魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第353話『魔法の宴 氷柱激闘編 閑話1』

 

 

 

 おおよそ2回戦分のスケジュールが、昼時間までに各種男女競技で終了した。

 無論、もつれた試合を多く演じた部門では、まだ1回戦すら終了していないというのもある。

 

 具体的には、女子ソロシールダーファイトと男子ソロアイスピラーズである。

 

(粘ったもんだな。雫の親戚は)

 

 刹那に挑戦状を叩きつけてきた四高 鳴瀬 晴海の戦いぶりは見ていてハラハラするものだが、ギリギリのところで勝ちを拾っている。

 

 決して油断出来る相手ではないが、それでも何かの「隠し芸」ぐらいはあるのではないかと思う……。

 

 直観だが、何かの「爪」を隠している気がする。

 

「黒薔薇の海鳴騎士 ナルーセル……そのチカラを見せてもらうか」

 

「イヤ、そのネームを採用しちゃうノ?」

 

「本人がそう名乗ったんだもの! 圧倒的なまでの厨二病パワーに俺もどう返したものか迷ったぞ!!」

 

 あの衣装そのものは亜夜子ちゃんの趣味だろうけど、などと思いながらもその口上には色々と思うところはある。

 

「雫に恋慕していたのかね?」

 

「カモしれないワ……コレは女のカンだけどネ」

 

「そりゃ信じるに足るものだな」

 

 リーナとの会話で出した結論としては、二回戦までの相手とは違うということだ。

 

「だが、どうする? さっきから「訪問予定」が引っ切り無しだぞ」

「昼休みぐらい素直にメシ食っておけばいいのに」

 

 今回テントにて対外折衝というか他校からのアレコレを対応してくれている相津でもコレ以上は断りきれないところまで来ているようだ。

 

「すまない。本当ならば選手である遠坂君をフォローする立場で、こういうのに断りを入れておくべきなのに」

 

「いいさ。返信内容は「シオン・エルトナム、桜小路紅葉の捨て駒扱いでいいならば、対応策ぐらいは出す」と、それで出せ」

 

「強烈で高圧的な言葉……確かにこのまま順当に行けば桜小路さんは四回戦で、シオンは決勝で当たる可能性が高いからね」

 

 まずは目先の三回戦を制しろと言いたいが、転ばぬ先の杖という保険は必要で、そして彼らは(マホウ)を欲しているのだ。

 

 対戦校とはいえ、そういう恥も外聞もなく、助言などを求めなければならない気持ちは少しだけ分かるのであった。

 

「前々からわかっていたことだが、ヒカルちゃんの「総力」はとんでもないからな」

 

「アタシもエネルギー量、熱量……なんとでも言えるがそういうものでは群を抜くと思っていたが、コイツは別格だな……」

 

 アルトリア・ペンドラゴンとの霊基統合によって竜の炉心を手に入れたモードレッドですら唸るほどに別格である。

 

 だが……決して無敵の存在というわけではあるまい。そもそも、個人が剛力であれば勝てるほど勝負のアヤは単純ではない。

 

(エルメロイ教室総出で、合衆国で「神堕し」をしたという世界線を知っているからな)

 

 ならばいくらでも手はあるはずだが……結局ピラーズは個人戦だから、最終的には個人の力量頼みとなってしまうのだ。

 

『Gugaapii〜〜〜』

 

 などと考えていた時に、基本はミニ豚のような形態を取っている刹那の契約魔獣グガランナが、肩に乗っかってきたのだ。

 

 何か要求することでもあるのか、ポンポンと足踏みをしてきているので気付かされる。

 

「あっ、もしかして爪切りか?」

『Gugaga!!』

 

 魔獣とはいえ、その生態は基本的に既存の生物と変わらない。動物科(キメラ)の講義で魔獣の世話という項目で、そんなことをやったりした。

 

 もっとも最初は馬、牛、豚など普通に人間社会でも色々と利用されている動物のものからだったのだが。

 

(まぁ触媒としても使いやすいか……)

 

 もしかしたら、グガはそのことを察して……

 

(なわけないか)

 

 グガは、アルビオンにて拾った捨て犬猫ならぬ捨て牛(?)であった。決してあの強力な神獣(天の牡牛グガランナ)ではないが……。

 

(まぁ利用させてもらおう)

 

 などと思いながら、リーナと一緒に爪切りをしてあげるのであった……ちなみにリーナはブッキーなのでグガのお腹を持っていてもらうことにしたのであった。

 

 そして、相津の出した返信に最初に食いついてきたのは―――……。

 

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「成程、接近戦とはいえそこまで出来たのかヒカルちゃんは」

 

 雫とほのかから東京オフショアタワーの一件での九島ヒカルの大立ち回りを聞かされて、達也としては予想通りすぎて、ソレ以上は何も言えないほどだ。

 

