魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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バッカーノ! デュラララ!!に続き、fakeアニメ化。

成田先生バンザーイ!!! いや、まだ完結には遠いんでどうなるやら……。

というわけで新話です。


第331話『名を失った英霊剣豪』

 

地下室―――霊廟のような場所を拵えていた男は、少しだけ疲れたような表情で見回してから、その霊廟の主人も同然の屍体に対して跪いた。

 

海の彼方の出来事に目を凝らし耳を澄ませ、混沌の種子を常に探し回っている勤勉な人種も存在する。

 

周公瑾の主は、まさにその種の人間だった。ある魔術組織によって殆ど精神と『魂』を拘束されている状態でも、稀に通信が周には入ってくるのだ。

 

(生き汚いお方だ……)

 

でなければ、不老不死などという奇跡を追い求めはしないだろう。その精神性を少しだけ尊敬しつつも、本質的には嫌悪しておく。

 

『公瑾』

 

死霊術で動かされる人間の剝製が、跪く周公瑾の名を呼ぶ。

 

『調子はどうだ?』

 

死体の口を通じて太平洋の向こう側から語り掛けているのは、「七賢人」の一人、ジード・ヘイグこと大漢軍方術士部隊の生き残り、顧傑だった。

 

その殆どの肩書を魔宝使いの介入によって崩されて、斬り捨てられた老人は、その声音からは分からないが、復讐心に凝り固まっているようにも思う。

 

「上々にございますかね。ただ店を失い―――殆ど無一文になったのは痛手でしたが」

 

暗に『お前のせいで冷や飯食わされた』ということを含むと、暗い地下室にある死体通信機は、くぐもった笑いを上げる。

 

『九島家に取り入ったのは幸いだ。奴らは『錠前』吸血鬼に『利用されて』、数多の疑似サーヴァントを『鋳造』しておる』

 

「左様ですか」

 

それは周も既に掴んでいた情報だ。これみよがしに、長男である玄明が『秘書』としている巨女をサーヴァントとして紹介してきたのだから……。

 

金髪の巨女。それを思い出してから用向きを聞くことに。

 

『その疑似サーヴァントの一体を我が元に……我がチカラへとする―――』

 

どうやって? という周の疑問に応えるように死体―――方術士の衣装を纏ったそれの口が開き、そこから何かが出てきた。

 

取れということなのか。それを手にとった周は、その透明なカプセルにあるものを凝視した。

 

「―――虫ですか?」

 

人によっては生理的嫌悪感を催す形状の虫類が、冬眠しているのか、微動だにせずカプセルの中に収められていた。

 

『左様。かつて我が盟友『M』が作り上げし『支配の蟯虫』。それを用いることで汎ゆる上位存在を己の支配における……それには私の魔法印が刻まれている―――』

 

成程、それを聞いて周は得心した。だが、どこまでの接触ならばよいのか……既に、疑似サーヴァントの製造工程は理解している。そして、その場所も……。

 

『案ずるな。それが解き放たれたあとには、私の意思が込められたそれが、サーヴァントに取り憑くであろうよ』

 

変な言い方ではあるが、この虫は『顧』の脳を『切り身』にしたもののようだ。ならば、円筒形のカプセルの前でこれを解き放てばいいだけだろう。

 

問題は、そこに到れるかどうかだ。

 

『では健闘を祈るぞ』

 

このことも織り込み済みだったのではないかと思うほどに、できすぎた状況。

だが周としても、傀儡のままでは終われない。

 

通信が切れた死体を前にして、周公瑾もただでは終わらないとして、決意を新たにする。

 

九島家に気づかせないように……それが出来るか―――。

 

「やってみせよう。私とて螺旋館の術士―――」

 

利用されているだけだと思っては困る。それだけであった。

 

そして同じ頃、九島家……ここに至るまでに世の人々には決して見せられない暗闘を繰り返して、ようやく取り戻した九の『故郷』たる『第九研究所』……。

 

そこにて魔導実験を繰り返していた九島家類縁の研究者たちは、その変化を前にすぐさま―――当主達を呼び出した。

 

「これは!?」

 

「―――」

 

疑似サーヴァント実験、四体目の変化は……やってきた真言と烈を絶句させた。円筒形のカプセルに収められた浮遊する人間の容貌は知りすぎて、そして何度も見てきた。

 

このサーヴァントのどれか1側面だけでも、自分たちの戦力に出来れば―――そう、血の滲むような想いで実験を繰り返してきたのである。

 

「先代……!」

 

感極まった真言の声など遠い。老人が既に忘れ去った兵どもが夢の跡から、全てを取り戻すことが出来るのではないかと思ってしまう。

 

だが、それと同時に少しの不安もあるのだ。

 

(そもそも、ここを連盟は何故壊していないのだ?)

