魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第350話『魔法の宴 氷柱激闘編Ⅰ』

「モルゴース!!!」

 

ごぱぁっ!!! という擬音が聞こえるほどの黒い津波のような魔力波導が、アサシンに向かう。だがアサシンは焦らない。

 

ここが平地・平原……殆ど遮蔽物がない場所ならばともかく、あちこちに木々が林立している山林だ。

 

アサシンにとって、ここはベストフィールドなのだ。

 

しかし―――。

 

そんなアサシンに追随する影一つ。中華大陸風のドレスを着込んだ双刀の剣士だ。

 

自分よりも熱砂の大地にいそうな褐色の美女は、こちらと剣を合わせてくる。

 

アサシンも得物の長さでは不利を悟り、ダーク(投げナイフ)ではなく短刀……俗に半月刀(シャムシール)の類で応戦する。

 

「アサシンの割には正面切っての戦いが得意そうね!!」

 

喜色を見せる女とは違い口元を隠して表情を見せないでいるアサシンは、何の感情も見せないままに剣士と打ち合う。

 

本来的なアサシンであれば飛び回って相手の虚・隙を狙うのが常であり、現在、富士の演習場に現れたアサシンとて飛び回りながら『宝具』を使って『暗殺』するのが戦型だったりする。

 

だが、それが出来ないのはひとえにこの女剣士が『疾すぎる』からだ。

 

『瞑想神経』(ザバーニーヤ)のような感覚を上げる能力を『常時』使っているようなものだろうか。この剣士の剣は……とにかく『最適』すぎて『先んじすぎている』)

 

恐ろしすぎる剣戟だ。一合あわせるのも一苦労なほどに極まった剣。だが、アサシンとてそれら『能力上昇系統』(バッファースキル)を用いて女と戦う。

 

「いいね!!! やっぱり戦いとはこうでなければねっ!!!」

 

戦闘狂(バトルマニア)か」

 

「しかもそれがカワイイ女の子だったらば、私はさらにあがっちゃう!!」

 

(女色家なのか?)

 

これは流石に肯定されると怖いから口に出さずに内心でのみ言うアサシン。だが、均衡は徐々に崩れる。

 

アサシンの服を超えて擦過する剣戟が増えていく。位置を入れ替え、立ち変えて高速のサーヴァント戦。

 

セイバーらしき女剣士の持つ太極の双剣は決してAランク宝具の切れ味というわけではないのだが、それでもアサシンの得物に比べれば業物だ。

 

(呪腕を―――)

 

アサシンにとって第三の腕ともいうべきものを発現させようとするも―――。

迫る悪寒に剣士から大きく距離を取った。脱兎の如き足でたどり着いた樹上。

 

だが、すぐさま倒木となる。やったのはアーチャーのようだ。4つの砲筒(キャノン)から放たれた熱量が木々をなぎ倒したのだ。

 

「ナイスよジェーン!!」

「やっちゃってネー! 切り裂きMUSASHI―――!!」

 

斜めに倒れゆく木を足場に迫る剣士を前にして己を毒身へと変えようとした瞬間。

 

 

―――夜の闇にあっても映えるほどの白色の毛をした大虎が、アサシンと武蔵ちゃんの間に割り込むのであった。

 

(なんだこの虎!? 斬れるかしら?)

(ああ、長期休暇でタイガー(カゲトラ)ってばこんな姿になっちゃって……)

 

二者二様の考えだったのだが、その大虎は……こちらを一頻り睨みつけてから、女アサシンを乗せて逃走を果たすのであった。

 

「「―――は?」」

 

あまりにあまりな逃走に対して、虚を突かれるのであった。

 

「逃していいのか?」

 

いつの間にか、やってきたモルガンによってそんなことを言われるが……。

 

「問題ないでしょ」

「モルガンは、マスターを捕らえた。ならば、それで大戦果としておけるんじゃない?」

 

