魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
Interlude……
「ねぇ、将輝って司波深雪さんのことが好きなのよね?」
いきなり言われた言葉に、コイツは何を言っているんだと思ったが、別にごまかすことでもないので、拘ることもなく白状する。
「ああ、おれは深雪さんに惚れている」
「……四葉の姫だと分かっていても好きなの?」
「ソレ以前から夢中なんだよ」
険しい表情を見せる翠子に苦笑しながらも、自分の気持ちは偽れない将輝は、そう答えることにしたのだ。
お互い大事な試合前にこんなことを話して、魔法のキレに何かあったらばコトだと思うのだが……翠子の気持ちを察せれないほど将輝も鈍感な男ではないので、ここでごまかすことが吉と出るか凶と出るか分からず、それでもそうしたのだ。
「去年の新人戦ピラーズ。最後にはペアマッチになって同校対決だったけど、結局の所、去年の
「そりゃ穿ちすぎだろ。刹那のカノジョであるアンジェリーナさんだって負けず劣らずだったぞ」
「そうね。けど……今年の本戦ソロにシールズさんはいない」
今更な話である。トーナメント表が出た時点でそんなことは当たり前で、作戦会議でも色々と喧々囂々ではあった。
それでも、この女子ソロ本戦は強敵ぞろいだと気づくぐらいに、昨年の新人と去年の2年生たちとがぶつかり合う場なのだ。
「去年は選ばれなかった私だけど、沸々と湧き上がる闘志だけは絶やさなかったわ」
「翠子」
そういうマイナスな感情は良くないと言おうとしたが、それ以上に翠子は言葉を絶やさなかった。
「だからこそ将輝……私が司波深雪に勝ったらば、あるいは優勝したらば……」
「お、おい!」
何を言おうとしているのか察して止めようとした将輝だが、ソレよりも早く―――。
「わ、私と最終日の後夜祭で踊ってよ!!!!」
「あ、ああ……そんなことならば喜んで誘わせてもらうさ」
詰め寄るように、言われたことは将輝の予想よりも易いものであり、少しだけほっとする。
だが、ここでそれを『エサ』に彼女のやる気というか奮起を持続させるような、厭らしいズルい男なことが出来ないのが一条将輝である。
基本的に彼は愚直とまではいかずとも一本気な男なのである……故に、司波深雪との相性は悪いのだ。
勢い込んで将輝にそんなことを言ってのけた翠子は、それだけで花開いたかのような調子になる。
「よし! やる気十分!! これで私は負けない―――よって……愛梨! アンタは愛しのセルナ君の応援でも何でもしてきなさい!!」
「先程から私の存在は忘れ去られていると思っていましたよ」
どうでもいいことだが、この三高の控室にて三人の選手がいたのだが、その内の一人を無視して恋愛劇のような(翠子は真剣)ものをされるとは、愛梨は思っていなかった。
「まぁ司波さんだけに照準を向けていて、うっかり足元をすくわれないでくださいよ。二回戦で当たるだろう相手は、九島家の末子にして2高がエースとして紹介している子なんですから」
呆れ顔とまではいわないが、少しだけ白けた顔をしつつ戒めをしておく愛梨だが、どうにもこの親戚は昔からこんな感じである。
その慢心を抱いて溺死しろ!! ……などと他校の人間ならば言ってやりたいぐらいだが、生憎なことに、残念なことに翠子は三高の選手なのである。厳しいことを言っても反発されてしまうのだ。
「一年の分際で魔法能力の差が如実に出る『つらら』に出てきた女に洗礼を与えてやるわよ。九島光宣といい、大体の一年は新人戦で経験を積んどけばいいのよ」
それは昨年の選手選考で選ばれなかったがゆえのやっかみもあるのかもしれないが、ともあれ試合は始まるのであった。
女子は見栄えが良い衣装を着ることも多いので、試合開始は男子よりも速い―――要は人気取りのためにも、日が高い内に試合をしてもらいたいようだ。
はたまたコスプレと同時に『化粧』にも時間がかかる女子の生態を理解しているか……両方なのだろう。
ともあれ女子ピラーズ一回戦の第1試合。
オープニングマッチというものを緊張せずに終えた翠子。そして栞ともう一人も通過したことで油断していたわけではないが……。
タイムスケジュールの関係上、男子が一回戦をこなしている間に翠子には早くも2回戦の順番が回ってきたのだ。
「さぁて――――――さくっと2回戦も突破してやるわよ!!!」
そうして意気揚々、意気軒昂……なんとでも言える調子で2回戦を挑んだ一色翠子だったが、その結果は―――惨憺たるものであった。
