魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第310話『ROOKIES―――始動』

「なるほどね。しかし、その現場にいなくて良かった。俺がいると絶対にアレだったもの」

 

「俺としてはお前に懐柔してもらいたかったんだがな」

 

それは無理だろ。と、揚げ焼売を食らう達也に想いながらも、達也の語る今朝の顛末というのを考える。

 

曰く、風紀委員としてあれこれ学内警備の手配をしていた達也だったが、そして新入生の誘導でもと外に出たところで―――。

 

「七草OG(職業(ジョブ):JD)が現れたと?」

 

「ああ、そして少しばかり話していたんだが、そこに七草双子が―――」

 

「真夜さんを連れてやってきたと」

 

すごく修羅場だったろうなーと感じながら、エビ餃子を口に入れる刹那。

 

そして、魔工科にいつか『生徒・四谷真夜子』としてやってくるとかアウトすぎて、その未来が回避されたことをよく思うべきかも知れない。

 

「ああ……泉美から聞いていなかったのか?」

 

「まぁ深雪に近づくのをディーフェンス、ディーフェンスしているだけだったしな。あいつから言わない以上、知りようがない」

 

そもそも生徒会の役職として刹那はそこまで高くない。新入生総代答辞の添削や注意事項なんてのは、副会長の役目のはずだったのだが……。

 

まぁ、彼女の深雪に対する想いの強さは色んな意味でアレなので、自分が代行せざるをえなかった。

 

というか、寧ろ深雪が「かわってください」と涙ながらに言ってきたのだ。文化祭の時から彼女に対する危険性を認識していたのだろう。

 

そんな感じで、刹那になったわけだが……。

 

「つまり七草家では―――子息子女で意見は異なると」

 

「そうらしいな。一番、強硬なのは真由美先輩だが」

 

そうして双子に連れられてか、連れてきたのか、真由美と鉢合わせした真夜女史。

 

硬質なやり取りに、甥っ子であり後輩であった達也は胃がきりきり舞いする寸前だったとか。

 

「泉美はともかくとして、香澄まで懐くとはな」

 

達也から聞いた以上、まだ確定ではないが、どうやら後妻(未定)に一番硬いのは真由美だけのようだ。

 

「叔母は仲良くしたいようだがな……まぁそっちはいいさ。出戻りを受け入れないほど、実家は硬くはないさ―――で、まぁそんな我が家の事情にも繋がることは、いいんだ。因果にも叔母の生徒になったレティとレッドは相変わらずのようだな」

 

「まぁな。騒がしいB組にAとCは『うるせぇ』とか考えてるかもしれんが」

 

笑うように言ってから蟹焼売(蟹卵入り)と共にチャーハンを食いながら考えるに、これも政治というヤツなんだろうと思えていた。

 

端的に言えば、英国・仏国、どちらにとっても、一高の、特にトオサカ・ラインなるものに関わり続けることは生命線なのだ。とのこと……。

 

要は、『ニホンだけでなく世界中が注目するセツナ・トオサカに張り付かせろ』

 

公然のスパイという矛盾した存在だが、そういうのに仕立てたようだ。

 

ある意味、犬猿の仲でもあるブリティッシュとフレンチを共に学舎に入れた理由というのは、そこにもある。

ブレグジットでEUを離脱した歴史を持つ英国は、それ以前から伝統的に大陸の価値観というものを嫌う性質があり、それがある種、権威主義・独裁主義に対するカウンターとして機能していることが多い。

ナチスドイツの欧州席巻から赤軍ソ連の西進政策、そしてその赤軍ソ連の遺物、亡霊とも言えるものの暴虐からも……。

 

「まぁ、魔法師の国際化は避けられないだろ。色々あったから立ち消えになったが、人の世はいずれにせよ繋がっている。誰も―――1人じゃ生きられないんだから」

 

もしかしたらば、リーナの祖父は、そのことが分かっていたのかもしれない。

今さらながら、彼が合衆国に渡りリーナのグランマと恋に落ちて、リーナママからリーナが出来て……。

 

(もしかしたらば、この『繋がり』が無ければ、『手遅れ』になっていたんじゃなかろうか?)

