魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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『クリームヒルト様は探したい 2』

克人から事件の詳細が伝えられていく。現在、斬りつけられたのは、およそ15人―――その全員が例外なく……。

 

「―――斬られたあとに『五体満足』の心身健康体になる……どういうことですか?」

 

「そうとしか言えんのだ。つまり切り裂き貴婦人の被害者はおれども、『犠牲者』は出ていないと言える」

 

被害者たちは一様に、確かに一度は斬られる。死んだわけではない。死ぬような痛みを食らうわけではない。

 

ただ斬られた事実が無くなるかのように、全員が健康になるなんて……。

 

「本当に復讐したい相手以外は殺せない剣、あるいは、間違えて殺してしまった相手は回復させる剣―――ないし、この貴婦人のスキルとかかもしれませんね」

 

「サーヴァントで間違いないか?」

 

「お虎、ジェーン」

 

その言葉に、ちびキャラ化していたサーヴァントは答える。

 

『まず間違いなく。ただ、この姫君、どうにもこういう荒事向きではなさそうですな。大剣も己のものとしている感じには見えませんな』

 

『タイガーに同じ、まぁサーヴァントって武技に長けた存在ばかりじゃないしねー☆ 伝わる逸話の中に『どんな形であれ、英雄を害した』というものがあれば、それだけで昇華されちゃうものだし』

 

二人の言葉を受けながら刹那は考える。

 

「この貴婦人の持っている剣は、英雄ジークフリートで有名な『バルムンク』です。悪竜ファーヴニルを殺した竜殺剣」

 

「ふむ。ワーグナーは俺も好きだから多少は分かるぞ。となると―――この貴婦人は、クリームヒルトか」

 

「まぁその可能性は高いですね。騙された戦乙女のブリュンヒルドだかブリュンヒルデだったらば、もう少し達者な剣捌きでしょうから」

 

案外、今回は簡単に終わるかもしれない。

 

しかし、やはり影響は出ていた。

 

タタリ。死徒。魔神柱。真祖。ARCHETYPE:EARTH。

獣の尖兵。星の巫女姫オルガマリー……。

 

そして固有結界―――1月の末ぐらいから2月の第二週ぐらいまでは、もうお腹いっぱいなぐらいにとんでもイベントの連続。

 

こんなとんでもイベントの連続で、地脈やそれに類する魔的な現象が後を引かないわけがないのだ。影響は、どこかしらに出ざるを得ない。

 

あるいは……それを利用して何かをやられた可能性もあるのだ。

 

「霊障の類としては随分と具体的で微妙すぎますが……、まぁこの後に不幸な犠牲者が出ないとも限りませんしね。どうにか解決してみせ―――」

 

『若大将! 富士の方で少々トラブルが―――、ああ、失礼しました……来客対応中でしたか……』

 

業務用のホットラインとでも言えばいいのか、そんなものがここにはあったたしく、十文字建設の社員らしき人が克人に連絡を入れてくるのであった。

 

「すみません。東のオヤジさん、恐らくですが―――」

 

業務上のあれこれを聞くわけにも行かず、どこからともなくデカイヘッドホンを出して、刹那はその音をシャットアウトする。

 

気遣いというわけではないが、まぁ積極的に聞くものではないだろうとしてそうしていたのだが、会話を終えると同時に、取っていいぞというジェスチャーが伝わる。

 

「すまんな。話途中であったのに」

 

「いえ、お構いなく。インサイダー取引に繋がりかねないことは聞かないようにしておきます」

 

「それは僥倖だが、少しは興味を持ってもらいたいものだな」

 

自慢したいという気持ちを克人から感じるも、推測出来る情報は幾つかあった。

 

「多分ですが、今年の九校戦―――その会場設営やら競技施設に至るまで……会社で請け負ったとか、そんな感じでは?」

 

「察しがいい後輩を持って俺は幸せものだな。とはいえ、ウチの一社だけで、そこまでの体力はない。合同プロジェクトと言う形で参加させてもらっているのさ」

 

「―――先輩、大学生だったのでは?」

 

もはや会社役員……現場にバリバリ出るタイプの課長・部長クラスにしか見えないと伝えるも。

 

「去年まで学生であり生の九校戦に参加した経験を買われてのアルバイトだ。もっとも、お前も知っての通り、今年の競技種目は変更が多いわけだが、色々と求められるところが多いんだ」

 

成程と思いつつ、学生バイトにしちゃ密度が濃すぎるし、職場での異性とのときめきメモリアルな出会いもなさそうだと想うも、言わぬが花にしておくのであった。

 

「まぁ例年通り、国防軍の工兵部隊がたのご活躍だけでは、手が回りそうにないんだろうな。どこも国防関連で『受注』を貰っていた企業ばかりだ」

 

北山家の関連会社もあるぞなどと、妙なことを言われつつも、話を戻す。

 

「それじゃ被害者たちに何か共通する点はあるんでしょうか?」

 

それ次第では『誘い込む』ことも出来るはずだ。というより猟犬のように追い立てるやり方が、前回は最大級の混乱を生み出したのだから、今回はやり方を変えることにするのは当然だ。

