魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
あるものは昼食を取ったり、あるものは食事と同時に次戦の相手の分析をしたり、更にあるものは恋人といちゃついたり、実に様々なのだった。
そして、それらの中でも特異なものは同時にそれをやったりするのであった。
つまりは『リア充爆発しろ』ということである。
「成程、他校の美少女侍らせた昼時いい気分そのままで試合に臨むということか」
「なんて悪意的な見方、あながち間違いではないとだけ言っておこう」
「十七夜さんは、お前が時計塔時代に懇意にしていた残念年上
「なんて人を疑った見方、声もそうだけど……共通点は多いから気にかけておきたい女の子ではあるよ。その為ならば夜をともにするのも吝かじゃない」
本人の気持ち次第だがと付け加えると、女たらしめと目線だけで言葉を飛ばしてくる達也に対して、もはや諦めた気分でいる刹那なのだった。
「で、首尾はどうなんだ?」
「やるだけはやったさ。ただ……せめてもっと後の試合であたってくれれば良かったのに、と思うさ」
どちらにせよ強い所とはどこかで当たる。当たり前の話であるが、それでももう少し先であれば、せめて四回戦で―――。
(言っても仕方ないよな)
確かに自分との付き合いが何かとあったとはいえ、栞は三高の選手。節度は弁えねばならない。
「で―――お前は太助くんのサポーターということか」
「お前のところの坂上と戦うからな。そういうことだ」
侮られていた方が良かったのだが、どうやら達也はそういう気持ちではないようだ。
そうしていると14時38分を時計が刻んだ瞬間―――刹那の試合――四高『鳴瀬 晴海』との戦いの為のフィールドが空く。
栞の試合はまだとはいえ、出来ることならば見守りたいわけで……。
(今は試合に集中しなければな)
「はーい。検査は完了しているわよ」
などと気合を入れた瞬間、『あっ、ゲンが悪い』と思える女性が、検査委員の席にいた。ほとんどの人間はとんでもない美人に目を奪われただろうが、残念ながら刹那はそうではないのだ。
「ゲンが悪い女がいる―――って顔をしているわね」
「んなこたないですよー。美人のお姉さんが検査委員でセツナ・カンゲキ! (棒読み)」
「なんて心にもない
響子さんは、刹那が提出した『短弓』に関して少々物申したい気分のようだ。
だが、これは昨年度のシューティングでも使ったものの簡易版である。流石に刹那も去年とは違って弁えている。
しかし―――。
「黒薔薇の海鳴騎士『サー・ナルーセル』に対抗するためにも、コイツは必要なんですよ」
そこで何故『剣』ではないのかと思う響子であったが、本題を言っておく。
「アナタのサーヴァント達が捕らえたアサシンのマスターなんだけど、ちょっとデリケートな出自でね。どうしようか困っているのよ」
「アサシンとの繋がりを断てばよろしい?」
「うーん。それもちょっとねー……とりあえず今日の夜に基地施設にやってきてくれない? 迎えは寄越すから」
悩ましげというよりも心底悩んでいるというポーズでいる藤林響子に、了解しておく。
特に拘ることでもなく、同時にいつまでも監視役としてモルガン達を待機させておくのもアレだと思えたからだ。
そんな風に、今から戦う相手に失礼ながら他ごとを考えてしまうのであった。
男子本戦アイスピラーズ・ブレイク ソロ第三回戦
四高 鳴瀬晴海 対 チーム・エルメロイ 遠坂刹那の戦いが始まる。
『ようやく! キミとの戦いが始まることを僕は嬉しく思いながらも、その上で少しの怒りもある!! 黒薔薇の海鳴騎士は親兄弟の絆の義から、キミを倒す!!』
戦いの前の言論戦……というよりもただの言い合いが行われる。返すか、返さないかは相手次第。
だが刹那は黙っていられる人間ではないのだ。
『親兄弟の絆の義ねぇ……正直に言えよ。アンタは俺がフッた女子が好きだったから、こんな風なんだろ?』
