魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
第326話『老若の境界』
西暦二〇九六年六月二十五日、月曜日。日本魔法界の長老にして国防陸軍退役少将の肩書きを持つ九島烈は、国立魔法大学付属第二高校へと赴いていた。
その主な目的とは、何のことはない……孫2人とその内の男孫と付き合っている四葉の従者に会いに来たのだ。
(いつになく活気に満ち溢れているな)
当然である。近々……いや六月に入った時点で、この学校だけでなく全国の魔法科高校はそうだったのだろう。
その若く励まんとする空気を吸いながら、気配を殺しつつ進んでいたのだが―――。
「九島老師、こんにちは」
「九島閣下、いらっしゃいませ!」
などなど、校門に入った時点から校庭まで多くの学生達に烈の姿は看破されていった。昨年度の九校戦で、自分が見せた『手品』はどうやら今年からは通用しなさそうだ。
その『成長』を喜ばしく思いながらも、少しだけ寂しい思いを持ちつつ生徒の1人に声を掛ける。
用向きは、端的なものだったので、生徒も特に拘ることも無く教えてくれる。
「光宣君ならばヒカルちゃんと一緒に体技場ですね。出来ることならば、『新人戦』で確実に戦ってほしいんですけど……」
光宣たちが、どこにいるか?その疑問に答えてくれた女子生徒の言葉に『ありがとう』と言いつつ、烈は体技場という『何度か』来た場所へと赴く。
蒼司や玄明―――そして響子の時代から変わらぬとおりならば、同時に烈の眼にも見えている『猛り狂う魔力』に間違いないならば―――。
(やはり、な)
多くの見学者たちは、入り込んだ烈の姿に気付かないほどに、その『戦い』に見惚れていた。
それぐらいに常識を逸した戦い。
「敵機の姿を眼で追いすぎ! 肌感覚で感じたものを頼りに戦うことも重要!!」
「なかなかに言ってくれる!!」
「このおっ!!!!」
第一の言は九島ヒカルと称させているサーヴァント。
今日の彼女は蒼黒の軽鎧、鎧の線が、ところどころライトグリーンに光るものを着ながら、盾砲とでも表現すべき得物を振るっていた。
盾は近接武器としての特徴もあるようで軽快にその『重量物』を振るいながら二高の俊英を追い詰めていく。
(ガ○ダムTR-6 ハイゼ○スレイⅱラーのような
つくづくサーヴァントというのは常識はずれだ。自分たちの常識を尽く砕いていく『最古にして最強の存在』。驚きばかりが烈の心を占める。
デミサーヴァントであってもそれは同様であって、他の孫たちが契約したサーヴァントも同じくであった。
(ただ、蒼司の契約した紅のアーチャー……
ゴスパンクとでもいうべき衣装になった彼女は病んでいるとしか言えない印象だったが、蒼司はそんな彼女にどうやら『お熱』らしく―――。
『や、やっぱりさ! こっちの方がいいよなソウジ!?』
と動揺して赤色の典型的な魔女っ子衣装に『変奏』する紅子ちゃんを見た蒼司は……。
『君にふさわしい衣服を僕が作り出す! この赤い唐傘に似合う衣装を!!!』
どの紅子も超カワイイ! としながらも、蒼司は真剣さを増して猛烈な勢いで
エルメロイの書の『衣服』の欄などを熟読。ブリシサンの裁縫術・魔力糸の作成というものを懸命に行い、二高生徒が主導して作ったヒカルちゃんの『お雛様衣装』と同じ時期に完成を見たのだ。
そんなことを思いながらも孫たちの様子、そして二高生たちの熱狂しながらも、技を盗もうと、自分の糧にせんと眼を凝らす様子に満足して―――九島烈はクールに去るのであった。
(老人があれこれ言うことでもあるまい)
場所を教えてくれた生徒と光宣の様子から察することは多かった。
彼は1年生でありながら―――『本戦』で戦うことを望んでいる。烈の心としては、『新人戦』で確実な『実績』を残してほしいというものがあった。
決して新人戦が容易い相手ばかりで『優勝』を獲れるなどとは思っていない。
しかし、今年度の『九校戦』、その本戦は正しく『天外魔境』の『大混乱』である。
それを少しだけ『和らげる』ために、烈は大会委員に働きかけて、横紙破りをした。
もっともらしい上奏文を添えての意見陳述の『真意』を理解できるものもいただろう。
だが、それこそが―――。
(健ならば、どうしただろうか?)
