魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
書かなきゃならないと想ったので急遽変更。大して気にしていないとは想いますが混乱させて申し訳ありませんでした。
数々の名優の訃報が相次ぐ中、それでも僕らの夏は――――――通販でしか買えないよ。
ちくせう。盆で色んな方々がお帰りになっている中での新話お送りします。
「先生、大丈夫かな……?」
「フツーは、逆なんじゃないかしら?」
心配をするベクトルが違う気がするリーナは恋人にそんなことを言うも、恋人は真剣な限りであった。
「先生は、何かあるごとに命の危険に巻き込まれるか弱いお人だからな。弟子一同はいつでもハラハラドキドキだ」
一番心配していたのは、墓守のヒトであった。自分が物心ついたときには、もはや夫婦同然の関係であったのだから、いっそのこと結婚してしまえと何度も思ったほどだ。
「ケドその後は、セツナが一杯心配させちゃったのよネ」
「俺も色々と考えていたんだ。指針たるお袋が死んじまったからな」
これからの遠坂をどう切り盛りしていくか、そもそもやっていけるのか……まぁ無謀すぎた点もあったかもしれないが―――。
「一人前になるために、色々と知りたくなってしまったんだ」
それで母親ではなく父親の足跡を辿る辺りに、刹那の心をリーナは理解してしまう。そういう所はオトコノコなのだ。
(ロード・エルメロイII世、あなたの心がA組の人間たちに伝わることを願っていますよ)
その言葉の後には教師補として、教室に赴き―――。
「もうライネス先生から聞いていると思うが、一週間ほどウェイバー先生は違うクラスに行っている―――そして、この一週間を利用して―――俺は君たちに格段のレベルアップを施そうじゃないか!」
「「「「「OH! YEAAAHHH!!!!」」」」
「今日は君たちにかっちょいい術を教えてやるぜ。カムカムエヴリバディ! ……と言ってやりたいが―――」
教壇に立つと同時に、見えてきたメンツに物申したい。いつもと後輩諸君の調子が違うことを認識した刹那は、机には座っていないが、それでも授業を受けに来たメンツを見ながら言う。
「あー……何で2B組のメンツがいるわけ? しかも四葉先生まで含めて……」
メンツは親愛なる我がクラスの同輩たち一同であった。
「いやー、私ってば教師になってそんなに日が経っていないから、こういう風な他の先生の教育手腕を見て学ばなければならないのよ」
ココアたちへの教導とやらは、何だったのかと思う。
その辺りを刹那かリーナの表情から読んだ四葉先生は。
「アレは九亜ちゃんたち『わだつみ』ちゃんたちが、魔法の教導よりも、一般教養を学ばせることを重視したから―――まぁ『真夜先生は悪の組織のエロい女幹部』とか、妙な勘違いもしていたから必死だったの!」
必死な形相の四葉先生には悪いが……わりかし的確な表現なんじゃなかろうか、と九亜たちの鋭い感性を内心でのみ褒めてしまう。
「で2−Bのメンツは何だ? 俺とリーナがいなくて寂しかったのか?」
「んなわきゃあるかっ! あ―――いや、確かに無くはないよ。ただ、ソレ以上に興味もあるし、何より……エルメロイ先生がいない中で、遠坂がノーリッジ生にちゃんと教導出来ているかを知りたかったのよ」
ツンデレすぎる桜小路の言葉に『そうかい』と笑みを含めつつ、ならば、これを利用しない手はない。
今日やることは、魔力の収束・拡散運動に関してである。
質量物質や気体などに対して干渉を行う際に必要となる術理ではあるが、これを行うためにはまず『サイオン』をそのように『加工』する技術が必要になる。
物体や気体に干渉する前に、己のチカラがどう作用するかを知る必要があるのだ。
「優秀な先輩方も多いわけだ。実演及び聞きたい人とかに聞いておけよ。部活での先輩もいないわけじゃなかろうし」
まぁ魔法競技系の部活部員が多いわけだが、それでも―――いい感じにバラけているのを見つつ、全員に用意したエーテル塊―――半透明な粘土のようなそれで、思うままにやらせることにした。
「―――あまりやり方は指導しないのね?」
「人間それぞれで『感性』って違うでしょ? 先生が、初っ端の指導の説明の際にあえて『精神系統』を省いたのは、各々のリアリティイメージに余計なものを与えたくなかったからなんですよ」
結局の所、魔法師とて人間であるということだ。例えば、『葛飾北斎』の『富嶽三十六景』を見せた時に、その絵を『ダイナミック』と感じるか、『リアリズムではない』とか―――『北斎はミクロ秒の水の動きを見ていた』とか感じるかは別なのだ。
ヒドイ時には、ヒトに『楕円形』を説明する際に『三日月』とか表現するような人間もいる。とはいえ、本人がそうならばそうなのだ。
並べてヒトの感性が導き出すイメージに、共通したものとは無いのだ。