Interlude out…………。
女子ソロピラーズに現れたとんでもないダークホースの存在に、誰もがざわついていた。
騒いでいないのはダークホースの所属する二高と一高の数名とチーム・エルメロイの数名……こう書くと、それなりに多いと思いたいが、それでも……最初から九島ヒカルの脅威を認識出来ていなかった面子は顔を青ざめさせるのであった。
「間違いない。九島ヒカルは疑似サーヴァントだ。しかもその由来は原初の竜にあると見た」
「まぁ分かっていたことですけどね……彼女に対する対策を願っていただけに、こうして実地で見れたことはいいのですが……」
シオンが言葉を濁すのも分かる。この少女に勝つことは容易ならざることだ。
現在見ているのは三高 一色翠子との戦いだが、正しく完封という言葉だけが状況を表すものだ。
先手を取ったのは、一色翠子であった……。一回戦でも披露したムスペルヘイム―――超電磁の地獄界を作り出す魔法がヒカルの陣を襲おうとした時に―――。
『ちっちゃいなぁ。それじゃ僕の
落胆した言葉。実際、落胆したのだろう彼女は。
その時、既に九島ヒカルの陣には『巨大なドラゴン』が鎮座していた。
見えるものには見える、優美で美しいが、同時に鋭さを持ったブラックアンドパープルのドラゴンが……。
「九島ヒカルはフライングをしていたわけではない。彼女にとっては『思う』『そうする』と念じた時点で既に完了したことだ」
そのガーディアンドラゴンは、一色翠子がCADを介して術を放つ間隙の間に鎮座していた。
そして攻撃を封殺した後に、九島ヒカルがやったことは―――。
『パーシヴァル、キミと共に私はいくよ!!』
光の粒子を束ねて白い槍を作り出し、それを振るいて一色翠子の氷柱に攻撃を繰り出していく。
槍は光の
「武器の生成……恐らく彼女の体内はある種の炉心なんだろうな」
アトラスの六源には己の『骨』を武具・傀儡に出来る家があるそうだ。家伝特質というもので、自分が元の世界で交流し、現在対面に座る彼女の家 エルトナムもまたその一つだったりする。
「魔力と外皮で作った武器……『本来』の
最後には竜にムスペルヘイムを倍返ししたようなブレス攻撃をさせて、一色翠子は殆ど何も出来ずにやられたようなものだ。
映像再生をやめて、現状に対して考える。
ここまでのシオンとの対話。実を言えば、こうして話すも九校戦の最初っからシオンはかの九島家のデミサーヴァントに照準を合わせていたのだ。
「決勝は、出来ることならばチアキがエンジニアとして登録されているサヤカさんと戦いたかったのですがね」
「当たるならば準決だな」
これこそがトーナメントという一発勝負の恐ろしさである。そもそもそこまでいけるかどうかすら分からないのだから仕方ない。
「さて、では刹那……「例のもの」を」
「なんで悪代官と役人みたいな言いようなんだよ。まぁ用意したさ」
使い時は任せるとしながらも、とりあえず一回戦は安牌だったのだ。マズくなるのは準々決勝ぐらいからだろうか……。
「さてさて昨日とは違って、現在は全員して蜂の巣に手を突っ込んだような混乱状態だ」
新競技だらけで手探りだった昨日とは事情が違うだけに、各校の反応はそれぞれだろうが……。
(混乱・混沌に対していち早く対処できたものだけが、勝利へと近づくのさ)
奸智に長けただけでは勝利に近づけないが、愚直なままでもいけない。
刹那はそれをよく理解しているのであった……。
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「ピラーズは少し混乱しているようね」
「十師族の九島とはいえ、一年の女子が三高のナンバーズを打ち破ったならば、当然でしょ……まぁよそはよそ、うちはうちではないけど、目前のことに集中しましょう」
言いながら調整を完璧にしたCADを平河千秋が渡すと、千葉エリカは「申し分ない仕上がり」に満足する。
「女子ソロ最大の敵はレティがいるチーム・エルメロイ……男子ソロ最大の敵は三高の吉祥寺真紅郎。中々にハードよね」
「上ばかり見ていると足もと掬われない? 兵法家である千葉さんに言うべきことじゃないだろうけどね」
だが、色々と入ってくる事前情報で分かることもあるものだ。
最大の障害となるはずだった一色愛梨が女子ペアシールドに出たことは、ある意味僥倖であり、そして三高は、信じて送り出した一色翠子の敗戦で最大級の混乱をしている。
