魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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剣ディル実装―――おおっ! 遂にディルさんが輝ける日が―――けれど欲しいのは征服王閣下だったりする。


第21話『蠢動するものたち』

「ぐぎゃあああ!!」

 

「はいはい。公務執行妨害まで付け加えられたくなければ逃げるべきじゃなかったな。つーか魅了程度でこれかよ」

 

 

 嘆いてから手早く『赤布』を取り出し、芋虫のように拘束すると引きずるようにして連れて行く。一種の見せしめでもある。

 

 

「ぐぉおお! お、お前、遠坂!! このような扱いしていいと思ってぐぎゅぎゅ!」

 

「安心してくださいよ坂田センパイ♪ その布は優しい、やさしい、ちょー優しい『聖女』が男性を包んだものでしてね。窒息することはないんで、女に抱かれていると思って大人しくしているんですね」

 

 

 口元すらも覆い隠した『マグダレーナ』の布に懇切丁寧な説明をすると、流石に大人しくなる坂田という二年生。同時に、それを見た富竹という二年生も押し黙る。

 

 

「お前も容赦ないな」

 

「サイオン弾とエアブリットの打ち合いしといて逃げ出そうとした方が悪いんだ。こっちの富竹とかいうのはお前が引きずれ」

 

 

 クラブ活動勧誘期間二日目。前日の剣術部の騒ぎが響いたのか、どうやら嫌がらせのようなものを達也は食らう感じだった。

 

 本人は気にしないとか言ったが、こういうのは増長するとロクなことにならない。力を誇ることは愚かしいが、群れの序列を知らぬものは徹底的に叩くのみ。

 

 二度と反抗する気など起きないように―――母から教えられた鉄則だ。

 

 坂田と富竹を逃がすのを、ほう助した二年の一科生―――こちらに対して苦々しい顔をしているのに。

 

 

『次は貴様らの番だ。……黒鴉は『呪殺の象徴』、魔女の呪い……』

 

 

 スターズ隊員 シルヴィア・マーキュリー・ファーストから教えられた風―――空気の振動を利用した特定の相手にメッセージを届ける方法で伝えると。

 

 耳を抑えて、あちこちに視線を向ける。向けた後。ようやくこちらに気付いた所で―――。

 

 

『KAAAA!!!』『KAAAA!!!』『KAAAAKAAAA!!!』

 

 

「ひっ……!!!」「う、うわああ!!!」

 

 

 狙いすましたかのように近くの木からレイヴンの群れ―――10羽以上が飛んできて二人の頭上を周回する。

 

 どうやったのかなど分かるまい。サイオンの迸りすらないのだ。

 

 CADすらない―――疑問に答える者はいない。偶然かもしれない。よって……訳の分からぬ術で、自分達に敵意を向ける相手に―――最大の恐怖を覚えた。

 

 嘶きを頭上で上げる鴉はどこまで行こうと、着いていく。逃げるように去っていく二人の二年生を鴉は追っていくのだ。

 

 

(しばらくしたら戻っていいよ。エサはいつもの場所)

 

 

『使い魔』に思念で呼びかけておく。この学校に入ってから『近隣』にいる低級の動物を使役するべく、色々とやっていたが、鼠一匹いない。

 

 ネコぐらいだったらば校外から侵入するだろうが……、まぁ無難に『カラス』を使い魔とした。

 

 それがこうして役に立っただけだ。

 

 

 その後―――富竹、坂田を部活連に引き渡すと―――志道、速水という逃亡幇助を行った人間も疲れたような顔で出頭してきて、一連の『狂言犯罪』を認めた。

 

 

「分かった。司波、遠坂―――お前たちは出ていいぞ。すこし……俺も仏の顔がすぎたな」

 

 

 それらの報告を腕組みの瞑想で聞いていた十文字会頭のオーラは全員を慄かせる。

 

 めっちゃ怒ってる。サイオンの迸りが普通ではない十文字会頭。気をつけしていた四人が正座する様子が、この男の力を知らせる。

 

 もう森崎君のようにおしっこちびってもおかしくないね。

 

 

 興味本位で聞き耳立てたかったが達也に連れられて、即時に部屋を出て廊下を歩いていると―――。

 

 

『一年になめられないために、こんなことをやって貴様ら二年の沽券が本当に守れると思っているのか!!!!! その時点で貴様らの沽券なんぞ微塵の価値もありはせんわ!!!』

 

 

 怒号。本当の意味での怒号で怒っている十文字会頭。部活連の部屋から響く音で廊下がビリビリ揺れているように感じるほどだ。

 

