魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
笑福亭笑瓶師匠も死んだりと――――――まぁ人生、何が起こるか分からなさすぎる
もう少しすれば春の陽気が降り注いだのに、だからと人の運命が変えられるほどかは分からないですが、ともあれご冥福を祈るしか無いです。
夜―――全ての人間が寝静まった……と言えるほど夜闇も更けていない時間帯。
だが、そんな時刻。富士の国防軍森林演習場に一人の男が現れた。夜間に行われる訓練の為の兵隊ではない。
その男、体躯こそ鍛え上げられたものだが、軍人と呼べるような人間ではなかった。
夏の若葉の草摺れの音もさせずに歩を進めていた男は、立ち止まって通信機器をオンにした。
誰もいないことは確認済みである。
本来ならば、今年の予定競技……魔法を使ったトライアスロンないしデカスロンに使われるはずだった場所である。
だが、魔法師の新時代は『地上』での戦いを欲していなかった。地上での優劣においては―――とある存在たちによって全てが塗り替えられていた。
それは人外魔境にして塵骸魔京すぎる世界の英傑・英雄たちのチカラであったりしたのだが……。
「……比丘尼どの―――、ここまで来ましたが……俺は何をすれば……」
ようやく繋がった通信先にいる相手は、こちらの質問に『ソワカソワカ』などと前置きしてから、要望を言ってきた。
その言葉に現在、ハタチの男子大学生は驚くも―――。
「ミレディにはアナタの要求はできるだけ聞くように言われていますが、同盟者は無茶をおっしゃる……」
『ですがアナタの求めた『相手』との戦いを用意出来ると思われますが、リョウスケさんがそういうならば仕方ありませんね』
現在、この富士演習場において行われていることを男は知っていた。そして、昼間から夕方にかけては、その戦いを外部端末で見ていた。
羨望を持ってしまう。自分にもあり得たかも知れない未来―――いや、自分の魔法能力が真に開花させるには、自分は一年早く生まれてしまった。
せめて一年遅く生まれて、その上で両親に反旗を翻してでも、魔法科高校に入学していれば……などと益体もない妄想をして、その徒労に自嘲気味の苦笑をするのだ。
遠坂刹那、巷ではロード・トオサカなどとやっかみ気味の他称をされている人間と交わるには色々な意味で、男は『間』が悪すぎた。
(ロード・トオサカの弟子―――その第一期生徒たちは、魔法大学及び国防軍で『色々』らしいからな)
第一期生徒及び続いていくだろう卒業生たち……彼らが触れてきた魔導書の類は、何故か今年から電子版の書籍にて流布されていくことになったりした。
オリジナル版に関しては、魔力操作のための『きょうせいギプス』的な側面もあったりしたのだが、それに関しては代替品も出ていたりする。
一期生が触れてきた魔導書は……後輩などに譲られることもあったが、その殆どはいずれ自分が『世界に刻む術式』を添えるべく、そのまま所有されているのが現状であったりする。
そんな風に大衆向けといえばいいのか、多くの人の眼に触れていくことが良きか悪しきかは分からないが……。
「魔導書を狙ってよろしくない輩が跳梁跋扈するよりはマシなんだろうな」
「そのよろしくない輩どもの組織にお前の『教団』も含まれていることは認識できているのか? リョウスケ」
「皮肉を言わないでくれ『アサシン』。ミレディは、USNA時代から彼―――カレイドライナーたるミスタ・遠坂を誘っていたのに、袖にされ続けていたから、ああいうことになったんだ」
「そうか。ならば、そういうことにしておこう」
リョウスケとは違い、足音一つ立てず、落ち葉や落枝を踏み抜くこともなく、しずやかに歩く女は、そう言ってから言を止めた。
無表情な女、着ている当世風の衣服は教主ミレディことレナ・フェールが仕立てたものだ。髪型に関しては、当初のまま(髪に魔力を溜めておく)だが、その黒色の喪服……ロング丈スカートと黒いタイツ―――。
この日本の夏という季節にも関わらずそれを着こなし平気な表情でいる彼女は。
(アダムスファミリーの
その平淡な眼、眦が上がることは殆どないと見ている黒い眼。
その真一文字の唇、艶など見えず言葉を発する以外に変化はない、口角など上がることも下がることもない唇。
レナとは正反対すぎるそういう女らしさとは無縁の存在は、リョウスケこと遠上遼介が召喚し、契約したサーヴァントである。
自分のサイオンないし魔力量では三大騎士など満足に扱えない―――などという判断だったのだが、それが甘かった。
召喚したアサシンは『ハサン・サッバーハ』と近縁のものだが、決してアサシンという類に括られる存在ではなかったのだ。
『多くの魔力を頂戴することは謝っておく。
