魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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色々とアレな説明回を挟んで、ようやく原作の流れに復帰。


第25話『着火の前の騒動』

「それで、何で呼び出されたんでしょうか? 小野先生?」

 

「それはもちろん。遠坂君と話がしたくてよ。今日は色々と大活躍だったそうだしね」

 

「あの後、教員の先生方がやってきてわざわざいつも『面倒』見ていない二科生の実習を見ていたのは、実に滑稽でしたがね。いい見世物でしたよ」

 

「そんな大人をバカにするもんじゃないわよ。彼ら―――魔法科高校の教員の人達は研究者でもあるんだから、知りたかったのよ。今までの実像と違うものを見せられたからね」

 

 

 苦笑する学内カウンセラーの一人。小野遥だったが、それは刹那としては出来ない相談だ。

 

 

 そして不正やプログラムの改竄などが行われていないことを知ると更に、頭を悩ませる様子。研究者であるというのならば、目の前で起こったことを確実に直視してそれがどういう原理なのかを知るべきなんじゃなかろうかと思う。

 

 大人の立場でモノを言う小野先生に若干の反発を覚える。学問の習熟に年齢は関係ない。頭の柔軟さこそが思考力の原点なのだから。

 

 

「カウンセリングなんて受けなくても俺は十分、普通ですよ。友人もいる。可愛い彼女もいる。ついでに言えばご飯は普通にうまいし、行きつけの茶店の看板娘どもは小うるさいが、まぁ一般人と付き合える場所もある」

 

「そう言われると学生生活を満喫している。いわゆる昔に流行った『リア充』にも思えるけれど、ね。あなたのパーソナルデータを見せられてはちょっとね」

 

「変ですかね? 『両親』がいないことが」

 

 

 見抜かれている。と同時にコイツは何一つ自分に性的興奮を抱いていないことに内心怒りがこみ上げる。

 

 学生恋愛しているとはいえ、確かにアンジェリーナ・クドウ・シールズの15歳とは思えぬアメリカンなバディの前では、自分などただの年増かもしれんが……。

 

 

(おのれ響子! あんな『リーサルウェポン』が親戚にいるなら、もっと早くに言っといて!!)

 

 

 体のラインが出やすい俗に縦セーターと呼ばれるものを着て、2090年代の流行ではないミニのタイトスカート。セクシャルな装いをしたことが裏目に出た。

 

 どちらかと言えば『丸っこい』印象の遥では正直無理があるかもしれない。

 

 いつぞや知り合ってしまった小野遥にとって同年代のアイドル。自分も立ちたかった舞台にいた人を恨みに思う。そこまで誰かを恨むようなことはしたくない遥であったが、これには流石に恨むこともある。

 

 

「まぁね。生徒達には知られていないみたいだけど、シールズさんと同棲しているみたいだからね。何かあるんじゃないかと思って」

 

「九島からすれば、俺は腕のいいボディーガード代わりなんでしょうよ。その為だったはずですよ」

 

 

 そんな小野遥の認識に対して刹那も思う。表向きはそういうことだ。

 

 実際はUSNAの仕立て、一番出来るナンバー1,2を派遣したのだ。九島の本家からすれば、出来る『親戚』が更に優秀な『婿』を連れて、日本に帰化してくれるのではないかという期待もある。

 

 無論、ジジィは、こちらの思惑など何となく勘付いているだろう。別にいいけど。

 

 

「そうね。そのはずなんだけどね……。私はあなたが無理しているように見えるわ」

 

「そんなに変ですかね。『孤児の魔術師』(オーフェン)というのは」

 

「生徒の個人的事情に立ち入り過ぎるのは、どうかと思うけど―――業務だから」

 

 

 そういって電子のカルテとも言えるものを手にして顔を隠す小野先生―――どうやらカウンセリング……というよりも達也が受けたような『サンプリング』を受けることになりそうだ。

 

 

 そうして業務であるものを終えると、出て行こうとした刹那に対して唐突に声が掛けられる。小野先生は電子カルテに筆記をしながらである。

 

 

「……私はむかし、魔法科高校に入りたかった……一科でなくても二科であってもね―――BS魔法しか使えない私では入学試験はパス出来なかったけどね」

 

「……それでここに?」

 