 流石に卑怯・卑劣が過ぎることは、今後の十師族の顔を務めるだろう巌にとって看過出来なかったのだろう―――。

 

 そんな人間性を垣間見てから二日後……。

 

 

 流石に一昨日のようなことは起きていない。寧ろ、静寂なものだった。十文字克人というオヤジの喝! があまりにも効きすぎたのか、それともあらかたの勧誘活動及び新入生のクラブ活動は決まったのか……。

 

 ともあれ騒動の規模は収まって来たので、巡回もソロで回ることに――――。

 

 

 そうしていたらば、達也に襲撃を仕掛けてきたのがいたらしい。幸いケガは無かったが―――。下手人は取り逃がした。

 

 

 そんな顛末を聞いた感想は一つだった……。

 

 

 † † † †

 

 

「少し安心するよ。深雪から『神と悪魔のハーフ』かのように言われる達也も人の子だったんだなぁって」

 

「不手際なんて誰にだってあるさ。そもそも、お前は俺を何だと思っていたんだ?」

 

 

『神と悪魔のハーフ』が、こちらの言葉に苦虫を浮かべて焼うどんを食っている様子に苦笑しつつ―――。

 

 他の所に配膳をする用意をする。

 

 

「セツナ! おかわり!! 」

 

「はいはい。恒河砂麺でいいんだな?」

 

「あら? 虹色麺じゃなかったかしら?」

 

「名前がころころ変わるのもセツナの料理の特徴よ♪」

 

 

 それはどうなんだろう。という生徒会メンバー全員が思う。それにしても男女比において少し変わったものである。

 

 特にレオ達と待ち合わせをしていた訳ではないが、少しすっぽかしたことを不憫に思う。

 

 

「今日は焼き麺系―――和・洋・中の三国セット……ダメ。私のライフ(女子力)はもうゼロよ!!」

 

「とっくにそんなものは無かったと思っていたが、まぁ最近努力してきているみたいで弘一殿もさぞや安堵しているだろう」

 

「達也君、十文字君のセクシャルハラスメントに対して私は訴えを起こします!!」

 

「訴えを却下します。男女間の縺れは裁判所に―――」

 

 

 刹那の弁当を食べているのは何も、女子だけではなく十文字会頭と服部副会長も同席して相伴に預かっている。

 

 多めに作っておいて良かった。と思いながら、これがただの会食ではないことなど明白であった。

 

 

「それで―――何か、話したいことがあるのでは?」

 

「深刻な話をするには食後の方がいいんでしょうけど、とりあえずはこれを―――」

 

 

 自分が作ってきたお弁当を食べて闘志を燃やす七草会長が手渡したのは、動画データが表示されたタブレット端末だった。

 

 

 一年四人に渡す辺り、他の人間は既に拝見しているのだろう。それは、達也が神と悪魔のハーフから転落した瞬間だった。

 

 

「恥ずかしいな。自分の醜態を皆に見られ見るというのは……」

 

「カメラアングルは、襲撃者を撮っているが―――『こんなん』だったのか?」

 

「ああ、全然『見えなかった』」

 

 

 達也の証言で、これが『映像機器』の不備でないことは証明された。黒々とした何か霧のようなものに包まれた襲撃者。

 

 電子機器すらも騙すほどの幻覚魔法。それだけでも魔力リソースが全て取られていてもおかしくないのだが、その上でこの人物は達也に襲撃を掛けて、その後、脱兎の如く駆けだしたらしい。

 

 焦点のずれた映写のように、映像だと言うのに詳細が分からなくなる。そもそも『人間』であるかも分からない。

 

 

「これを撮ったのは?」

 

「匿名での投稿だったのだけど、一応発信源を探知させてもらったわ。深雪さんのクラスメイトの光井って子よ」

 

「ほのかが……」

 

 

 驚く深雪だが、十文字会頭が喝を入れた日。その際の達也に対する狂言犯罪が多すぎたことを目撃していた光井から刹那は『願い』を受けていたのだ。

 

 しかし、その後、とんと止めになった。結局、光井の願いは不発に終わり巡回も一人で回ろうとしていたところを狙われた。

 

 

「また二年生ですかね?」

 

「だとしたらば、もう一度、気合いを入れる必要がありそうだ……」

 

 

 だが、十文字会頭の喝以来―――特に達也の実力が蛇のように俊敏で、刹那の眼が鷹のように鋭いことから二年生は大人しくしていた。

 

 

 最強の二科生と異能の一科生などと言われては恐れられている。―――せめてセクシータツ、ダンディセツナ辺りで浸透していれば良かったのに……。

 

 

