魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
「私も刹那も『古い』人間であるとは自覚している。そのうえで忌憚なく言わせてもらえば―――――――」
都合50分間もの濃密なまでの講義を一段落させる意味で最後に放たれた言葉。
それは『現代魔法師』たちには痛烈なものとして受け止められたのだ。
「―――キミたちは特殊なバカなのかね?」
平素の顔で言ってくるロード・エルメロイII世。ぐさり!! と突き刺さる言葉の剣。それが生徒だけでなく、監視役として寄越されていた他校の教師たちにも突き刺さる。
ぐうの音も出ないとは、このことか。
50分間の授業の内容は正しく、『現代魔法師』を解きほぐすものであった。
正しく現代魔法を『爆破解体』してきたロード・エルメロイII世の授業……それは―――。
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「まず初めに言っておくが、私は諸君を観察させてもらっていた。入試時点からね。そのうえ1科生との差など―――『何処にもない』ということも理解できた。よって、キミたちを1科生相当の魔法能力に上げることは然程難しくはないと思えた」
「ほ、本当でしょうか?」
一年生の一人。女の子が疑問と期待半分半分で問いかけてきたが、先生は『当然』だと言わんばかりに言ってくる。
「ああ、本質的な『力』の希求というものは刹那の担当だからな。そちらではないが……まぁ先ずは座学からだ」
そう言ってからロード・エルメロイが手元にある端末を操り出してきたものは、いわゆるエイドスに対する改変論理であった。
「諸君らにはお馴染みだろうが、魔法師及び魔術師であろうと、その『式』が打ち込まれるのは、この世界の『表層』ともいえる次元だ。名称に関してはイデアでもテクスチャでも何でもいいが、ともあれ―――我々はその表層に『己の望むもの』を実現するために術式を打ち込む。しかしながら、その際に―――諸君たちは、どうしても「認識」が硬い様子があるな」
「と、言いますと?」
「自己と他の対象を認識した上での感応力が浅いんだ。意識を集中させることでサイオンが充足する。そこまでは良くとも、サイオンを目的に沿うようにコントロールする際に『対象』に対する意識が拡散している」
そこまで言われると何となく理解できることがある。現代魔法というのは、要するにアホほど多くの工程を『対象』に求める『煩雑すぎる術』だ。
ただの車輪付きの台座を動かす上でも、摩擦係数やら、停止する際の速度調整だのを考えなければならない。
だが、それこそが『超能力者』と呼ばれてきた存在のスキル・アビリティを『マスプロダクツ』する技法だと信じられてきたのだ。
「だがそのために、根本的なことを失念している。作業工程は、それはそれで重要なことだが、端的に言えば、『こうなれ』と『念ずる』ことの重要性を無視している」
「「「………」」」
そう言われても、やはりそれこそが『真理』と言われてきた面々は多いわけで、どうしても受け入れることが出来ないところもある。
それを理解したのか、苦笑しながらエルメロイⅡ世は、刹那に手振りで指示を出してきた。
受けて刹那は、どこからかともなく『用意しておいたもの』を教室に出した。
出した瞬間―――とんでもない臭気が鼻を突いてきた。それに全員が鼻を抑えてしまう。
「く、臭い!! そ、それは、な、なんなんですか刹那センパイ!?」
『缶詰』と『壺』を教壇に出した瞬間、生徒からの悲鳴混じりの質問に刹那はイイ顔をしながら答える。
「缶詰の方は、現在の世界でも有名な『世界一臭い』と言われている『発酵』食品シュールストレミングというやつだ。壺の方は、俺が自作して『腐敗』させてしまった鮒ずし風調味料だ。へっへっへ! スメルが立ち込めるぜぇ!!」
「キャラがヘンよセツナ、というかナンテものをツクっているのよ!?」
「いつか食いたいと思って、やはり使うべきはネズミハタだったかな」
「それはワタシとの食卓にもノボルのよね!? 食べたくないのダケド!」
臭気が立ち込める中でも平然とラブコメをする先輩2人(鼻はつまんでいる)に対していろんな想いを抱く新入生たちだが、その片方で気づくものもいる。
臭気に鼻をやられてしまったからこその閃きとも言えるか。生存本能が導き出した結論が出てきた。
「発酵と腐敗。この似て非なるものの結果とは――――」
「食えるものか否か……つまり―――」
「ああ臭い!! つまり同じように『熟成』するという工程を踏んだとしても、起こる結果は『真逆』になるということ! ああ、臭い!!」
