた「島」―――大八洲でも日ノ本でも構わないが、あの国の幼子どもを招く宴席が、『台湾』で開かれるそうだ。

 

そこにおいて、虞とは字違いの幽幻道士が亜霊の一人を攫うそうだ。アタシの火眼金睛で、一番『素養』のありそうなのを見てほしいそうだ。

 

当然、陽神(ぶんしん)だけを寄越すつもりだけどな。

 

 

「以上がご主人さまに起こる悲劇の前に行われた『ろくでなし』どもの『アメトーーク』といったところでしょうかね」

 

「――――続けろコヤンスカヤ。あの人の身体の『秘密』を語っていないぞ」

 

「はいはい。せっかちなメンズはガールにキラワレますよ―――」

 

達也の言葉に戯けるコヤンスカヤ。どうにも声が叔母と『同じ』に聞こえて、達也としては如何ともしがたい気分なのだろうか。面相がかなり険しいものになっている。

 

 

 

―――見つけた……。ははぁ、成程ね。となれば大漢の術士たちは、とんでもないものに手を出そうとしている。

 

―――だが、あの娘っ子の中にある『受精卵』は中々に面白い。

 

―――うまくいけば―――

 

 

―――神代への緒を繋げることが出来そうだ―――

 

 

―――そこまでです。山嶺法廷 十官が一仙。無支奇―――

 

―――そこないたいけな少女に手を出すは、例え世界や大地が許しても、お天道様の名のもとに好きにはさせませんよ!!―――

 

 

 

―――おやおや。こいつは随分と懐かしい顔を見たもんだ。殺生石から化けて出たわけじゃなさそうだね―――

 

―――道士連中はあの娘の『子宮』機能を欲しているようだが、目論見なんざ破綻だ。あの娘がそういう事態になれば、虚数領域に沈むだけ―――

 

―――しかし、先程目ン玉くり抜いてやった、あの小僧っ子との『仙卵核』は、もらっていく―――

 

―――さらばだ。仙年妖狐妲己、貴様との因縁はまだまだ先のようだ―――

 

 

 

「―――以上が私が裏方で大活躍した話ということです。残念ながら当時の私は、増やせる尾が2つで、ご主人さまを全面的にお守り出来なかったのは痛切の極み。おのれムシキ……」

 

話し言葉だけでなく、どっから出したのか人形劇―――台湾伝統芸能たる『布袋劇』のものを用いて、当時の様子を語ったコヤンスカヤ。

 

どれもこれも『当時』の人物を模したものであり、想像は簡単にできた。

 

器用な真似をしたことに、感心しつつも少しだけ口を開く。

 

「―――なんともまぁ……確かに『虚数魔術』と言える分野の門派は存在していなかった。転送(アポーツ)が現代魔法の不可能領域である以上、そうなんだろうけど」

 

「刹那、つまり―――『どういうことだってばよ』?」

 

思わず崩れた言葉を使っちゃうほどに、混乱しきった達也。

 

簡潔な表現を優先するならば―――。

 

「つまり、お前の叔母さんの、あのナイスなバディの根源たる子宮・母胎機能は失われていない。恐らく、体内にある虚数領域にそのまま残っているんだろう」

 

「―――叔母上の悲劇は知っていたが、それが―――ただの勘違いだったと?」

 

あの大漢で悪名を背負った四葉の大戦争が、そんな『勘違い』で起こったなど、少しばかり達也も肩透かしを食らった様子だ。

 

 

「開腹された手術跡を見れば、誰しもそう思っただろうな。ただ御存知の通り、生物の雌性と雄性を決定づける最大級の違いであるはずの生殖機能が喪失していたのに、真夜さんは随分と育っていたじゃないか。当初、俺はこの時代の医療技術ならば、適切な女性ホルモンを注射することで、そういう代替機能を補填することも出来たんじゃないかと疑っていたぐらいだ―――が、四葉の侍医殿は、そういうことを行っていなかったようだな」

 

推理を進めるに、恐らく『定期的』に、四葉真夜の子宮卵管などは、虚数空間から『戻っていた』と思われる。

しかしながら、その事を認識出来なかったことが不幸の始まり。そして『虚数魔術』という、魔法師にとって未知の領域の術式が天然自然で行われていたことが、すれ違いだったようだ。

 

そして―――あんな風な女性が生まれたということだ。

 

椅子に深く腰掛けて、ため息を突いて天井を仰ぐ達也。演技ではなく、家の男子の一人として、色々と考えているのかもしれない。

 

「ある意味、ウチのオフクロは余計な手出しをしたようなもんかな?」

 

「記憶を経験に変えたんだっけ? まぁ、その事が若干の不感症に陥らせたのかもしれないが……当時は、しょうがないだろ。乱暴されたってのは事実らしいからな」

 

子宮機能を穢されたということとイコールでないからと、それで納得出来るわけではあるまい。

 

ある意味、すれ違いではあったろうが……。

 

「ドクターロマンならば可能ですか?」

 

何が可能かなど言わずもがなであり、達也に問われたロマンは厳かに口を開く。

 

