魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
はい。まさかのエリちゃんシンデレラにてメガトン級メガネが実装。
シエルルートを堪能しまくっているだろう先生に対するとんでもない課金の圧力である。
この世界でも発掘者、探索者と呼べるものたちはいた。
多くは、それは『表層』に出来た古代人たちの文明を探る……端的に言えばピラミッド、マチュピチュ、モヘンジョ・ダロ、始皇帝陵……。
ただし、こういったものは大抵、敵対国の略奪や入植者によって、即座に荒らされるものだ。それでも、探られていない隠し財宝という一攫千金を求める、トレジャーハンター的な職業もかつてはあった。
エジプトに至っては、難解極まる迷宮のような王墓を探るという罰当たりなことが多かった。副葬品は盗掘者たちの収入源となっていく。
時が進み、植民地支配で得てきた土着の民俗文化財などが、各国の『博物館』で並べられていった。
そのことを文化・文明に対する侵略と定義することも出来る。大航海時代の負の側面と言える……。
そして現代 2096年……未だ人跡未踏の新たなる『遺跡』であり、『発掘』に挑んだものたちがいる。
いや……それは正確ではない。何せ盗掘まがいのことをして、遺跡であり遺骸……白龍の骸『霊墓アルビオン』に先乗りしていた愚か者がいたのだ。
だが、その愚か者がいてこそ、この世界に新たなる風が吹いたことは間違いない―――。
名を『遠坂 刹那』またの名を『魔宝使い』……。
現代におけるアルビオンの解明者であり、私の不肖の弟子にして、魔法師たちにとっての『天使と悪魔』……そのことは、此処に正しく記しておく―――。
――――――『現代における魔導の変遷とその仕組みについて』(著/ウェイバー・ベルベット)………第5章『霊墓アルビオン』より抜粋。
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朝の五時。まだまだ人々は目覚めの時とは違う時間に、英国の首都……ロンドンの郊外にて……一つの異常が発生した。
それを見ているものがいたならば、こう評しただろう。
地上にいきなり現れた洞窟のような『穴』から、アジア人と西洋人の混在した少年少女の集団が、ぞろぞろと出てきた。
仮にそこに明かりを投げても、様子が判然としないぐらい深い洞窟から、それぞれの様子は違っていたが、それでも集団の先頭にいたアジア人……日本人の少年と、西洋人……アメリカ人の少女は、伸びをしながら、後方集団よりは気楽な様子で声を上げた。
「いやー……なんというか、『地上の日の出』というのも久々だな―――!!」
「シャバの空気ってこういうのを指すのねー。
陽の光を浴びながら、『鶏鳴』のように叫ぶ2人だが、後ろの方はそういうわけにはいかなかった。
「どうでもいいが、お前ら元気だな……」
「まぁ何度か潜ったからな」
「タツヤでも疲れるのね。アナタもヒトの子だって分かって安心するわ」
気楽な言いようと、人を何だと思っていると言いたいカップルの発言に、『あのなぁ』と言い咎めたい気分だったが、それを言う気力も、いまはない。
刹那とリーナや後ろの方でわちゃわちゃやっている面子に比べれば、もはや達也の方はすっからかんの素寒貧である。
名も知らぬ草が生い茂る草原に出たことで、もはや恥も外聞もなくへたり込むことにしたのだ。
今はこんな草の匂いでも、達也にとっては安心できるものだ。
「お疲れさん。お前さんみたいに神経質なタイプに、ダンジョン探索はかなり削られることのようだな」
言いながら刹那は、古めかしいタイプのタブレット端末に何かを記入している。
帳簿だろうか? そう見上げながら想うことは、先程まで『潜っていた』場所に関してだ。
「ある意味、神経の図太さが要求されることだと理解できたよ……その一方で、『力』が高まることも理解できた……」
陽の光に手を掲げながら浮かぶ『線』の数々―――血管ではない。光り輝く線は、可視化された『演算領域』とも言えるものだ。
刹那の持つ魔術回路と違って無意識領域から魔法を展開する魔法師に、こんなものが発現するとは―――。
(よく考えたら、九校戦でリーナは脚を触って、刻印とも回路とも言えるものを出現させていたな)
アレは霊墓アルビオンに潜ったがゆえのものだったのかと考えたあとには、達也を睨みつけるようにしながらも刹那に抱きつくリーナの姿が。
「タツヤからセクシャルなプシオンを感じるわ」
「お前ね。そりゃ色々とスリリングな脳内スキーマ出まくりで、あれだろうけどさ……」
「何の話だよ。九校戦で一色相手に発言させたガルバニズムの刻印。アレはアルビオンに潜ったがゆえの副産物だったんだなと想って」