言葉と同時に、『鳥籠』のようなものに捕らえたアサシンのマスターたる男を示すモルガン。

 

確かに、そう考えればまぁ分からなくもない。

 

(いざとなれば、この男から令呪を摘出することも出来よう)

 

小鳥のようなサイズに縮小された『遠上遼介』という名前こそ知らないが、男を捕らえたことで……まぁ良しとするのであった。

 

「しかし、あのアサシン。なんか異質だわ」

 

「だろうな。彼女は、真正のハサンではないようだからな。ハサンからの『脱落者』といったところだ」

 

モルガンは、自分の目が見抜いた『事実』に少しだけ嘆息する。少しだけ同情してしまうからだ。

 

もっとも彼女の場合は、それを『不服』と思うこともなく自省に走ってしまったようだが。

ともあれ捕虜を捕らえた以上は然るべきところで拘束しておかなければならない。

 

「我が夫 セツナに連絡を入れるとしよう」

 

そんな感じで夜の暗闘は終わるも、その裏での戦いも終わりを告げていた。

 

 

「バカな……こんなことがあり得るだなんて!」

 

「まぁお前さんにとっては悪夢だろうな。だが、こいつが現実(リアル)だぜ琢磨」

 

「―――アンタが、その『宝石』を出した瞬間に決まり―――王手・詰め(チェックメイト)なのか!?」

 

「まぁ、そうだな」

 

夜中に行われたプレ戦はなかなかに見応えのあるものだった。そう―――最初の内だけは。

 

しかし、遠坂刹那の最初に展開した『七大宝石』(セブンジュエル)が、七宝琢磨の魔法を後手で封殺していることに徐々に気が付いていった時には、時既に遅し。

 

最後には魔力によって宙に浮いた七つの宝石の間で複数の属性の魔力が膨れあがった。

そして、光が宝石の間で反射を続け、魔力を増幅させながら閃光を放つ。

複合属性による魔力の捻れが光線となり、七宝琢磨の陣の氷柱へと浴びせかけられる。 俗にカッティング・セブンカラーズと呼ばれる術式。

 

―――刹那の十八番が、今年も放たれたのだ。

 

不謹慎ながらもそれを見た瞬間に、ほとんど全員が『たまや~』などと言いたくなったのだ。

 

何というか九校戦に来たという実感が湧くというか風物詩になった感があり―――後に彼らの卒業後10年以上もの歳月を経て、『ジェミナイジュエルズ』などと呼ばれる双子の美少女たちによって、この伝説は再現されたりすることは完全に余談である。

 

勝敗は刻まれて、そして―――それでも……。

 

「―――昼と夕食でお疲れのところ、そして今夜の戦いまでお付き合いいただきありがとうございました! マイスター・セツナ!」

 

恨み言ではなく深々と一礼を以て答えるのであった。

 

「なんの。こちらも今日は魔術回路が殆ど動いていなかったからな。いい運動になったよ」

 

サーヴァントへの供給は魔術回路の律動とは別なのだろうか? という素朴な疑問を達也は覚えたが、琢磨が三高に行ったことで少し変わったことを刹那は感じていた。

 

(上下関係や実力差が色んな意味で『変な一高』では、アイツは妙なことに頓珍漢な混乱していたかもしれないからな……まぁ結果オーライかどうかは今後の戦い次第だろうな)

 

三高に行っていいヤツに鍛えられたな。と妙な上から目線で想いつつ、秘密裏に見ているだろう彼の親父さんは満足しただろう。

 

そんな中、解散の流れを作ったのは意外なことに中条あずさ会長だったりした。彼女としても各校の『研究時間』を優先したということだろう。

 

何はなくとも、終わりを迎えるのだったが…。

 

「で、ではセルナ! 今日のよ、よ、夜伽を勤めさせていただきます!!」

 

大問題をどうしたものかと思っていたら、流石に三高の抑え役なのか光主タチエがやってきておねえさん好きのニビジムジムリーダー(タケシ)を抑えるハナダジムジムリーダー(カスミ)のように愛梨を持ち上げて連れ帰った。