「虚数空間に『現在』ある、子宮と消化器官との縫合は可能だ。だが、本当の意味で必要なのは、彼女が自分の意志で、虚数空間に存在している『自分』を取り戻せるかどうかだよ」

 

次いで応えるは、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 

「無理やり出して固定化するのも一つだが、それだとちょっとね。虚数魔術は 「ないものをある」として定義する魔術だ。女性としての最大級の特徴たる『生命誕生』(地を満たせ)を、彼女が思い出すことが肝要なんだよ」

 

理屈のロマン。感性のダ・ヴィンチ・

 

一高の名物講師である2人が結論付けたことをやれば―――叔母の辛い記憶を呼び覚まし、下手をすれば人格とてどうなるか……。

 

そう達也は考えている様子だったが、決断は早かった。

 

「刹那、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を……もう少し、強力にしたものはないか? 破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)でも構わんが……貸してくれると助かる」

 

「渡すのは、弘一さんか?」

 

「ああ」

 

その辺は四葉と七草のことなので、どうぞとしか言えない。今回に限って刹那が関わらざるを得ないのは、どちらかといえば九島の方のことなので、 そこはノータッチで行きたい。

 

「美味しい食事の割には、中々に痛く悲しい話だったね……しかし、それが真実だとすれば、快い話だと思うよ」

 

五輪師の話題の転換を図るような言葉。仙人の実在の真偽とかはともかくとして、議題を先に進めたいということもあるのだろう。

 

一番の喫緊は―――『近畿』でのことなのだから。

 

「ご馳走様でした刹那くん。竜樹や和美たちにも食べさせたいんだが―――」

 

「一応、まだ予備というか『おみや』の分とかレシピもあげますので、後で奥方様にどうぞ」

 

その言葉に安堵したのか、議長役である十文字和樹は、四葉殿をお頼みしますと、ロマンなどに言ってから議題を転換した。

 

コヤンスカヤは、いつの間にか議場の中心からいなくなって、ダ・ヴィンチ特製の檻に入って、看守役なのかお虎が笑顔で槍を突きつけている。

 

「ふふふ。まさかこの後に、奈々さん(?)と悪魔合体させられて虎と狐の狂気のコンビ! TIGER & FOXTAIL! 略してタイフォク!! 瞳を開けて見る夢だけ強く抱きしめる、とんだデイドリームジェネレーション!! 2つマルを付けて、ちょっぴり大人の時間をア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます!」

 

「このキツネ。時空管理局(?)の法に従って、捌いてやりたいですねぇ♪」

 

「さばいてやりたいのニュアンスが絶対に違う!! マジヤバで尾っぽが思わず立っちゃいます!! けどくじけちゃダメよコヤンスカヤ(ワタシ)!! いつか愛玩の獣になるまで、ワタシは生き続けるのだから!!」

 

うるせぇな。と、怒鳴りたくなる気持ちを刹那は抑えながら、同じ気持ちだったのか咳払いをした十文字師の言葉が議場に響く。

 

 

「―――次は、近畿地方における、昨今の神代秘術連盟の活動に関して、話を進めさせてもらいます。九島師よろしいですかな?」

 

定型通りのやり取りであり、報告義務をこなしてくれると思っていただけに―――――。

 

『不要だ。私は議会から退出させてもらおう。あとはキミたちだけで話し給え』

 

その言葉はあまりにも唐突すぎた。

 

画面に映る人物。もはや老齢ともいえる白髪の御仁は、この会議の前提すら崩してきた。

 

絶句する面子は多いが、『予想通り』と判断していた面子もいて、この後の展開に両者とも頭を痛めてしまうのだった。

 

本当ならば引き止めるべきだろう。他の師族たちが、喧々諤々の様で殆ど口汚く罵る様子を見れば、当たり前。

 

 

もはや、関西方面における支配力を失っているも同然なのは、周知の事実であっても―――。

 

この場で礼を失する退場などしたらば、十師族としての立場が危うくなるのだが……それでも―――。

 

『失礼をする』

 

光宣の親父さんの意思は固すぎた―――。

 

「待て九島師!」

 

「気でも狂ったか!九島真言!!」

 

議長役である十文字と、豪快な一条師の立ち上がりながらの制止など聞かずに、画面から消え去った九島真言のチャンネル。再度の接続を試みようとしても繋がらないことに、頭を痛める面子は多い。

 

詳しい事情を知らない者たちは、動揺しておろおろしているとも言える態度を取らざるを得ない。

 

(会議は踊る、されど進まず―――か……)

 

出来うることならば、派兵を要請してもらいたかった。別に家の継承権に(リーナ)を入れたいとか、そんな思惑なんて無かった。

 

だが、力を持ちすぎていたこととか、彼らの神経を知らずに逆撫でしていたこととかあって、その言葉を出すための話し合いを怠っていたとも言えるか。

 

「セツナ……」

 

「―――分かっている」

 

結局の所、人の行動を決定づけるものは損得勘定ではなく、そいつを『好悪』のどちらで見れるかなのだと。

 

横から不安げに見てくるリーナに返しながらも、難儀な話だと思い、それでも―――『意地』だけで突っぱねたわけではあるまいと、九島本家の人間たちが画策している『逆転の手段』を―――信じておくことにするのだった……。

 

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