魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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油断大敵、一寸先は闇――――――。

南米とはいえコスタリカは堅守なんですよね。五枚も壁を付けるか。なんて現代的なサッカーしやがる。

そんなわけで新話お送りします。


第340話『決戦前の小閑日』

夜中に通信を受けた一人の女軍人は、画面に映る老人にどうしても緊張せざるを得ない。

 

『では、このマジックフライトレースには、酒井大佐など大亜強硬派が絡んでいると?』

 

「そう考えてよろしいかと……。だが、我々としてもそこまで止めなくてもいいかと想っていますよ」

 

なんと軽率なことを言ってくれるものだ。四葉の家令たる葉山は、画面越しに見える銀髪の女軍人に少しの怒りを覚える。

 

『……我が家は魔法師は兵器という思想の元、時の御座所の方々にお仕えしていましたが、だからとそのような本音を隠した奸策で、若年の魔法師たちを利用しようなど……あまりにも卑劣がすぎませんか?』

 

「さて、そこは今後次第ですね。とはいえ、 わたつみちゃん達を見ていれば分かりそうなものですけどね。軍人魔法師たちの次なる戦場が―――」

 

佐伯はそう四葉の家令にして、『元老院』子飼いの壊し屋『葉山英雄』に言ってから、北米よりやってきた『死の教主』……空港のソーシャルカメラが捉えた姿を睨むのであった。

 

 

「とどのつまり、国防軍は、達也兄さんが英国で戦った空中戦艦に対する対策が欲しくなったんですよ」

 

親戚であり弟のように想っている文弥の言葉を聞いて、達也は納得する。

 

「成程……魔法師を陸上の打通戦力にするだけでなく、航空の強襲戦力にしたいわけか」

 

公然の秘密というわけではないが、神代秘術連盟が、新ソ連からなのか自作なのかは分からないが、空飛ぶ戦艦を所有していたのはすでに知られている。

 

同時に、それを無力化する術も殆ど無いのだ。

 

「英国において敵艦に対抗したのは紅閻魔とガラテアだからな……飛行能力を持ち、その上で敵の銃座を物ともせずに戦闘行動が出来る戦力が、あるいはそういう『戦術教本』が欲しくなったんだろうな」

 

たとえば、敵母艦を『制圧』するにあたって、従来の戦術であれば、敵防空網の無力化と、その後艦内に切り込む兵士とは別の担当であった。だが、現代の戦争……特に魔法や魔術があちこちで飛び交う戦場において、そのような時間的猶予はない。

とすれば、防空網をたたきつぶし、火砲を破壊した後に歩兵として、艦内をそのまま制圧できる兵士が必要だ、と考えられたのであろう。

 

現に刹那がガラテアや紅閻魔を寄越していたのは、最初はあれ(戦艦)を制圧するつもりだったからだ。

 

しかし、敵もさるもの……ただの航空戦艦ではなく、恐ろしき幻想の魔船……北欧神話でいうところの『反魂戦艦』(ナグルファル)のようなものだったからこそ、消滅に切り替えたのだろう。

 

(だが手にすることが出来れば、色々と使い道はあるか……)

 

国防軍の強硬派が考えそうなことだ。

その為にも飛行魔法を使う魔法師が、どれだけの『戦闘機動』が行えるか、その上で持てる『火力係数』はいかほどなのか、それを『実戦』の上で知りたいということだ。

 

最初に天与の能力で飛翔出来る九亜たちを、アイドルユニットよろしく飛ばした理由もそこにある。

 

「軍の偉い人達も無茶をする……下手にもつれ合うような空中戦になったらば、どんなアクシデントが起こるか分からない―――そう、どこかのハム仮面が、上官殺しと呼ばれるような切っ掛けとなるアクシデントが!!」

 

「「た、達也兄さん!?」」

 

「と、俺の内なる魂が囁くも―――まぁ面白い競技ではあるな。出場するならば存分に楽しんでこい。文弥、亜夜子」

 

ズッコケたくなるほどに変節がすぎる親戚の様子に戸惑ってから……少しだけ疑問を呈する。

 

