魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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月姫リメイク、現在プレイ中。

ネタバレは出来ない。だが一つだけ言えることは磨伸先生とハルトモ先生は、すごく喜んだであろうということだ。序盤でアレは―――うん。なんていうかね。

型月同人作家たちの中でもキレッキレだったいのふるの『たぽ』さんとか今どうしてるんだろうなーとか思いながら新話どうぞ。


追記
アレクサエルさんの感想から察するに試みは意味が無かったかと思い、本編は元通りの降順投稿に戻そうかと思います。

混乱を招いて申し訳ありませんでした。


第295話『その後の話Ⅴ』 

時刻はまだ昼前。いや、あと数分もすれば昼になる時間。

 

何気なく室内……巨大な空間に存在している文字盤時計を見た九島 烈は、息子がどういう決断をするのかを何気なく予想していた。

 

愚かな息子。それでも自分の種を受けてこの世に生を受けたのだ。

その前途を明るいものにしてあげたいと想う親心はあった。

 

(だが、これが報いともいえるか)

 

しかし、親の心子知らずとは良く言ったものだ。真言は、力だけを求めた。それはかつての烈も歩んだ道だったが、烈と違ったのは、それがコンプレックスから来ているものであったということだ。生存率が低い強化措置を受けて強力な魔法将軍へと成れた烈と違って、真言はそんな左道外法に頼らずとも十分な力を持っていた。

 

だが、真言はそれを不服とした。父の言葉を、力足らずの自分に対する慰めの言葉と受け取ったことが原因だった。

 

(思えば、あの時点で説得の方向性を改めておくべきだった。己に無いものならば、誰かに補ってもらえるようにする。他者・他家との協力を模索するべきだ。と)

 

十師族という制度もそういった理念があったのだ。烈の考えにはそれも含まれていたというのに、息子にそれを教えられなかったのは―――

 

『未来永劫にわたり九島家が繁栄していく。魔法師のトップリーダーであり続ける』

 

……頭のどこかで、そんなありもしない未来を期待していたからかもしれない。

 

だが、時既に遅し。もはや取り返しがつかないところにまで、事態は踏み込まれていた。

 

何気なく上に目をやる。

 

懺悔をしたい気持ち。信心深くはない烈だが、それでも神がいるという気持ちは捨てきれない。

見上げたそこに、聖母や御子のステンドグラス、はたまたその木像・石像があるかといえば、大いに違った。

 

広い空間は、ある『実験装置』の為だけに存在していた。

 

円筒形状―――ヒト一人、はたまた猛獣一体が身を縮ませずとも収まるだけの直径をしたケースが天井に繋がり、床に設置された『装置』で固定されていた。

 

遙か古代に建てられた神殿の石柱のごとき立派なものだが、当然この『研究所』を支えている梁の類ではないことは明らか。

円筒形のケース。透明なガラスに似たクリア素材の筒には、三人の『乙女』が眠るように収められていた。

 

それが棺であるならば、乙女は死んでいるはずだが、乙女は生きていた。

ケースの中に満たされている液体、羊水に成分が似たその中で、彼女たちは『調整』を受けていたのだ。

 

烈にとって、それは救いであるべき存在だ。真言と一緒になって邁進した『実験』、その成果は九島家にとってのメシアであるべきものなのだ。

 

(そう信じたいものだがな……)

 

すぐさま、上ではなく下に目線を向けて溜息をつく烈。実験は恐らく『成功』している。だが、それを御しきれるかどうかは賭けだ。

 

乙女三人はそれぞれで容姿が異なっていた。巨大なおなごもいれば、幼童のごとき体躯のものもいる。

その中間に当たるものが、まず通常サイズといえるかもしれないが。どちらにせよ烈には全容は分からない。

 

意図した実験の通りではあるが、ケースの中から出てくるまで、彼女たちは『何者』であるかは分からないのだから。

 

 

『デミサーヴァント創成(クリエイト)

 

一年前の四月時点から画策していた九島家の秘密プロジェクト。真言にとって最大級に警戒をしていた、姪孫の婚約者にして九島家の秘術を滅多斬りにした、恐るべき魔導の実践者。