 

彼らの主体たる古式魔法師たち連中からすれば、ここは忌むべき場所のはずだ。ある意味では禁足地とでも言うべき場所。

 

そこを壊していかずに、ご丁寧にも……『実験』をしてくださいとばかりに、このようにしているなど―――……。

 

何かの罠を疑いながらも―――。

 

円筒形のカプセルに収まる女性―――ブリテンの永遠の王……アルトリア・ペンドラゴンを思わせる存在は確実に存在していたのだから……。

 

 

 

「ふむふむ。まぁつまり……泉美とペアルックなのは、そういうことか」

 

「いやいや! 納得の方向性がおかしいですからね! そもそも、私は刹那先輩から借りたアゾット刀―――略してアゾッ刀を返そうとおもった際に、道中で出会った司波先輩に」

 

「刀を持ちながら建物をうろつくのは、どうなんだ?と言って預かろうとして、断るなどと押し問答をして……お前のサーヴァント召喚に巻き込まれた形なのか、何なのか……こんなことに……」

 

しくしく、しくしくとワザとらしく泣き真似をする同級生と下級生。どうしたものかと想うが……。

 

「まぁ一時的なものなんだろうさ。ちょっとした感染呪術にかかったようなものだ」

 

あえて、『お前ら2人に刀を介した縁があります』などと言って、深雪の不興を買うこともあるまい。

 

「実際、姿が通常通りになっているだろう」

 

「あっ、ホントですね。―――もしかして、この英霊衣装が解けた時に『マッパ』なんてことは!?」

 

徐々に薄らいでいく身体などの変化を、視覚的に認識した泉美の懸念は無いとしておく。

 

「気になるんだったらば、何か着ておくか?」

 

「いいえ、信じますよ♪」

 

妙な信頼を寄せている泉美だが、おもしろイベント自体にはついて来る様子だ。

 

着いた先は空間を湾曲させて作り上げた特別演武場。

サーヴァントが十騎ぐらい全力で戦っても問題ない場だ。

 

「ノーリッジの学習棟の地下に、こんな場所があったとはな」

 

「何かとこういう荒事とか、実技演習の為の場所は必要だからな」

 

「生徒は多いからね。場所は必要なのさ」

 

達也の今更な言葉に、苦笑しながら言う。

 

今回の主役は自分ではない。喚び出したサーヴァントがどれだけ出来るか、だ。

 

「勝負形式は3vs1。こちら側は、セイバーに武器を供給していくから、お前たちは遠慮なく打ち掛かれ」

 

「イエスアイドゥー、お虎はお酒が大好きなサーヴァントだったけど、こっちはロウニャクナンニョ(老若男女)ならぬニャクナンニョ(若男女)ばかりが大好きなリスキーすぎるサーヴァント!!」

 

「そういうわけでソードカラミティ! 私とリナりんのミッドナイトライフのためにも、その資質!! 見極めさせてもらう!!」

 

「色々と欲望ダダ漏れすぎるおふたりでちが、あちきも閻魔流の剣士! 見極めさせてもらうでちゅん!!」

 

生々しすぎる会話に着いてきた面子の中でも『おぼこい』のが真っ赤になる。そんな三人を受けて―――。

 

「三人のかわいくて強そうな女の子が私の相手をしてくれるとは、これは女武士冥利に尽きる!! 喜んでお相手しましょう!!」

 

言いながら構えるのは、刹那がよく持つ干将莫邪。

 

しかし、その褐色の女武者が持つと少し変化するのか、柄尻からは白毛と黒毛の下げ緒があり、太極図も少しだけカラフルだ。

 

「それではルールは特に無いが、それでも終了の合図は刹那、キミが出してくれ」

 

