魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
まぁキャラゲーなんだから、こういうのでいいんだよ こういうので(輸入雑貨商)
魔法大学付属第三高校に入学した七宝琢磨は、現状に様々なことを想っていた。
当初こそ、色々とタレント揃いな一高に入学することは、自分が埋没するという危機感とか、七草との競争を避けたとか思われても、なんとでもいえという捨鉢な気持ちと、少しの反発心を以て金沢までやってきたのだ。
一人暮らし……かつての学生の一人暮らしというと、かなりアレコレと手間がかかるものであったが、現在はそうでもない。
自動調理器。自動掃除機。自動洗濯機。自動乾燥機。
部屋に備え付けてるそれにモノを放り込んでおけば、簡易でこなしてくれる。
琢磨の生活を実家と同じくしてくれた―――しかし、やはりその辺りの前準備も家人にやらせていただけに、手間は感じる辺り、自分はまだまだだと想えた。
そう考えると、入学当初から『恋人』と同棲していた上に、家事全般をある程度己だけでこなしていた―――。
(意識する必要があるかよ……)
琢磨にとってその男は、どうしても険相を浮かべてしまう存在だった。
数字持ちはおろか、エレメンツですらなく、あえて言えば古式なのかもしれないが、古式の界隈でも聞いたことがない相手だとのこと。
なのに、そいつは魔法師界の最前線に立ち、多くの変革を行い、さりとて無用な敵対を発生させず、事態の中心にいつでもいる……トラブルメーカーにしてトラブルシューター。
孤狼にして万軍を得るもの……だからこそ、琢磨は遠坂刹那から離れたのだ。
自分は
(マキさんには申し訳ないことをしたかな……そのうち、設定の上は、京都府警なのに誰一人京都弁を話さない刑事ドラマよろしく、石川県警なのに誰一人金沢弁を話さないドラマ撮影をやるとか言っていたけど)
勘弁願いますと想いつつも、戦いには集中する。
風紀委員の職務とは別に『部活動』にも入っていた琢磨。
マーシャルマジックアーツ部という魔法戦闘を主とする部活は、流石は尚武の三高というだけに、とてつもない気迫のものであった。
時にはOBである一条剛毅がコーチとしてやってきたりして、多くの未熟な学生たちを笑いながら蹴散らして、惜しげもなく技を披露していくのだから、学生たちはそれを見て、学び……技を練る。
そういうものであったのだが、今日は違った意味で注目するものがあった。
隣の武場で練習をする魔法戦闘系の部活である。
マジックフェンシング部―――剣術競技としてオリンピック種目にも選ばれたフェンシングに魔法技術を加えた、アーツ部のように米国海軍の体術に合わせたのとはまた違う成立経緯を持つ魔法競技で、2人の少女が剣を合わせていたからだ。
ちょうどよくアーツ部が休憩時間に入ったので、タオルで頭部を満遍なく拭いていた時に、それを見させてもらうことにした。
アーツ部と同じく魔法戦闘を行うためのスーツ。体のラインが出るタイプのそれを着ながらサーベルを振るう2人の少女。
それだけでも絵になり、見応えというものを覚える。
俗な話だが、女性アスリートには時に『魅せる』というショーマンシップ的な面が、男性アスリートよりも求められる。
それは協賛スポンサーとか、画面の向こう側の人々への『受け』をよくするためでもあるのだが……
「やってるねぇ。一色の姫騎士サマは」
「上級生に対してそういう言い方、どうなんだよ伊倉?」
「褒めてるつもりだったんだがな」
同部の同級生。伊倉という男子の言葉に少しだけ窘めながらも、琢磨もその姿を見る。
剣戟を振るう女子たちの中でも、やはり彼女は目立ってしまう。
日本の魔法師界では珍しい金髪。
そしてモンゴロイドではない顔立ちの少女は―――確かに姫騎士であった。
一色愛梨―――『第一研』出身の一色家、その本家の次女である。
一時期は様々なスキャンダルに晒されたものの、気風のよさを持つ三高では特に波風立たず、寧ろその後に起きた横浜マジックウォーズ、東京魔道災害における『長女』と『次女』の獅子奮闘の賜物で、名誉回復どころか家名向上したほどである。
白系統のスーツに身を纏いながら、サーベルを振るう少女。高速のラッシングからの薙ぎ払い。
凄まじい攻撃だ。魔法を使っているからこその迫力ある攻撃。されど、そこには荒々しさではなく優美なものを感じる。
そんな少女の攻撃に対するものもまた、尋常の剣術競技者ではない。
こちらは純日本人と言える人間だ。カラスの濡羽色とでも評すべき髪を振り乱しながら、姫騎士の攻撃を受けていく。
どちらかといえば防御主体な剣腕だと気づくが、決して返し技を決めていないわけではない。
最硬度の『盾』のような魔法で守りながらも、カウンターを決めていき、ポイントを獲得していく。
実力伯仲と呼ぶに相応しい戦いの結末は、経験で勝る姫騎士―――、一色愛梨に軍配が上がる。
相手である一年生『光主タチエ』は、敗北しながらも無表情のままに終了の礼をするのであった。
(一色先輩と互するなんて、あの同級生……何者だ?)