悲鳴の中でも出てきた結論に満足して、先生の合図で、刹那はそれを『魔眼』で作った『虚数空間』に閉じ込めた。
「臭気を取り払ってくれるか?」
「「了解です」」
流石に、このまま授業を続けるのは嫌だったのか先生の指示に従う。
「ご覧の通り。仮に『魔法』を使ったとして、果たして望んだ通りの結果を出せるのかというのは、甚だ疑問だ。発酵と腐敗の差など『専門家』であれば微生物云々であるなど言えるだろう。しかし『素人』である我々では知り得ない『理屈』だ。転じて私が想うに、四系統八種の区分けなど、ただ単に煩わしいだけな気がする。『起こすべき作用』で『術式』を設定するならば、それを想起させるべきイメージは、もう少し単純なものから『連想』させるべきだ。何一つ『照応』しない理屈だけを詰め込んだとしても起こる事象は、本人の力任せなものでしかない」
それはつまり―――。
「優秀な現代魔法師は、形を変えただけの『超能力者』でしかないんですか?」
生徒の一人の質問にエルメロイ講師は答える。
「私はそう思うよ。術式の簡易大量生産という観点を志したというのに、作用させたい現象が、煩雑になればなるほど本人の力任せにしかなり得ないならば本末転倒だろう」
だが、時に魔術世界でもそういった存在は出る。今、苦虫を噛み潰したような顔をしている先生の脳裏には『天才バカ』の阿呆面が映っているはず。
そうしてから―――。
「だが術現象を発動させる上で、本人の『地力』が重要になるというのも真理の一つだ。しかし、認識力とサイオンのコントロールを効率よく、無駄なく『感応させる』ことが出来れば、自ずと『結果』は違ってくる。世界と己は照応するはずだ」
その言葉を一旦のシメとしてから、役目が若干入れ替わる。
金髪の美人女教師―――見た目通りならば新入生たちと歳は離れていない青色の洋装の人が出てきたのだ。
「というわけで、座学は一端ここまで、次は実践に入ってみようかー。
「はい♪ かしこまりました―――って無理矢理なルビ振り! そして笑点知ってるとか、アンタ本当にイギリス人か!?」
「実は
ドヤ顔で髪をかきあげるライネス先生に誰もが何も言えないでいると。
「ワ、ワタシだって
「張り合うなよ……」
もう、俺の恋人ってば、やんちゃでおちゃめさんなんだからぁ(爆)などと心の中でのみ刹那はフォローを入れてから、ニヤつくライネスの指示通りに中央に用意された大型の机に『それ』を置いた―――魔術的な『通り』を良くするために、木製のそれに魔法陣を描いた後に、実践用の『スフィア』を置いていくのだった。
「はい。みんな集まれー! 寄って寄って!!」
ライネス先生の言葉と手振りで400人もの新入生。流石に全員が教壇近くに寄れるわけではないが、それでも多くの人間がやってきた。
そして全員が木製の机に展開された
そしてスフィアには全て何かのカラーとシンボルが描かれていた。
「では、兄上に続いてキミたちの頭をほぐすライネス先生のはちみつ授業を行おう。現代魔法は確かに『属性』としての『色』が無い。有り体に言えば物理作用全てに『シンボル』を無理矢理付着させているようなものだ。
しかしながら、我々はこの地球という星に生きて、地球という『環境下』にいる以上、全ての事象・現象には何かしらのイメージが存在している」
ライネス先生の言葉を継いで刹那が言葉を紡ぐ。
「例えば『緑色』を見た時に、『樹木』『草』『森林』を思い浮かべると同時に『安らぎ』『守り』『風』を感じる。逆に『
この時点で気付いたものも出てきた。魔力を扱ってスフィアを輝かせて浮かせた時点で―――己の頭の硬さと、何故―――物理的な作用を『その通り』に発動させることに拘泥していたのかを。
「一概に
「ライネス先生、では我々が現代魔法を達者に操るために必要なのは、イメージの固定化なのでしょうか?」
「それも一つだが、それだと単一的な術式だけが達者になってしまうよ。まぁ今はそれでいいが、『拡張』『複合』させるためのものもあるんだ。しかし、今はそれで意識の集中が容易になる―――とだけ覚えておいてくれ。そうすることで術の方向性が定まるからね」
言われてみると、確かにCADから起動式を読み込んで魔法式を構築する上で、意識がそれだけになるが……果たしてその際に自分の想起するイメージがあっただろうかと思う。
物理現象を正確に淀みなく発動させることに拘泥して、けれどその物理現象には『何かしら』の『イメージ』があるはずなのだ。
ものの熟成が『正負』で『発酵』『腐敗』になる。
どちらも現象的には、ものが『熱』を発していくというのに結果は間逆なのだ。