 

そのことを問うと、何かを言いづらそうな顔をする克人。

 

「ううむ……あるといえばあるんだ……」

 

歯切れ悪いその様子に、言いたくないならば次善の策を―――と思ったのだが……。

 

「いや、待て。分かった―――話そう。その前にこれを聞いてくれ」

 

そう言ってから端末を操った克人は音声データの再生。

 

聞こえてくる音に耳を澄ませる。澄まして、そして『解析』―――導き出せるものとは……。

 

「―――これ被害者たちの声なんですよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「いま、克人さんが出した声と似ていますが」

 

ステレオな音声の反響。悲鳴とも命乞いとも言える(おと)と、硬質だが、少しだけ焦るような(おと)とが混ざり合う。

 

つまりは――――。

 

「犯人―――仮称『喪服の貴婦人』または、サーヴァント・クリームヒルトの狙う人間は―――」

 

認めたくないが、認めなければならないことを、眼を瞑りながら克人は明確な(おと)で示した。

 

 

「往年の名声優『諏訪部順一』(アトベ様)のようなボイスをしているということだ」

 

 

「で、私を頼るわけですか」

 

「こういう場合、観測と計算に長けた君の方が適任だろ」

 

私服姿のシオンは、いままで何をやっていたのやらと思えるような様相であった。

俗に裸ワイシャツ姿だが、色気も何も感じないのは、それが煤とかホコリに塗れているといってもいいからであった。

 

「頼むシオン! コレも君のとんでも実験の後始末だ!! この通り!!」

 

「び、微妙に断りづらいことを……!! 懇願するように言うなんて―――刹那はド外道ですね!!」

 

相手に罪の意識を出させた上での、事態解決の願いを出す。

 

それを受けたシオンの顔は、眼を釣り上がらせてギザ歯を見せて怒りを表現している。

 

「この思考は不愉快です!! とにかく中にどうぞ!! ちなみにラニたちは全員でシネマ鑑賞です!! 題名は『スカディ様は北極に来てほしい』!」

 

無駄な情報が頭に入れられたわけだが、とにかく中に招き入れられた以上は、それに従うことにする。

 

「さて、シオン、改めて頼みがあるんだが……」

 

「貴方には恩義もあるし、借りもありますからね。 こんなことで返せるとは思えませんが」

 

「いやぁ~ホントに助かるわ~♪」

 

「その笑顔を殴るべしと、思考5番が囁いていますよ」

 

怖いことを言うお嬢さんだことと想いながらも、手っ取り早く事情説明をすべく――――――人差し指で自分の頭を何回か叩くと。

 

理解したシオンは呆れるようにしながらも、腕輪から先端に小さい接続端末が付けられた糸を引っ張りだした。

 

「脳神経に介入しての情報のやり取り―――刹那がこんなSFチックなことをやるとは想っていませんでしたよ」

 

「霊子ハッカーたる君には分かりやすいものだろ?」

 

もっとも刹那とてあまりやりたくは無いが、外部資料として何かを持ってくるというのは、今回は出来なかった。

 

今度ばかりは内々に済ませたいという警察とのやり取りを、克人から感じ取れたのである。

 

「まあ、貴方の事だからロクでもない事なんでしょうけどっ」

 

言いながらも効率を優先する錬金術師の読み取りが開始された。特に意識的にプロテクトが出来ることではないのだが、それでも読み取りはツーセカンズで終わりを告げた。

 

「―――成る程。地脈の異常は使われたのでしょう。ポータル……魔法陣の設置場所としてはそうなのでしょうが―――」

 

偶発的な怪異(イレギュラー)ではない。そうシオンは断じた。

 

「誰かが東京の異常霊脈を利用して、クリームヒルトを召喚した?」

 

「ジェーンのように蒼輝銀河なる場所からやってきた『はぐれ』とは違い、彼女ははぐれに見えて、何者かに召喚されて放置された『野良』……そうとしか言えません」

 

「『野良』だと? そんなものがいるのか?」

 

聖杯戦争というカテゴリーに立てば、マスターを失ったサーヴァントが貯蔵魔力で何日か現界を果たしているという事例はあったらしい。

 

特にアーチャークラスの単独行動スキルは、1日、2日の全力戦闘行動でも尽きることは無いというとんでもないものだ。

 

だが、彼女は……行動と言動から、その手のクラススキルを持っているようには思えない。クラススキルではなく固有スキルならば別だが。

 

「ええ、そういう存在もいるんですよ。貴方だって『人理継続』というカテゴリが『主題』(メイン)として存在する世界を観測したことがあるはずです」

 

その世界はダ・ヴィンチにとって一番縁がある世界だった。そして、その世界の『主役』と『ヒロイン』は、そういうのと協力し合う存在だった。

 

「そして召喚主の目的は、彼女の性能実験である可能性も高いです。そして、我々―――というよりも『アナタ』のチカラを測るために」

 

確信を以て語るシオンだが……少しだけ疑念を覚えた。何となく『何処』の『誰』がどんな動機であるかを理解しているような言い方だ。

 