これ以上誤解を招くのもアレだと想って、正直に話した達也だったが。
『
どっちにせよ、やぶ蛇だったようだ。
考えを切り替えて、後ろの方からやってきた連中に視線を向ける。
後方の組は、資材運搬のための『巨牛』の上に乗っているものもいれば、闊達に歩いているものも要る。
要は、まちまちということだ。
巨牛の上……はたまた巨牛が牽く運搬車。丈夫でかつ魔術的な保護布で覆われた資材を下にして寝っ転がるものたちは、それが固くないのだろうか。
中世的な世界観でまれにある、畜産牛に食わせるための干し草―――山のように積まれた馬車の上に寝転がるかのようだが……。
「硬い土の上で寝転がることが多かったならば、呪体の上が天国に感じることもあるんだろう。達也もどうだい?」
「遠慮しとくよ。祟られたらばイヤだしな」
白骨ではない。昨今まで生きていた竜の骨、魔獣のそれを思い出すに、本当にアルビオンとは幻想の塊なのだと気付かされるばかりであった。
「―――………」
先程から忙しなく動く刹那を見ながら達也は想う。今回の探索は、自分たち―――未踏者たちには、とてつもないものだったのだが……。
刹那とリーナの感覚からすれば、『いつも』とは違うと思えたらしい。確定ではないが、
その所感が『良き』なのか『悪しき』なのか分からないし、更に言えば……。
(なにか企んでやがるな……)
その想いは、アルビオンに潜る前の『コーンウォール』における聖剣
あの時、確実に『アーサー王』に関係する魔術基盤は打ち付けられた。
その感覚は、恐らく時間を置いて多くのソーサラス・アデプトに伝わるはず。
事実、近傍にいた自分たちにもそれは感じられたのだから、まず間違いないだろう。
だが、それ以上の思考は不可能であり、刹那が気を利かせたのか、草木から柔らかな活気が疲れた身体に染み込み、寝息を立ててしまうのはしょうがないのだった。
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達也の疲労を理解していた刹那は、寝息を立てるのを容認しておくのだった。
同時にピクシーが清潔なブランケットを達也に掛けて、枕近くに座するのだった。
(志貴さんのメイド……翡翠さんも、こんな感じだったのだろうか)
何となく程度に考えつつも、状況を整理すると同時に通信状況を整える。
すると―――すぐさま望みの相手と通信が繋がった。
『どうやら探索は上々だったようだな』
現れた顔は、少しばかり疲れているようにも見える。後ろの方では『置いてきた』サーヴァント達―――特にキャスタークラスに類する連中が、どたどた動いている様子。
それを見ながらも、報告事項を頭の中でピックアップしておく。
「まぁ概ねは―――というか、内部状況はリアルタイムでお知らせしていましたよね」
『冒険というものは、最後には何かの報酬があってしかるべきだからな。まぁ我らの知るアルビオンは、近代に入ってからのものだからな。採掘都市もない、まだまだ原初のアルビオンの風景はそれなりに興味深かったな……では、刹那。お前なりの所感を聞かせてもらおうか?』
ロード・エルメロイⅡ世は、吸っていた葉巻を灰皿に置いてから、こちらをまっすぐに見つめながら聞いてくる。
画面越しとはいえ、その顔を覚えている。自分の知る先生の顔よりも若いが、それでもその顔に自分の感じたところを素直に申すことは、当然だった。
「―――いつになく『活性化』していると思えました。俺がアルビオンの墓荒らしをしたのは、この世界に流れ着いてから一年経とうとしていた頃ですが、あの頃は―――存在しているわけがないとすら思えていました」
『だが現実にアルビオンは存在していた。そして人理版図から完全に隠れるようにして、今まで開かれることは無かった。入った当初―――お前はどう感じた?』
「全てが化石化しているか、未踏ゆえにこの時代まで『人理の浅瀬』で生き残った幻想種が蔓延っているか―――まぁ結果的には『大して変わらない』と思えましたよ。当然、入るまでに倒されていなかった幻想種は、倒すまで苦労しましたが」
結論としては、元の世界の先人たちはすごかった。まぁそもそも、アルビオンを見つけた時点では、まだまだ神秘が『完全衰退』傾向を見せていない時代だったから、『いい勝負』を出来ていたかも知れないが。
現代の魔術師―――2020年代という時代の生まれである刹那に、それは難儀な話であった。
……もっとも、その難題に挑むのに『剣製』と『剣星』を使ったのは……。
『別に『チーター』だのとは思わんぞ。そもそも、我らのような存在こそ人類社会では、そういうものだしな』
