魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
「そう言えば、フライホイールの運転とかって大丈夫なんですか?」
「流石に多少のオート作動機能は存在しているよ。とはいえ物理的に壊されてしまえば、どうにもならないけど」
「そういう時に備えて我々がいるということだ。まぁその他にも、企業テロに備えての企業軍という側面もあるのだがね」
その言葉の後に、電力管理部門の主任と警備部の主任とに おじやとも中華粥ともいえるものを『お疲れさまです』と言いながらよそうのだった。
最後の一杯なのか、『湯漬け』のごとく掻き込んだ後には北山潮の近くに行き、『仕事に戻る』旨を伝えた時に―――『変化』が訪れる。
煌々と灯りを点していたパーティー会場に暗闇の帳が落ちるのだった。
「停電―――」
「すぐ戻ります。アンダールートを使うぞ」
ゲストたちを必要以上にパニックに陥らせないために、静かに事態を招集しようとするプロフェッショナルの姿に感心するも、事態は更に切迫する。
巨大な電子画面。様々なインフォメーションを知らせる画面に、とんでもないエマージェンシーが発生したことを伝えてきた。
「フライホイールの停止……!?」
「バカな。姿勢制御用機構の電力供給は最優先のはずだぞ」
もはや、これがただの自然的な
人為的災害。何者かの悪意を持った仕業が、この塔を覆う。
「セツナ」
「ああ、分かっている」
リーナに言われてから、紅いイブニングスーツのインナーポケットに収めておいた宝石袋を取り出す。
しかし、まだ―――いまは事態の推移を見定める。
「これがただの事故でないならば、何者かの犯行声明なりアジテートがあるはずだろ」
「そりゃソウヨネ」
刹那の左腕を取りながら言うリーナ。そうしていると、遂に犯行声明を読み上げるためなのか……モニターに『ガスマスク』を着けて、ここにいる魔法師警備員たちと同じ服装をした、画面に見える限りでは……五人ほどの集団が映し出された。
『――――――電源管理室に誰もいないと想っていたらば、こちらだったとは……しかも―――東郷主任まで、こちらにいたとは……』
「岬、そんな格好をして……何を―――」
嘆くように言葉を吐く正面中央にいた青年(?)らしきガスマスク付きを誰何する東郷だが、次の瞬間には犯行声明が告げられる。
『宴席の最中に申し訳ありませんが、我々の話を聞いていただきたい。我々は進人類フロント―――魔法師の権利回復を目指す団体です』
その言葉を聞いた瞬間、居並ぶ面子の中で何人かはその団体の名前に覚えがあったのか、少しだけ硬い顔をするが、すぐさま『馬鹿者』どもを取り押さえるべく、東郷主任がハンドサインで部下に命じようとしたが―――。
『東郷主任、動かないでいただきたい。我々がいるのが地下であり、我々のやろうとしていることを『いざとなれば』『即時実行』することも考慮してもらいましょうか』
「やろうとしていること……?」
『タワー内部に居る人間全てに危害を加えるつもりはありません。ただ、今日―――ここで起こる出来事の証人になっていただくだけです。しかし、妙な行動……邪魔立てをすれば、どうなるかは分からないとだけ言っておきましょう』
「―――何をやるつもりだ?」
『このタワーを破壊します』
端的な言葉。そして現在の停電状況という『光が途絶えた』中では、この上なく現実的な言葉に聞こえた。
その後のアジテートの言葉……岬寛なる男の考えなのか、それとも誰かに吹き込まれたのかは分からないが、要約すると――――。
・地下労働している魔法師達に対する人権侵害は許せない。これは現代の奴隷労働である。
・しかも万が一のことが起きた場合、生き埋めになれと言っているも同然。
・こんなことは文明社会の一員として、許されざる暴挙だ。
・よって抗議の証として、このタワーを破壊する。