「ええ、医科高校に入って色々あって―――まぁここに来たのよ。だからイチとニの違いなんてくだらないと思えた。選ばれた人間であるのに、どうしてそれを誇りに思って能力の差異はあれども、『団結』できないんだろうって」

 

「そりゃ簡単ですよ。人間も魔法師も『生物』としての性からは逃れられない……」

 

 

 同じならば奪い合い、違うならば攻撃しあう。『浸食』は生命体共通の使命―――命の本質である。

 

 

「外の人間からすれば、然程の違いが無い我々も大きく違う。そのことを理解してもらうための努力をしていませんからね」

 

 

 如何に人口減の社会となったことで多くの変化が起きたとしても、教育機関におけるこのようなスキャンダル。そうそう暴露出来ない。

 

 

「異能の力が社会に認知されず、誰もがその力を『俗世』に向けなければ……まだ今とは違った世の中だったのかもしれません」

 

 

『目覚めた』のならば、『悟り』。『隠れ』―――『仙人』になれば良かったのだ。

 

 超越者として修行の末に目覚めたのならば、佇んでいれば良かった……しかし、現実に魔法師は、俗世の欲に塗れ『肉食』の『酒悦』に浸ることもある。

 

 生臭坊主の極みなのかもしれない。仙人の道とは真逆の世界だ。

 

 

「モノが詰まり過ぎた我々は俗世の中で、生きて行かなければならない。ならば―――少しでも内側の対立を無くしたいんですよ」

 

 

 刹那にとってここは『異世界』だ。もしかしたらば……な繋がりがあるかもしれないが、あの時―――外にカリオンの執行者が大挙してきた時に、聞こえてきた声。

 

 その言葉と父と母の想いが未だに自分を生かす。

 

 

「鋏の託宣は下された。(えん)を気にすることはあれども、繋がることはないな」

 

「? どういう意味?」

 

「独り言です。まぁ―――あんたら『おまわり』さんの手を煩わせる事態にはしませんよ」

 

「!!!???」

 

 

 衝撃的な事実を告げて、部屋を出る。USNAの情報部から『ここはスパイ銀座』(第一高校)と呼ばれていただけに『ゾルゲ』には気を配っていたのだ。

 

 そして食いついてきたのが小野先生ということだ。そんな風に嘆息しつつ出ると―――側には愛しい人が立っていた。

 

 

「美人でオッパイがデカいカウンセラーに誘惑されているんじゃないかと心配だった」

 

「生徒会は?」

 

「今日のセツナの『第一革命』で、『てんやわんや』よ。ミユキも帰っていいって言われたわ」

 

 

 そっちにまで混乱が波及していたとは、それでいながらこちらに『出頭』を命じないとは……。

 

 

「小さいわね。今まで小兵だと思っていたのが『タネガシマ』を得て、『ドラグーン』に育ちつつあるだけなのに」

 

 

 呆れるような声と言葉で言うリーナに苦笑しながら、廊下を歩いていく。

 

 

「武力だけではダメさ。インテリジェンスもまた武器にしていかなければならない。最後に生き残るのは『文化人』みたいなのかもしれないし」

 

「イマガワ・ウジザネみたいに?」

 

 

 日本の歴史。特に戦国時代に興味を持つリーナ。前に刹那の家系が元々は武士で隠れキリシタンの家系だと言った頃からだろうか。

 

 まぁいいけれど、そう言う風な『未来』があってもいいだろう。魔法師だからと荒事に就かなくてもいいはず。

 

 今川のプリンス 今川氏真もまた戦国乱世の後の平和な時代に宮中儀礼の為に徳川家に重用されて、その血は後の明治政府―――その高官にもなるほどだった。

 

 武士の家でありながら、『文化人』として身を立てた彼の幾ばくかの幸運と乱世の早期終結が、未来を切り開いた。

 

 

「武士の家系だからといって切った張ったをしなくてもいい、同じく魔法師にも色んな道を歩ませてもいいんだよな。例えば―――広義の上での『芸人』とかいいかも」

 

「魔法師で役者(アクター)か……いいかもしれないわね。それ。―――リアルなプリズマキッドって感じ?」

 

 

 そんな何気ない言葉であったが……後に、刹那の後輩となる生意気な男子の一人(チリチリ頭)が、よもやテレビの大女優と共に舞台(イタ)を踏むことになるなどその時の刹那にとっては知る由も無いことだった……。