 

遠坂刹那によって暴露された事実からの成果は、ようやくカタチになってきた。

 

(千年錠の死徒……あの御仁が何を考えているかは分からないが、ブレイクスルーをくれたことには感謝する)

 

東京での魔導災害の決着地点。そこで火事場泥棒をした魔導器を使った影響が、彼女たちを作り上げたのである。

 

烈の肌感覚では、刹那が契約している長尾景虎よりも『剛力』な存在ではあると想う。だが、サーヴァント戦とは得てして、魔法師による戦いよりも複雑な駆け引きが存在しているだけに、その肌感覚ですら信用ならないという有り様だ。

 

つまりは……魔法師誕生と同じことをしているのだ。

 

「現代魔法師も、このようにして作られたものもいるのだろうなぁ。そして、望んだ力を持たずに生まれてくれば……」

 

歴史の皮肉である。自分たちが同じことを他者にしている事実。

自分が追い出した実弟は、この現実を正しく理解していたからこそ、違った理想を持っていたのだろう。

 

それでも烈は決めたのだ。

 

例え息子が、孫が、どれほど愚かであっても、それをむざむざ殺させるような真似はしたくないのだから。

刹那を頼れないならば―――こうなるのは必然。

 

「それでも―――キミたちの人生がより良きものであると願う『愚かさ』は―――許しは請わなくても、願っておくよ」

 

烈の懺悔にも似た告白を聞いていたのか、どうなのかは分からないが、少しの変化が起きた。ただ単に時折起こる自発呼吸ゆえの気泡なのかもしれない。

 

だが確かに3人ともが、口を開いたのを烈は見届けた……。そのことに驚いて立っていると、リモート会議を途中退席しただろう真言が、この地下研究所にやってきた。

 

「―――会議は終わったのか?」

 

「いいえ、先代。途中退席してきましたよ」

 

姿勢を正して息子に問いかける。先程までの気持ちを押し殺しながら問うたが、予想通りすぎた。

 

「ですが、いまや関西圏の現代魔法師の代表は、我が九島家のみです。他の師族家に何が出来ますかね」

 

国替え。領地替え。なんとでも言えるがそういうこともありえるだろう。そういう言葉を呑み込みながら、今後の展望を真言に問う。

 

「完成しつつあるデミサーヴァントを『増産』した上で、息子・娘たちと契約を結ばせます。そして、神代秘術連盟との決戦ないし暗闘を再開させます」

 

「出来るかな。お前も見た通り、彼らの契約しているサーヴァントと供給している魔力量―――サイオンとは別種のエーテルも、かなり充溢していた」

 

あの戦場で猛威を奮ったサイバーサーヴァントダンサーズ。誰が略したか『サイバ(ヴァ)』の実力は特一級。

 

衣装の卦体な連中ばかりであったが、鈴鹿御前・伊吹童子・ヴリトラ―――恐るべき尋常ならざる魔人どもの力だった。

それを支えるだけの『魔力量』というものがそこにはあったのだから、真言の熱を帯びて狂気も孕んだ言葉に素直に頷けない。

 

「ですが、先代。我々がこの調整体に与えた変化の元は、あの戦場の残滓です。そして作られたものを―――」

 

「分かった。今の九島家の当主はお前だ。お前の好きにしろ―――ただ、雑兵というものも必要なのは理解できているのだろうな?」

 

うんざりした気持ちと同時に疑問も吐き出したのだが……。

 

『そちらは抜かりなく』

 

烈の疑問に答えるものは、烈が持つ端末から聞こえてきた。真言ですら予想していなかったところからの割り込みだが、割り込んできたものは、こちらの心情になど構わずに話をしてきた。

 

『トライテンのコピーなどあまり創りたくはなかったのですが、まぁその辺りは僕なりのサービスとさせていただきましたよ。姫君もやることが凄まじすぎる……その影響がいずれは出てきましょう』

 

「真祖の影響は……この世界に発生しますかね?」

 

『あれは吸血鬼世界での厄介の種みたいなもので、まぁ正直、いなくなった後にもろくな事に繋がらないんだよ』

 