 そして三年は、もはや卒業後を意識しているのか、それとも十文字会頭の『思想』が浸透しているのか、特に関せず。むしろ二年を締め付けていたほどだ。

 

 

「まぁ何にせよ。今日でデバイスの携帯制限も出来るんだ。こういうのも『止み』だろ」

 

「そう願いたいな」

 

 

 CADの携帯制限が復活する以上、これ以上は校外でしか襲えなくなる。そうなれば官憲の出番となる。日本の司法機関とてバカではない。

 

 如何にお互いが魔法師とはいえ、傷害事件を放置していては、治安機構の威信に関わる。

 

 

 そんな訳で、こちらとしても聞きたい事があった……。

 

 

「先輩方に聞きたい事があるんですけど、剣道部の主将の司先輩ってどんな人ですか?」

 

「キノくん? そうね。二科生なんだけど魔法理論や普通科目ではトップの成績よ。それとご実家が陰陽師の家系だとかなんとか聞いたわ」

 

「司波にも似ているかな……ただアイツの場合、『弟』なのだが……」

 

 

 愛称を『勝手に付ける』ぐらいには、七草先輩も知らない人間ではないようだ。そして十文字会頭は少しだけ歯切れが悪い印象。

 

 

「私達の世代は、この『二人』―――知っての通り『十師族』の子女、子息が目立って、本当に『一科』と『二科』の溝が深まった世代なんだ」

 

「摩利」

 

「事実だろ。私も先祖は『渡辺綱』ってだけで、ようやくこの時代に魔法能力で百家末流に上がっただけだからな」

 

 

 指で差した二人。指された方の一人が咎めるように言うもそこは容赦しなかった。そんな摩利先輩の衝撃の過去に対して、リーナは、はっ!として耳打ちするように刹那に聞いてくる。

 

 

(セツナ―――ワタナベノツナって、もしかして!?)

 

(ああ、前に言っていた『英霊』の一人、『マグロ投げ』(ツナ・トス)の英雄―――渡辺綱(わたなべのつな)だ!)

 

「おい、そこのアメリカ人ども。勝手に私の先祖を変なものに祭り上げるな」

 

 

 スキル:地獄耳C を使ったのか怒っている渡辺綱の子孫に謝罪してから、話の続きを聞く。

 

 

「つまり、今の三年生は『生え抜きの人材』と『良家の子息、子女』が、目立っていて更に言えば関係も近しいから、一科二科は特に対立も深刻―――」

 

「そんなんで会長。良く学内改革なんて進めようとしましたね?」

 

「ひどいっ! 一年生男子二人が私をいぢめる!! ……けれど、だからといって『傲慢』に振る舞うなんて余計に出来ないわよ……魔法師は団結してその上で、人類社会の一員になっていかなければならないのだから」

 

 

 改革の意思は強いようで何よりだが、こういうのは難しい。本当にだ。

 

 ロード・エルメロイⅡ世の名で以てニューエイジの魔術師たちを育ててきた先生とて最終的には貴族主義派の派閥にいたのだ。

 

 本人にその意志があったか、なかったか―――贖罪の人生だ。などと自嘲する彼の内心は最後まで刹那にとって謎だった。

 

 

「二年生はそう言う意味では、まだマシだったんだがな。せいぜい百家本流、支流程度……桐原はある意味、生え抜きの中の生え抜き―――壬生だってそこまで差は無い。二年の一科二科の差なんてほんの少しなんだけどな……」

 

「けれど『上』がこうだから、ああなったと?」

 

「本人達を前にしてなんだがそういうことだ……ついでに言えば桐原がお前と司波のことを知っていたのは俺が教えたからだ」

 

 

 上の意識、能力差が下に伝播して選民意識を生む。その悪循環こそが、結局―――人間をありのままに見れなくする。

 

 服部副会長の言葉。若干怒っている風なのはなぜか―――。

 

 

「あの日食べたラーメンの味を僕達は忘れない……」

 

 

 通称『あのひら』なことを思い出している服部副会長。その答えは、手持ちのホワイトボードを見せてきたあーちゃん先輩の文字で知れる。

 

 青春ですね。と思いつつ、『あの日受けた右ストレート(達也の魔法)の痛みを僕はまだ知らない。』―――『あの右』が原因とのこと。

 

 

 なんでそんなにあずさ先輩知っているんですか? と聞くと服部を頭撫でて慰めたからだと書いてきた。

 

 流石にシルバーホーンに夢中になって同級生たる自分も忘れていたことに罪悪感があったようだが―――。

 

 それに対して一年四人の同調した答えが同じくホワイトボードに書いて出される。

 

 

『『『『(LOVE)ですか?』』』』

 