「……飛行魔法の開発者である兄さんは出ないんですか?」

 

「あまり内情は明かしたくないが、今回の俺は完全に裏方だよ……。まぁ出場選手名簿に無いならば、そういうことだ」

 

「「―――」」

 

その言葉に少しだけ絶句する双子。別にハブられているわけではないとしてから、ただそれでも自重せざるを得ないのだとしておく。

 

「俺のことは気にするな。四高を勝利に導くんだろ。お前達、黒羽が四葉の本流になれるかどうかは、この大会に架かっているんだぞ」

 

「はい」「はい」

 

双子でそれぞれで違う気持ちを込めた返事をしてから達也の前を辞した双子は、部屋に戻る途中で廊下にて話し合う。

 

「やはり達也さんは意地になってるわね」

「そうだね……」

 

まるで、プロボクサーを引退してトレーナーでボクシングに関わるなどと言いながらも、師匠からの言いつけで肉体改造を怠らないフェザー級チャンピオンのようだ。

 

その理由は……恐らく―――。

 

「せめて遠坂先輩が……九島君だけでなく達也兄さんにも『リングに上がれ』ぐらい言っていれば、違ったかもしれないのに」

 

「やめなさい。女々しいわよ文弥―――そして、達也さん程の強力な魔法師が出てこないならば、それはそれで大儲けだわ」

 

拳を握りしめて、悔しい思いで怪物同士の戦いを見たかったと宣う文弥に対して、女であるからか最後にはドライなことを言う亜夜子に少しだけ反発するも―――いまの自分たちは四高の一員なのだ。

 

(節度を弁えましょう)

 

霊体化している若君セイバーからの言葉で己を戒める。

 

そうしていると、妖精姫モルガン(幼女)を連れて歩く刹那の姿が見えた。

 

誰かと会っていたのだろうが、それでもそれを問いかけることも出来ずに、そもそも距離が離れており、完全に行き先が違うことから話すこと出来ず―――そのまま離れていくことに……。

 

 

もっとも、文弥たちが刹那を認識したように、刹那もまた彼らを認識したのだが―――。

 

(今はリーナ優先だ)

 

色んな意味で衝撃的な事実を知らされて、そして教えあった以上は……それを伝えることが重要なのだ―――何より……。

 

(不機嫌マックス!!)

 

刹那の小指を通して語られる恋人の機嫌が、スゴく悪くなっていくのが感じられる。

 

そんなわけで―――。

 

「すまん!! 待たせた!!!」

 

自分の部屋の電子ロックを解除して、部屋への扉を開けると見えてきたのは―――。

 

「待ってた―――♬」

 

―――とんでもない格好で抱きついてきた彼女の姿だった。

 

盛装すぎるその格好は、現代のJKとしてはどうなんだと思いつつも、抱き返す。

 

その柔らかさにはどうしても、逆らえないものなのだから……。

 

「レツ・グランパからは何か言われた?」

 

「まぁ色々とね。シルヴィアから送られてきた情報と大差ないこともあったけどね……やはりあのクリームヒルトとの一件で出会った少年は、君の祖父のようだ」

 

髪を撫でてからそっとベッドの上にリーナを座らせる。黒いランジェリー姿の彼女は、魅惑のヘカテ(夜の女神)も同然である。

 

「―――続けて」

 

「何が行われたかは周も知らなかったようだが、それを手土産に九島家の中枢に入り込もうとしていたようだ……しかし、何処かで計画変更が入り、ああいう悪手を打ったようだな」

 

「シルヴィアたちは、あちらで拘束されているジード・ヘイグの仕業なんじゃないかと監視を強めている……下手に直接接触(ダイレクトタッチ)しようものならば、どうなるかワカラナイから……」

 

そういう意味では、北米に行ってそいつを魔眼で縛り付けていれば良かったと思える。

 

だが、ヤツに動かせる手勢はそう多くない。接触してきた相手を支配しようとしても、その辺りはスターズ(古巣)も心得ている。

 

「コレばかりは、犯罪者の人権に気を使いすぎるアメリカに、少しだけ思う所はあるワ」

 