『皆さんがタワーから退去するまで我々は何もしません。ただし! 我々の行動の妨害をすれば即刻ビルを破壊します!!』
センセーショナルすぎるアジテートであり、暗いパーティー会場にいるゲストたちが恐慌して卒倒するんじゃないかという時に―――。
「暗いと不平を言うよりも、すすんで灯りをつけましょう―――ってヤツだな」
それが呪文であるかのように、『パッ』とパーティー会場の照明全てが灯されるのだった。
『なっ!?』
「ええっ!?」
「むっ!?」
画面にいる岬寛一同及び、パーティー会場にいる人間たちが驚くのも当然だ。
停電が復旧したかのように、灯りがともされたのだ。不安と恐怖に満ちていた人々が、驚きつつも少しだけ平静を取り戻す。
『バカな! 電力供給は絶ったはずだ!! なぜそこだけ明かりが灯る!!』
驚愕を声とガスマスクの向こうの視線で表す岬。それを見て上手くいったと想う。
「暗いのは苦手だし、何より俺の佛跳牆を美味しく食べていたヒトたちを、恐慌させるのはイヤだったんでね。少々―――『自家発電機』を設置させてもらったよ」
聞こえているかどうかは分からないが、進み出た刹那withリーナの姿に注目したあとには、自家発電機とはなんぞやと思っていると……。
「お身体は大丈夫ですか、光宣さん?」
「僕ならば―――それよりも、ヒカル―――キミは大丈夫なのかい?」
「セツナが供給ルートを絞ってくれているからね。ミノルこそ身体を自愛しなよ」
「僕は幸せものだなぁ―――恋人と愛妹から身体を心配されるなんて……」
どちらかといえば『もやしっ子』な身体を心配されていることを理解しながらも、そんな言葉で己を慰める美形少年に誰もが注目をした。
少年は、何かのリングを手首に装着しながら、この会場の手動電源スイッチ付近で何かをやっていた。
「CADじゃない。エーテライト系列の礼装か。それで光宣は何をやっているんだ?」
興味津々すぎる達也の質問に、特に拘ることもなく説明をする。単純な話だ。
「スパークの応用で、電気供給だ。流石にフライホイールまでは回せないけどな。暗い室内じゃ冷静な判断なんて出来ないだろ」
傍に寄ってきた達也に『佛跳牆粥』を渡しながら説明をするも、『なるほど』と納得はしたようだ。
優れた魔法師であれば、部屋の規模と術式の応用次第ではあるが、フロア一つ分のエネルギー量を賄うことは出来る。
無論、電圧を掛け過ぎれば壊れてしまう可能性もあるので、細心の注意が必要なのだが。
ともあれ、こういった時に『自家発電機』を用立てられるのは、神秘技能持ちの特権ともいえる。
「―――エネルギー源は、九島ヒカルちゃんか」
「達也が子供相手に『ちゃん付け』とか……」
ちょっと新鮮と思いつつも、光宣には少々踏ん張ってもらいつつ、その間に……。
「茶化すな。んで―――この後の展開はどうするんだ?」
「お前がここから端末で、電源を完全に復旧させられるならばいいんだけど―――まずは『話し合い』だな」
そうしてから、通話用のレシーバーらしきものを受け取って、中央付近まで進み出る―――。
「―――こんばんワンリキー♪」
―――と、フレンドリーに挨拶をするのだった。場の空気を考えろ。という無言での圧を感じたが。
『こんばんワンリキー!……いや、何というか……のせられてしまった!!! 魂が震えるような言霊を感じたんだ……』
意外でもないが、こちらのおどけた挨拶にノッてきた岬寛は、彼の周囲の面子が白けるとまではいかずとも、『みっちゃん、どうしたんだ!?』という驚きの声を上げた。
そこを狙ってすかさず刹那は声を差し込む。
「あー……岬さんでしたっけ? どうもお晩です。ちょっとばかり先程、北山社長に経営アドバイスとも言い難いものをさせていただいた。しがない魔法師の学生です」
その言葉に胡散臭い、疑わしい眼をする岬寛だが。その後には誰であるかを看破されてしまう。
『……――――しがない魔法師の学生が社長と話せるだと? ウソをつくな。君は