 

「違いますよっ! そういう風な邪推やめてくださいよ!! そもそも服部君どうみても真由美さん意識しているんだから!! つーかなんだそのシンクロしまくった解答は! ループキャストか!?」

 

「な、中条!? いきなり何を言っているんだ!?」

 

 

 桐原先輩と来々軒で食べたラーメンなどを思い出し、眼を閉じて浸っていた服部先輩には分からないやり取り。

 

 赤くなって大声でいうあずさ先輩と驚く服部先輩に対して、すぐさまホワイトボードを隠した一年。真相は闇の中に葬られた……。

 

 

 この一連のやり取りに、三年生は全員笑いを隠しきれていない。やった自分達もここまで上手くいくとは思っていなかった。

 

 とはいえ、話を戻す。

 

 

「まぁ甲も色々だ……正直、あいつは魔法を嫌っている印象だったからな……今の親父さんの連れ子、義理の兄貴に言われて一高に入ったそうだが……」

 

「ふぅん」

 

「深い事情を聞くか?」

 

「大まかには察しがつきます。魔法と言う異能を持ったが故に実の父親に嫌悪されて、それゆえ今の家族との仲を崩したくない。そんなところでしょ?」

 

 

 重々しくうなずく十文字先輩。魔法師であるがゆえに魔法を嫌悪する輩というのもいる。そういう『感情』は、刹那にとって分からなくもないものだ。

 

 

「……だから、旧帝大卒の兄貴と同じく一般大学を受けるとも言っていた。まぁ東大狙いだろうな。―――だからこそ最近の動きが気掛かりなんだ」

 

「そんな未来を見据えている人が、『変な活動家くずれ』に通じていることが、ですか?」

 

 

 その言葉にリーナと刹那以外の全員が、耳朶を振るわせて眉根を寄せた。ここで手札を晒したのは前から予定にあったことだ。

 

 リーナも了承済みの事で、本人はオレンジジュースを飲んでいる。

 

 

「一応、俺たちも在日アメリカ人という立場の『魔法師』だからな。USNA本国、経由して大使館から色々な情報が届いているんだ。まぁいわゆる渡航注意喚起やテロ活動云々みたいなことだよ」

 

「成程、USNAもこちらの動きに眼を向けていたか……」

 

 

 達也のどこか冷たい言葉が響く。それに対してリーナも少し硬い調子で答える。

 

 

「そういうことよ。流石に同盟国―――4年前に当時の主流派が見捨てたことが感情的なしこりになっているのは分かるわ。けれど私達も後悔して憂慮しているのよ」

 

 

 沖縄海戦。佐渡侵攻―――社会主義国家の扇動に対して意図的なサボタージュをしていた連中がいたことも知っている。

 

 魔法技術のシェア争いで競合関係にあるのも分かる。だが第二次大戦後のGHQ及びトルーマン・ドクトリンによってこの列島が、防共のラインとなったように……。

 

 ここを見捨てたくないものも多い。特にアメリカは移民国家であり、今でも魔法師関係なく元は日本人にルーツを持つ議員も多い。

 

 彼らの心情と日系人の『票田』を見捨てるというのもあまりいいことではない。如何に生粋のアメリカ人とはいえリーナのように、日本に憧れを持ち、祖国の地に愛を持つものもいるのだから。

 

 

「……行動を起こされても面倒ですし、一度何かしてみませんか?」

 

「そうはいうけど深雪さん。まだ彼らは何もしていない―――いえ、もしも達也君を襲ったのが司くんの手の者、もしくは本人だとしても、証拠がない以上は……」

 

 

 深雪としては兄貴に不逞のことを行った時点でリミットが外れているが、そこは生徒会長として容認しきれるものではない。

 

 証拠も無く、変な輩と通じているから『お前が犯人だ!』などと吊し上げをするにはまだ弱すぎる。この国には思想信条信教の自由、政党結社の自由もある―――。

 

 彼らに介入するには、それが法治国家として『容認』できないラインになってからだ。それこそが自由の代償であるのだが……。

 

 

「俺も―――長い事、ダメだったのかもな。本当に見なければならないものを見ずにいたのかもしれない」

 

 

 俯いて考え込む男。これだけの偉丈夫が、落ち込むなどそうそうないことではないかと思う。

 

 

「十文字君?」

 

「遠坂、放課後に時間を貰えるか?」

 

 

 呼び掛けた七草会長ではなく刹那に眼を向けて、了解を取ろうとする十文字会頭に何用かを聞くことなど出来ずに頷く。しかし察しは着いた。

 

 

「―――討ち入りですか?」

 

