魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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前半でボツった文章はシリアス。
後半でボツった文章はギャグ。

対極的でしたが、少しはしんみりさせようと思ってこんな感じ。

渚という単語で語り合ってオガエツ先生を赤面させてしまった杉田さんと中村さんのネタでも入れようかと思いましたが、これもボツ。

あれこれ試行錯誤でしたが。新話お届けします。


第298話『卒業Ⅱ』

有志在校生たちによる余興も一段落して、ダンスパーティーに入っていく。アルコールがあるわけではないのだが、用意された飲み物とか、雰囲気が何かしらの高揚感を齎す。

 

ゆえに口も軽くなるとでも言えばいいのか。それぞれの進路に関して、会場で言い合うことになる。

 

「それじゃ長岡は『教師』になるのか?」

 

その内の一人である十文字克人は、2科の同級生―――例年通りならば、ここで会話すらなかっただろう相手と話をしているのだった。

 

「まぁそれを目指しているよ。魔法大学で『教育課程』を取ったからと、魔法科高校の教員になれるわけではないが―――考えは色々だよ」

 

苦笑しながら語る同級生に対して、克人は思考をめぐらす。

 

魔法科高校の教員になれる・『なっている』人間というのは様々だ。魔法大学で研究していたが、諸々の事情で出向したような人間もいれば、退役した魔法師の軍人を採用したところもある。

 

要は―――明確な教員資格というものが『定まっていない』のだ。

 

これが世間一般の『専科高校』、例えば理科高校であれば、医師免許や看護師免許などを取得して、かつ現場で実働していた人間が、一線を退いたあとに、その技能を教えることが通常だ。

 

一昔前の『看護学校』や『医科大学』などのマイナーバージョンが一般的。

 

これが魔法科高校となると、教官役というものの『定義』は定まっていないのである。

 

これでは、教員や教官になってやろうという人材が少なくなるのも仕方ない。同時に、魔法技能を喪失した人間のセカンドキャリアとしての道であるかも不透明。

 

しかし―――。

 

「だからこそ、俺は自分が高まることよりも、『次』に続く人間のために自分を使いたいんだ」

 

―――同級生は、その後進のために身を埋めることを選んだのだ。

 

「……自分が磨かれることを望まないのか?」

 

長岡が遠坂の授業で得た固有スキルと現代魔法師として高まった魔法力は、一科にいる人間たち―――上位にも迫ったのだ。少しだけもったいないどころか、すごくもったいない想いがして、克人は変節を促そうとしたのだが、それに首を振ってくるのだ。

 

「それも一時は考えた。けれど、魔法師としては『短い人生』なんだ。苦労して得たものを、次に渡していく。そんな人生も悪くないだろ―――なれるかどうかはまだ不透明ですが」

 

最後こそ戯けた調子だが、長岡早雲のその言葉を聞いた時に、十文字は自分の矮小さを思い知らされた。

どう言った所で、人間は―――己の欲に生きる人間であったからだ。優れた魔法師が時に語る、

『自分たちは命がけで魔法の訓練をしてきたからこそ、その高度な魔法能力をどう使うかを、他者にあれこれ言われる筋合いはない』というものが、何故か卑小なものに思える。

 

それだけを考えて、『後ろ』を見ないでいる人生に意味はあるのかとも、少しだけ気付かされるものもあった。

 

「まぁ遠坂君の授業が無ければ、こんな風には考えなかったかもしれない。俺の場合は、なりたい自分が超人的なものよりは、そっちに落ち着いただけだよ」

 

その言葉の後には呼びかける友人に応えて、『それじゃ』と2科の同級生は克人の前から去っていった。

 

(魔法師としては短い人生か……確かに、身につまされる話だったな)

 

いくらかの治療の目処は立てども、十文字家の人間にもそれは、人よりも早期に訪れる話だ。同時に、それは最悪の場合―――魔法師だけでなく生物、生命としての死にも直結するもの。

 

そう考えると、自分も何かを、あとに続く人の為に残したいと思えてくるのだった。

 

そんな中、自分ひとりだけが、自儘でいようとしている女に声を掛けた。

 

「……で、いつまでお前は仏頂面してメシを嚥下しているんだ?」

 