 

ケン・クドウ=九島健……既に故人になっているとはいえ、自分を手助け・後押ししてくれることに感謝の限りだ。

 

会えるものだったらば、一度は会いたいものだ。無理だけど。

 

「で―――お前が聞きたいことは、そんなことか?」

 

「いや、今年度の新入生『主席』に関してなんだが」

 

その言葉を達也が吐いた瞬間―――。

 

「この麻婆茄子、ちょっと香辛料が足りませんね。申し訳ありませんが、そこの花椒を取っていただけますか?」

 

「あいあい―――ん?」

 

「んん?……―――」

 

自分たちが食事をしていたのは花桜が散る校舎外の中庭である。最初は、食堂で食おうかと思っていたところだが、何となく満面の桜の中で昼食を取るのも乙だろうとして、互いのパートナー(妹、恋人)が来るまで……食っておくかと想っていたところに。

 

不意の闖入者あらわれる。

 

思わず普通に対応してもらうぐらいに自然と入り込んできた―――女子に瞠目する。

 

「―――新入生だな。わざわざ、この時間まで学校に残っていたのか?」

 

「家に帰っても良かったのですが、これから通う学び舎を詳細に見ておきたかったもので」

 

理由としては正当ではある。筋は通っている―――。

 

が―――。

 

「ここまで堂々としたつまみ食いをされるとは想っていなかったぞ」

 

「あら? 魔宝使い『遠坂刹那』は、自作の料理で世の女性達を虜にして、現代の酒池肉林を堪能する人間だと側聞していたのですが」

 

「どんな噂だよ……」

 

「当然、私はそんなものに引っかかりませんが」

 

丹精込めて作った麻婆茄子に、花椒や山椒を山盛り掛けていればな! と無言で言いながらも、この料理人泣かせの女はなんなんだと思う。

 

だが……その趣味嗜好は紛れもなく、あの地獄の中に現れたモンスタートラックに納められていた『聖女』のそれであった。

 

「新入生『主席』の言峰花蓮だな。入学おめでとう―――だが……まぁいいや、食いたいやつには食わせてやるのが、俺の主義なんだしな」

 

「グラッツェ。ですが、男として好きにはなりませんので、期待しないでくださいね遠坂先輩」

 

このアマ! といい加減言いたくなっていた所に―――。

 

「何処に行ったのかと思いきや、ここだったか……ネコのようにいなくなるなよ。カレン」

 

珍しい男が現れた。今回の入学式から始業式において、八面六臂の活躍をしていた今季の部活連副会頭の姿が出てきたのだった。

 

「よっすー、おつかれちゃーん」

「かっるいな刹那」

 

(せん)の言葉通りならば、言峰後輩はお前の庇護下か?」

「堅っ苦しい言い方だな達也」

 

互いに感想を述べられてから、どういうことなのかを詳細に聞くと……。

 

言峰とは、一高入試の日に知り合う。

 

その後に今日の入学式で再び知り合う。

 

彼女こそが『今期の主席』であることを知る。

 

そして会長(ボス)から()り役を任ぜられた。

 

端的に言えば、我が校のウルトラマンタイガ(正)は、色んな意味でモテモテである。

 

 

「刹那が泉美のお守りで、レオが言峰のお守りか……大変だな。上級生」

 

「「お前もだぞ!」」

 

我のことを棚に上げた達也の言いように一斉のツッコミが入るのだった。そんな男同士の会話の片方で言峰の食事は終わるのだった。

 

ハンカチで口元を拭きながら、料理審査のように言峰は再度、口を開く。

 

「遠坂先輩、今度は、もう少し『辛味』を効かせた料理を所望します。ごちそう様でした―――では……レオン先輩、案内お願いします」

 

お前だけはメシを食って、レオには即座に案内を許す辺り、ちょっとなーと思えて、適当に『まとめて』歩きながらでも迷惑かけずに食えるものを、タッパにして渡すのだった。

 

「ダンケだぜ。刹那」

 

「気にすんな。下級生の美少女とデートを楽しんでこい♪」

 

「と、言われましたのでレオン先輩。いきましょう♪」

 