そんなジト眼の魔眼(自己命名)で見ると、苦しそうな顔をするシオンの姿が――――――

 

「ど、どうしたのですか刹那? いまさら私の半裸に、嬉し恥ずかしドッキドキになっちゃいましたか? せめて夜まで――――――」

 

「シオン」

 

「すみません。こうなることは予想していました……」

 

ごまかしが通じないと分かると、すぐさま謝る辺り、本当この子といいシアリムといい、直線的すぎてあっけなく引っかかる。

 

「実を言えば、アトラス院がアクトレスアゲインを用いて北米で使えた経緯には、実験班の中に『FEHR』の人間がいたからなのです」

 

最大級の厄ネタが近づいてきた気がする。シオンから伝えられるところ、あの実験において当初の段階から、FEHRおよびFAIRのメンバーが関わっていた。

 

そもそも北米大陸において神秘分野は馴染まないとされがちだが、ウィルバー・ドミトリィの一件からしても、『何か』に目覚める要素はある。

 

また移民国家であり、先住民たちとの確執も抱え込んでいる。

 

つまり、それぞれの『風習』『土着の信仰』を持ち込んでいるのである。

 

その事は多分に蛇足ではあるが、ともあれそういった連中が、実験のあとに様々な思惑で、こちらにちょっかいを掛けてきたということだ。

 

「―――まぁ犯人の背後関係は分かった。あのクソ女が背後にいるとしても、やることは変わらない。サーヴァント召喚のあれやこれやはまず置いておくとして、今は事態解決のための計算をしてくれ」

 

「それに関しては既に計算済みです。実を言えば、刹那が来るまでやっていた作業を応用しましょう」

 

何をやっていたのだろうと思いつつ、説明を受ける。

 

「私とラニたちが纏っていた竜鎧……それの殆どはあの戦いで失われましたが、復元作業と同時に他の『武装』にも使おうかと研究をしていたのです」

 

エヘン! とでも言いたげに胸を張ったシオンだが、その格好では色々とアウトであった。見えてはいけないものとかが見えたわけで―――。

 

「昨日、リーナと8回もしたというのに、私にも性欲を覚えますか」

 

妙なところまで読み込まれていたらしく、そんなことを言われたが、ダイヤモンドの如き刹那の心には何一つ響かないのである。

 

「更に言えば『ランサー』『アーチャー』とも三回ずつとか……とんだ性豪ですね」

 

そこに関しても読まれているとは、恐るべし錬金術師! 人体錬成と同時にハゲろ!! と内心でのみ言っていたのだが……。

 

「ですが私にも性欲を覚えたのなら仕方ありません。解消してあげましょうか?」

 

「結構だ」

 

赤い顔でワイシャツの前を更に開けさせようとするシオンを制止してから、その対策を聞くことにする。

 

それはズバリ―――。

 

「灰かぶり姫です」

 

 

解決のための方策は、その日の夜の内に行われることになった。

 

毎度おなじみの夜の公園。超常能力者たちが対峙し合うことでフォーマルな場所において、戦闘準備は完了する。

今回ばかりは、シオンも刹那に付き合って、戦闘用の霊装を身に着けている。

とはいえ、霊子ハッカーたるシオンは別に霊装など無くても十分に戦える。とはいえ、相手はサーヴァントである。

 

情報だけならばあまり戦闘が得意なタイプではないだろうが……油断はしていない。

 

いつも通りのベレー帽に、紫色のカーディガンの上から紫紺のジャケットを羽織ったシオン。

下半身は、流石は砂漠の少女と言うべきか、いつでも絶対領域がまぶしいミニスカートと白のニーハイソックス。

 

スラリと伸びた脚はそれだけで一つの凶器も同然で――――――。

 

「ってナニを講評しているのヨっ!!」

 

「後ろにいろと言われたから手持ち無沙汰だったんだ!」

 

同じく、刹那からすれば前にいたリーナから蹴りを入れられてしまう。

別に口に出していたつもりはないのだが。

 

ともあれ軍人教官な―――思わず『エルトナムさん』とでも呼んでしまいそうなシオン、リーナ、刹那は……。

 

「ここまで完璧な作戦になるとは恐れ入りますね」

 

「ああ、自分の才能が怖い。豪華なドイツ料理(故郷の味)も用意したからな。これに釣られないドイツ圏のサーヴァントはいないぜ」

 

「エ゛エ゛エ―――……」

 

錬金術師と魔術師が眼を輝かせて、少し離れた所にある状況に対して満足げではあるが、魔法師であるリーナとしてはちょっと物申したい。

 

自分たち三人がいるのが、公園の茂み。そして離れたところには―――。

 

(木の枝を利用して、布と糸で芋虫のように宙吊りにされているカツトOB……)

 

その顔が、どことなく後悔しているような表情にも見えたのは、間違いではあるまい。

 

克人が『俺は、なにをやっているんだろう?』と妙な気持ちで鬱になっていた時……遂に件の貴婦人は現れたのだった。

 

 

 

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