そこを『矯正』しようとは思わない。上記の楕円を三日月と称するように、流石にあからさまに『アレ』であれば、少しは物申すも……それでも個人がイメージしたものが、そうであるならば、そこから『拡大』させるか『収束』させるかは、それぞれなのだ。
五感が感じたままの
「やれやれ、四葉の人間としては物申したいけれどもね」
「ケド、先生だって別に何か『マインドジャック』されたから、マイスター弘一を好きになったわけではないノデショウ?」
「そ、そうね。何せ私も姉さんも山梨・長野の「田舎モノ」、特に私は都会な空気を纏う弘一さんにメロメロだったわ。いうなれば、伊豆に遠流されていた源氏嫡流に恋する地元のお嬢といったところよ」
どこの鎌倉殿と13人だと思う。とはいえ、リーナの言葉に意地になって返す辺り、愛が深いのは間違いないようだ。
「ともあれ気付いたことがあれば、よろしくおねがいします。気になるならば刹晶院でも見ていればよろしいかと」
「あら? 気が利くわね。では香澄ちゃんと泉美ちゃんを拐かす男子を注視しましょう」
「遠坂先輩、ヘルプ・ミー!」
「どうしたんだ?」
そのタイミングを狙っていたのか、一人の女子がサポートを願い出たのであった。当然の如く、女子であることがリーナの心をざわつかせるのか、着いて来るのだが……。
「ふふふ! やはりお2人の恋愛模様は、見ていて面白い限り!! こりゃ私の創作が捗りますよ!!」
羽海乃の狙い通りだったことに少しムカついて、少々レベルの高いことをやらせるのであった。
そしてA組では――――。
「キミが刹那に指導を求めなかったように、刹那もキミを指導したくなかったんだろうな。まぁ理由は分かる」
「ど、どういうことですか?」
「これを言えばキミを解体することになるからだ。リトルミス・ヨツバ」
遂にクラスリーダーたる司波深雪にエルメロイ先生の指導が入ることになったわけだが、辛辣な言動がエルメロイ先生から放たれる。
「キミは、運動を止めること。即ち『停止』させることに長けた術者だと、周囲から見られているだろう。事実、それに準じた術を使えるようだしな。恐らく、ちょっとした小島の全土ぐらいは、氷漬けにしたことがあるんじゃないかな?」
「そ、その通りです。何故……そこまで分かるのですか?」
「カンというわけではないが、出来る範囲というのが分かる。いわゆる歳入と歳費の出入りで国家が戦争できる年数が決まるが如く、私には分かるのだよ。まぁそれはともかくとして―――その停止させようとしている根源には、恐らく『何か』を自分のもとに留めておきたいという想いが根本にあるのだろう」
あえて詳細は言わないがねと言う、教師が言わんとするところの『何か』は……一高生ならば、自明の理だからだ。
「だが、その一方でキミは案外というか、見たままに『激情家』だ。刹那やアンジェリーナのように、決して熱弁を振るうタイプではないが、その本質は燃えるような『想い』を抱く性格だ。このミスマッチというか、相反するものを取り込んでいるところが、どうにもな」
それを言われて何となく分かる。淑女然とした様子を見せる一方で、私心……要するに司波達也という少年を嘲る態度を見せた相手には、制裁を加えたいとする心だ。
だが、それは冷たく笑うようで―――。
(激情を持った怒りではあるか)
そこであからさまに、『ウタってんじゃねーぞ!! この見る目が無いクソ野郎が!!』とかヤンキーよろしく言っていれば、また違うのだが……。
「だが、キミが誰かを『そのままの姿』で留めたいと願っていても、キミと誰かは別の人間だ。
自分の周囲や誰かが、変わらぬままでいることは不可能だ。『変わらないでいてほしい』という願いが、凍結であり、停止であり、停滞させんとする術理に反映されている。
しかし、その片方で熱を持っている。自分の宝物を自慢して周囲に称えてほしいという、ある種『ゲッベルス』じみたところはあるな」
何という解体だ。その人物の術理の源泉を簡単に言い当ててしまうというエルメロイ2世の解体が、司波深雪を斬り裂いていく。
「で、では……私は、どうすればいいんですかね?」
「どちらも『一度』に使おうとしないことだ。使う際には『どちらか』に振り切れ。遅いギアと速いギアを両方とも使うことは不可能だからな。
そして『熱』を怖がるな。全ての文明は火を以て切り開かれた。火とは、即ち―――ヒトの進歩、人理なり」
「―――」
「寒冷化を果たしたこの世界において、火は貴重なものだ。
そしてキミが持っている火は、誰かを認めてくれない世界への『怒り』だ。怒りを正しい意味で発露させなければ、溜め込まれていくものだな―――キミはもう少し『己だけの自主性』を持ち給え。キミと兄は違うのだから、その人生に寄り添うのは結構だが、離れてくれと突き放された時に、どうするかだ」
結論としては、『術理を養う前に己を見つめ直せ』。そういうことであった。