「ああ……ある意味な―――『ついて来れるか?』―――」

 

 

 一瞬、ほんの一瞬ではあるが、会頭の言葉と声に―――『親父』を感じた。おかしな話だ。刹那の親父はもう少し高い声質なのに―――。

 

 緊張したのを悟られただろうが、構わず声を張り上げる。

 

 

「鉄砲玉にしようってんだ。アンタの方が『ついて来てください』よ」

 

 

 そのやり取り。察しが付いたのがいる中で誰もが呆然とする。なんせ完全にヤクザの出入りも同然のやり取りだからだ。

 

 

「会頭! 俺も―――」

 

「いや、服部。お前が行けば反感を買う。一科二科という括りではない。この学校に一年もいた人間だからこその『感覚』がある人間ではかならず何かの『色眼鏡』が入る―――遠坂。お前が感じたままに言ってくれ」

 

 

 勢い込む服部副会長を手だけで制する会頭に、なんやかんやいってもこの人が顔役なのだろうな。と思う。

 

 この男こそが日本の魔法師。いやもしかしたらば、世界の魔法師の規範となるのかもしれない。

 

 

 誇り高く、自制し、頑健であり、強力、明快、そして正統でもある。あの剣術部の連中すらも否応なく従うのは、そういうところがあるからだ。

 

 

「放課後はワタシは生徒会で帰りは待ち合わせなんだから、どこに行くか、何をするかぐらい言っておいて」

 

「ああ、三年生の二科教室棟―――司甲先輩と『お話』してくるよ」

 

 

 何の確証もない。何か証拠があるわけではない。しかし致命的なまでに『遅れた結果』ばかりがあっても、無くさなくてもいいものばかり無くしていく『未来』(あした)などまっぴらだからだ。

 

 

「刹那。まだ『彼ら』は何もしていない。なのに―――やるのか?」

 

「今回の事、剣術部と剣道部のあれこれ、そしてお前に対する嫌がらせ行為―――全ての『根っこ』に対して一度話をつけてくるだけだよ。何もドンパチやるわけじゃない」

 

 

 だが、それはもう『避けられないのかもしれない』。

 

 壬生紗耶香、司甲、そして剣道部の殆どに『施術』されていたものが、恐らく『破局』(さいご)を齎す。

 

 見たくもないものを見てしまったが故に、見えてしまう未来(けつまつ)が―――、どうしても憎くなるのが刹那であった。

 

 

 

 † † †

 

 

 廃工場。そう呼ぶべき場所にて、『食事』が行われていた。その光景を目にしていた男は、震えながらも―――これが、『力』かと歓喜する。

 

 

『ハジメくん。あなたの弟は不手際やっているわけじゃないんだけど、少し手間がかかり過ぎるわ。こうなればこちらから『強引』な招待をしてあげたらいいのかしら?』

 

 

 稚気を多分に含んだ少女の言葉は不機嫌さを隠せていない。あるならば、ネイルにマニキュアでも塗っていそうな様子で気の無い様子を見せている。

 

 

「いえお待ちくださいミス―――甲も色々考えているのです。それに第一高校の魔法師全てを『生贄』にしなければ、あなたの目的は果たせないのでは?」

 

 

『専門的なこと』は、言った司(はじめ)も分かっているわけではないが、彼女がやってきた時に、言われたことを思い出して反論する。

 

 確かに彼女は強力な『魔法師』だが、その力が強大すぎる。もはやこのブランシュ日本支部における支配者は自分ではない。

 

 スポンサーからすれば何をしていると言われかねないほどで、実際スポンサーが使い込みをしていると思って刺客を送り込めば―――。

 

 五人いれば三人を『操作』してこちらに送金をいつも通りさせて、二人を手駒―――否、支配下に置き『変化』させた。

 

 

 今でもこのブランシュ日本支部は、変わらず潤沢な資金と、豊富な資材を手にして潤い続けている。だからこそ待つように言う。例え数瞬後に殺されたとしても構わない。

 

 それは一が、どこまでも望んだ『超越者としての攻撃』なのだ。どんなものも好き勝手に蹂躙して、支配できるまさしく『独占』の真髄。

 

 

『ふぅん。まぁいいわ―――けれど、モノには限度と言うのもある。その時は、派手にやらせてもらうわ』

 

「もちろんです。その時には、私の身体にも『順応』しているはずですから―――あなたの尖兵として、働いて見せましょう」

 

 

 恋でもなく愛でもない。崇拝、信奉。それを捧げられるものがいた。熾天使の刻印を『胸』に刻んだ少女の姿をした超越者。

 

 それが奏でるものになりたいと願うのだから……。

 

 


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