 

(さてと……侵入したのが、FEHRの斥候であるというのならば、少々事情聴取にも付き合わせてもらえないかなーとは思うも、一応は軍の管轄だからな)

 

好き勝手は出来ない。容貌だけでも記録しておいて後で教えてもらえばいいだろう。

 

「………」

 

残る問題は……。

 

「……それに関しては完全に心の贅肉だな」

 

もう少し言って「達也」を戦場に引っ張り出すことも出来たが、今の刹那はチームエルメロイのキャプテンなので、言わないことにした。

 

一高の中心の一人としてその立場でいることを選んだのならば、達也の判断に物申すことは野暮である。

 

そうして初日の夜はいろんな想いを呑み込みながら更けていくのであった……。

 

 

明けて2日目……。

 

就寝から明けて起床。朝食をいつもどおりに取り、全ての準備を終えてそれぞれの学校の設営テントなどに赴く。

 

ある意味、今日が正念場と考えているメンツは多い。

 

「―――今日行われるのは男女ソロピラーズとシールダーファイト男女ソロだ。何回戦までやるかは分からないが、それぞれのマッチでかかる試合時間次第ではそれ以上の試合進行は明日以降に持ち越しになるかも知れない」

 

「つまり今日の出場エントリー選手は変なところで緊張を切らすな。かといって終始張り詰めていても仕方ない。勝ち上がっても次には自分の出番が来ると想っておけ。今日に試合がないものたちは出場選手を出来るだけ気遣うように」

 

電子的なホワイトボードを後ろにしての両教師の説明。チーム・エルメロイとしてはそういう引き締めをしてくれるのは嬉しい。

 

「最後の確認をしておく。

アイスピラーズ 男子ソロ

遠坂刹那。二三草七郎丸。坂上一人。

アイスピラーズ 女子ソロ

シオン・エルトナム。長谷川理央。桜小路紅葉。

シールダーファイト 男子ソロ

上田武司。竹中薫。

シールダーファイト 女子ソロ

レティシア・ダンクルベール。火神アンジェラ。

以上だ。違いはないな?」

 

その言葉に全員から疑義は出ない。

 

「今日は技術チーフたるシオンが選手として出る。彼女にかかる負担はいつもの倍、それ以上になるからな。全員―――頼んだぞ」

 

その言葉に言われるまでもない想いだ。ただライネス先生としては、どこかの南極で苦難に満ちていた『親友』と重ねての言葉でもあったのかもしれない。

 

「では今日も一日、精一杯やって他校の『度肝を抜いてやろう』ではないか!!」

 

ライネス先生の戯けるような言葉に隠された符牒を刹那は読んだ。ある種の口頭暗号のようなそれに隠された意味はエルメロイ教室だけに分かるものだ。

 

だが、とりあえずその言葉が自分たち……チーム・エルメロイを上げることは間違いなかったのだ。

 

 

……そんな準備万端なチーム・エルメロイとは違い、若干暗い調子の一高テント。

 

確かに自分たちは選良の使い手として選ばれたものたちだ。今日の本戦アイスピラーズとシールダーにおいても自信を持っていなかったわけではない。

 

だが本当の意味で優秀な連中から頭三つ抜けた魔術師……遠坂刹那との対決には、やはり緊張を持ってしまう。

 

いや、全員が刹那と相対するとは限らないのだが、同校である刹那のチカラを間近で全員が思い知っているだけに、どうしてもチーム・エルメロイという存在がデカく感じるのだ。

 

―――マズイな。

 

今日の出場選手で平静を保てているのは、せいぜいピラーズで言えば深雪と壬生ぐらいなものだ。

あとはエリカだろうか。こちらは、女子ソロ『盾闘』の層の厚さにどうやら武者震いをしている。

 

(さてどうしたものか……)

 

 