 刹那からデミサーヴァントであるとは聞かされていた。あのオフショアタワーのエレベーターなどを完全稼働させていたエネルギーの総量などを考えると、この結果も当然であった。

 

 戦略級魔法を発動できる人間は、戦略級魔法が発生させるエネルギー……熱量を用立てているわけではない。

 

 だが、実際にそれだけのエネルギーを持っている相手は、即ち戦略級魔法を放てることよりも脅威だ。

 

 人間兵器として魔法師の登るべき山をそれに定めていたのは、『社会的な見地』からは間違いではないのかもしれないが、『超人』としての方向性では少々見当違いだったのではないかと最近は思ったりする達也であった。

 

「達也さん。スケッチできました」

「ありがとう美月」

 

 昨年に続き、通常の魔法師では詳細に見えないものをスケッチしてくれた美月とケントが解析した九島ヒカルの防御陣にある魔力線とでもいうべきものが完全に一致する。

 

 そんなスケッチされた九島ヒカルのガーディアンドラゴン……鋭角的な、まるで近未来の戦闘機を思わせる形状のそれを見た深雪がため息をつく。

 

「別に楽な戦いだけをこなしたいわけではありませんけど……もうちょっと安全に戦えれば良かったんですけど」

 

「こればかりはしょうがないだろ。いまさら九島ヒカルの身元の不明さを追求したとしても、逆風がこちらに吹くだけだ。そしてそんな盤外戦術で勝ったとして、深雪―――お前は喜べるのか?」

 

「うぐっ……た、確かにその通りです……弱音を吐きすぎました」

 

 だが、このままいけば準々決勝か準決あたりで深雪と九島ヒカルはぶち当たる。当然対策なしでは負けが決まってしまう。

 

 現在、ピラーズ女子ソロで残っているのは深雪と壬生先輩、男子では黒子乃と入野先輩である。

 

「刹那は、早期の段階から上がってくるとは理解していたからともかくとして、こっちが問題だよ」

 

 男子に関しては、もはや天佑あることを祈るしか無いので、何かあればやるぐらいだった……問題はヘタすれば、全滅もあり得る女子ソロである。

 

 そんな達也の問題提起に対してスミス・ケントは少しだけ物申すことがあったのだが―――。

 

「次戦で北山先輩の親戚という鳴瀬先輩がうちやぶっ『無理だよ。晴海従兄さんじゃ刹那には勝てない』、そ、そうですか……失礼しました」

 

 結果としては自分をフッた男を擁護するような形で、ケントの他力本願なものを切り捨てた雫に誰もが何とも言えない表情をする。テント内が微妙な空気になったので、それを一掃するように―――。

 

「スミス、チーム・エルメロイに対する訪問要請の方はどうなっている?」

 

 服部会頭が、そんなことを言ってきた。

 

「先程、結構居丈高なものが出てきただけで―――あっ!! もう受付が締め切られています!!」

 

 それは既知であったのだが、協力者を絞った辺りチーム・エルメロイも、ここに来て戦略を練ってきたようだ。いや、元からそのつもりだったのかもしれないが。

 

「先着一名様ではないが、どうやら協力者を絞ってきたようだな……」

「去年のイリヤ先輩の時は3高とのコラボがありましたが……あの時も中心は刹那君でしたね……」

 

 会頭と会長の苦衷を覚えるような言葉……。

 

「まだトーナメントは始まったばかり……下馬評通りではない混沌とする『イマ』を楽しみましょうや」

「司波……」

 

 

「―――などと『アイツ』がいれば言っているはずですよ。事態の一つ一つに右往左往、一喜一憂せずに進んでいきましょう」

 

 達也の言葉でそりゃそうだな。と何とか全員が晴れやかになる。

 そうしたタイミングで少しだけの朗報が入る。

 九校戦大会運営委員会からの通達。全ての九校戦関係者に送られたもので、どうやら今日の競技日程は、各種競技でベスト8が出揃った時点で終了ないし、午後四時時点での終了の通達であった。

 

 その理由として、アイスピラーズで必須の製氷機械とシールダーファイトの消耗と、日照方向による有利不利云々だの『もっともらしい言い訳』が述べられていたが……。

 

(今回の九校戦を仕切っているのは、俗に言えば『反・十師族』派閥とでもいうべき国防軍のタカ派の面子だ。もちろん、それだけがコントロールしているわけじゃないだろうが……)

 

 悪意的な見立てをしつつ、達也は更に推測をすすめる。

 

(九島ヒカルという名跡(みょうせき)だけは『九島』であるデミサーヴァントの独走を許すのは如何ともしがたく、それでもそれを止める手立ては、国防軍が一高から追い出した「はぐれもの」のカレイドライナーにしかないということが、状況の皮肉になっているわけか)

 

 結論としては、九島ヒカルの独走を許さないためにも、競技進行を止めたということだろう……。

 