桜が舞う中、戸惑うレオを引き連れて銀髪の後輩は去っていくのだった。

なんとも勝手な女であり、その正体を少しだけ不思議に想いながらも、そのことをいまこの場で問いただすほど無粋ではない刹那は気にせずにいた。

 

一番、気になるのは―――。

 

(セツナん、なんかすごいDTっぽい男子がアナタをみつめてるよー)

 

(俺とは限らないだろう。達也かもしれない)

 

霊体化しているジェーンが、警告してくる前から分かっていた。離れたところから、こちらを見てくる眼鏡をかけた男子―――几帳面な性格を想起させる……父の親友であった寺の和尚さん、柳洞一成の若い頃を思わせた。

 

少し見ただけだが、どうにも仏教系の空気を感じる少年。

 

閉鎖された世界と俗世を行き来しながらも、克己心を養ってきた存在。そんなイメージの少年が、こちらを見てくるということに、どうしたものかと想って……。

 

(坊主を堕落させるは、いつの世も妖艶な美女だよな)

 

(マスター、毘沙門天の化身がいることもお忘れなく)

 

流石に失言ではあったのだが、男子にいつまでも熱い視線で見つめられる趣味は、刹那にも達也にも無いので―――。

 

(よし、キミにきめた! 行け、アーチャー! 『あまえる』からの『まきつき』だ!!)

 

(オッケー! マスター!!)

 

念話でのみその指示を出して校舎の裏から覗き込んでくる男子に、アーチャーことカラミティ・ジェーンを向かわせる刹那の行動を達也は黙認した。

 

その少年……下級生の男子は、それなりに調べは着いていた。どう考えても西の方から送り込まれた間者であり、何らかの目的があって一高に入学したことは分かっていた。

 

(目的か……文弥と亜夜子も、アレコレと言われているんだろうな)

 

四高に入学した双子の親戚。彼らがどうなっているのかを少しだけ考えてしまうのだった。

 

 

 

すでに自分たちが、四葉の係累であり、昨今―――父親が正式に四葉の当主となった以上、こうされるのは理解していた。

 

だが、当初の『一高に入学』という目的を蹴ってまで、ここに来た目的を目の前の生徒会長及び役員に話した所……ため息が溢れてきた。

 

(そりゃ悪名高き四葉だもんな)

 

(この反応も当然ですね)

 

と双子が想っていたのだが……四高の会長『角隈白野』は、予想外のことを宣ってきた。

 

「キミたちが来ることは、四高全体を考えると、正直言えば大歓迎だ。しかし―――キミたちが学ぶに相応しい学校かと言えば、それは違うと思える」

 

「……技術志向の四高ですからね」

 

「そうだ。当然、だからといって今年度から一高に新設された魔工科(アトラス)に負けるつもりはない」

 

その目にライバル心とでも言えばいいものを見た。アトラスにいる親戚のことも念頭に置かれているのかもしれない。

 

だがそれ以上に角隈会長は……懸念事項を吐いてきた。

 

「だからこそ、ここではキミたちを輝かせられない。分かっていて入学したのか黒羽君? 僕たちは……」

 

魔法大学付属の中で『最弱』であると言外に言う角隈会長に―――。

 

「だからこそ、私達はここを選んだんです」

 

堂々と言い放つことにした。

 

「なに?」

 

「確かに魔法実践という意味では、他校に後塵を拝している四高です。けど、その環境こそ僕たちが活躍する上では必要なんです」

 

「弱小校に天才が一人二人入ったらば、一挙に全国出場……なんてストーリーは、魔法の世界では適用されないんだが」

 

だが学生スポーツの世界では、まれにそういうことはある。特に野球・サッカーなどはそうだ。地域によっても事情は違うが―――。

 

地方の公立校に時速150kmのストレートを投げ込み、打っては長打を連発。そういう目立った『個』を持った選手一人がいるだけで、甲子園に出場することも可能だ。

 

サッカーにおいても、とある選手のワンマンチームであっても国立へと進出することも出来る。

 

もっともそれはある意味、強豪校がひしめく都道府県以外の場合のみ、野球なら関西圏の殆どではまず無理だし、サッカーならば有力なJクラブが無い都道府県だろう。

 

