魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
一高及び魔法科高校全てにおいて名を轟かす『あかいあくま』が作った
炒め油の代わりにラー油を使ったという『炒飯』。それは辛味を好む偏食シスターのために作った代物だったのだが……。
「全くとんでもないものを作りやがる。美味いから余計に悔しい……」
この食堂中を席巻するほどのとんでもないものになっていたのだった。というかヤツの一挙手一投足が、とんでもない騒ぎになるからこそなのだが……。
「こういう時に、遠坂君の料理を食べると自分が回復するのが分かるよ。―――言わなくていいのか、森崎? A組の授業内容を何人かは怪訝に想っている。それでなくても司波君みたいなシスコンマッドボーイの耳に入れば、百舌谷先生がどうなるか……」
その言葉に森崎も考える。現在の一高は色んな意味で教導の在り方が違っている。
当然、カリキュラムというか『試験科目』をパスする上で覚えなければならぬことは多いのだが、そのアプローチが個々で違うのだ。
一番には1科のA組の教導。学年を問わず、ここでは最優秀のエリート教育が施されていると言ってもいい。
他のクラスのカリキュラムの進捗の5歩は先んじていると自負するだけのものはある。
1科はA〜Dまでで各々でクラスのムードというのは違うのだが……その中でもA組は、最優秀という自負を担わされることが多い。
実際、学年主任が担当講師になるのだから当然だ。
しかし―――。
最近では、この価値観が揺らいでいる。
本当に揺らいでいるのは生徒ではない。教師たちだ。
一年前までは、まだ良かった。
教官たちの中には、遠坂刹那という魔術師の『手法』を半信半疑―――所詮は、異端の古式魔法師の術理なり。
……という程度で済ませていたのだが、その手法が着実な結果を残し、惑っていた人々の手をつかみ、しかと地に足をつけさせる。確かな足跡を残していく度に、人々はそれを
そして、それを認められない筆頭が現2年の学年主任なのだ……。
「今は―――まだいいだろ。そもそも、俺達が言ったところで、そしてエルメロイ講師たちとて何か出来るわけじゃないんだ……」
そして、そんな学年主任の無茶な指導というか、かなりのスパルタ方式な実技指導に、クラスリーダーたる司波深雪が、少しばかり『疲れた』風ではあるが、ケロリとしていたのも一つ。
四葉家の魔法師という触れ込みは間違いないようだ。
そして、少なくともクラスリーダーが、それに追随している内は、森崎たちも何も出来ない。
別に犬のような忠節心を持っているわけでも、四葉というネーミングに恐れているわけではない。
第一、森崎たちは司波・遠坂派閥からはあんまり好かれていない。
当然、森崎―――だけが、敵愾心を持っているわけではない。是々非々でやっていくぐらいの気持ちはある。
しかし……この『香り高い飲めるラー油』という『古の調味料』を簡単に作り、それを有効に使う手管……。
同時に魔道というものを、真なる意味で『解釈』していくその在り方がどうしても……。
「どちらにせよ、百舌谷先生のやり方に我慢が効かなくなる連中だって出てくるだろう。それからさ」
結論としては、『熱いサウナに居続ける』ということだった。
だが、それが良好なものなのだろうか。我慢し続けて、倒れた時点では手遅れにならないだろうか?