「そうだぞ真由美。まぁ色々と家が混乱しているのも分かる。私が防衛大に入るのを隠していたことに不機嫌なのも分かる―――が、折角の『はれの日』に、それは無いだろう? お前は我々世代の生徒会長だったんだぞ?」

 

「わ、分かってるわよ!! 別にそんな意地になってご飯を食べていたわけじゃないわよ!! ……ただ、今日でこの一高を卒業するとなると、しんみりしちゃうのよ」

 

お前はしんみりすると、爆食しちゃうのか? 無言で摩利と克人が想う。

 

友人2人の無言の表情を見た真由美は、深く嘆息してから白状する。

 

「……しんみりしていたのはホントウよ。けど、それ以上に、目の前に広がるこの光景が……私の目指していたものが、一人の『魔宝使い』によって齎されたことに、どうしても悔しさがね……」

 

そういうことかと、三巨頭の内の二つは納得する。現在の一年生が新入生として一高の門をくぐったばかりの頃に、衝撃的なことが行われた。

 

いま考えれば、あれは……確かに真由美にとって、色々な気持ちを思わせるだろう。だが、真由美の演説がいいものだとは、今となっては思えないのも、二人の率直な気持ちだ。

 

「案外、お前も未練がましい女だな」

 

オヤジさんと同じくという無言での付け足しを、『お前も』から読んだ真由美の少しだけキツイ目が飛ぶも……克人は意に介さない。

 

「お前の演説を何度も聞いていると、分かることがあった。お前は、この魔法科高校で生活することを、良きもの、人生の1ページとして、ちゃんと刻んでほしいという願いの下で、ああ言ったんだな?」

 

改めてあの公開討論会で放たれた言葉の意味を、克人は問いただす。

改革案とか真由美が『諦めた部分』を省略して骨子だけを抜き出すと、それだけが彼女のやろうとしたことであろう。

 

「……そうよ」

 

不貞腐れながら肯定する真由美。一拍置いてから克人は言葉を発する。

 

「別に俺もそれを否定するつもりはない。魔法技能を持った人間でも、普通の高校生のように生きる、青春したいという願いはあるだろう―――けれど、それは『持つもの』『懐に余裕があるもの』だけが、抱ける『理想』だな。

そんな気持ちの持ちようだけで、1科も2科も同じ風景を見れるとは、遠坂と同じく思えないな。日々のカリキュラムをこなすことに、1科以上に汲々としなきゃならない2科が、『持たざるもの』『貧するもの』が、あの言葉でお前に啓蒙されるとは思えんよ」

 

「――――――分かっていたわよ……。けれど、ズルいわよ……あんなの……」

 

遠坂が並行世界からの来訪者……魔術師の用語で言えば『カレイドライナー』であることの意味もある真由美の言葉。

だが、この魔法師の学校に出来上がった制度の硬直化を砕くには、『外部』からの強烈な力が必要だったのかもしれない。

 

情けない話だが、克人も真由美も、魔法師の名家に生まれながら、そういった考えを持てなかったのだから。

 

遠坂刹那のように強烈な気持ち……。

 

『最果てを目指すならば、道は俺が斬り開く』

 

……その意思がこの学校を変革したのだった。

 

「けれどさ、真由美。お前は―――自分の名誉や功績のために『1科も2科も違わない』なんて―――あの演説を放ったわけじゃないだろ? 実際、どうだよ? 長岡や綾子だけじゃない。みんな―――いい表情をしている。作り笑いなんかじゃない。見出すべきものに勇往邁進してきた、これからも進んでいける人間だけが出来る表情だ」

 

防衛大学校に進学する摩利は、このままの感情でここを出ていく真由美を気遣って、そんなことを言う。

 

摩利(しんゆう)に言われなくても真由美だって分かっている。これは本当に『いい未来』だ。誰もが勝利したわけではないし、誰もが栄誉に至れたわけではない。けれど―――。

 

(すごく悔しいわ)

 

この中である意味、敗者である真由美は悔しさばかりが出てくる。

 

(けど、もう大人げない態度ばかりは取れないわよね)

 

みんな明日(みらい)に対して目を向けている。将来が、その通りになるとは限らない。それでも――――――。

 

真由美とて、このまま終わるわけにはいかない。魔法大学に行ったあとの自分に何が出来るかは分からない。

 