「スターロード通っての、『城』までのショートカットを嫌がっていた先生ですからね。怒られるのではないかと想っていました」
『それならば、もっと早くに言っているさ。出来ることをやらないでいる―――それこそが、私の弟子の不条件だ。話を戻そう―――今回の探索に関しては、どう想った?』
その言葉に少しだけ心臓を掴まれた気分になるが、それでも答えるべき所を答える……。
「繰り返しますが、アルビオン全体が『活性化』している……そう思えました。
浅層にも拘らず
『クドウ君はどう思ったかね? キミも刹那と一緒に何度かアルビオンに潜っていた人間だ。所感を聞かせてもらいたい』
「ワタシも初期と違って、ステータスや経験も付いてきましたカラ……ハッキリと言えませんが―――幻想種が
リーナが率直な意見を出してくれたことで、師弟揃って確信する。
『やはり、か……確かに時代が未来に進むにつれて、そのチカラは弱まる。しかし霊墓アルビオンは、人理版図から隔絶された領域だ―――つまり……』
「―――アルビオン。原初の白竜に由来するサーヴァントが、現世にありて『力』を吸い出している……」
過去の存在であるサーヴァントだが、現世に存在している自分に縁あるものが、何かを齎すこともある。
事実、恐らく衛宮切嗣から『聖剣の鞘』を埋め込まれていた親父は、アルトリア・ペンドラゴンからの逆魔力供給で、『即死』も同然だろう状態からの復活が何度かあったぐらいだ。
そういう親父の危機一髪な場面を見るたびに―――……何故か、刹那は道着姿の大河おばちゃんとブルマを履いたロリっ子の幻を見るのだった。
いや、本当になんでさ。
「
そんな刹那のアホな思索を切り裂くように、深刻そうに聞いてくるリーナに、少し考えながら刹那は答える。
「目的が分からないのが、
敵か味方か知れない、アルビオンに由来を持つサーヴァントの存在。そのサーヴァントが、何者なのか―――ソレに関しては……。
「とりあえず
「モウ!セツナってば、発言が強気でオオモノすぎて感動しちゃう!! ステキ! 抱いて、ぎんがのはちぇまれ!!」
喜色満面で抱きついてくるリーナ。その髪を撫でながら、対面の師匠を見ると―――まぁ苦虫を噛み潰したような顔をしていたのである。
『……まぁ、お前の場合は、時に考えるよりも、出たとこ勝負の方がいい出目なんだよな』
『インテリジェンスを重視しつつも、直観に優れた打ち手だからな。羨ましいか義兄上?』
『分かりきったことを聞くんじゃない。とりあえずミス・シルヴィアもやってきたようだからな。積み上げ作業を終えた後は、『次のフェーズ』に備え給え―――『風』は動いているのだからな』
その符丁を聞いたことで、流石に感受性が高いなと、妙な感心をしてから―――周囲を見渡す。
今回の探索は、小規模チームを組ませることで、より『広く』『深く』動けるようにした形だった。
基本的にアルビオンの探索というのはチーム単位だが、今回はそれに少々手を加えることにした。
刹那の『無限の剣聖』によって『召喚』出来たサーヴァント達。
通常時は
そういう役割であった。刹那が生まれる前、まだ母が入学する前、というか『第五次聖杯戦争』時点で、フェイカーなるサーヴァントがアルビオンにて、幻想種相手に八面六臂の大活躍で最深層まで辿り着こうとしていた云々を聞かされていた。
あまりいい話題ではないのだが、エーテル体たるサーヴァントにとって、真エーテルで活動する幻想種は同じフィールドにいる存在と言える。
ソレ故の『サポートサーヴァント』を、直掩として寄越したわけだが。
(思いの外、ハマったもんだ)
特に三高の吉祥寺と一条の組は……。
「さぁ立て! シンクロウ! マサキ!! お前たちにある全ての伸び代を発揮させてこそ、真なる戦士となれるのだ!! 今までの経験なんぞ全て捨てて、一人の見習い戦士となるのだ」
「こ、これがケルトの戦士・英雄たちを鍛えた、女王スカサハのケルティックトレーニング!!」
「しかし、スカサハ殿……流石に、疲れが――――」
体を休めるということを知らないマゼンタ色の美女を相手に、進言する一条将輝だが……。
「セタンタもフェルグスも、これでやる気を出したものだ(ウソ)」
一瞬にしてバニーの霊衣を纏ったスカサハに対して、腰砕けだった
バカばっかかと感想を出して、白い目で一条将輝を見る深雪を見ながら―――。
「訓練もいいが、そろそろ迎えが来る。キリのいいところで切り上げとけよ」
迎えの『トラック』がぶっ壊れる事態だけは避けときたくて、そう声掛けをしておくのだった。
(さて、あとはどうやって決着を着けるか―――そして……)
英国観光の時間が取れるかどうか、それが一番重要であった―――。