「ラジャー」

 

ダ・ヴィンチの言葉。そしてリーナがブリュンヒルデをインストールしたことで準備は完了する。

 

 

あえて、この戦いに題を付けるとすれば―――。

 

『英霊剣豪七番勝負』

 

『勝負、一番目』

 

『名無しの旗袍(チャイナドレス)剣士セイバーサーカー』

 

 

『愛に生きるヘビメタアメリカンガール ランサーリーナ』

『享楽主義に見えてシニカルに決める災厄の銃士 カラミティ・ジェーン』

『極楽天国提供、しかしお残しは許さない閻魔流舌切り抜刀斎 紅閻魔』

 

―――いざ尋常に―――勝負ッ!!―――

 

野太い声でナレーションが入りそうな戦いは始まった。

 

いきなりな連携戦とはいえ、リーナと紅、そしてジェーンは呼吸を合わせられないわけではない。

 

寧ろ、一騎当千にして百戦錬磨の戦場を駆け抜けてきただけに、その合わせ方は絶妙であった。

 

リーナが持つロマンシアの槍は回転からの薙ぎ払いが主であり、魔力放出が炎を発生もさせている。

 

そんなリーナの攻撃に合わせる形で、紅の攻撃は横からの斬撃が主だ。抜刀術を修めた紅閻魔の攻撃は、鞘走りからの扇状の斬りつけが主だ。

 

匕首を滑らせる度に神速―――いや鳥足(ちょうそく)の攻撃が走る。

 

縦軸(リーナ)横軸(紅閻魔)の斬払撃の応酬。

 

その縦横無()の攻撃を受けながらも、褐色の剣士はそれを楽しげに、しかし真剣な眼でその攻撃をいなしていく剣士。

 

立ち位置を変えつつ、されど後退だけではなく、時には前進しつつ、相手の攻撃に対応していく。

 

それらが連環の攻撃に澱みを生んでいき、そして縦横無刃が少しだけ崩れる。

 

完璧な連携(パーフェクトシンフォニー)なんてムリだと分かっていたケド!)

 

(この御仁! 眼だけで『後の先』を取ってばかりでち!!)

 

崩れた連環の間隙を突き、攻勢を掛ける。その際にこの剣客は、『眼』が辿ったルートを最適な力とベクトルで斬撃を叩きつけてくるのだ。

 

だが―――。

 

バキンッ!!! 甲高い音を立てて砕ける得物。それは、干将莫邪が砕けた音だ。

 

しかし『投影、装填』―――マスターである刹那から即座に次の武器が渡される。後ろから飛んできたわけではなく、サーヴァントの空の手に即座に収まる得物。

 

阿吽の呼吸での武器の渡し。握った瞬間に覚醒する。

 

「いい剣だわ! これならば!!!」

 

握らせたのは虎徹と菊一文字。幕末京都において、壬生狼と恐れられたサムライたちの刀である。

 

その刀を使うセイバーサーカーは、水を得た魚のように攻撃を開始。

 

しかし、そんな前線の戦いに対して後方から援護射撃。

ジェーンからの攻撃。必中銃弾という脅威を走らせる。

 

普通のセイバーならば、その銃弾を躱すなり、撃ち返すことも出来る。しかし、今のセイバーサーカーは、前を2人に圧されている。

 

どう出るか?

 

「せやっ!!!」

 

「なんとぉーーー!!!」

 

ジェーンの驚きの声。当然だ。セイバーサーカーの軽快極まる斬撃。鎌切りのようなその剣撃が銃弾を撃ち落としたのだ。

 

リーナと紅を一刀で制しながら、ジェーンの銃弾をもう一刀で対処する。その剣撃の繚乱さに見惚れるが―――。

 

ばきっ! ばきんっ!!

