魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第308話『ROOKIES―――入学』

四月八日、国立魔法大学付属第一高校入学式当日の朝。

 

入試スケジュールの変更及びその前から起こっていた恐るべき東京魔導災害などの諸々の影響を受けて、在校生の始業式は、何と入学式の後ということに相成っている現在、あちこちが、本当にてんやわんやであった。

 

よって当日になっても混乱は収まらなかったのだ。

 

「私の祝辞など要らんだろう。優先すべきは別にあると想うが」

 

「けれど、ノーリッジの主任教師として一言いただきたいのですけど……」

 

「その為にキミのスケジュールを圧迫するわけにはいかないな。ミス・中条」

 

そうしてから懐から葉巻を出そうとした仏頂面の教師を制止する。

 

「先生、ここ禁煙です。吸いたければ無煙タバコで」

 

「喫煙者には世知辛いな……」

 

 

生徒会室にてプログラムの変更というか圧縮を試みていた面子であったが……最大級の問題は―――。

 

「んじゃ泉美。今日こそは、うちのボスに何も言われない答辞の文章を書いてきたんだろうな?」

 

―――今年の総代を務める女であった。

 

「ふっふっふ! なめてもらっちゃあ困りますよ刹那先輩!! 女子三日会わざれば刮目して見よ!! これが私の全力全開です!!!」

 

 

答辞の文章に全力全開とか、今年の総代は大丈夫なのか?と、そんな疑義の視線が飛んでくるが―――。

 

刹那にとって顔見知りの女子は、お構いなしにドヤ顔を改めてから行動に出る。

 

「ではビッグボス。こちらを検めてください」

 

折りたたまれた紙を恭しく平身低頭しながら中条に差し出す泉美。

 

机にいながらそれを受け取った中条ボスは、両手を使ってそれを広げて読み進めていく。まるで戦国大名が使者の(ふみ)を読むかのような所作。

 

横からその文章を覗き見する刹那だったが……。ようやく胸を撫で下ろすことが出来そうだった。

 

中条ビッグボスも同じだったのだが。

 

「はい。大丈夫ですよ―――いやー……添削2回の効果がようやく出てくれましたか」

 

「今度から、こっちで適当に用意した文章を読ませた方がいいんじゃないですかね」

 

「それじゃ味気なさすぎますよー……」

 

だが、今年度の総代である『七草泉美』が最初に提出した文章はとんでもなかった。

 

文章のセンテンスを抜き出すと……。

 

『深雪お姉さまとのこれからの学校生活』

『胸のタイを直してもらうような日々』

『めくるめく甘やかな匂い』

 

大体は、上記のようなもので埋め尽くされていたのだ。

 

全文読むだけでも一苦労。特に中条会長など―――。

 

『……うっぷ』

 

などと吐き気をこらえるような仕草をしたのだった。

 

いや、気持ちは分かる。現代魔法とか古式魔法とかとも違う『真正の魔導書』を読み込む刹那ですら、その難解な文章を読み込むのとは違う……。

 

形容しがたい不快感と謎の羞恥心が、色々とまぜこぜになって、恋とかじゃないのに胸が張り裂けそうであったのだ。

 

「まぁ入学式では……頼むからおとなしくしてくれよ」

 

心の底からそれを願うも、イタズラを思いついたかのように、泉美はにやにや笑いながら反論する。

 

「総代としての意気込みを語りたかったんですけどねぇ。

―――『誰に笑われたっていいさ、笑われても何度でもやってやる。それが出発点からでもな。』とかぐらいに、強烈なものを」

 

「俺の若気の至りをほじくり返すな」

 

泉美を窘めるも、考えるにまさか姉貴をめったくそにしたことに対する意趣返しかと想うが、そういう後ろ暗い感情ではないようだ。

 

ともあれ……。

 

「泉美だけじゃ不安だ。やっぱり先生も祝辞を述べてください。なんつーか、ノーリッジの生徒たちを安堵させるためにも必要ですよ」

 

ひどいっ! という泉美の言葉を聞きながらも、無煙タバコを呑む教師に言ったのだが。

 

「やはりいらんな。ああ、残念ながらいらぬことをやるほど暇ではないしな」

 