「しゃーないさ。我が家も一応はカトリックだからな」

 

北米では、それぞれの州で『死刑』や犯罪者の刑務に対する在り方はまちまちだ。それはやはりどんな形であれ、輪廻転生ではなく原罪保持の考えの十字教の教えゆえに、刑死ではない……生を全うさせることが、罪の破却に繋がると感じているものが多いからだろう。

 

もっとも、チャールズ・マンソンとて一度は死刑を宣告され、テッド・バンディにいたって電気椅子によるショック死を与えられた。

 

社会に対する影響や、そういった犯罪行為に対する見せしめは、アメリカとて考える。

 

(だが、ジード・ヘイグこと顧傑に対しては、即刻殺害をしたほうがいいと思うのだが……)

 

一度は『亡命者』として扱った過去ゆえに、中々そういう非道にも転じれないのかもしれない。

 

政権の左右中の『向き』によっては、それもどうなるかは分からないが……政府上層としても苦慮しているのだろう。

 

「ともあれ、ケン・クドウがサーヴァントを擁して何かの策動、あるいはその尖兵として動く以上は、接触しなければならない―――何より……」

 

「ナニヨリ?」

 

こちらが真剣な顔をしたことで、リーナは覗き込むようにしてから問いかける。

 

「何より……リーナのジイちゃんなんだ。孫との交際を認めてほしいよ」

 

別にジェームスお義父さんに認められていないわけではないが、それでも……何というか心情的なものでしかないのだが―――。

 

明確な言葉に出来るものではないが、そういう感情があるのだ。

 

「モウッ!! ダイジョウブよ!! ダディと違ってグランパはワタシに激甘だったモノ!! ソレに―――言葉はいらないワ!! ただカラダとココロを通わせるだけヨ!!」

 

「リーナ……」

 

「セツナ……」

 

お互いの腕を首に回して見つめあっていたのだが―――そんなセツナの後ろから手を回すものが―――三人も出てきたのだ。

 

「チョット―――!! なんなのよ、この『東映版まもって守護月天!』のオープニングのようなシチュエーション!!!」

 

「俺に言われても―――!!!」

 

寄りかかる三人分の女性の重み、しかし刹那は耐える。この辛さを分け合おうとは思わずに、何とか耐える。

 

とはいえ伸し掛かる三人は、紛れもなくサーヴァントであった。

 

「2人だけで雰囲気出して、なんかズルーイ!!」

 

「私もこのメガトン級ムサシならぬムサシオーな身体を発散させるためにも! マスターたる刹那くんとは『ヨロシク!』したいっ!!」

 

「驚くことに……2人と一言一句全く同じなのです。我が夫」

 

案外モルガンは『ズボラ』なのかもしれない。耳元で囁かれる言葉。そして後ろ目でも見えてきた表情を前にして、そんな感想を懐きつつも……。

 

「と、とりあえず日にちを決めないか? 何だかこのままだと―――お、オヤジみたいなことは、あんまりちょっと!!!」

 

観測した世界の中には『セイバー=アルトリア・ペンドラゴン』を現界維持させるため。

その関係で『遠坂凛』(オフクロ)とも何やかんやと理由を付けて、更に言えば自分の世界ではないが聖杯と繋がった『間桐桜』(おばさん)の魔力抜きのために、あれこれやった挙げ句―――そのサーヴァント『ライダー=メデューサ』とも!!!

 

なんだろう? 我が家(衛宮・遠坂)は性的倒錯者を生み出す家系なのだろうか? などと真剣に自問自答をしていたのだが……。

 

「我が夫の御父君も中々の絶倫―――ですが、そのことを置いても、我々の第六感が確かならば、ここ(富士演習場)は形はどうあれ戦場になります。その際の為にも、常駐サーヴァントたる私たちは十全でいなければなりません」

 

そんなモルガン……現在はアダルトモードになっている言葉に、内心の葛藤は消え去る。

 

「―――何より、私とてアルトリアには負けたくありません。檜の風呂で後ろからという新境地を開拓するなど―――ヤッてみせましょう」

 

もうヤダこの女王陛下……知りたくはなかったオヤジの性癖が、バッチリ俺とリンクしてやがる。

 