様々な疑問を懐きつつも……この一年間で凝り固まったエリート意識を持ってきたA組の面子は、そんな簡単に遠坂やそれに関係する人間を頼ることは出来ずに―――。
その判断が、時計塔にて略奪公と呼ばれたロード・エルメロイII世の『最大級の介入』を招くことになるのだった。
「肉は熟成肉。野菜もまたいい感じに切られていますか。この食材の不均一性が、このラー油炒飯を飽きさせないアクセントになっていますね」
ただの辛味大好き人間ではなかったのか。そも自分が見てきた『カレン・オルテンシア』というシスターは、あまりにもひどい霊障のために味覚が『極端』なのは分かっていたが……それを踏まえると彼女はどうやら違うようだ。
「なんというか、天下に料理上手と知られる遠坂先輩のわりには、遊びがありますね?」
「んなことまで分かるのかよお前は」
どこの料理マンガの審査員だよと想いつつも、ネタバラシをしておく。
「如何に『飲めるラー油』を使ったとは言え、味を単一にするのは、俺の好みじゃなかったんでな。となると、歯ざわりの不均一性―――具材の食感で変化を着けたんだ」
「察するに、アンジェリーナ先輩に発破をかけて、妙な気合い、いえ気負いから乱雑な包丁捌きの具材を炒めたというところでしょうかね?」
「スパークを使って肉を
まるで料理下手だと言われた気分のリーナの反論。魔法をそんなことに使うとは……。
達也としては納得行くようないかないような。まぁどうでもいいことである。
この炒飯の味の前では全てが瑣末事。
「辛いことは辛いんだが、ソレ以上に香りと旨味がすごすぎて……」
「食べるラー油はすでに『失われた調味料』ですからね……」
深雪の言葉に達也は少しだけ考える。
刹那は何気に作ったものだろうが、この2090年代において、中華料理の大半の技術は日本人から失われている。
いや、中国大陸でもそうなんじゃないかとおもう点もあるのだが……。ともあれ世界的な気象変化。要は寒冷化によって、収穫すべき商品作物が厳選されて、特に穀物に作付けが集中された結果、唐辛子や胡椒……香辛料の類がお座なりになった面もあるのだ。
当然、気象条件が比較的穏やかだった南国とかでは、少し事情も違ったのだが……ともあれ、そういった風に『嗜好食品』というか『調味料』の類が、『単調』というか『大味』なものになったのは否めないのだ。
当然、食材が無く作ることが出来なければ、自然と技術も失伝する。ペストの大流行がヨーロッパ地域の伝統芸能や技術を失わせたのと同じである。
「まぁ、それはともかくとして……言峰カレンは生徒会入りを断ったのか?」
達也も副会長ではあるのだが、言峰カレンという成績だけならばトップである彼女との面通しが出来ずに、他の面子に任せてしまった。
原因としては魔工科での諸々が大きかったではあるが。
「ええ……総代答辞を断った時点でお察しでしたけど、本人は
コーラス部でもあれば入ったとは言う言峰カレンのその姿勢だが……少しだけ分かることもある。
(現在、刹那と―――自意識過剰かもしれんが、四葉である俺と深雪を巡って、妙な思惑持ちの一年生たちは、動き出している)
特に何かするわけではないが、それでも何か危害を加えようとするならば―――。
(この最大級の中華料理を失わせるならば、万難を排してくれようぞ。下級生!)
「……お兄様、何か私たちの危難よりも、自分の美味礼讃のために戦っていませんかね?」
「そんなことよりも深雪、ということは、次席である泉美が生徒会入りだな……邪険にするなよ」
そんなこと扱いされたことで、深雪は少しだけ不満を貯めるも、レンゲで炒飯を食らうことで不満を消す。
「しませんよ……ただ、なんというか―――慕情がすぎるというか、節度を保ってほしいというか……身の危険を感じるというか」
同性に対する憧憬というには、それがすぎる七草泉美という少女の接し方は、性的にはノーマルな深雪にとって、少しばかり戸惑うもののようだ。
もっとも泉美とて、別に同性に対して本気なわけではないはず。
実際、度々ではあるが、刹那とリーナが仲よさげに歩いているのを恨めしげに見ていたのだから。それがどういう意味なのかはまだ定かではないが……まぁそういうことにしておく。
「話は変わるが、深雪……A組の面子は何か……『地獄の特訓』でもやっているのか? 実は百舌谷教官のデスマーチ指揮者だったりする?」
「―――お気になさらず。お母様の『厳しい訓練』に比べれば、然程のことではありませんから」
平然と、しれっ、とそんなことをのたまう深雪に苦笑せざるをえない。
「そりゃお前ならば、そう言えるだろうけど……」
妹の言い分は実に自分基準なものではある。だが、刹那もその辺は疑問に想っていたのか、A組の胃袋のためなのか、炒飯を少しマイルドにするべく動き出す。
「
「問題ないでち。 ますたーが作る紅玉炒飯をマイルドにする『めれんげすくらんぶるえっぐ』も作るんでちね?」
「ああ、そっちは頼めるか?」
「任せるでち! 」
自動調理が主になった時代で、時代錯誤も同然だが、今季よりの一高の食堂担当者である『若女将』の了承のもと、厨房に入る刹那。
追加の紅色炒飯―――その上にふわふわの卵白……白いスクランブルエッグとも言えるもの乗せる
「刹那、おかわりだ」
「とりあえず、いまのところはA組優先だ」
配膳場所に皿を出した瞬間、ブルペンキャッチャーを拒否られた気分ながらも、そこから見えた厨房の様子。
中華鍋(大)を軽快に振るう刹那に合いの手を入れるかのように、若女将が軽快に調味料を入れる。
「でち―――でち! でちでち!!!」
横からの作業だが、片手で卵(エッグセパレーター要らず)を割り入れたり、予め作っておいた調味料を入れる手際の速さ。
それを見て―――。
「やはり料理人としての相棒は、リーナよりも
「「「「そりゃ若女将と比べりゃね!!!」」」」
何気ない達也のつぶやきに、一高女子全員の怒りの言葉が響き渡り―――。
「なんとも騒がしいな。ミス・前田、ここでよろしいのですかね?」
「はい。ウェイバー先生、スカサハ先生ともども、ご指導お願いします」
「私に出来るのは、バニーのルーンを教えるだけなのだがな、ケイト」
「刹那、私にも『紅玉炒飯』を頼む!!」
それが合図であったかのように、今度は教師陣の食堂への到着。更にざわめきともどよめきとも言えるものが広がり―――。
(アイツは新たなる四皇のように『ヒトヒトの実』モデル:ニカでも食べているんじゃなかろうか?)