 

流石にサーヴァント3騎分の圧を前にしては、如何に名刀と言えども破断を余儀なくされる。

 

だが、これで分かったことがある。

 

(セイバーサーカーは、幕末の剣士じゃない)

 

次なる剣を与えながら刹那は結論づけた。となると。

 

(戦国期か……)

 

だが戦国時代と言えば一本の名刀よりも百本の槍を兵に与えよ。という室町時代から続いて『火縄銃』が戦の主流となった時代だ。

 

正しく火力の勝利というに相応しい時代であった。

 

だが、そんな中でも『剣豪』と呼べるものがいなかったわけではない。

 

「マスター!! もっと奇態な剣でもいいわ!! ジャンジャンいっぱい寄越して!!!」

 

んな大食いを生業とするものかのように、剣を要求されるとは―――ならば。

 

「俺の答えはこれだ!!」

 

セイバーサーカーの少しだけ上方に剣の円環を作り上げる。

 

ラウンド・オブ・ファンタズム―――。

 

そして、多くの剣を自分で手に取り、そして戦いに挑むこと―――三十分以上、その間に……どこからか戦いの匂いを嗅ぎつけたエリカ、モードレッド、レオなどが加わったりして、Rantiki騒ぎがとんでもない規模になったりした。

 

結局の所―――。

 

「どこの英雄であるかは分からなかったな……」

 

ずぞぞぞと、紅閻魔が用意してくれた『うどん』を啜りながら、呟くのであった。

 

「ごめんねーマスター。いや私も何か掴めるものがあるんじゃないかと思っていたんだけどねー」

 

宝具として登録した武器すら不明ながらも、セイバーサーカーは、申し訳無さそうな笑みでも人懐っこいものを感じさせるのである。

 

「ただ、生前の私は二刀流で一刀流の剣士であると理解できました。刀は一刀よりも二刀で振るったほうがいいわね♪」

 

「そっか。で―――その2振りで大丈夫なのか?」

 

同じくうどんをすする(4杯目)セイバーサーカーは、帯刀する得物に『ガンソード』『ガンブレード』『ソードピストル』と言えるものを採用するのであった。

 

何でこんなものを投影出来たのだろうと、刹那も思い悩むほどに懈怠な武器であった。

 

世の中にはテーブルテニス(卓球)のラケットにもガンラケット、ハンドソウラケットとでもいうべきものがあったりする。

 

それと同じ系統と考えれば、問題はないだろう。

 

「イエース! コイツはナイスでゴキゲンなブレードよ!

これでマスター……そう言えば名前を聞いていなかったわね」

 

今更過ぎることではあるが、確かに名前を教えていなかった。

 

「俺の名前は遠坂刹那だ。呼び方はお好きに」

 

「刹那か……何か引っかかる言葉ね。こう、私もそういうのを求めていたというか―――……」

 

「キミの方は何と呼べばいいのやら」

 

真名知れず、されどクラスだけで呼ぶのは少々味気ない気がする刹那は、そんな疑問を呈したのだが。

 

「二刀流の使い手って、有名なのいるかしら?」

 

「この国ならば、やっぱり二天一流で有名な『宮本武蔵』じゃないかな? ただ当たり前だが『男』だぞ?」

 

女で二刀流の使い手というのも、もしかしたらいるかもしれないが。だが、女性が名乗る名前ではあるまい。

 

そう想ったのだが、少しだけ笑みを浮かべた彼女は。

 

「―――そう。ならばその名前いただくわ♪ 仮の名前とは言え、真名が判明するまで私のことは武蔵ちゃんとでも呼んで、よろしくね刹那くん」

 

その様に名乗ることで『己』を規定するのだった。

 

(名前を自分で付ける―――記憶がないからこそなんだろうが、まるで……)

 

ガキの頃に冬木の衛宮の屋敷にて読んだ、オヤジの買っていた漫画。

その中に出ていた伝説のボーカリストにして、再びロックの神を目指す主の御子のクローンのようだった。

 

(まぁ聖堂教会が圧力を掛けたんじゃないかと想うぐらいに、とんでもない内容だったけどな)

 

苦笑しつつも、とんだ春日露魅王(ジェーン・ドゥ)を抱え込んだと想いつつ、そして―――7月を迎え、本格的な九校戦準備期間に入り―――。

 

 

「特別コーチの浪川愛流二郎(エルメロイ二世)だ。お前たちに言っておく。私はお前たちと仲良くするつもりはない」

 

グラサンに付け髭を着けたロン毛の鬼コーチを迎えて、明青学園野球部ならぬ『チーム・エルメロイ』は、他の九校に遅れても始動するのであった。

 

 


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