「ワタシたちもバスルームで―――だったもんネ―――♬」

 

「とはいえ、正妻たるリーナが拒むならば、大人しく引き下がりましょう」

 

最後には正面にいるリーナに判断を仰ぐ辺り、女王陛下は人ができている。

 

「……じ、ジツを言えば、セツナの絶倫すぎる精力を受け止めるには、ワタシ一人では役不足というか………というか、前に見せられた映像から察するに、セツナが『サクラ』(ブロッサム)さんの立ち位置じゃない?」

 

「俺の場合、余剰魔力はちゃんと宝石に移しているから……まぁそれでも余ることもあるが」

 

だが、サーヴァントに全力戦闘させれば、たやすく失われるものだ。

 

その辺りはなんとも不可思議なエンジンを積んでいる己が、少しばかり妙な気分になりながらも―――。

 

「ソレに―――イマサラでしょ?」

「―――仰るとおりです。マイステディ」

 

イタズラっぽい笑みを浮かべて、こちらを見てくる金のエンジェル。

自分の『色々』(スベテ)を知っているリーナに降参をしてから、キングサイズベッドにて―――高校生にしては倒錯的すぎる『アレコレ』が繰り広げられるのであった。

 

 

 

「といった風なことがあったんじゃないかと、俺は推測しているんだがな」

 

お前は俺を介してエロい妄想に耽るのが趣味なのかと問いかけたくなる。もはや名文学作品『蒲団』の主人公レベルである。

 

「その後に三高の泊まり部屋の方で同じような推測をした一色愛梨が、サーベル片手にやって来たりするのを阻止したり……」

 

懇親会から一夜明けた昼時。

達也とエリカの推理に対して刹那の返答は―――。

 

「当然、そういった可能性はあるが、ジェーンはトランプの宝具も持っているからな。ババ抜きやインディアンポーカーとかやっていたかもしれない。いうなれば、昨夜の俺とリーナの相部屋は『シュレディンガーの猫』であったということだな」

 

九島烈との会談云々は抜いて、後半の推理を面白がるように言う2人に返すと、魔術師が物理学の有名なフレーズを言ってきたことに微妙なものを覚えたのだろうか?

 

そんな表情であった――――。

 

「んでなんかあったのか?」

 

「ああ、実を言うとウチの応援団―――バスでやってきた人間なんだがな……」

 

達也の要約するところ、何でも人間主義と呼ばれる反魔法主義の団体が、一高の応援団バスの基地内への侵入を阻んだそうだ。

 

その際に彼らが言い放ったアジテーションともスローガンとも言えるモノは。

 

主に言えば「軍に入るな」「君たちは騙されている」など……要は魔法科高校卒業生たちが治安維持分野に入る『数』の多さを問題視しているのだった。

 

引率責任教師たる紀藤や近田も対応に苦慮したが、結局の所―――警察に届け出がない無許可の団体抗議活動であったところから、警察による強制的な解散命令の発動―――と、本来ならばそれでお開きとなるはずだったのだが……。

 

「門倉たち曰く『絶妙にエロい旅の尼僧』が現れて、弁舌を披露して人間主義者たちを解散させたそうだ」

 

「ほぅ。そりゃまたなんとも奇態な話だな」

 

旅の尼僧というからには流浪・遍歴の旅でもしていたのだろうか。托鉢僧とも違うかもしれないが……ともあれ、そんなことを聞きたかったのだろうか?

 

「いや、お前の耳に入れておけば、緊急の事態になっても対応出来そうだからな」

 

ただの予防線であったようだ。カフェラウンジで『そうかい』と言ってから紅茶を飲んでおく。

 

「お前は魔法科高校の卒業生が軍に入ることはどう思う?」

 

「実際学内にはそれ関係の求人広告や、実際にリクルーター(就職斡旋者)がいる以上、そして入りたいと思う人間がいる以上、こればかりはどうしようも無いんじゃないか?」

 

求人に対する需給のバランスは取れているだろうとしておく。

 

「そうか……」

「たださ。実際に入って『兵隊』として及第点になれるかどうかは別問題だろ」

 