食えるか食えないか。という点を除けば
ノーリッジ生徒全員が、ここに来るまでに『予習』して、無為を突きつけられてきたことの取っ掛かりが見えてきた―――その瞬間だった。
「いい感じに頭が煮えてきたようだな。手にとるように分かるぞ! キミたちの考えが―――!!『早く実習をしたい』という気持ちがな!!」
「「「は、はい!!」」」
プチデビルの強い言葉に気の弱い生徒が思わず頷き、昔を思い出して刹那は苦笑してしまう。
よって―――次の段階に入る。
「一年生の実習というのは、カリキュラム上では、かなり単純なことをやるそうだが、まぁ単位に直結しないならば、ここでやることは―――――好きに魔法を使ってみろ」
今年度からCADや魔術道具の所持に関しては、一般生徒でも、あまりあれこれ五月蝿く言われなくなった。
というのも、去年の4月の大騒動と今年度の2月の『大騒乱』とが、色んな意味で父母たちを緊張させたのだ。結果的に『自衛手段』を携帯させておくとして、それを持つことの特殊性や特異な事情というのは若干薄れた。
代わりと言っては何だが、一高全体の土地基盤を利用した『強制法規契約』を施した。
霊脈を弄った上で、『一高での魔法・魔術の使用は一定の権限を有する人間の執行判定票を投じることで可能となる』
といった趣旨の契約結界魔術を展開することとなった。
当然、ガチガチに縛ったものでは、いざという時にフレキシブルに対応できないので―――まぁこれは置いておくとして、ともあれライネス先生、ウェイバー先生、刹那、リーナの『判定票』が投じられたことで、400人の新入生たちに掛けられていたギアスが、この大教室で一時的に解除された。
「さてと―――では、思い思いの現代魔法。とりあえず単一基礎系統の魔法を、このスフィア上で起こしたまえ。当然、順番は守りつつ。とりあえず六人ぐらいかな。もう少し広ければ良かったんだが―――さぁ実践だ!」
単一基礎系統の魔法。いわゆるコモンマジックの類を発動させろという言葉に、少しだけ戸惑いつつも、六人の男女混合の集団が出来上がり『六角形』の机のそれぞれの角で、重複しないように―――。
スフィアを移動させたり、机に圧力を掛けようとしたり、振動をさせたりしようとした―――その時。
「―――これは……!?」
「え!? ええっ!?」
刹那の用意した『魔導器』、全てに『感応』したことで『応答』を理解した六人全員が―――。
「
―――ロード・エルメロイⅡ世の言葉を受けて、首肯をしてから、その魔導器の上でだけだが……とんでもない事象が起こっていた。
「そんなバカな。違う魔法式、干渉の強弱、種類全てが違うものが机の上と空中で『重なっている』のに、それぞれの事象が、独立して『起動』をしている……」
本来的に強い魔法式が場にある場合、それと位置で重なる弱い魔法式は『起動停止』になるのが普通だ。
エイドス―――最近では
そう―――現代魔法は、この定義を超えられないはずなのだ。
三高から出張する形でやってきた新人女教師 前田
(楽しそうだな……)
実際、遠坂刹那が用意した机であり、恐らく魔導器は、どれだけ様々な現象を打ち付けても、『壊れないし』『変化もしない』
いや、それは正確ではない。ようは、あらゆる事象を具象化する魔法を放って、現象は起こっているというのに、次の瞬間には机は普通になっているのだ。
ノーリッジ生たちは笑顔を零しながら、魔法を掛け合っていく。現代魔法というものが持つ『法則』という煩わしさから解消された様子に京音も、やってみたい想いが出てきたが、親戚であり校長でもある前田千鶴から『勉強してこい』及び『どんなもんだか見てこい』と言われただけに、授業に綻びや瑕疵があるかどうかをチェックしなければならない。
……難儀な出張だと想いつつも、400人のノーリッジ生が、講師陣からアドバイスを貰いつつ「ナニカ」を掴んだ様子で得心している風なのが、普通の魔法授業とは違うのだと京音にも理解できた。
何であるかは、やった人間にしか分かり得ない。そのことが、もどかしいのだが。
―――質問や疑問はあとで受け付けます。授業中の質問は、『生徒』だけのものですので―――
強い口調ではないが、それだけは頑として譲らないエルメロイⅡ世の言葉。
ついでに言えば……。
―――私を呼ぶ際にロードの称号を着けるならば、『Ⅱ世』は必ず着けていただきたい―――
それもまた譲らないものだった。難儀な師弟を思い浮かべながらも、全員を席に戻るように促すエルメロイ教室の教師たち。
ざわつきながらも全員が着席をして静かになると教壇に戻ったエルメロイ講師はふたたび生徒達に『魔法』を掛ける……。