 

 ともあれ二人は夢想を終えて、現在の問題に取り組む。

 

 

「―――『写本』は残り200部といったところか、さてさて都合よく『激発の瞬間』までに間に合うかな」

 

「ミノルも『僕も欲しいよ。来年のために一部予約出来ないかな?』とか言っていたけど」

 

「安心しろ。一高だけじゃない。全ての魔法科高校に50部は配布出来るだけは用意する。と言った事を匂わせつつ返信よろしく」

 

 

 それを二科生に見せるかどうか、恐らく来年に入るだろうミノルのいる二高ではないが、『尚武』を掲げる三高では「普通科」なんだっけかな? そんなことを考えてから、USNAスターズとしての『任務』に戻る。

 

 

「それじゃ行きましょうか」

 

「ああ、今晩は『オムライス』だからな」

 

 

 変な符丁ではあるが、その言葉を皮切りに校外に出ると即座に行動を開始。カラスの使い魔に紛れさせていた『翡翠の文鳥』。

 

 宝石の簡易な使い魔だが、カラスの視界をジャックするよりはまだマシなものが見える。

 

 

 片方の眼で視えたものが、詳細なものを知らせる。

 

 

(やはり異界化しているな。誰だか分からないが……ここまでの工房を拵えて、何も気づかないとは―――)

 

 

 幹比古辺りならば勘付いていてもおかしくないが、それでも地脈の歪さを感じ取れないかな。

 

 ともあれ、偶然か狙ってか……ブランシュアジトに入り込んだアウトサイダーは、そこを完全に自分のものにしていた。

 

 

 寄生虫か、前時代的なコンピュータウイルスのようにそこに入り込んだアウトサイダーは、『蠱毒』の壺としていたのだ。

 

 

「早めに何とかしたいが、くそっ……何もしないからな」

 

 

 正しさを崩さない『反魔法師団体』。そして異国というアドバンテージが刹那の行動を遅らせていた。

 

 廃工場から上がる魔力―――それを崩すしかない。

 

 

「どうするセツナ?」

 

「吶喊を仕掛けて死ねやオラ-! でもいいんだけど……ん?」

 

 

 八王子の各所に仕込まれていた『式』を崩すなどという作業に飽きて、もう後先考えず工房消滅でも仕掛けてやろうかと思った矢先、ジャックした視界の中に三人一組の集団が見える。

 

 

「光井、北山、エイミィだ……」

 

「なんであの三人が?」

 

「―――稚拙な尾行だ。司甲を追っている……」

 

 

 その言葉で、向かう先が容易に知れた。市街地での魔法の使用は原則禁止だ。しかし、視えぬようにやるならば―――CADの使用がなければ分かるまい。

 

 早駆けのルーンと『隠形』のルーンを同時に発動。往来の人々の意識からも消え去るほどに鮮やかな手並みの後に星たちは動き出した。

 

 

「三人は!?」

 

「路地裏に入り込もうとしている……! あいつら、どこであの人が怪しいって思ったんだよ…… 仕方ないか、Gehen―――」

 

 

 焦るリーナの言葉に返してから脅かす程度でいいからと思念で付近にいたカラス達に命じるが―――。

 

 ぶつん! という音で、カラスとの繋がりが切れた。『断線』された。やったのは、『工房』の主だ。

 

 あちらも低級霊で対抗してきたようだ。こそこそ回るネズミのようなこちらを分かっていないとは思っていなかったが……。そんな矢先、翡翠の文鳥の方の視界に再びの関係者の姿。

 

 

「―――深雪が見えた」

 

「なんだか関係者が多すぎない!?」

 

 

 司先輩が達也に魔法での襲撃を掛けた下手人であるかどうかは分からない。実際、あれだけのステルスコート(偽装迷彩)となると、纏っているのが人間かどうかすら不明なのだ。

 

 

(後で問い質せばいいんだろうが、今は四人の安全確保が最優先か)

 

 

 リーナの驚愕の言葉に同意しながら、三人が入り込んで深雪が次いで入り込もうとした路地裏で追いつく。

 

 工房への『入口』で立ち止まった深雪は何かに『気付いている』様子だ。

 

 

「ストッッップよ!! ミユキ!!!」

 