響子からの伝聞でのみ聞いた『並行世界』―――刹那が本来いた世界。その世界の凄惨さ。世界の『裏側』で行われていた闘争は、この世界の比ではないということ。

 

戦略級魔法による『破壊の規模』など、比ではない。生物・生命としての強弱こそが、破壊力(ちから)すらも無力化する現実。

 

響子が見たものが何なのかは詳細に知れない。ただ一つだけ言えることは、どんなデタラメにすら立ち向かい、果てが見えぬ闇わだかまる深淵(あな)に落ちていくことすら躊躇わないからこそ、刹那は―――『ああ』なのだ。

 

 

(健……お前が生きていれば、私を笑っただろうかな。それとも殴りつけて怒ってきただろうかな……)

 

どちらにせよ―――。

 

もはや、この道を選んでしまったのだから……。

 

再び烈は見上げた。

 

九島の軍神・守護神として創造されたものたちが、果たしてどういう道を選ぶのか―――それが、よきものであることを祈る―――。

聞き届けるものなどいないかもしれない祈念をしながら烈は、せめて末孫の未来だけは何が何でも守りたいと想うのだった……。

 

 

「つまり現状、近畿地方の有力な魔法家は……神代秘術連盟に『寝返った』ということなのかね!?」

 

「中国・四国地方から送り出した『諜報役』によれば、そういうことのようです……今まで九鬼家・九頭見家・()隆家なども、同じくターゲットにされていたはずなんですが……」

 

それら全てが九島家寄りの姿勢を改めて、現在―――連盟に属している事実。掴んだ情報が正しいことを示すように、提示された様々な写真と映像―――大型スクリーンに映し出された……料亭政治やヤクザの会合のごときものを見せられては、納得せざるをえない。

 

京都にある魔法協会本部も、これらの証拠を掴もうと躍起になったが、あいにく―――こちらは完全に「やられて」しまっているそうだ。

 

(サーヴァントの仕業だな。何か洗脳系の術で、やられているんだろうな)

 

キャスターかアサシンか。はたまた『催眠洗脳・人身操作・人心掌握』に関する逸話持ちがいるのだろう。

 

そうでなくても『魅了の魔眼』を持った英霊は、クラスに関係なく多い。それらを用いて、協会員たちを全て洗脳している―――そんなところだろう。

刹那の値踏みとは違って、十師族はざわつく。明らかなテロ行為。そして、思った以上の大事(おおごと)に、どうしても声が大きくなるのは仕方ない。

 

鋼のお母さんも、少しだけ戸惑っている様子だ。やはりこういうことには慣れないんだろうなと思える。

 

どうでもいいことだが。ともあれ、助け舟は出す必要はあるだろう。

 

「議長、神代秘術連盟のやり方を非難するのは、当然ですが―――今は、何故―――他の九研に欲する魔法家が裏切ったのか、『調略』されたのかを問うべきだと想いませんか?」

 

「ふむ。確かにな―――何か思い当たるフシはあるのかね?」

 

「事件経過、及び最終的な犠牲になっている人間たち―――言っちゃなんですが、殆どが老齢の方々、前・後期高齢者、下がっても50代後半ほどの方々ばかりですよね? ここにヒントがあるかと思います」

 

「……つまり?」

 

「九島家を除けば、現在の近畿の魔法家の当主はどこも若手です。高くても30代後半……ワザとそこだけを、神代秘術連盟は標的にしたのでしょう。敵対組織の寄越したヒットマンのカチコミで、頭を潰させ家の権力を掌握しやすくする。マフィアがよくやる手ですね。特に、血気盛んな若頭や副頭が下にいるところではね」

 

その言葉に全員の血の気が引く。

 

北米の麻薬組織連合(インフェルノ)かよ」

「ドライ・ファントムみたいな声の人間が言うことじゃないだろ」

「ちげぇねぇ」

 

ケッケッケと笑うモードレッド。だが、この場においては分かりやすすぎる表現ではあった。

話を続けようとする前に、この手の話に詳しいライネス師匠が口を開いた。

 