すまない。だが―――お前は真なるチカラを発揮出来ていないだけだ。芯からいずるチカラ、表皮にチカラを纏うなどという技法とは真逆のものがお前の本質だ。鍛えてやろう』
マスターに対して稽古をつけるサーヴァント。何だこの図式などと想いつつも、レナの薦めもあり、無銘のアサシンから鍛錬を受けたりした遼介。
はっきり言って遼介は、このサーヴァントが嫌いである。
本人曰く、『山の翁』としての特徴たる『固有の暗殺技』を会得できず、襲名できなかったことは理解できる。
それは自分の生まれゆえに共感出来ることではあった。
だが、多くの汎用性ある技を、歴代18人のハサンのザバーニーヤを会得・使用できるなど……『鎧』を纏うぐらいしか出来ない器用貧乏―――というよりもただ単に不器用な魔法技能しか会得出来なかった遼介にとって羨望の的であった。
もっとも……それだけの技能を会得しながら暗殺教団においては、彼女が写経をしているだけなどと揶揄されたことに対する彼女を認めなかった周囲に対する憤りが胸の内に含まれていることは、彼には全然理解できていなかった。
理解できたことは―――。
不意の銃声。叩き込まれる魔力の弾丸が、こちらを狙ったことだ。後ろにいたアサシンが遼介を低く伏せさせた上で、 霊衣のローブで銃弾を防ぎ切る。
何が、とか、誰が、なんて疑問は挟まない。
敵だ。間違いなく敵がやってきたのだ。
遼介としては予想外の速さだ。腑抜けた日本の国防軍ではない。ハイパワーライフルの攻撃は確かに遼介には脅威だが、アサシンには毛筋ほどのダメージもない。
なのに防御した。遼介だけでなく自分にも降り注ぐ弾丸を。
即ち―――。
「リョウスケ、敵だ。しかもサーヴァントだ」
「遠坂の放った斥候か……」
その言葉を受けながらも移動を開始する2人。アサシンの霊衣に包まれながらの高速移動。
相手はどうやらかなりの射手らしく、こちらの移動速度に対しても追随するように追ってくる。
あちこちで枝葉が弾ける音が響く。アサシンの移動は速いが音一つ立てない
ようやくのことで姿が見えない射手を捉えられるだろう開けた場所に出たことでアサシンの移動は終わる。
「……アーチャー=カラミティ・ジェーンか…」
「ハーイ♪ その通りデース!! 」
然程驚くことではないが、遠坂の契約しているサーヴァントの中でも色々とFEHRと縁が深いものだ。
まぁ返事とポーズはカルすぎて拍子抜けしたのだが。油断は禁物。
メンバーではないが外部の協力者のようなものだったカン・フェールこと岬 寛は、決して愚物ではなかったが、この『災厄』と関わったことが敗因と思えた。
そして―――。
(いま、俺にも破滅をもたらそうというのか?)
何かの推進機構で飛翔しながらやってきたアーチャーには同伴者が2名いた。
「なんかアサシンっぽくないアサシンね。まぁそういうのが
「異教の『戦士』よ―――この場から疾く去るというならば、私達はここで戦いをすることはない。我が夫は慈悲深いのでな。敵であっても闘争の仕儀には拘りたいのだろう」
三騎のサーヴァントの登場。
遠坂刹那の契約サーヴァントは、
セイバーらしきチャイナドレスの女剣士。
幼女の背格好だが、衣装といい漂う魔力と魔眼が尋常の存在であるとは思えない魔女。
気楽な調子でいる前者とは違い、尊大なものいいを付けてきた。
「断る。俺は俺の目的を果たさなければならないんだからな」
「サーヴァント三騎を相手にして勝ち筋は少ないが、マスターがこの調子だからな……」
言いながらもマスターと同じく戦う気概を見せるアサシン。つくづく暗殺者寄りではないその態度。
だが、それでも……アサシンの髪がざわつき、意思を持つかのように蠢き……それが嵐を巻き起こすかのように動いた瞬間に戦いは起きるのであった。
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そのサーヴァント戦の凡そ一時間前……。
「なんだか森がざわついているな……」
幹比古のそんな言葉が聞こえる。だが、達也の意識は違う方に向けられていた。
その言葉だけならば、何かの異変が起きていると注意を向けるところだが……。
「やはり達也様の偉業の一番といえば、この九校戦でのバランスブレイクエンジニアリングでしょう!! 兄から聞いていましたが、九校戦優勝の立役者だと、それを思わせるものが記録映像からひしひしと感じられましたので」
「あ、ありがとう……けれども、そこまで昨年の優勝に寄与できたかどうかは、俺としてはちょっと疑問点を覚えるよ」
「そうなんですか?」