「リーナ!? それに刹那君も!?」

 

 

 殆ど足先に火花が走るのではないかと言う勢いで急停止したリーナとこちらの姿を見て振り向いた同級生。

 

 

「北山たちは、この先だな?」

 

「え、ええ。何で―――?」

 

 

 種明かしとして翡翠の使い魔。文鳥(スパロウ)を呼び戻して、深雪の周囲に飛ばす。

 

 

「ドローン?」

 

「そんな所だが、何とも味気ない。使い魔とか言えないのかな?」

 

 

 神秘の分野から遠ざかったのが魔法師とはいえ、ロマンがない気付きである。

 

 嘆くのは一瞬。入り込もうとした路地に結界が張られているのを確認。すぐさま左手で虚空に手を当てて解除を試みる。

 

 

「イヤな空気がしたでしょ? 入るのを躊躇ったのは正解よ」

 

「ええ、リーナは分かるの?」

 

「何となくだけど、ね。不用意に入ればどうなったかは分からないわよ」

 

 

 リーナは自分との接触。『肉体的』なものも含めれば多いからなのか、『こういったこと』(神秘の分野)を感覚的に理解しつつある。

 

 後ろの会話を聞きながらも――――。術式の解除が完了する。

 

 

「外れたんですね…?」

 

「ああ―――行こうか」

 

 

 別に手を外したわけではない。虚空を掴む手はそのままだというのに、魔力も放っているというのに……。

 

 

(恐ろしいね。確かに単純な戦闘力でならば、こちらに利はあるが……)

 

 

 深雪の洞察力に恐ろしく思いながら、三人で路地裏に入り込むと、すぐさま見えるもの。

 

 

 肉体を『倍加』させた裸身の大男と大…女だろうものが、北山たちを囲んでいた。

 

 

 左右の雑居ビルの壁面に張り付いている黒い犬のようなものも含めてヤバい事態だと悟る。

 

 

「オオオオオオオ!!! アアアアア!!!!」

 

 

 もはや明確な言語ではない言葉で威嚇する連中相手に北山たちも怯えている。

 

 この中で一番速かったのは深雪だった。

 

 一高総代として主席の実力を如何なく発揮する術―――放たれる冷気は、北山たちを避けてものの見事に路面から壁面までを氷漬けにして、犬の足場を無くしたが―――。

 

 犬は、大男―――ほんとうに力士以上の肉体をしたのに覆いかぶさり、その身と同化―――そうとしか言えない現象で、身を毛むくじゃらにさせた。

 

 

 無論、冷気は大男に襲いかかるが、さほどの効果を発揮しない。少しの怪訝さを覚えてから、起動式を読み込もうとした刹那。

 

 

「肢を止めろ! Fünf!!」

 

 

 術の補助なのか、刹那が走り込んだ時に見えた―――『サファイア』、見事な宝石を見てから指示に従い足に干渉力を発揮する。

 

 刹那が足元に投げ込んだサファイアを基剤に、大男の肢が凍結した。

 

 

「ふっ!!!」

 

 肢を刈り飛ばす蹴り。一高の制服が汚れるのも構わず放たれたそれで大男は路上に重々しく崩れる。

 

 

「オオオオッ!!!アアア!!!」

 

「Drei!!」

 

 

 今度は大男の奥にいた大女相手に頭上にサファイアを投げ込む刹那。先の戦闘を覚えていたのかいないのか、頭上にあるものを見上げた一瞬。

 

 

『『It's Fiststar!!(Stern erster Größe)』』

 

 

 呪文と同時に刹那の左手とリーナの特化型CAD『カンショウ・バクヤ』から―――綺羅星の如き光が幾つも放たれて、昼の世界を輝かせながら大女の巨躯の全身に命中。

 

 

 巨躯の大半を消し飛ばすも、即座に『巨躯』を埋めるかのように肉が蠢き、再生を果たそうとした瞬間。

 

 投げ込まれていたサファイアが頭髪が殆ど無い頭に着弾。氷漬けになることで呼吸を無くし意識を飛ばされたからか、再生が止まり―――再び巨体が路上に重々しく落ちる。

 

 

「ふむ……とりあえず大丈夫か?」

 

「えっ!? う、うん大丈夫だけど―――この人たちは……?」

 