「司波君、どうしたものですかね?」

 

と思っていると同じようなことを責任教師である叔母も抱いていたようだ。

 

「叔母上、じゃなくて四葉先生の『魔法』で緊張を取り除くというのも一案としてありましたが」

「却下ですよ」

「だと思いました」

 

笑顔でその非情さは生徒指導の上ではダメとしてきた。更に魔法を使った試合に勝つためだけにそのような行為もダメだとする。

 

それはある意味、ドーピングも同然だからだ。

 

とはいえ責任教師である真夜も色々と見て回っていたのだが、まさかここまでガチガチになるとは想っていなかったようだ。

 

(真に鍛えるべきは魔法能力ではなく『心』……メンタルだったのかもしれないな)

 

今更言っても詮無いことだが……と達也が思っていると。―――真夜は腹案を出してきたのだ。

 

「ですが、このままチーム・エルメロイだけが目立つというのは少々面白くないですね」

「B組が主体だから本音は違うんでしょう?」

「こういう時は聡すぎる甥っ子もどうかと思いますね―――ですが、ちょっとした『魔法』を掛けさせてもらいましょうか」

 

何をやる気だ四葉真夜(叔母さん)!? などと思いたくなる調子でいた。教師は―――。

 

「どうやらみなさん、気負いすぎているようですね」

「情けなくも白状させてもらえば、その通りです四葉先生……」

 

ピラーズ出場選手たる一人が一旦、身体をほぐす作業を終えて会話する。

 

責任教師からの訓告であると気付いて全員が、眼を向ける。

 

「遠坂選手などエルメロイが強敵であるなど理解していたこと。それに対して有効な戦術を構築出来なかったのは私の失策―――」

 

そんなことはないと言おうとした全員を手一つで押し留めてから真夜はその魅惑の唇を開く。

 

「ここまでくれば私に出来るのは、これぐらいなので元気出るように一つごほうび考えました―――男子は加点範囲内に入賞できたらば―――その選手と担当エンジニアのホッペにチューしてあげましょう!!」

 

バチーン!! という音が響きそうなウインクと手の動きと連動してそんなことを言う真夜。

 

「女子に関しては四葉にだけ伝わる脅威の身体成長術! むしゃぶりつきたくなるようなナイスバディに誰でもなれる魔法の有酸素運動をお教えましょう!!」

 

そのとんでもない宣言に四葉たる二生徒は、顎が外れそうなほどに口を開き、白い顔をしたのだが……。

 

『『『『『よっしゃああああ!!! 真夜先生のためにも、やったるぜぇえええ!!!!!』』』』』

 

『『『『『YEAH――!! やはり四葉にはそういう秘伝があったんですね―――!!』』』』』

 

男子・女子ともどもヒートアップ。そのタイミングで出場選手は控室に赴くようにアナウンスが入り、民族大移動のごとき様子でほぼ全員が移動するのであった。

 

「―――じゃあ司波君、僕も出ますんで」

 

「…ああ。頼んだぞ黒子乃」

 

「はい。それでは」

 

民族大移動にも流されなかった黒子乃太助もまたあまり緊張していないメンツのようだった。彼を忘れていたのは迂闊の限りであったが……。

 

「「そうなったらどうするんですか?」」

 

甥と姪は迂闊な事をした叔母に物申す。

 

「―――1度言ったことは反故には出来ませんよ……ただ……」

 

「「ただ?」」

 

「―――そこまで私にキスしてもらいたかったんですかね。男子一同は?」

 

少しだけ赤くなった顔で、困ったポーズ(命名 達也)をする叔母にだめだこりゃと述べてから……。

 

(40代後半の未婚女性のキスでやる気が上がるなら安いものか)

 

などと最後には切って捨てるのであった。

 

刹那の喉元までたどり着けるかどうかはまだ分からない。だが、やるべきことはすべてやったのだから、あとは選手次第―――賽は投げられたのである。

 

 

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