魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第314話『ロード・エルメロイⅡ世の授業Ⅲ』

 

 

未だに用意された『コクバン』を使わずに口頭と実践だけで授業をしているロード達に、他校の教師たちは少しだけ羨望を持つ。

 

 

 

「今日のところは本格的な実習授業ではなかったが、しかし、私なりに現代魔法を噛み砕いて、その『やり方』を君たちに教授出来たと思っている」

 

アレですらまだ本調子ではないことに、もう驚くしか無い。だが、刹那やライネスなど知っている人間は知っている。

 

ロード・エルメロイⅡ世の本質とは『人間』を見る『鑑定眼』にあり。

ここにいる400人全てが、特筆すべきものを持っているとは限らない。しかし、それでも『人の根底にあるチカラ』を引き出すことは確実に出来るはずだ。

 

隅守(スミス)賢人くん。今日の我々の授業でキミが感じたことを思う通りに語ってみたまえ」

 

「は、はい! ロード・エルメロイII世!!」

 

いきなり名指しと目を向けられたことで驚いた明らかに外国人の血が混じっている男子生徒。三高基準では『なよっ』としたという評価を受ける男子が、立ち上がって語り始める。

 

「僕自身は、魔法技術者を志していて、今まで理論(ロジック)に精通することが、現代魔法の全てだと思っていました……実際、達者に扱える技能者もそうだと思っていましたが……けれど違った。現代魔法の要点とは―――、その上手い表現じゃない。頭の悪い表現かもしれませんが……」

 

前置きが長いな。と思うも、エルメロイⅡ世を筆頭に、講師陣はその辿々しい隅守賢人という男子の言葉を聞き続ける。

 

採点しているわけではない。ただその言葉を聞き届ける―――その態度に少しだけ感心をしていると男子は結論を告げた。

 

 

「現代魔法とは、『勝利条件』や『攻略条件』を達成するために様々なことを『計算』するコマンド選択型の『シュミレーションゲーム』じゃない……選択ないし用意された『ステージ』を『コントローラー』で進み様々な『行動』を取ることで『ゴール』に到達、『ボスキャラ』を倒す―――『アクションゲーム』だと想います……」

 

その言葉を聞いたあと――――――。

 

 

「「「「”正解”(エサクタ)!」」」」

 

講師陣全てが指差しながら、何故かスペイン語で言った瞬間、全員がズッコケるのであった。もう『ズコー』と120年前のリアクションを取らざるを得なかったのだ。

 

「ちなみに言えば隅守賢人(けんと)くんのお母さん(ママン)は、ここの教員だが―――別に『サクラ』ってわけじゃないからいじめるなよ―――♪」

 

「「「はーーーーい♪」」」

 

ライネス教師のおどけた言葉に女生徒を中心に声が上がる。

 

時折、ユーモラスなことを混ぜつつの授業……魔法科高校の教員にはないものであると思えた。

 

(同時に『正答』を得ていた生徒を見抜いていたのか)

 

その手腕に京音を舌を巻く想いだ。そして現代魔法に対する回答が出てくる。

 

「メカトロニクス―――いわば機械工学が、古き時代の手作業技術を簡便にすることは時代の摂理だ。かつてはマニュファクチュア(家内制手工業)と呼ばれてきたものが、徐々に大規模工場に人を集めての労働に変わっていく―――しかしながら、どうしても普遍のものがある。

それは、最後には、どうあっても『人の手』が必要だということだ」

 

現代社会(2096年)においては、ある程度はAIなどに任せてもいいところもある。しかし、それを起動・作動・させるには、人の手が必要であり、人の目で不具合があるかどうかを見なければならない。

 

要は、世の中の産業がどれだけ便利になったとしても、一定程度の人の手が無ければ、不測の事態には対処出来ないのだ。

 

「同じく現代魔法もそうだ。如何に多くの触媒を必要としなくなったとはいえ、CADなどアシスタンツに調整を施したところで、『ヒト』は機械(マシーン)のようにはなれない。どうあっても『ゆらぎ』を持った存在―――それがヒトだ」