「そうでしょうか?」

 

新入生を安堵させたい想いは同様であった中条ボスの疑問の言葉に、ウェイバー先生は苦笑しながら答える。

 

「私が来る前に、刹那がそのように『道は俺が切り開く』などと言った以上、繰り言はいらんだろう。私が生徒に言いたいことは授業の中で伝えていくさ。

男の生き様で、時には言葉よりも背中で語ることも必要だろう―――まぁ言うなれば、私とライネスは刹那のサポートサーヴァントだからな……『周回』(くりかえし)することもあるまい」

 

なんだか苦笑するように、なにか思い当たるフシがあったのか、笑みを浮かべる先生は―――。

 

『いやぁ、術クラスの『彼女』ならば、私もぞんざいに扱えんよ。『彼女』が現れてからというもの、休みが増えたからな』

 

などと、最終的にはかんらかんらと笑うあたり、なんのこっちゃと一同想いながらも、入学式は始まるのだった。

 

 

大講堂は在校生及び新入生で埋め尽くされていた。当たり前の話ではあるが、今季の新入生たちは色んな意味で特殊である。

 

その理由はいずれ分かるとして、刹那としては『おまいう』すぎることを感じていた。

 

(あれが、入試成績だけならば『主席』である新入生……カレン・コトミネ……か)

 

今回、『総代答辞』を辞退した主席生徒の姿を舞台袖から見ていた刹那は、その容姿に『度肝を抜かれた』。

 

考えを巡らすに、『似たような名字』ぐらいどこにでもあるかもしれない。

 

刹那が知らないだけで『言峰』というものは、どっかの地方では『鈴木、佐藤』ぐらい普通のものなのかもしれないのだから。

 

だが、名字と符合するかどうかはともかく……その容姿は、少しだけ見覚えがあった。

 

もっともその人の姿は、『村』で見たとてつもなく歪な変化を遂げたものしか無かった。元の姿を知るには、親父やお袋のアルバムに写真の一枚でもあれば、違ったかもしれないが。

 

(バゼットによれば、『アナタも随分と変わりましたね』とか言っていたしな)

 

あの姿(・・・)から僅かに推測できる容貌を考えるに……間違いないのだろうが……。

 

(何故、言峰姓なんだ?)

 

埋葬機関の第六位『真正悪魔祓い』の片割れ『カレン・オルテンシア』……その姿を思わせていたというのに、母の兄弟子の名字を持つ女子。

 

(母さん、父さん……バゼット―――どういうことなんだ?)

 

親族関連のことに関しては筆まめだったくせに、その辺りを書かなかった親たちに少しだけ恨めしいことを言わざるを得ない。

 

でないと――――――。

 

(先程から耳をつねる未来の妻からの怒りを躱せないんだけど……)

 

きっと後ろには怖い笑顔があるに違いないので、どうしようと思いつつも、入学式は滞りなく行われるのであった。

 

その新入生の面子の中に、七宝家の長男……俺に何度か挑み、噛み付いてきた生意気な小僧っ子がいないことに気付くのは、数日後であった。

 

 

 

 

 

「―――というわけで、こちらでお世話になりますので、よろしくおねがいします」

 

深々と頭を下げる天然パーマの男子……今年度の三高入学総代を迎え入れた三高生徒会はどよめくも、この男子が真に挨拶を入れているのは、一条―――そして一色であろうということは理解していた。

 

 

「お前さんは一高に通うと思っていたんだがな。まぁブリテン島から帰ってきて、聞かされた時には驚いたぞ」

 

そんな意図を理解していたので、仕方なく一条将輝は他の先輩方に代わり、生徒会室の代表として、男子―――七宝琢磨との会話に興じることになってしまった。

 

「そこまで変でしょうか。俺が三高に通うことは?」

 

「親元から離れて暮らすってのは、如何に昔に比べれば『楽』になったとはいえ、大変だろ……」

 

レトロな感覚かもしれない。将輝も、その親も『そういった世代』ではない―――しかし、家事全般が機械とネットワーク技術による自動化で簡便になったとはいえ、最後に必要になるのは『人の手』だ。

 