ただ一人暮らしをすることで変わるものがあるのだと、少しだけ『家』から離れて『真由美』という女一人で何が出来るかを見つめたいのだ…。

 

そんな余裕ある考えはお嬢さんの甘っちょろいものだとしても、いまの真由美は少しだけ自分を追い詰めたいのだ。

 

『ーーー卒業祝賀料理が出来上がりましたので、卒業生の皆さんは予定されていた場所への移動をお願いします』

 

調理室に詰めていたと思しき深雪のアナウンスによって、パーティーに入る前の案内通りに中庭へと赴く。

 

「む。どうやら遠坂の大作のお披露目だな」

 

「リクエストは十文字君がしたのよね?」

 

「まぁな。『全員のリクエストに答えるのも無理だから、親分として一発オナシャス!』 などと言われて、ストレートに『鯛』を使っためでたい『麺料理』をお願いしたよ」

 

『鯛』を使った『麺料理』なんて、なかなか出来るものじゃないと思えるのだが。

 

克人としては期待したい。そもそも遠坂の料理で初めて口にしたのも―――麺料理だったのだ。

 

あの時の感動をもう一度……。

 

その心に従い桜が舞う中庭に出ると、テーブルがセットされていた。用意されているものは全て選んだ人間のセンスが光る風雅なものだ。そして配膳を担当する人間たちは―――。

 

(サーヴァント……なのか?)

 

人間離れした容貌を持った二十人ほどの男女混合の集団が、中庭にて待っていたのだった。

 

緑色の目を持つ金色の美男子を筆頭としたウエイターたちに、マゼンタカラーが印象的な美女を頭に据えたウエイトレスたち。

 

どちらも洒脱な印象を持たせるレストランサービスの格好は、この場において実に似合っているものであった。

 

古典的なウエイトレス服では、場が白けたかもしれないからだ。

 

『『一高のみなさん。ご卒業、おめでとうございます』』

 

正体を理解している一人である真由美は、『……人類史の英雄をウエイターに……』などと、若干引いている風だが。

 

当人たちは割りかし楽しんでいるのではないかと、こちらに一礼をした英雄たちに克人は思いつつ、サーヴァントに先導されながら着席をする。

 

「あ、ありがとうございます……アーサー王……と呼べばよろしいのでしょうか?」

 

「レディ、いまの私はただの『ウエイター』のサーヴァント。ウエイターと呼んでいただければ幸いだよ。しいて言うならば、櫻井ウエイターとでも呼んでくれ」

 

椅子を引かれてそこに着席した真由美は、美麗のサーヴァントに緊張している様子だ。そんな真由美になにか『思うところ』があるのか、櫻井ウエイターは、優しげであった。

 

「食前酒など出せるわけがないから、水で申し訳ないが、メイン料理が来るまで喉を潤していてくれ」

 

グラスコップに注がれた透明な液体。ただの水なのだが、全員が感嘆の息を漏らすほどに美味かった。

 

卒業式からパーティーまでの、疲れが取れていくのを感じた。

 

そうして弛緩、身体が解れた所にメイン料理を大型のカートで運んできた、遠坂たち在校生を見る。

 

しかし、それは十文字が予想した所から少しだけ外れたものであった。

 

「セイロ」

 

「麺なんだよな……?」

 

摩利の声を聞いたのは隣に着席する十文字だけでなく―――。

 

「ご心配なく。十文字先輩のリクエスト通り、鯛を使っためでたい『麺料理』ですよ。セイバー、ランサー頼んだ」

 

「「かしこまりましたマスター」」

 

やはり金髪の美麗セイバーと赤紫(マゼンタ)の美女ランサーがメインの給仕役だったらしくて、2人を筆頭にサーヴァントたちは静かに、されど速やかにセイロが次から次へと卒業生たちの前へと運ばれていく。

 

あっという間にカートが空になり、誰かに指示を出したのか、カートが調理室に戻るようだ。

セイロは三重に積まれて何かの塔を連想させる。

 

底にはいまでも熱を発する焼け石が敷かれた大皿があり、湯気が上がるたびにセイロの中から香るえも言われぬ芳香が鼻を突くのだ。

 

「これは……心して食べなければならなそうだな……」

 

セイロの頂上にあるものが、何であるかはまだ分からない。まだ見えない。

 