 

沈黙。だが、その言葉は重さを伴いながら続いていく。

 

「各々が持つ内部世界―――すなわち魔術用語で言うところの『心象風景』が、違うならば、そこで展開した現代魔法の作用もまた『ゆらぎ』を含むものだ……その『ゆらぎ』を無駄なものとして、捨ててしまったことが、不幸の始まりとも言えるか」

 

ため息を突きつつも、次いでライネスがⅡ世の後を次いで説明をする。

 

「量子力学の世界でいう量子のゆらぎに代表されるように世界は全て『揺蕩っている』。同時に物理学ではこんな言葉もあるだろう。

『世界は人間に見られることで、生み出されている』

魔術師的な価値観で言えば『第二』に通ずる理屈だが、まぁともあれ―――ここまで言えば分かるかな?」

 

ここに至るまで、さんざっぱら言われてきたことを総括すると―――。

 

「現代魔法において、本当の意味で重要視すべきものは、理論・理屈ではない。ましてや術式構築の速度・強度でもない。自己と世界への『認識力』の強化。これに尽きるんだ」

 

「け、けれどロード。それが―――そんな簡単に出来れば、何も苦労はしていません―――」

 

簡単に言うが、それが出来ないからこそ自分たちは2科生でしかないというのに……。生徒の一人―――何だか委員長的な男子が、焦った様子で問う。

 

だが再び明朗な答えが返る。見学にきていた他校の教師達は「かんにんしてつかぁさい」という言葉を言いそうになる。

 

「だからこそ―――先に語った『シンボルとカラーが要点となる。仮に『四系統八種』の物理現象にコントロールしやすい『イメージ』が、あるというのならば、それをすればいい。それは―――各々で『違ったもの』があるはずなのだからな」

 

「―――あ」

 

質問をした生徒が絶句する。

 

そうなのだ。つまりはそうなのだ。

 

世界はもっと――――――多様性(ダイバーシティー)多種性(バラエティー)を以て当然なのだ

 

 

「―――移動魔法という言葉を受けてそれが即座に『人体や物体』を指定座標に『吹っ飛ばす魔法』である。などと『理解』が及ぶものばかりだろうか? 試しに魔法に明るくない一般の人々に聞けば『術者が超スピードで移動する魔法』などと仰られるのもいるだろうな。

言葉・言語上で分類された『物理作用』に対して、果たして『誰しも』が、そこまで詳らかなイメージ―――特に共通したものを持てるだろうか? 無理だろう。人の感性とは、それぞれで違うのだからね」

 

こんなことを言われては、どうしようもない。一端、言葉を句切ってからロードは話を続ける。

 

「同時にキミたちもまたそこまで、世のことを知っているわけではないように思える。例をあげれば、蜃気楼の発生のメカニズムを一切分からない不明な人間に講釈出来るか? だがそういう魔法を発生させる上で、現代魔法師たちは、さもそれを全知したとして発生させようとする……達者に出来る奴だからと、果たしてそこまで理論を分かっているのか、少々疑問だね」

 

 

反論の言葉はもはや出ない。先程の魔法実践で、魔法式の重複が『無かった』ことを考えれば、もはや―――理解は出来る。

 

「ゆえに先程、ライネスが行わせたシンボルスフィアと魔法陣によるイメージからコントロールする道標が重要となる……―――あれこれ詳しいことは次回に回すとして結論だけを述べれば―――現代魔法に必要なものは、『認識力』(アワーネス)『想像力』(イマジネーション)。そして最終的には、機械からではなく己の体から魔法式を投射するという観点から、『身体支配』。(じぶん)を自覚した上での魔法式の発動が重要となる。

観念的な結論だけでは分からないだろうが、あえて言わせてもらえば―――CADからの直接的な式の投射でないならば、最後の要たる己の身体(ねもと)を理解する必要がある―――機械に己の全てを任せるな。その手で、指を操って魔法を放つというのならば、やはり生身の体は重要なファクターなのだ」

 