「その後、如何にも『力に屈服しました』な体を装って、敵対組織に合流するか。まぁ代替わりすれば、なんとでも言えるが……そこまで九研は、家と家の仲が悪かったのかね?」

 

「所見ですが……まぁ……かもしれないですね……」

 

あえて言葉を濁す。刹那としても確証のないことは言えないので、この対応は間違いない。

 

だが――――。

 

「想うところがあるのならば吐いておけ。どんな些細なことであっても、推測を重ねることでしか真理であり真実に辿り着けんのだ―――もっとも、何気なく理解出来るがね」

 

ウェイバー先生は結構容赦なかった。孔明の霊基を取り込んでいるからか、人心の機微にもどうやら感づいているようだった。

 

(そもそも、この人は魔導に関わる事件が起こると、動機から解明していく人だった)

 

老翁を廃して当主になるという顛末は、サスペンスの領域であり、正しくホワイダニットの分野だ。

 

「―――九島の血筋たる藤林さんがいる所で何ですが……どうにも真言師の子供たちは、横柄というか、自儘なところがあると言えばいいのか―――つまり『イヤな人間性』を感じたわけです。初対面時に」

 

 

言っちゃ何だが新興の貴族家。成り上がりものという印象を持ってしまう人間たちが、九島家の人々だった。

力だけを信奉している人間というのは、そうなのだろう。まぁそれはそれでやりようはあるのかもしれないが、マクダネル卿ほどの剛力を感じなかった。

 

「動機としては、無くはない―――いや、けれど……それでも九島家との協調の方が旨みはあると思うんだが……」

 

コヤンスカヤとも取引していたらしき三矢師が口をはさむが、それは大甘な見立てだ。

 

「そうですね。けれど、それとていつ『お迎え』が来るか分からない前・現当主が倒れたあとには、ご長男か次男か、分かりませんが……どのみち、次代と協力することは出来ないというのが、近畿の魔法家の次期当主筋の気持ちだったんでしょう」

 

もしかしたらば、学生時代に同級生ないし下級生だった人間もいたのかもしれない。学生時代に舎弟も同然に扱われて、もしくは煮え湯を飲まされるような想いとまではいかなくとも、腸が煮えくり返るようなとまではいかなくとも……。

 

そういった風に、九島家こそが近畿地方の君主であるかのように振る舞われたことに、腹立たしさを覚えていた他家の人間もいるかもしれない。

 

「……確かに、連盟のテロで落命した人間たちは、どちらかと言えば、烈老師や真言殿に協力的だった人間だな……」

 

「邪推ですが、親・祖父母同士があまりにも近すぎたからこそ、抱いていた不満や不平を『呑み込め』と言われて、我慢したこともあるかもしれないですね」

 

そこに連盟は調略を仕掛けた。

 

恐らく文言としては……。

 

『―――自分たち連盟にとって怨念返しをするべきなのは、九研初期の魔法師で秘術を盗んだ九島烈などの世代』

 

『―――君たちにとって、親であり祖父母ではあろうが、もしもこのままいけば、九島家の当主はあの玄明や蒼司だ』

 

『―――僕たちも奴らの悪辣さであり、横柄極まる態度は『2高の時』から存じている。奴らが当主になった場合、九頭見、九鬼、久隆に対して家来も同然に、ろくでも無い要求を出される可能性もある』

 

『―――その時に遠坂刹那やアンジェリーナ・シールズなどが、私兵として九島側に着いていたならば、どうなる?』

 

『―――やるならば、今だ』

 

 

やや修辞的表現とか過剰な装飾表現もあったかもしれないが、刹那の想像した調略の文言は概ねそんな所だろう。

 

結果として―――連盟を信用しているわけではないが、それでも近畿地方を支配しているのが九島家であるという現状は、容認出来ないという心を突かされて翻意したということだ。

 

全員が全員そういう気持ちではないだろうが、それでも家来か家臣のように扱われるのがイヤな心があった。

 

そして、真言師もその子供たちも―――周りの家との協調を忘れて横柄になってしまっていたということだ。

 