越境入学の強豪私立が幅を利かす学生スポーツの中でも、そういうのはありえるのだ。

 

「僕たちも四葉の中では、下級です……表に出せないような後ろ暗いこともやってきましたよ」

 

「善良な魔法師なんてものはいないと想うね」

 

俗っぽいことを言う角隈会長。

 

双子は苦笑しながらも返す。

 

「だからこそ―――ここから僕達は、上がっていこうと想っているんです」

 

「四高の弱点はよく分かっています。皆さんに必要なのは、自分の立案した作戦と技術を実行してくれる魔法師がいないことです。先程、会長が仰った通り、強烈な『個』が無くても勝てるようにしたい……中々、フォア・ザ・チームでは九校戦でも勝てませんからね」

 

「その通りだ。去年はリズ先輩が最後の年だったから、ここぞと思っていたんだがな」

 

だが、目論見は水泡に帰した。強烈な『個』―――あまりにも強すぎる『個性』を持った存在が一高にいたことが、全てを覆した。

 

総合力でも決して、負けてはなかったはずだ。

 

「私達を存分に兵隊として利用してください。あなた方に必要なのは、自分たちの考案した魔法や技術の理想を実現してくれるデバイサー(実践者)です」

 

「去年の九校戦、作戦立案などで相手校を確り見て、その陥穽(じゃくてん)を突いてきたアナタの『目』で見た指示で戦うのも悪くはない……四高が勝ち星に恵まれないのは、実践的な人間が少ないだけですから」

 

「………」

 

沈黙しながら、こちらを見てくる角隈会長は、短く息を吐いてから答える。

 

「いいだろう。そこまでの意思を以て、ここに来たならばこれ以上言うのは野暮だな。ただ一点……、先に語った通り、実践的な人間が少ないとはいえ、キミたちだけでは勝てないからな。九校戦ばかりを念頭に置くのも如何かと想うが―――四葉姉弟、キミたちの手で僕達を鍛えてくれ」

 

しかし、どれだけ公立高校に全国区の天才・天稟がいたとしても『チーム』で戦う以上、どうあっても他の選手が脚を引っ張るわけにはいかない。

 

自主的に猛練習をする時もあれば、その全国区がスパルタ練習を強要する時もある……。

 

ならば、こちらから積極的に動こうとした角隈会長の要請に、快諾する黒羽姉弟。

 

最初は自分たちの尊敬する達也がいる一高の受験を志していた。

 

だが……色んな『政治的判断』と、姉弟なりの考えで達也と……遠坂たちと戦う道を選んだのだ。

 

弱いところならば、自分たちで強くすればいい。

 

どれだけ極まった個がまとまった集団であろうと、チームとして戦うことで、それを覆す。

 

それを目指したのだ。

 

打算的なところでは……七草姉妹や色んな意味で注目の的である現在の一高に行ったらば、元々は『裏仕事』が主だった自分たちでは、目立てないという考えもあった。

 

―――才能は分散したほうが、輝けるもんだ―――

 

ある程度の繋がりからまとまっていた方がいい事例もあるが、それでも姉弟は、四高から自分たちの王道を進むことを選んだのだ。

 

(ただ……ロード・エルメロイII世の授業……直接指導は受けたいよなぁ……)

 

この四高にも2科制度が作られたが、その授業がオンライン方式でしかないことは、文弥は少しばかり残念に想うのだった。

 

その懸念が解消されることなど知らずに、その部分に憂鬱を患っていた……そんな一高では一つの出逢いが成されていた。

 

 

 

「刹晶院 霧雨(きりう)と申します―――」

 

先ほどまで受けていた肉体的スキンシップから、赤い顔で『羞恥心』を押し殺している眼鏡男子の自己紹介。

 

お白州に引っ立てられたならぬ、桜舞う中庭にジェーンによって連れてこられたその下級生を見た2人は―――。

 

「「委員長(ティエリア)って呼んでいいか?」」

 

「どういう意味なんですかねぇっ!?」

 

そう言いたくなるビジュアルをした霧雨後輩との出会いは、何かを予感させていたのだった。

 

 

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