日本の十大研究所が
時には世間一般の倫理・道徳観から見れば、非人道な実験を経てでも得た魔法能力が、ぽっと出の家系に追い抜かれる事実を、最近殊更認識しているのが、師補の家として十師族を目指している琢磨などなのだが……。
光主という名字から『光のエレメンツ』とも感じるが……。詳細はわからない。何だか本当に『生きている人間』なのかと思っていたのだが……。
「おいおい琢磨。あんまり汗かいた女子をジロジロと見るなよ。セクハラだと思われるぞ」
伊倉の言葉に、そういやそうだなと思って、紳士的ではない行為を終えて後ろを向くと。
「寧ろ、見ている時点でセクハラ成立だがな七宝」
「―――将輝さん」
この三高の王子が立っているのだった。遠くにいる女子のマジックフェンシング部が色めき立ち、近くにいるアーツ部女子も、汗を気にして、今さらながらあたふたする。
何用かと思ったのは、当然自分だけでなく遠くの一色愛梨も同じだったらしく、サーコートを肩に羽織ってから、こちらにやってくる。
「覗きにでも来たのかしら?」
一色の詰問するような言い方にも聞こえるが、傍から聞く限りでは平素な調子だ。
「まさか。様子を見に来たのと……ちょっとした『お節介』だな」
後半で少しだけ面白がるような声を出した将輝に、誰もが『?』を頭の上に発生させるも―――。
「どうやら一高で『イベント』が発生したようだ。一高以外の魔法科高校でライブ配信中。かなりスゴイことだから、ここの大画面モニターを使って視聴しようかと」
何が起こったのやら、という一年が疑問を呈する前に。
「セルナなんですねっ!! ああっ、流石は私のモナムール!! 魔法師界のトップオブトップス!! 今度はどんな覇業を成したのでしょうか!?」
どんな推理が成されたのか、簡単に正解を導き出すのであった。瞳の中にハートマークが出来上がった様子の一色愛梨(想像)を見て、蚊帳の外であった琢磨は『脈がないかな?』とか、考えてしまう。
先程まで苛烈に華麗に果敢に剣を振るっていた姫騎士から、恋に恋する乙女への変貌に一年の殆どは呆然としてしまう。
とんでもない変わりようであったからだが……。
「伊倉はあんまり驚いていないんだな……?」
例外はいたりするのであった。
「まぁ地元民ですし」
苦笑するような伊倉には、新潟の方に越した親族がいる。歳は少し離れているが、名字との関連で『おもしろい名前』の近い年代の従弟がいるとか言う話を聞いた。
当初は、琢磨の同級生たるこちらの伊倉家も新潟に行くことが検討されていたが、『色々』あって『国替え』はしなくなったとのこと。
「一色先輩が、あそこまで一高の遠坂先輩に熱を上げているのは、ここいらの魔法師の間では有名な話だ。かなり情熱的なアプローチしているみたいだし」
「けど―――、俺も東京にいた頃に少し見たが、どう考えてもシールズ先輩との関係が深すぎるように想えたぞ?」
割って入るのは無理なんじゃなかろうか? という東京モンの意見に苦笑しながら、伊倉はわざとらしく人差し指をふりながら『チッチッチ』とでも言わんばかりのポーズを取って持論を語る。
「それは確かに『わきまえた意見』だ。けれど、あそこまで『女』として自覚させたならば、責任持って『浮気』『不倫』するのもある種の甲斐性だと思うぞ」
マジかよとカルチャーショックを受ける琢磨。しかし、仮に一色愛梨が他の男と一緒になれるかと言えば、少々それも難しいぐらいには、何となく分かる。
学生時代の淡い想い出として忘却するには、遠坂刹那が、完全に一色と直接対面せずに済むぐらいにならなければいけないが……。
(生憎、魔法大学はこの国には一校しか存在していない)
完全に離れ離れになるのは難しいか? と想いつつ、将輝はイベントとやらが再生されているのだろう端末を、武場の大型スクリーンに表示されるようにつなげた。
そして最初に出てきた場面は……。
『いま必殺の姉ビーム♡♡♡ さぁセツナ、私をお姉ちゃんと呼んで、マロニエに歌を口ずさむような愛のユニゾンマジックをしましょう!!』
『なんで俺は味方から攻撃を受けているんだ!?』
『奴ら混乱している!!』
『火刑だ!! 火に包まれろ!!!』
『『真面目にやれ―――!!!』』
3対3の最新(?)のリローデッドな対戦形式の中で、高度な術を放ちながらも、戯けるような調子でいる見知った顔と見知らぬ顔の混成であったのだが……。
「レティシアあああ!! セルナと愛の合体攻撃『ペガーズ・エール』を使うのは、この私なんですけどぉおお!! というか、こういう時に怒るべきアンジェリーナは何をやっているんですかぁあああ!? あざとイエローすぎるこの衣装とか―――妨害せんかいぃいい!!」
(愛が深いか……)
今にも巨大スクリーンをぶっ壊しかねないエクレールを止めるべく、タチエも抑えに回っているのを見ながら―――。
(七草……)
自分にとって目の上のたんこぶであった双子が、最大級の強敵に挑戦できることを少しだけ羨むのであった。
琢磨以外の誰もが、三高の女子エースのこの様子が今後に影響しなければいいなと思いつつ、校長先生と新任の京音先生を呼んでくるように誰もが動く―――。
そして今年度の九校戦にて、この『深すぎる愛』が、最大級の波乱を巻き起こすのであった。