 

 一番最初に気付いた光井が代表して、答える。一応、ケガをする寸前だったというのに、見るとエイミィに抱かれている北山は、眼が腫れていた。

 

 見ると制服も汚れており、立ち向かって攻撃が掠ったようだ。

 

 

「長くは無いな。というよりも―――もう『死んでいる』んだよ」

 

「えっ……!?」

 

「それよりもエイミィ。北山貸してくれ。治療する」

 

 

 驚く光井から眼をそちらに持っていき、特に抵抗は無く、こちらに預けられる北山の目元に術式を投射。現代魔法の治療術とは違い、逆行させた北山の目元が徐々に健康体になる。

 

 

「っ……」

 

「雫! 大丈夫!?」

 

「うん、なんか痛い所が無くなった………ッ!!!」

 

 

 光井に答えた後に、抱きしめていたのが刹那だと分かった瞬間に、少し身を竦める北山。まぁ同年代の男に抱き留められていたのだから当然か。

 

 

「立てるか?」

 

「……もう少しこのまま」

 

 

 おかしい。治療術の効きが悪かったのだろうか。顔を赤くしている……それは俺に抱きしめられているからとか、そういう勘違いはしない。

 

 ただ……とりあえず、北山たちを路地裏から脱出させるしかない。あまり長居していていいものではない。としたが――――。

 

 

「セツナ、私がシズクを介抱するわ。あなたはここの処理を―――お願い」

 

「……分かった。頼む」

 

 

 足を向けようとした瞬間、リーナからの言葉で役割が交換される。まぁこういうのは俺の役目か。

 

 

「リーナ……!」

 

「……セツナにはセツナにしか出来ないこともあるわ。それだけよ。他意はないわ」

 

 

 半ば乱暴に、北山に肩を貸したリーナが睨むような北山に告げた言葉。何だかケンカしているように見える。

 

 まずったかな。と思いながら女子陣の脱出を見送ろうと思った時……深雪だけが、この場に残った。

 

 

「意外だな」

 

「そうですか? 私も当事者の一人ですし、あなたの『殺屍』の片棒を担がされたんですから、少しは事情説明が欲しいんですよ」

 

 

 確かにそうだが増援がいないとも限らない状態で長話は不味い。とはいえセツナとしても珍しい組み合わせを自覚する。

 

 こうして色々と手を出せばおっかない『ガラスのような美少女』と二人っきりというのも、凍える思いだ。

 

 

「どうしてもあなたと話す時にはリーナがセットでしたから、そうじゃないですか刹那君?」

 

 

 そして刹那にとって深雪がいる時には、達也がいた。そんな風に言ってやろうかと思ったが止めといた。面倒である。

 

 

「……まぁいいだろう。こいつらは『リビングデッド』。もしくは『ゾンビ』でも『キョンシー』でもいいが、まぁそういった『死体人形』だ」

 

「根拠は?」

 

「如何に凍結したとはいえ――――こんな傷口から出血一つ無いと言うのはあり得ない。更に言えば、こいつらの筋肉と脂肪の割合からしても『この状況』でならば、鮮血があってもいいはずなんだ」

 

 

 深雪も気付かなかったわけではないが、相撲取りの二倍近い巨躯の人間という現実にはありえなさそうなものを見て少し頭が麻痺していたようだ。

 

 皮下脂肪の多い…たとえばアザラシなどのような動物は、極寒の地域でも動くこと可能な理屈の一つである。

 

 

「更に言えば、お前の魔法が効かなかった理由はこれだ」

 

 

 どっからか取り出した小剣。それを持って大男と大女の背中を切り裂いたセツナ、一瞬眼を背けたくなってしまうが、やはり鮮血一滴飛び散らない様。

 

 切り裂いた背中を恐る恐る見ると、そこには――――。

 

 

「アンティナイト!? しかもこんな大量に!!」

 

 

 抗魔力の結晶体が、びっしりと筋肉と脂肪の間に仕込まれており、それが骨折などの手術跡でないなど明白であった。

 

 

外部(すはだ)にあるものであれば、深雪の干渉力でならば突破できるが、内部(ないぞう)に仕込まれたものは、そりゃなかなか無理筋だわな」

 

 

 同時に死体とはいえ、人間の身体にこんなことをするなど、下手人がまっとうな倫理観など持ち合わせていない証拠であった。

 