「九島ヒカルの分析は俺とケントでやっておく。皆は他の自分たちと当たる連中など、シールダーファイトの分析をしてくれ」

 

「一高総出での総力戦ですね達也さん!!」

 

「別にヒカルちゃんは腕が伸びるボクサーじゃないけどな」

 

 ほのかの言葉にそう答えながら、正直何も見つからないんじゃないかと絶望感は覚えるのであった。

 

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「人間にとって銃が即死武器であることと変わらないのですよ。どんなに弾道を予測しても、それを躱せるだけの運動性能を持ち合わせていない以上、意味をなさない―――如何に九島ヒカルのデータを集め対策を練ろうとも、単体で彼女に立ち向かうこと自体が敗因になるのです」

 

「つまりヒカルちゃんに勝つことは不可能なの?」

 

「難しいでしょうね。いえVery Hardなクエストですよ。これは竜殺しの『犬狼鬼』(コボルト)を探し出せと言っているようなものですから」

 

 シオン(withメガネ)の出した結論に誰もが沈んだ顔をしてしまう。

 

「―――ですが、個人の能力値だけで勝敗が決まるならば、私や刹那、ダ・ヴィンチちゃんのような技術屋はいらないわけですよ」

 

「ならば何か手立てはあるので?」

 

「あると言えばありますが……まぁコレは、完全に裏技ですからね。

 1つにはやはり英霊や神霊、はたまた上位存在の力を宿すということです。

 2つ目は、それら上位存在を倒せるだけの武具を有すること―――」

 

 どれもこれも通常の術者では不可能なものばかり、だが愛梨も栞も知っている。

 

 不可能を可能に、無から有を、常識(セオリー)非常識(ミラクル)で超えていくスゴイ男のことを……。

 

「あとは、シオリ―――アナタの魔眼が完全に開眼していれば……いえ、無理ですね。結局、ピン留めした『点』に『移行』させたとしても、それは所詮嵐で吹き飛んだ家屋の中で『トイレ』だけが残るようなものです」

 

「シオンさんは、私の魔眼を理解しているの?」

 

 少しだけ胡散臭気な栞の言葉に、眼鏡を掛け直しながらシオンは答える。

 

「ええ、どうやらアナタは私と同じようなタイプのようだ。ならば分かるはず……私達のような人間は純粋な『力勝負』に持ち込まれたならば、面での戦いは分が悪い、と」

 

 その言葉を最後に、チーム・エルメロイの秘密の部屋にやってきたのは刹那である。

 刹那の後ろにはアンジェリーナが居て、まぁそれはともかくとして……。

 

 刹那の作戦が伝えられる……。

 

「俺に出来るのはヒカルちゃんのドラゴンの『足元』を揺らすことだ。栞の合成波は上から仕掛けるものだから少々違うが……ともあれ、俺に出来るのは『コレ』と『コレ』を用立てることだけ」

 

「ありがとう刹那君……けど、これって―――……結構際どいね……えっち……」

 

 栞の赤くなりながらの言葉に誤解を解いておかなければならないので説明をしておく。栞のそんな言葉の原因は刹那の持ってきたコスチュームにこそあった。

 

「いや俺が作ったもんじゃない。誤解を招かずに言わせてもらうならば七高の羽瀬 真名教師が……」

 

 そうしてあの妙な教師……自分の世界の人物の『そっくりさん』というには、あまりにも似すぎている女教師が……。

 

『あの『魔眼』の少女に着せなさい。あの手のドラゴンはあまりにもインチキがすぎる。困難な戦いに挑む勇士への助力を私は惜しみませんから』

 

 と言って魔装衣(ドレス)を渡してきたのだと伝えると―――。

 

「使って大丈夫なのかな? まぁ呪いのアイテムってわけじゃなさそうだけど」

 

 フェンシングスーツよりも際どい衣装は流石に、栞も少しだけ気恥ずかしいかもしれない。

 

「不安ならば止めといたほうが―――」

「ううん。刹那君が持ってきたならば、それは大丈夫ってことだから信じるよ」

 

 藤紫色の華が綻んだような笑顔を向けられて、刹那は自分の無力さを痛感する。

 

 無償の信頼を寄せられて、刹那としてはどうしようもなくなる。これ程までに、栞は信じてくれているというのに、蟷螂の斧にしかなりえないような策と武器しか出せないのだ。

 

「時間が少ない。いますぐ準備に取り掛かろう」

 

「セツナとシオンはまだ試合があるんだから、衣装に関してはワタシとアイリでやっておくワ」

 

「頼む。『剣』とCADの連動に関してはこちらでやっておく」

 

 だがそれでも、一縷の勝利の確率を上げるためにも刹那は動き出すのだ。

 結局の所……刹那はどうしても大甘なのだった。

 そして混乱や混迷を伴いながらも、午後の部とも言うべき各種競技の三回戦は始まる……。

 

 


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