「北山さんと光井さん、七草OG―――射撃と飛翔箱球では、確かに寄与出来たかもしれないけど、滑走においては刹那が指導した千葉さんが新人戦優勝を決め、これが一番に問題なんだが……自信を持って出した実妹の飛行術式は、完全に四高のイリヤOGに抑えつけられたんだから」
キミが言うほど、俺はスゴくないなどと言外に含めると、五十里 啓の妹―――五十里
夕食会で
まだ中学生ではあるが、五十里家の一員として魔法を学んでいる。及びかの家が持つ魔法幾何学とでも言うべきものを学んでいる。
要は昔の深雪のようなものだ。そんな彼女は自分に自己紹介の挨拶をしてきた際に……。
『私の名前は五十里メイ! あなたの
などと往年の名言を使って自己紹介された。
その後は大食堂が冷えるところだったが、寸前のところで刹那やモルちゃんが、とどめたようだった。
だが、メイちゃんの台詞はまだまだ続く。
『こうやって直に対面してようやく理解しました……アナタの圧倒的な技術力・そして危険な男の『にほひ』を画面越しにも嗅いで心奪われていたのだと』
陶然としたかのように手を組み合わせて眼を閉じつつ言うメイちゃん。
『この気持ち……まさしく愛だっ!!!』
そしてその言葉は眼をくわっ!と見開きながらであり、我がことのようにどこぞの旗戦士を思わせる。
『『『『愛っ!!??』』』』
あまりにも唐突な発言。誰もが驚きすぎる言葉。
今日初対面の女の子にここまで迫られると、達也としても心苦しくて―――。
『せ、せめて
初めは
現在はこうなっていたりするのだ。
当然、深雪とほのかは不機嫌マックス。
(これが刹那の境地なのかもなぁ)
魔法科高校のモテ男の気持ちを察しつつも、現在自分たちがいるピラーズのプレ会場にやって来るだろう相手を待ち望む……。
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「頼みましたよ七宝君! アナタが負けるとセルナに、わ、私の貞操を捧げちゃう結果になるんですからね!!」
「善処します……」
勢い込んで言われたり、目の前で赤くなったりして陶酔している女子の先輩をダシに遠坂刹那に勝負を挑んだ琢磨であるが……。
全くもって琢磨にはやる気の出ない先輩の態度に、ため息を突きつつもファイトプランを固める。
「何故、こんな無謀をしたんだ琢磨?」
少しだけ怒るような調子でファイトプランを固めていた琢磨に言うのは、一条将輝である。
怒られるのは分かっていたが、実際に直面すると緊張をしてしまう。
「せめて少しでも……明日以降のピラーズブレイクに出る先輩方の為になればと……『探り』です」
その言葉に、何とも言えぬ表情の将輝と火神。
「俺たちゃ、そこまで情けない先輩なのかね?」
後輩にこんな気遣いをさせていることに対する言葉なのだと気づくが。
「ち、違います!! けど―――俺は……」
「分かった。お前の挑戦で刹那が何かを曝け出すというのならば、懸命に食らいつけ―――余裕なんてあると思えば、アイツは呆気なくそこに噛み付くんだからな」
「君を利用させてもらうよ。七宝君」
肩に手を置いて苦笑を浮かべて『奮起』を願う将輝と、その戦いを観察させてもらうという真紅郎の言葉。
やる気が上がる。土を着けるぐらいはしてやるという気持ちが上がるのだが……。
「あんまりがんばらなくてもいいですよ。なんせ『のぼうの城』でも最終的に甲斐姫は太閤の室に迎えられちゃうんですからね?」
姫騎士の言葉を受け、せめて小田原北条氏が開城するまでは踏ん張った成田長親の気持ちで踏ん張ろうと思う江戸っ子の七宝琢磨なのだった。
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「プレ戦を許可してくれてありがとうございます響子さん」
「おかげで基地の工兵部隊は上に下にの大移動だったわ。とはいえ、アナタ達の今の状況は私のせいみたいなところもあるしね」
こちらの状況に対して、ある程度は融通を効かせるというのは、そういう背景があったりするのであった。
控室にやってきた響子の言葉を受けながらも、その辺はどうでもよかった。問題は酒井なる
「まだ侵入されているわけではないけど、そうなった場合の備えをアナタにさせてしまうのは、申し訳ないのよ」
「下手に迎撃に出て、兵隊のご家族が遺族年金を受け取るなんて事態は止しておきましょう。サーヴァント相手に無茶が出来るような装備もないんですから」
それを欲して、セイバー&ウィザーズという競技があったというのは既に情報として掴んでいるのだが。
「まぁとにかく挑んできた相手を無碍には出来ませんよ。それは優雅たる遠坂の宿命ですから」
そんな言葉を言いつつ、三騎のサーヴァントを向かわせていると言って響子を安心させておくのだった。
言ってから立ち上がり、決闘の場に刹那は赴く―――。