だが、誰もが、思う。

 

これもまた遠坂の使う『魔法』の一つなのだと……。

 

「そう緊張せずに、全員で蓋を開けて楽しんでください―――料理はまず『色彩』からとも言えますし」

 

「ならば―――開けさせてもらおう!!」

 

いたずら小僧の顔をする後輩。少しだけ負けた気分になった克人は、意を決して上部のセイロの蓋を開けた。

 

その克人の行動に誰もが追随して一瞬遅れるも、取っ手に手をやってからセイロを開けた瞬間――――。

 

 

……中庭に―――『虹の橋』がかかった。

 

卒業生全員が驚嘆、感嘆、呆然―――なんとでも言える感情に囚われて空を見上げたあとには、セイロの中にあるものを見る。

 

「七色の―――『麺』!!!」

 

「色鮮やか……刹那くんのことだから、合成着色料とか使っていない自然物なんでしょうけど……」

 

「解説とかもういいよ!! 遠坂! この脇にあるつけ汁に漬けて食べるんだな!?」

 

「どうぞ、渡辺先輩。料理は食べてもらってこそ完成しますから」

 

三巨頭それぞれの反応を見せる中、一番反応が良かった渡辺摩利を促した刹那。

 

つけ麺と言えば殆どにおいて、『茹でた麺』を冷水で『冷やして』、水切りをしてから『温かいつけ汁』に漬けて食べるのが、概ね―――フォーマルな日本のつけ麺である。

 

しかし、刹那の作ったつけ麺は、温かい蒸し麺を温かいつけ汁で食べるスタイルだ。

 

(エントロピーの関係上、麺に味を染み込ませる、つけ汁の味を際立たせるということならば、前者は科学的な原理に基づく―――それの真逆を行くか)

 

味変のための『小鉢』を用意しながらも、司波達也は卒業生たちを羨ましがる。はやく自分たちも食べたいと思える調理工程を思い出す。

 

調理場で、『さぁ、おまえ様(マスター)!一世一代の祝賀料理やるでちよ!』とか言う『サーヴァント』

 

『行くぞご主人! 阿吽(unknown)の呼吸で麺を作るのだワン!』とか言う『サーヴァント』

 

この2騎と共に作り上げた七色の麺(虹 色)。セイロの頂上で渦を巻くかのようになっていた麺を豪快に箸で掴みだす摩利―――だけでなく全員はつけ汁の椀に虹麺をダイブさせる。

 

ごくり。

 

誰が鳴らした喉の音かは分からない。

 

しかし、存分に浸したあとには麺を啜る音が響く。

 

味の感想を在校生の誰もが求める。しかし―――。

 

再びの虹麺のダイブ。啜る音。またもや虹麺を掴みだす箸。そしてダイブ。『どぷん』という着水音が、やけに響く。

 

誰もが黙っているからこその現象。再び啜る音。そして、その繰り返し。

 

もはや理解できる。

 

卒業生たちは、その虹麺に魅了されている。

何人か、いや半数以上は―――涙まで流す始末。アレルギー反応か?と思う間もなく再びの咀嚼音。

 

涙を拭いながらも、麺を食べるのは止めない。

 

その中でも落ち着いたのか、一高の元・親分が声を上げる。

 

「美味い……旨すぎる……遠坂、お前は俺の意図を理解していたのか?」

 

「大人しい料理ばかり作るなというメッセージは――――――受け取ってましたよ。まぁ予想以上に美味しく感じられて何よりですけどね」

 

克人の言葉に返す刹那。途中で追加分のセイロを受け取って、おかわり希望らしき人を見てから味変組を動かす刹那は、まさしく料理の指揮者(マエストロ)だ。

 

「―――解説ぅ……お、お願いできる?」

 

涙腺崩壊状態ながらも麺を啜ることは止めない真由美に対して、苦笑しながらも刹那は解説をする。

 

「麺に関しては、色を着けたのは練り込み麺にしたからですね。赤麺はトマトと唐辛子、黒麺は黒胡麻とイカスミみたいな塩梅で、つけ汁に合うようにバランスは考えました」

 

「うむ。そこまでは俺も察している……問題は、つけ汁の旨さだ。単品でも一品料理として成立するが、麺を浸けた時に麺も汁も『高まる』……これは一体―――」

 