実弟ならば、つまらぬ策略など捨てさせて、全ての学生魔法師が戦う場を設けただろう。
つまらぬ策略を捨てさせて、一個として力を試し合う場を……。
ここ最近、実弟のことを思い出すのは自分も先が長いとは思っていないからか、それとも近畿地方全ての魔法家で孤独になったからか……。
どちらにせよ―――後悔しているのだ。
二高を後にして、止めていたリムジンタイプの車に乗り込む。車中には同乗者がいた。
「お待たせして申し訳ない」
「いえいえ、ただ随分と早いお帰りですな。お孫さんと歓談でもしてくればよろしかったでしょうに」
「真剣勝負に水を差すわけにもいきませんからな。出してくれ」
その言葉に応じて古めかしくもドライバーは、ハンドルを握り同時に後部座席との間に遮断用のシャッターが降りた。
走り出して少ししてから烈の対面の座席に座る男は、口を開いた。
「重ね重ね、我々を受け入れていただき感謝しております。九島閣下」
「……正直に言えば、君を受け入れるのは真言と同様に少々迷ったのだがね」
「ご当主とは違い、閣下の方は少々ではないのでは? ですがその狂おしい苦悩の果てに我らを受け入れていただき、本当に感謝しております」
丁寧な一礼、感謝をしながらも、こちらの心を見抜いた美麗の男―――その皮を被っているだけの男に少しの嫌悪を覚えたが、話を進める。
「私は劉の要請を受けて君たちと戦った中華街の魔法師たちに便宜を測るようにした。そんな私が、如何に真言の考えとは言え、君たちを受け入れるなど節操なしと誹りを受けても仕方ないことなのだよ」
「劉
あげく中華大内戦という混乱状態になるなど予想していなかった。沈痛な面持ちで語る周公謹……。
それはどういう感情であるかは、まだ分からないが、それでもイメージだけならば、味方の無能を嘲っているかのようだった。
話は続く―――。
「ですが、一度は不義不忠の限りで逃げ出したとはいえ、私の同胞たちがいま……素直に投降したところで、両国どちらであっても簡単に許しはしないでしょうからね」
時節を見誤った。その考えや気持ちは分からなくもない……。
今の関西における自分たちの状況が正しくそれだからだ。
「だからこそ、今の関西の状況に一石を投じるべく、私は九島老師に一つの重要な情報を教えたいのです」
「それは真言には教えられないことなのかね?」
「ええ、まずは烈殿の胸の内だけに納めていただきたく思います。その前に一つ身内の恥をさらす次第で羞恥の極みですが、腹蔵なく申し上げたいことがあります」
言いながら、この車に内蔵してある冷蔵庫から貴腐ワインを出す周。
彼が半壊した店から持ち出した秘蔵の一本だとして差し出したもの……毒が混ざっている可能性をいつでも疑う一本をグラスに注いでから周は話を続ける。
「今、我々―――山嶺法廷の道士たちは大変な混乱を呈しております」
「ほう。流石に
「ええ、それだけでなく実を言えば我々のリーダーたる
大漢の仙老師……あまりいい思い出はない。時間上では彼らは、自分の弟子たちの悲劇には関係はないが、それでも……蟠りはある。
「ですが、それに関しては仮宿を提供してくださった九島家の皆様に感謝して、この話は、そこで終わりです。本題はここからです」
周が語る所、
当然、彼が主導して設立した団体もあったりする。
「その際に、一人の男と知り合ったそうです。その男は、何とか時代を飛び越えられないか、タイムワープが出来ないかと考えていたそうです」
「また奇態なことを考える人間がいたものですな……」
「彼は、言っていました。『世界が変革する時”七色のマホウ”が来訪する時―――その時を自分は見届けたい』とね」
「――――――」
緊張が走る。優雅に貴腐ワインを揺らす周に、どうしてもやられた気持ちがある。
「その人が”何をやられたのか” ”何を行われたのか”は分かりません。ですが、東京に置いていた部下たちがあるものを撮影しました。ジード・ヘイグが、『アトラス』の策略で精神拘束されてから『彼ら』は動き出したようです……」