 

「理屈は分かったな。あとは女の子が見るもんじゃない。これ以上は達也にぶん殴られそうだ」

 

「お兄様はそんなことで怒りはしません」

 

「そうか? いや、怒ると思う。深雪になんてもの見せているんだ!? って言ってくる」

 

「………リーナにも見せたくない顔があるんですか刹那君にも?」

 

 

 それは当然ある。どうやっても見せてしまう場面はあったが、見せなくてもいいものは見せていない。

 

 自分の冷徹な『執行者』としての顔を―――。その苦悩を察したのか深雪もようやく聞き分けよくなる。

 

 達也と一緒の時とは違うんだな。頑固だ。少しだけ印象を変えておく。

 

 

「……分かりました。では、この方たちの『ご供養』、よろしくお願いしますね」

 

「ちなみに、知り合いに坊さんいない?」

 

「生憎いたとしても『生臭坊主』の類なので、役に立ちません」

 

 

 嘆くように言われ、誰のことやら? そう思いながら、深雪が見えなくなると同時に、聖句を唱えて霊魂と肉体と精神の安寧を祈り―――『奇蹟』が降臨。

 

 消え去る死者の肉と霊―――後に残されたのは大量の『セファールの石』。

 

 

「形見分けってほどじゃないが、お前さんたちをこんな目に遭わせた奴らのために使わせてもらうよ」

 

 

 路上に落ちた石を懐に収めてから路地裏から脱出。奥に進んで吶喊してやろうかと思うほど、状況は良くない。

 

 こっちにとって好転できる材料が欲しいのに、なかなか出てこないのがもどかしい。

 

 

 よって――――。

 

 

「「「「「いただきまーーーす!!」」」」」

 

 

 アーネンエルベにて、ミルクレープ、ホールで3セットを奢る羽目になったのは何故か? 解せぬ。

 

 つーかあんなことあったのに、タフな一高女子一年(Aqours)の精神に乾杯(ブロージット)である。それしかいえねぇ……。

 

 

「刹那、あーんして、食べさせてあげる」

 

「セツナ、こっちの方が美味しいよ? 私の愛があるから♪」

 

「私にも愛はある。リーナには負けない」

 

 

 左右を陣取ったリーナと北山……雫と呼べと言われたから、そんな風に餌付けをされそうになる始末。というか二人して俺を境に睨みあわないでほしい。

 

 そんな様子を激写するエイミィに苦虫を噛潰すも……女子会に男子一人というものが、斯様に辛いものであるかが分かった瞬間であった……。

 

 そうしながらも、聞くべきことを聞かねばならないとして、激写中のパパラッチだか探偵だかを気取るエイミィにまずは問い質す。

 

 

「で、なんで司先輩を追っていたんだよ三人して? お前たちが達也襲撃の下手人の動画撮影者なのは知っているんだぞ」

 

「おや、それ聞いちゃう? そして、バレバレかぁ こりゃ参った! まぁ『ロマン先生』が、動画に移る迷彩に『フィルター』を掛けたんだよ。そしたらば、そこにはあの人の姿がね」

 

 

 ミルクレープの『層』をめくってそこに『挟まれている果物』を確認してから食べるエイミィが、気楽な様子で、そんな風に言う。

 

 エイミィ、光井、雫の美少女探偵団(自称)にとってのエルキュール・ポアロだか、ミス・マープルも同然に解決策を見出した教師のにやけ顔を見て、あの人何者だよ。と思う。

 

 まぁ電子機器やコンピュータープログラムに詳しくない刹那ではどうしようもない話だった……そう終わらせたが、美少女探偵団(自称)以外の面子で達也とてあの映像に解析を掛けていたことを知っている深雪は、少しだけ怪訝な想いを覚えた。

 

 

 ――――そして、そんな日から休日も挟んだ上で、1週間ほど経った日……。

 

 

 件の『女子会に男一人』の写真を見て粛正に来た五十嵐 鷹輔(しっと団所属)にアイアンクローを掛けていた時だった。

 

 

『全校生徒の皆さん!! 僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!! 僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します!!』

 

 

 五十嵐の声以上に響くスピーカーの声で、遂に来るべき時が来たのだと理解するのだった……。

 

 

 


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