だが、それを受け入れづらい考えの深雪がいた。そもそも、今回百舌谷が実施した教育手法を『黙認』したのは、深雪であった。
黙認どころかある種の『精神操作』まで行い、森崎たちなどの『臆病者』どもに『告発』をさせないように仕向けていたのだ。
かつて、四葉所有の島において、母親である深夜から強烈なまでの魔法訓練を強要されていた深雪からすれば、百舌谷の実技訓練は、まだまだであったのだ。
だが、それでもこれを利用しようと思った。
兄を、司波達也を、四葉達也を―――世間に認めさせるために。
兄は恐らく、今後―――新たなる魔法を開発していくだろう。それは恐らく、戦術級ではなく『戦略級魔法』の類。
しかし、簡易な魔法具を持ってしても、未だに戦略級魔法は『使用者』が限定される魔法なのだ。1万人のA級魔法師から篩いにかけて、ようやく一人、二人出来るかという話。
だが、魔法教育というものは一変した。
それは、大勢の中から選び出された強烈なまでの『選民』だけが『伸びる』『上昇する』という風な、今までの方針を転換するものであった。
それぞれが『やりたいこと』『やらなければならないこと』を必死で考えて、そしてそれに邁進する。
当然、カリキュラムでのテスト内容はクリアしなければならない。だが、それを簡易にやっていく方法を伝授していったのだ。
そして己の術理を磨いていく。己という原石、それぞれの輝きは自ら発していくものだと、銀河美少年のごとき男は訴えていった。
それは―――深雪にとって好ましからざるものであった。
それでは兄の持つ輝きが失われる。彼の開発した理論や魔道具の価値が無くなる。
『強力な術者』にしか、彼の理論であり結果は再現できず、理解が出来ない。
実技が出来ないくせに理論を理解している、司波達也という男の本質を発揮できないのだ。
――――誰も彼を認めてくれない。
『それはイヤだ!』
そういう無意識の『精神操作』のサイオンが迸り、そしてA組という深雪にとって都合のいい『生け簀』か、『養鶏場』にいる
そして、それをウェイバー・ベルベットは見抜いた。
だが、彼女の誤算は、それが早くも見抜かれたことだ。
同時に昨年度に刹那の教導を受けていたものたちのレジストを発揮させて、何かおかしいという感覚を付けさせたのだ。
人の口に戸は立てられない。
異常は簡単に見抜かれたのである。メビウスの輪にするには、少々……オープンな場所だったのである。
「では……ウェイバー先生は……そのように自分から離れていくものを―――快く見送れたのですか?」
これは教導ではなく、糾弾の場であることを理解した深雪の声は硬い。
「……私はいつでも見送る側さ。卒業していく生徒、とある事情から時計塔を去っていった人間―――、最初に見送ったと思えたのは、母か―――それとも偉大なる王であったか」
人生の厚さを知らぬ小娘がと言わんばかりに、煙に巻いた言動にも聞こえるが、ウェイバーの言いたいことは違った。
「だが、私が見送ってはいけなかった人間が2人いる。止めるべきだった人間がね。
1人は、『正義の味方』になるべく戦場に向かった男だった。その男は最初から壊れていた。己の為すべきことを勘違いして、人間としての幸せを教えていた私の弟子から離れていった……本当に、大馬鹿者だよ」
その悔恨が深いものであることは表情から見える。
「そしてもう1人は、その男の息子だった。素質は抜群、長じれば伝説を刻み、魔術世界に変革をもたらしただろう。だが、その息子も大馬鹿者だった。己の資質に眼が眩んだわけではない。だが―――男と同じく、彼もまた血煙漂う戦場へとその足を踏み込んだ。
男と違い、彼は生きて最後まで私に顔を見せ続けてきたが―――それでも、最後には私の元から消え去った」
誰のことであるかは深雪には理解できた。このヒトもまた―――誰かを見送ってきた。
このヒトの悔恨を理解できないほど、深雪は情がないわけではない。あの記憶映像を見て何も思えない女ではないのだ。
「私と刹那はキミが望む世界を壊すものなのだろう。だが、それでも
それは宣戦布告というヤツなのかもしれないが、もはや深雪は、自分と達也が完全に違う道にいるのだと気付いている。
それはどんな関係の家族であってもあり得る話でしかないのだが……。どうしても深雪はそれに寂しさを覚えるのだった。
しかし―――。
「よろしくご指導ご鞭撻、お願いします。そして―――申し訳ありませんでした。ロード・エルメロイII世」
一礼をして深々と頭を下げる深雪の姿。
それでも、自分が総代答辞の時に述べたことを覆すわけにはいかず、そのような変節激しく卑しい女になることも出来ない辺りに、深雪の本心があるのであった。
その後は、A組全員に謝罪をして、魔力疲労を起こした同級生たちにも全てを打ち明ける。
結局―――それで万事は解決するのであった。
だが、『最後の答え合わせ』は残っている……。