少しだけ陰鬱な顔をする達也に違う視点を教えることに。

 

「魔法師としての素養と、軍人としての素養は違うって言いたいの?」

 

エリカの食ってかかる言動。だがこればかりは言っておかなければなるまい。

 

「そりゃそうだろ。魔法が達者に扱えるからと、銃弾が何百発、何千発も1kmも無い距離で飛び交い、砲弾が雨あられと降ってくる現代戦で、兵隊として遣えるかどうかはまた別だろ。そして何より……これは人間としての問題だ。有史以来どうしても付きまとう命題」

 

それは、兵士が果たして本当に、戦場で同じ「人間」を相手に発砲することが出来るか? そういうことだ。

 

「想定されている状況はまちまちだが、人間ってのはどれだけ安易な兵器……当たれば大抵は即死である『銃』(GUN)を持たされて戦場に向かったとしても、十人中七人は人に向かって銃爪を引けないそうだ。例えどれだけ自分たちが死にそうになったとしても、だ」

 

「確かに、な……風間さんが言っていたよ。軍人ってのは、どれだけ厳しい訓練を受けたとしても、十人の中の三人がなる・なれる仕事だって……」

 

それを言われたのは、恐らく彼があの部隊に入れられて初期の話……その辺りで自分は異常であると想ったのかもしれない。人殺しとしての才能が際立つ自分を評する風間に、少しの嫌悪も覚えたのかもしれない。

 

「まぁ国土防衛戦とか、隣国の侵攻なんかで『ここで敵を食い止めなければ後ろの人々が土地が蹂躙される』と思えば、結構人は働くもんだがね―――北上してくる薩摩隼人とアホほど戦った我が家のご先祖の記録だけど」

 

足軽……農民兵を用いて侵略する国と戦ってきた戦国武士の記録は、遠坂家にはありったけあるのだろう。しかも色々と統治するに困難な九州である。

 

現代とは戦の規模が違えど、人と人が相争う以上……その手のココロの問題は付きまとうものだ。

 

「まぁ俺は、魔法師として優秀だからと兵隊としての素質が無い人間に、そういうのを強要したくないのさ―――人間主義者たちが、その辺りのことを滔々と語ってくれるならば、俺は彼らの思想に賛同するが……USNAでも見ていたが、彼らは別段、魔法師に対してヒューマニズムを覚えているわけじゃなさそうだしな」

 

全員が全員ではないだろうが、それでもそれを誰かが語ってくれたならば、また別の世界がひらけたはずなのだ。

 

「それはやっぱり……リーナのことがあるから?」

 

「そりゃそうだろ。俺は出来ることならば、リーナには家にいてほしいぐらいだよ。彼女が自分や誰かの血で塗れるところなんて絶対に見たくない。そのためならば、俺は父権主義者・男女差別主義者と言われても構わないさ」

 

だが、それが正しい場合もある。

難破船の救命ボートに乗るのが最初に子供、次に女性と少年……それを見送る大人の男の役目というルールを、刹那は人生の中で理解しているのだから。

 

そして、もう守られているだけの少年ではないとも重々承知しているのだ。

 

という―――真面目な決意は……。

 

「久々に砂吐くわー」

「ケーキ食う前に口の中が甘くなる」

 

などと、対面に座る2人から茶化されるのであった……。

 

そんなカフェラウンジでの一時の中で不意の闖入者が現れた―――。

 

「若者同士の会話の邪魔をしたいわけではありませんが、失礼―――そちらセツナ・トオサカと見受けますが、少々話はよろしい?」

 

「――――え」

 

「七高教師 羽瀬 真奈(はせ まな)と言います。懇親会には出席できなかったので見受けられなかったかもしれませんが……アナタとは一度、話したかった……」

 

羽瀬 真奈……そう名乗るは、どう見てもモンゴロイドの顔ではない女性。何よりその顔は……以前に見せられた刹那の記憶の中の女性―――。

 

養母 バゼット・フラガ・マクレミッツに瓜二つだったのだから、三人揃って驚きしか出なかったのだ。

 

 

 

 

 


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