「これは藤林さんに聞いたほうがいいですね。実際同年で、特に近畿地方に拠点を持つ魔法家の、九島家縁故の人間に対するものが、どんなものだったか? 2高時代の若い頃をプレイバック」

 

話を振られると思っていなかったわけではないだろうが、それでも寝耳に水程度の表情を見せた響子は立ち上がって口を開く。

 

「刹那くんの言うとおりよ……私と一番年齢が近いのは、蒼司君で、その上の玄明さんとか、白華姉さんとかの世代とは、人づてにしか聞いていないけど……まぁ悪評ばかりね……私が2高に来た時も、あまり歓迎されていなかった―――あと、まだ私は若い。2高からすればOGだけどまだ若い」

 

最後の方のサゲマンの必至な訴えを聞きながらも、すみませんと言うが、響子は納得出来ないものがあったようで、刹那に問いただしてくる。

 

「刹那くんの見事な推理が当たりか外れかはまだ分からないけど……、けど『そんなこと』で、簡単に家と家の繋がりを断てるものなのかしら?」

 

「まぁそれだけじゃなくて、他にも賄賂(まいない)つーか、『贈り物』攻勢もやったんでしょうね。如何に義はこちらにあるとはいえ、食えなきゃ意味はない―――けれど、最終的なヒトの行動を決めるものって、損得勘定じゃなくて、『好きか嫌い』かだと思いますけどね」

 

 

実際、後世の人達からすれば、『なんでそんな行動に至ったんだ?』と、歴史上の偉人・英雄たちの思考回路はとことん不可解かつ難解なものである。

 

 

二心(にしん)殿と民衆から揶揄するように呼ばれた、鳥羽・伏見の戦いの最中に行われた徳川慶喜の大阪城脱出。

 

朝倉家に対する侵攻に端を欲する、北近江の大名 浅井長政による織田家との縁切り及び敵対。

 

そして、未だに戦国の歴史家を悩ませる『本能寺の変』。

 

 

なべて英雄たちの選択とは、ときに現代に生きる人間たちにとっては、奇妙奇天烈摩訶不思議なものに映る。

だが、それは彼らをある意味、超人的な存在として勝手に崇めているからこそ起きる陥穽なのかもしれない。

 

「これはお虎に聞いたほうがいいかもな。結局お前は―――越後及び主家である上杉氏のためだけを想って戦ってきたのか?」

 

「いえ全く―――とまではいきませんが、それでも私とて『私心』というものはありましたよ。響子姫や他の方々は、さも合理的な考えばかりに拘泥していますが……家と家の関係なんて、代替わりすれば、簡単に変わってしまうものはあるでしょうよ」

 

「そういうものですか景虎さん?」

 

姫呼ばわりが嬉しかったのか、問い返す響子に対して、景虎は口を開く。

 

「そういうものです。例えば晴信など、父である信虎公の時代では良縁を保っていた諏訪家を滅ぼして、当時の諏訪家の姫である諏訪御料人を妻とした―――なべて、人間同士の関係性が変わるように、家もまた変わるものです」

 

そこに至るまでに諸説色々なことがあったとはいえ、今までの縁を切るということは、諏訪家も考えていなかったのだろう。

 

「戦国の大名とて、合理的な考えだけで生きていけるわけではありませんよ。本当に合理的に考えるならば、晴信は上京など目指さず関東制圧を目標とすべきでした。美濃・尾張まで兵を伸ばした所で、進軍は停止すると―――分かっていても、色んなところに『来てください』『助けてください』と言われたらば、行かなきゃならなくなるんでしょう」

 

その言葉に……誰もが感じ入る。先人たちも、合理だけではままならない人生を生きてきた。人間らしい情を以て家を国を運営していたのだと。

 

だが、マスターとして刹那はちょっと言わなければならないこともある。

 

「お前のことだ。どーせ三河・岡崎辺りを分捕って『帰ってきたらば』、また戦いを挑んでやろうとか考えていたんじゃないか?」

 