こちらの正体がバレるのは、まぁ分かりきっていた。そんな刹那に怒りも顕だが、感情を高ぶらせたことで、話に乗ってきた。よって『交渉』を進める。
「先程のお話、全て聞かせてもらいましたが―――まぁその通りですね。如何に待遇がよけれども、避難施設が地下に設定されているとはいえ……いざというとき、『東日本大震災 』クラスの災害規模が『起こる』という前提に立てば、そうなる可能性は否めませんからね」
『むっ……』
まさか『同意』をされるとは想っていなかったのか、少しだけ呻くようになる岬。
「更に言えば北山社長も地下に常駐しているということは『不健全』であると認識して、増員計画もあると言ってましたよ。無論、その際のローテーション勤務での給与体系は、少し違ってくるでしょうが」
『……本当なのですか、北山社長?』
そのタイミングで、受け答えの相手を変える。
マイクを北山社長に渡しつつも、視線は岬寛を見据える。
まだ彼から『眼』を離すわけには行かない。
「ああ、元々そういった安全性及び地下常駐という不健全性は、遠坂くんより前から部下などにも言われていたからね……勤務シフト及び、ここの商圏としての活用は色々と変わっていくだろう。
だが―――僕としては、先程遠坂君が述べたように……何かの大災害が起きた時、ここを不倒不沈とまではいかずとも、それに近いものにしたい」
『……どういう意味でしょうか?』
「どんなに、ヒトが絶望的な状況になったとしても―――ここにだけは、灯りを点していきたいんだ。例え街の中から光が消え去ったとしても、この東京オフショアタワーを目印に、人の輪を再び繋げていければと想う」
その考えは、商人として随分と先を見ている考えだった。
だが、その時……大災害を超えるために、東京都を復活させる際に―――最後の砦になってくれればいい。
その際の一助として、魔法師たちはこのタワーを支えるため。人々の最後の砦の守護者となってほしいということだ。
「もっとも、さきほど語ったことも未知数だ。自然災害からの危難に耐えられたとしても、人為的な……例えば、他国からの軍事的策動で、ミサイルの直撃・範囲攻撃など受ければ、そんなものは一発で吹っ飛ぶ計算だ。
まぁ何にせよ………労働状況に関しては応相談だよ―――だが、せめてそういういつ起きるか分からない『危難』の時、はたまた何かの予想もつかない事故で、このタワーが安定をしなくなった時のために、君たちを警備員及び機構安定員として雇わせてもらったんだ。全てを語っていなくて申し訳ないね」
『わ、私は……』
戸惑いの声をあげる岬。だが、それでもこの話の突き詰めたところとは……。
万が一の時なんて、当然来ないほうがいいに決まっている。
一瞬にして世界がひっくり返るほどの日常の崩壊なんてのは、無いほうがいいに決まっている。
そういうことだ。
だが、無情なことに、人の世とはいつなんどきでも、そういう
「本当に、暗いと不平を言うよりも、すすんで灯りをつけましょう―――だな」
「岬さんは、元々、地下にいるということが耐えられなかった人なんだろ」
何かドリルなロボをカッキー(?)と使って天元突破するように。
ヒロCたちと一緒に監獄を脱出することを画策するように。
まぁそういうことだ。達也に返しながらも考えることは、そんなことだった。
そうして、そんな説得工作の間にも『作業』は完了させていた。
あとは―――――このまま何事もなく、彼が銃を置いて此度のことを穏便に済ませてくれることを祈るだけだ……。
しかし、相手も譲れないものがあった。それは交渉を全てひっくり返す案件だ。
一息ついてそして、いい加減ガスマスクを脱いだ岬寛―――は、決意を込めて語る。
『北山社長の深謀遠慮な考えと先見の明には感服しました。ですが―――私はすでに決めたのです。
私は進人類フロントの代表―――教主レナ様の字名を用いる『カン・フェール』を名乗っている。このタワーを現代のバベルの塔として、砕くことを決めたのです!!