(せめてペア競技も、今日だったらばなぁ)
敵失に突け込むというのも、場合によりけりだが……自分たちにとって好材料が欲しいのも事実だったのだから。
「で、司波さんに対して何か逆転の材料は出せそうなの?」
「そんな険悪に睨まないでくれ。副チーフに全任せしたのは申し訳ないが」
「そんな地位にいたことを、いま私は初めて知ったわ」
「頼りにしているんだ。魔工科次席の
一高の人事に関する内示が不徹底であったことはともかくとして、シールダー・ファイトのベンチにようやくやってきた司波達也。
千秋の問いかけに対しては、苦笑しながら「万策なし」とだけしか言えない。
結局の所、最大級の知恵者であるはずの刹那を頼れないならば、とりあえず今はいけるところまでいかせるだけだ。
(当たりそうになってから対策というのも何ともしまらない話だが……それぐらい九島ヒカルはとんでもない)
ジンクスというほどではないが、昨年に続きどこかから出てくる「銀髪の異端者」が立ちはだかる事態に、何かの呪いなのではないかと勘ぐるものまで出る始末。
そして、同時に観客たちの下馬評を覆す大番狂わせを期待する空気が選手たちを貫くのであった。
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三高 十七夜 栞の2回戦。まさか翠子が負けるとは思っていなかった栞であったが、戦いは順調にこなしていく。
だが知らずに受けていたショックは大きく、若干ながらも精彩を欠く魔法の使用であり、現在の氷柱残存数では6−4でリードを奪うも……。
(落ち着いて、私の方にまだ分はある……集中よ)
などと振動数を伝播する「合流波」を放つも、相手もさるものなのか、それともこちらの戦術……去年のものを研究されているのか、中々に硬い。
四高の選手との戦いの最中―――別コートで戦っている刹那の2回戦の様子が見えてきた。
大型ディスプレイに映し出される彼は、快活に術を放ち、そして――――相手陣に不規則な動きをする紫色の光弾と黄色の光弾を放った。
本来ならば、それに惑わされる相手でもないが、視覚的な効果から完全に自分たち現代魔法師の裏を取ってくる遠坂刹那に、どうしても緊張をしてしまう。
―――瞬間、円状の粒子加速器か、周回軌道を描く人工衛星のように氷柱の外周で加速を続ける。
惑わされず、それでも相手側へと攻撃を届かせることが出来ない。光弾の加速が「壁」となって相手側への改変を許さなくなっていたのだ。
そして―――。
何かを唱えたのか、光弾は中心点に集合。その衝撃なのか、それともそういう効果なのか光の円輪が幾重にも発生して、その圧が全ての氷柱を砕いていた。
あえて言うならば
――――――それだけで栞は勇気をもらった気分になった。
相手もまた少しだけ刹那の試合の様子に見とれていたようだが、気付いて魔法の読み込み―――だが、もはや栞はCADを使わなかった。
それだけで速度に差が出るはずだったが。
「S-O-B-N-R」
余人が聞けば何かの暗号か、意味不明なアルファベットの読み上げにしか聞こえない。
だが、効果は抜群で音の
「横」に発生する渦巻きという現象。現代魔法における「ソニックバーナー」というものであり、対象の分子運動に音を介して震わせることで燃焼させるものだ。
擦り合う物質と物質。人間の目には見えない小さな「分子」が擦り合い、熱を発生させやがては溶け落ちる。
「!!!!」
「GR-UD-SU-ND!」
声と同時に、タップダンスをするようなステップ。狭い高台の上でやるのは難儀だろう。素人目ではそう見えるも。
苦もなく行えたのはフェンシングの競技選手ゆえか本人の運動神経ゆえか、どちらにせよ……それが触媒となりて、相手の陣の中心部にて黄金色の衝撃波が円状に波紋というには盛大な勢いで広がる。
幾重にも発生する大地のビートは、氷柱を不安定にしてやがて崩壊へと繋げる。
勝負あり―――。
今までの戦いぶりをリセットするかのような怒涛の魔法の使用で試合を終わらせた栞に、多大な声援が飛ぶのであった。
(そうだよ。私の起源は「訴糾」であり「遡求」……そうだったんだよね)
刹那君に助力を願おう―――。対戦校とはいえ、あちらの捨て駒も同然に九島ヒカルへの対策を願おう。恥も外聞もないと罵られたとしても、今は一矢を報いたいのだ。
そう決意しつつ、夜に使えるセクシーな下着は持ってきただろうかと、「交換条件」を勝手に選定している彼女も友人と同じ穴のムジナだったのだ。