「それはもちろん♪ 当時の私は信長との同盟関係を結び、徳川とも結んでいましたからね―――ただ、予想外だったんですよ。損得で戦うあの子が、そんな風な理由で戦を仕掛けるだなんて……瀬田に旗を立てるなんて無理だと分かっていたんでしょうに」

 

後半の方では少しだけ暗い顔をするお虎。生涯の宿敵にして、自分に生きる実感を与えてくれていた存在が、そのように道半ばで死ぬなど考えていなかったのだろう……。

 

(そして、その後にはお虎も『踏ん張りすぎて』―――南無であった)

 

「にゃ――――!!!」

 

「うおっ! あぶねっ!! アーチャーではないというか、飛び道具が使えないはずのサーヴァントからの攻撃!!」

 

「戦国のアイドル軍神お虎ちゃんは日々進化する!! 日進月歩ならぬ秒進分歩で進化を続けているんですよー! まぁともかく、どうしますかマスター? 晴信も出来なかった瀬田に旗立てに行きますか?」

 

眼を輝かせて、第二の人外魔境へとなった京都・奈良に敵を倒しに行きたいと言ってくるお虎に、頭を悩ませる。

 

「……九島家の現状を招いた元凶の俺が行ってもなぁ。俺は武田信玄みたいに、上洛要請が来ているわけじゃないし」

 

史実では、本当の意味で足利義昭も、信玄にそういった上洛要請ないし信長討伐の大義名分は出していなかった。ただ密書で、義昭や本願寺、浅井家とやり取りしていた結果、包囲網最大の戦力たる信玄は動くことになったのだ。

 

だが、今の俺が勝手気ままに動いて手助けしたとしても、九島家の人々―――一部を除けば感謝などされないどころか、背中を撃たれる可能性とてあるのだ。

 

「九島家はこちらの救援の手を払い除けた―――サーヴァントを多数有して現代魔法師の家に対して圧力を掛けてくる連盟に、対抗する手段はあるのか?」

 

「無いわけではない――――――そう想っておきましょう。実際、俺も認識の甘さが此度の事態の悪化を招いたわけですから」

 

意外と何かとんでもない一手を狙っている可能性はある。実際、彷徨海では幻想種や神を食らうことで、それらの超抜能力を有するという試みが為されていたとのことだ。

獣性魔術ならぬ食獣魔術とでもいえばいいのか―――考えてみれば、その究極たるものが、達也が直死で殺した『ネロ・カオス』なのかもしれない。

 

もしくは、母が、モーレツパイレーツ、ミニスカパイレーツしていた頃に見つけたエルゴさんだったのかもしれない―――。

 

……ついでに言えば、当時の母は違った『意味』では、まだルヴィア、サクラに対抗できる『パイレーツ』ではなかっただろうと子供心に想うと、左腕に痛みが走るのだった。

 

「ふむ。だが、刹那―――本当にそこまで現代魔法師でも叩けないものなのか?

いや、まぁサーヴァントには対抗できないだろう。私も昔の話だが、冠位指定の魔術師とサーヴァントが戦う場面を見たんだが……まぁ確かに『そこ』は叩け無い。だが、マスターである契約者を狙うことも不可能ではないはずだがな」

 

母親に内心でのみ謝っていると、鋭いところをライネスが突いてきた。

 

「まぁそれに関しては俺よりも適任がいますかね。というわけで幹比古よろしく」

 

ここで話を振られるとは想っていなかったのか、幹比古が動揺しながらも、立ち上がるようだ。

 

「ぼ、僕がかい!? えーと、つまり刹那が求めたいのは、京都・奈良の霊脈及び魔術基盤に関してってことなんだね?」

 

「ああ、頼んだ」

 

察してくれている幹比古に端的に頼む。この男、今回の事件全てで、友人たちから明かされたことにナイーブになっていたことは、既に聞いている。

 

折り合いがついたのか、何なのかは分からないが、あまり表には出していなかったが、―――それでもこちらは信頼していることは間違いないので、この場での説明を任せることにしたのだ。

 

目線を向けて信を寄せていることは間違いないと伝えると―――それに力強く頷き、十師族の面子を前にして、堂々と古式の神童は説明をしていくのであった……。

 

 

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