私を倒し黙らせたとしても、私の意志を継ぐものは、いずれ現れる!!! ここで行動を起こすことこそが正道であると信じているのです!!!』
バカ野郎が! と内心でのみ怒鳴りながら、それでも行動を起こそうとする男を止めるには、これしかないのかと想う。
そして―――そんな岬寛ならぬ『カン・フェール』を名乗った男の横には、先程例に出した天元突破しそうな作品のアニキよろしく、露出強な女ガンナーがいたのであった。
いつの間にか現れた女ガンナーは、ガスマスクも着けていないことで、視線が分かりやすく明らかに刹那に視線を向けていることが分かり……ネコがネズミを狩る前の視線に似ていて、居心地の悪さを感じる。
「そうか……ならば、僕はそれを阻止するためにロードにご依頼するしかないな。僕としても、ここを崩されては困るからね」
『ゲストの皆さんの命と引き換えにでもですか?』
「年若いキミに教えてあげようか―――『取引の鉄則』とは、まず第一に〝誠実〟であること。そして──相手の〝不実〟に対する備えを怠らないことだ」
ビジネス世界の戦士『北山潮』の発した言葉で、刹那は魔眼の投射を終える。
すると、岬寛もとい『カン・フェール』は既に……パーティー会場から殆どの出席者がいないことに気付いたようだ。
『どうなっている!? 私の眼は、確かにそこにいた人質たちを捉えていたはずだ!!』
「生き証人じゃなかったのかよ―――なんて揚げ足取りはせんが、こうやって交渉している最中に、生憎ながらゲストの皆様方にはタワー外に避難してもらったよ」
『みっちゃん! 遠坂の言うとおりだ!! 既にタワーの外。離れた臨海エリアで―――二次会を続行中だ!!』
モニター役と思しき相手の言葉を受けて、どういうことだと言わんばかりの視線を受けて説明する。
「ちょっとした手品ですかね。去年の九校戦で、最近―――心労たまり過ぎな爺さんのやったことを真似た。
魅了の魔眼を弱状態にして、岬さん。いやカン・フェール。あんたの視線を誘導したのさ」
そして、その間に『正常稼働』しているエレベーター全機を用いて、ゲストたちを迅速に外へと誘導したのだ。
幸いなことに、荷物を預けたのが一階のインフォメーションセンターであることも、避難を迅速にした要因である。
もっとも……こんなとんでも落成式に来る人達である。そんじょそこらのセレブではなく、正装したまま自宅から直で、自家用車なり所有しているコミューターで、こちらに来た人間ばかりであろう。
『会話に集中させられたのも、そのための仕込みだったのか……流石は『魔宝使い』―――教主様が、最優先で首を獲れと仰せの意味をよく理解できた』
「俺の特技は、あんたみたいなもったいぶった輩をギャグの世界にひきずりこんで、三枚目として葬り去ることさ」
「それは特技としてどうなんだよ?」
だが、効果は覿面である。一番マズイのは、逆上して一切合切を壊されることだった。
「さて、それでどうする? いま、ここで矛を収めれば罪状はそこまで重くはならないと想うが―――まぁ破壊活動準備罪、騒乱予備罪ってところかな? どうする?」
『どうするも、こうするもない―――私の考えは変わらない―――私を止めに来るか?』
「そうさせてもらうよ。色々あるが、そういうことされると、世話になった皆に顔向けできないからな」
あんただって雇われた礼とか無いのかと思っていると……。
カン・フェールを押しのけて、カウガール姿の美女がずずいっと画面の前に出てきた。
押しのけられたカンは、その力の前では無力であったらしく。それが女の出自を明らかにしていた。
『やれやれ、蒼輝銀河で正義のバウンティハンターとして鳴らした腕も、今じゃテロ屋の手先か。とはいえ進人類フロントにたいしては、一宿一飯の恩義だからね……それじゃイシュタりんの息子〜〜♪
前屈みで胸を寄せた仕草のままに、魅惑の投げキッスをしてくるカウガールの姿のあとには画面は映像を映さなくなり――――。
「……大変だな達也。ちゃんと避妊はしろよ」
「どう考えてもお前だよ。イシュタりんの息子とか俺が一番合わないだろ。ベル○ンディーの息子とか言われれば、まだ分かったけど」
どうやら、カン・フェールだけでなく、達也に対するごまかしも無理があったようである。
ともあれ事態の解決は言葉ではなく、拳任せとなってしまったのは間違いなかった。