「鯛を使ったつけ汁だからですよ。身の方は、味変に使いましたが」

 

その言葉通り、在校生たちが持ってきた味変用の『ヅケの身肉』『たたき』『チャーシュー』らしきものを確認する。

 

だが、それにしては鯛の旨さが濃く感じられるのだ。

 

……鯛の身など然程食ったことがない面子も多いかも知れないのだが、この中では食通な方の克人は舌先に神経を集中させる。

 

「アラで出汁を取ったのか? いや、それにしては味が濃い……ううむ……分からん。何なんだ?」

 

「あらかたの『身』を取ったあとの残った頭や骨、内臓―――アラをまとめて特注の圧力釜に入れ熱を加えてから、肉挽き器で全てミンチにしたものを野菜出汁で溶かしたわけです」

 

あっさりと答えとして吐かれたその言葉に、卒業生たちは驚く。まさか鯛丸ごとを使った麺だとは……。

 

ただ、それだけで卒業生たちが『感動』し泣き腫らすとは思えないのだ。

 

「鯛のミンチペーストで足し算。麺で掛け算をした驚異の料理だな……ただ、それだけじゃないんだよな……なんていうか―――こう……どうしても『郷愁』を漂わせるものがあるんだ」

 

「摩利がノスタルジックなこと言ってるけど、私もそれを感じるのよ……どういうことなのかしら?」

 

「―――それは秘密です♪」

 

お前はどこの『なぞの神官』(後ろ姿はG)だ。と言わんばかりのセリフとポーズだが、案外こういうことは簡単に見抜かれてしまう。

 

「―――……桜チップの燻製―――セイロの底に敷き詰めてあったか」

 

「ちょっ、十文字先輩、まだ熱いですよ!」

 

火傷を危惧する刹那だが、構わずその分厚い手でセイロの最下部を持ち上げた十文字によって、そこにあった燻香が理解できた。

 

「察するに、この一高の桜の木から燻製用のチップを作っていたな……最初から『これ』を狙っていたのか?」

 

「それは無いですね。春夏秋冬の木々の枝葉は触媒としても有用だから、折れてしまったものを見つけて使ったあとに、それでも余ったものを燻製のウッドチップにしようと想っただけです」

 

中庭にて舞い散る桜の木々を見てから、笑みを浮かべて言う十文字先輩に、先程のような歯切れの良さを見せない刹那。

 

そんな友人を見て達也は思う。

 

こいつ、照れてやがるな。と―――

 

初めからこの場面(卒業料理)を狙っていたわけではない。ただ単に手元にあったから使っただけです。

 

そういう『言い訳』を、付き合い長い人間たちは苦笑とともに理解してしまった。

 

「どうあっても、この校舎に通う以上、ここの『匂い』は、覚えてしまうものなのね」

 

「一高に通っていた人間たちにノスタルジーを覚えさせる最高の料理だな……ああ、三年間の思い出が蘇って、懐かしさを覚えるよ………」

 

「鯛のミンチペーストが濃い旨みと共に渋み、苦味も提供する……麺の味もまた絶妙だ。甘い南瓜麺もあれば、しょっぱいエビ味噌麺もある―――人間の五感全てを満足させる……それが、この虹色麺の正体か、まさにアオハル回顧録……」

 

魔法科高校の春夏秋冬。

全てに刻まれたものを思い起こさせる――――これが、刹那が卒業生を送るために作った料理の正体なのだろう。

 

もっとも、彼にとっての不覚は、思惑・狙いを先輩方に見抜かれたということだろう。要は恥ずかしがっているのだ――――。

 

「モウ! ワタシのダーリンってばシャイボーイなんだから!! むしろシャイなナイスガイ―――シャイガイね!」

 

「その表現は色々とアウトだ」

どっから出したのか懐かしい『○×ピンポンブー』が取り出されて、ブーという音でOUTがリーナに宣告される。

 

どうやら遠坂の壁は超えられなかったようであるが、リーナが、刹那の首に喜色満面で抱きつく様子に、なんというか『ああ、いつもどおり』と全員が想って、卒業生は『日常の風景』からこれが無くなっていくのを、いまさら実感する。

 

卒業式が終わろうとしていく……。

 

 

 

 

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