騒動と言うか、ただの昼食―――料理バトルがあったとはいえ、それがとんでもない火となって、こんな大騒ぎになるとは……。
「―――もはや慣れたことだな」
穏やかな日常など達也にはすでに無い。レオが言っていたことではあるが、乱世を求めてしまう性。
それこそが、自分たち遠坂刹那の『仲間』なのだろう。
そんな風な結論であった。
……という達也のセンチメンタルな考えの裏で、どうしたものかと考えるナイーブな少年が一人。
聞いていたとおりに恐ろしく色んな人間に構われている。それどころかサーヴァントを当然のごとく運用している男だ。
この男一人を何とかすることで、連盟の運命が変わる。それを理解してしまっていた。
だが―――――――。
(僕では、勝てない……それでも……)
挑みたい。戦ってみたい。頂点との『差』。それを知りたいのだから……。
懐に忍ばせてある紙を持ち、どうしたものかと想っていたら……。
「果たし状って、随分と時代錯誤なことをするんだね。キミ?」
「――――――何か御用ですか? 七草さん」
少しだけドキリとした霧雨ではあるが、それでも平素とにこやかな笑みを装い応える。
―――七草香澄。自分の学年の三席にして総代の姉。この辺を縄張りにしている十師族の一人。
およそ挙げられるだけの情報を頭の中で出した霧雨だが、本当に何の用なのかと思う。
「うーん、まぁキミが連盟のスパイなんだよね?」
「仰るとおり。神代秘術連盟が『東京』に寄越した間者。それが僕ですが……御父上の命で僕を消しにでも来ましたか?」
誤魔化しても仕方ないので、その辺りは暴露しつつ何用かと問う。
「剣呑な。ボク、そういうつもりで話しかけたんじゃないんだけど」
不満をあからさまに漏らす七草香澄に、どういうことだろうと思う。まぁ本音とは限らないので『眼鏡』を掛け直しつつ、話を促す。
そんな風に想っていたのだが、そんな活発系女子である七草香澄は、思わぬ提案をするのだった。
「ボクも遠坂先輩―――いや、魔宝使い『トオサカ』とは戦ってみたい―――だからさ……」
―――ボクと共同戦線を組もうよ―――
顔を近づけながら秘め事を囁くように耳元で言われたことで、刹晶院霧雨という男子は、どうしてもドキドキして、その言葉にYESと頷かざるをえなかった。
そんな一幕は、双子の妹(炒飯実食中)にバッチリ見られていたりするのだが……。
「香澄ちゃんは本当に、色んな男子を引っ掛けちゃうんですから、魔法科高校でも変わらないとか」
何故、こうも姉妹で性格が違うのか、少しだけ思い悩むぐらいには、事態の深刻さは伝わっていなかった……。
ネタの一つにリーナの包丁さばきが乱れたのは
『セツナが昨晩7回も、腰を合わせてワタシを『イカせた』からヨ!!』などと言って五十嵐辺りに鼻血ブーさせて、真っ赤な炒飯が更に真っ赤に――――――などというネタは、食べ物を粗末にしてはいけない精神に反するのでボツにしました。
まぁあんまりにもお下劣すぎるかと思って自重。いまさらすぎますが