流石に極端なまでの『汚部屋』というのは、レアケースだとしても……まぁ自堕落にならなければいいだけだ。

 

一人……機械音痴すぎる男の部屋を思い出してしまったのだが、そんな将輝の内心など知らない七宝は口を開く。

 

 

「それでも、俺は三高であれば自分を高められると思ったんです。それに―――ここは、ある意味では『最前線』ですから」

 

その挑発的な言葉に、それなりに責任ある家の子たちは耳をそばだててしまう。そして……そう言うからには、そうなった場合ももはや想定しているのだろう。

 

「蛮勇を示したからと、家格の上昇につながるわけじゃないぞ。そして、北陸地区は常に注視している『近畿地方』に、何かあれば動き出す―――いいんだな?」

 

「はい。そうなった場合は、一兵卒としてでも動きます」

 

そう言うからには、三高の気風からすれば、もはや何もない。これ以上の問答をした所で、意味はあるまい。

 

そんな訳で、退室を促す。

 

促した後には、在校生だけの生徒会にて考えると、どうにも今年度の新入生は『野心家』的な面が多いと思ってしまう。

 

「それもこれもセルナのお陰ですね。ある意味では階級社会。階層社会的に魔法師のランクというのが、下剋上を許さないものだと『弁えさせてきた』……そんな淀んだ空気に風穴を開ける存在は、『俯いて生きてきた人々』の顔を、前に向けさせたんでしょう」

 

上ばかりに道があるわけではない。

前を向くことで見えてくるものもあるのだと。

 

荒野を。道なき道を進む。

 

目的地である『カナンの地』を目指す道程にて、たとえそれぞれが『独立独歩』とはいえ、目指すべきものを見据えて進むことで、見えてくる景色もあるのだと。

 

荒野には、決して乾いた土だけでなく、砂もある。

地下を探り当てれば地下水だってある。

そこから水を吸い上げてきたサボテンなどもある。

 

見上げれば―――晴れ渡った青空とてある。

 

それを言葉と身を以てみんなに教えてきた―――。そのエネルギーが巨大な渦となって、日本だけでなく世界中を熱狂させてきたのだ。

 

……などという、一色愛梨の『ヨイショ』は概ね同意であっても、この生徒会には、それに意見するものもいたわけで。

 

「アンタの遠坂くんに対する『かさだかな』こころは、もう諦めとるけど。あんまり他校の男子に熱をあげて、三高の男子をおざなりにするってのはどうなん?」

 

「ほんな、ごたむくなま……。別にうちは、三高の男子を軽くは見とらん。ただ単に……セルナの方がイイ男と見ているだけやさけ!」

 

「それを改めんかい! と言ってるんよ!! 将輝くんふくめて三高男子が、いとっしゃ!」

 

かなり崩れた金沢弁で言い合う美少女2人。もはや罵り合いになろうとしているのを見て、やむを得ず仲裁が入る。

 

「まぁまぁ……落ち着けよ翠子……別に男子一同は、一色に軽視されているわけではないことぐらい分かっているからさ」

 

そう女子を宥める将輝とて、男子の心が一律でないことぐらいは分かっている。だからと、一色愛梨に対してよろしくないことをしようなどとまではいかないのは色々だからだ。

 

前田校長が、タイトルホルダーであった『天魔の魔女』を襲名したともいえる一色愛梨は、名実ともに将輝に並んで三高のエースなのだ。

 

(翠子は、別に一色本家を継承したいわけではないだろうが……まぁそれでも色々(・・)なんだろうな)

 

どちらも将輝にとってはお袋の方の親戚筋の同年(おない)の娘であり、対応に苦慮するのだ。

 

(俺だって、司波さんへの恋慕をあまり表に出さないように振る舞っているというのに……)

 

そんな一色愛梨への恨み言を呑み込んでいる将輝であるが、そんなことは既に周知の事実であり、正直に話さない分、将輝もまた女子・男子どちらからも、妙な感情を抱かれており―――最大級に『不機嫌』を患っているのは、宥められた一色翠子であったりする。

 

そんなこんなありながらも、三高もまた新入生を迎え入れていくのであった。

 

 

どこの魔法科高校でも春は―――ひとしく始まりを告げる。

 

 

 

 

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