言いながらメモリーデータの類を胸ポケットから取り出す周公瑾。
「合成などしていない動画であることは存分にお調べください。もっとも『本人』たちに問い質せばいいことだと思いますがね」
何なのか。何が映っているのか……。
そして、それを見た時に息が詰まった。衝撃が総身を突いていくのを感じた。
「……そんな…これは……いや、まさか……」
「私も既知の人物というわけではありません。ただ、我々にもそれなりの情報ネットワークはありましたからね。我々が見せられた暗殺対象の魔法師に、あなた方『ご兄弟』の若い頃の顔写真もありましたよ」
周の言葉など烈には入っていない。
再生した端末の映像には、陰陽の双剣を振るう少年と、ビームサーベルと呼ぶべきものを振るう少年がいた。
少し離れたところでは、サーヴァント戦も演じられているようだが、俯瞰で撮られた映像の中でもどちらかといえば少年どうしの剣戟が引き伸ばされていた。
問題はビームサーベルを持つ少年だ……。
「―――ケン……」
様々な感情を混ぜ合わせにして、その名前を告げる。追い出さざるを得なかった弟の名前だ。
少しだけ呼吸を浅くして、最近色々と気遣うようになった身体の一部の鼓動を落ち着かせてから周に問いただす。
「これを見せて……私にどうしようというのだね?」
「一つに食客として入れ知恵をさせてもらおうかと思いまして、現在の近畿地方の混乱の原因は、もはやあなた方、九島家の烈様方の系譜を信用できないでいることです」
「……続けてくれ」
「ですが、古式の方々には未だにケン・クドウ=九島健さまを慕う方々が多い。九研の人間たちは憎いが、それでもケン様を個人的に慕っている古式の名家は多い……」
その言葉に素直にうなずくことは出来ない。だが、それもまた一つの妙案なのだと―――しかし……。
「……これが顧老師の用意した
ここで乗せられるわけにはいかないのだ。
活発な光宣とでも言うべき顔……あの孫に覚えていた輪郭が弟であることを今更ながら烈は実感していた。
「ごもっともです。詳細に関しては私も教えられていませんし、何が為されたのかも不明です。しかし、ケン・クドウ様が、自ら『何か』をやった上で後事を私の師などに託した上で―――このようになったのです」
当然、その中には烈の言う通り死体を弄んだ末の僵尸もいるのだろう。だが否定をするには、出された選択肢は重すぎた。
「九島家が存続する上でならば、近畿の魔法師を1つにまとめるならば、彼を『御旗』にすることも選択肢ではありませんかな?」
その上で自分の系譜、真言や光宣は支える側になるということだ。それを……。
「外様でありながら差し出がましい口を叩きました。いずれ、この事は他の方々にも明かされるだろうと思いましたので、当事者の関係者として先んじて明かさせていただきました」
「成程、不義不実だと思われる前に、己の疑いを晴らしておこうということですか」
策士め。という顔で睨むも周は涼しい顔のままだ。
「ええ、そういうことです。その映像は存分にお確かめください。そして後に『魔宝使い』にも確認をすればよろしいかと」
真実は対面した時に分かるか、それとも……。
「では、私はこれにて」
そう言われて、周のねぐら、九島家が用意したアパートメント。当然、盗聴・監視機器は完備のそこ周辺に到着したことが分かる。
ビジネススーツを着て『勤め』らしき風体の男が、社長に送られたリムジンから出る……という演技をする周。
もはや烈は車から出た周の姿を見ようとは思えなかった。
「因果―――いや、宿命なのか?」
弟は何を見たくて、現世に舞い戻ってきたのか……?
これで自分への復讐を果たすためならば、まだ分かりやすかった。
しかし――――。
全ては絡まった糸のように何も見えない。糸口は只一つ。
遠坂刹那という少年を手繰るしかないのだ―――。