全員が絶句して、そしていままで『こんなこと』を言ってきた教師・講師はいなかったことにも気付かされた。

 

市井に開かれている魔法の公立塾。多くの魔法師としての適性が見られた子たちが通い、はたまた裕福な家庭の子供ならば、優秀な魔法の家庭教師なども小さい頃から着けるだろう。

 

だが、その全ての魔法教師たちが……。

 

『こういった『公式』だから、この結果だけ(・・)を導き出せ。この『結果』以外は認めない』

 

『この物理現象は、■■■だから、こうなる。このことを『再現』しなさい』

 

『理屈を無視した現象は合格に値しない。魔法は理屈・理論を正しく引き出せるものだ』

 

そういう文言ばかりを『念仏』のように言ってきた……まるで、魔法師は魔法を発動させる『機械』であれと言わんばかりに、理屈と理論だけを詰め込まれて、それが『どうしてそうなるのか?』がお座なりになっていたのだ。

 

明確な現象を知らないのに、言葉上での作用―――移動、加速程度ならばともかく吸収・発散・収束が『どんなものであるか?』それすら不明瞭な人間ばかりなのに、それをやれと言われたところで、不透明なままに魔法が発動してしまう。

 

結果的にそれらは、優れた人間からすれば劣ったものになり、ここにいる人間や卒業生・在校生のノーリッジ生たちは劣等生扱いになってしまったのだ。

 

「私も刹那も『古い』人間であるとは自覚している。しかし、その術の根源は閃きと術に対する理解力・想像力であると理解している。

普通いちばん最後に、理論構築(理屈詰め)をするものだが……そのうえで忌憚なく言わせてもらえば―――――――」

 

一旦区切ってから全員を見回してくるロード・エルメロイII世は―――。

 

 

 

「―――キミたち(現代魔法師)は特殊なバカなのかね?」

 

 

 

ぐさり! と『現代魔法』を主に使う人間達の心に言葉の剣が突き刺さるのだった―――――とはいえ大ダメージを食らったのは、この授業の見学である他校の教師や魔法大学からの人間であるのだが……。

 

その様子に苦笑してからロードは再び語り始める。

 

「だが……そういう『バカ』ばかりを私は見てきた。私が羨ましくなるほどに、喉から手が出るほどに輝かしい才能を持ってるくせに、妙に格式張って、己が作った狭い檻の中で、窮屈な想いをしている連中(バカ)をな……」

 

『『『………』』』

 

昔を述懐するように、同時にどうしようもない劣等感を告白するエルメロイⅡ世に全員が沈黙した。この人も最初から、そうだったのではない。

むしろ、自分たちと同じだったのだと……。

 

「全ての人間が望んだ通りになれるとは限らない。だが、やれること。やりたいことをやらないままでいる人間を私は許さない―――。

何かに流されるな。最果ての海へと続く道を手にオールを持って己で漕ぎ出せ。光の中に隠れたヒカリを探す旅は、まだ始まったばかりなんだ。

そのための羅針盤程度には私の授業が役に立てばと思っているよ……では今日の授業はここまで」

 

きっちり50分間でノーリッジ新入生たちの頭を解した先生の言葉で予鈴が鳴る。

 

「「「「ありがとうございます!! エルメロイ先生!! エルメロイ教室の先生方!!」」」」

 

昔ながらの『起立! 礼!!』の如く全員が席から立ち上がり、深い一礼をしたことに苦笑しながらも、ロード・エルメロイII世とその補佐役は教室から余韻を残さずに去るのだった。

 

その後には大教室には大きな声が響いていく。『あれだけのこと』をやって生徒たちが浮かれ騒がないわけがない。

 

今までどんな熟練の魔法講師ですら明確な指針が出せなかった人間たちに出したものが、歓喜の声を上げさせるのは当然だ。

 

「………」

 

そんな生徒たちとは別に、驚愕ばかりをしていた関係者たちは、その生徒たちを避けながらエルメロイ講師の教師控室へと向かうのだった……特に先頭を走る三高講師である前田京音は聞きたいことが山ほどあったのだから……。

 

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