『―――何を根拠に』
『一つに、如何に親戚と言えども、いとこの恋愛模様なんかで、そこまでボルテージを上げられる動機には思えない。そして二つ目だが……黒薔薇を名乗る割には、随分と緑色のアクセントが多い衣装だわな。昨年の従妹殿の振り袖の色だな』
『なっ!?』
今更気づいたかのようになる鳴瀬だが―――。
『ならば、白くなろうじゃないか―――』
言葉で黒い騎士衣装が『白く染め上げられていく』。そして緑色のアクセントは、『黒く変色していく』。黒騎士という懈怠な印象が変わるぐらいに強烈な変身であった。
「ああっ、鳴瀬先輩ならぬ騎士ナルーセルが遂に白き聖騎士へと変貌してしまった」
「もはや魔宝使いに一片の勝機もなくなったと同時に世界は終末へと向かうのね……」
これは客席の方から明朗に聞こえてきた黒羽の姉弟の言葉である。
『ただ単に白くなっただけじゃないか!!!』
『さぁ! もはや言葉ではなく魔法で語り合うときだ!! 魔宝使い!!!』
ツッコむように黒羽に言った後には、シグナルランプの点灯が始まる。見えてきたことはあの衣装はただの仕掛けではなく霊衣の類。
まぁ四高といえばリズリーリエの母校。昨年度の技術を継承していてもおかしくない。あるいはOGとして未だに影響力を発揮していてもおかしくない。
四葉の間諜が公然と入ってきたことに、学内で未だに繋がっている後輩がいるのかもしれない。
どちらにせよ―――。向こう側の高台にいる相手は侮れない。
ランプがブルーを灯した瞬間、CADが、魔術刻印が、術を発動させる。
鳴瀬 晴海が発動させたのは共振破壊。雫もこの競技に使うこと多い魔法の一つであり、鳴瀬という魔法家が得手としているものの一つである。
刹那の氷柱全てに仕掛けようとした固有振動数を一致させた上での破壊は、発動を『拒絶』された。
「ッ!!!」
「出自がある程度の情報を晒す。不幸なことだよ」
嘲るようにしながらも『予測通り』であることに一本取った気分でいながら、虚空に『文字』を刻む。
疑似宝石の魔力が、破壊の波を打ち消しながらでの攻撃。
刻んだルーン文字が、その効果を鳴瀬の陣の氷柱に転写。
鳴瀬が慌てて情報強化をしようとした瞬間。
「―――
大玉の魔力弾が20発、鳴瀬からして右列の氷柱2本を砕いた。
「ッ!!!」
「まだまだっ!!」
意識をそちらに持っていかれた瞬間、顕現したルーン文字が急速に熱を発して氷柱を一本溶かし尽くした。
「―――ッ!!」
「この程度で怯まれては困るなナルーセル! 俺にはまだ『七色の魔眼』があるんだよ―――陣の氷柱全てに呪力を及ぼしてやろうぞ!!」
言葉で『橙』の魔眼を発動させる刹那。強制を司り惑乱を引き起こすそれが起こす現象は―――。
(熱風―――いや、大気が強烈に燃え上がっているのか?)
選手控室でありCADサポーターとしてのベンチでそれを見ていた達也が気づく。
彼が己の『強制』によって支配したのは、正しく『空気』そのもの。
無生物たるものを一時的に『擬人化』する定義によって、『空気』を
おまけに、現在は夏真っ盛り。富士山を臨むこの場所は盆地ゆえに熱が籠もりやすいのだ。
(これで終わりか? 騎士ナルーセル)
四高にて従姉弟たちが鍛えたという魔法師でも、刹那には何も及ばないのか? という考えでいたところに―――鳥のような嘶きが響く。
刹那が鏑矢でも放ったのかと思うような唐突なものだったが……よく見れば違った。
「鳥?」
四高 鳴瀬の陣に銀細工で出来た鳥が氷柱を止り木にして止まっていた。その数は二十羽以上も存在……。
(アインツベルンの錬金術……! まぁ予想通りだったがな)
つまり―――。
鳥たち……エンゲルリートであり、シュトルヒリッターによるビーム攻撃であった。
そのビームには刹那の魔眼の影響を少しだけ減じる効果はあったらしく、魔眼の照射は終わる。
「キミ相手に通常通りの戦いじゃ勝てないって分かっていたからね! ここまで隠し通した切り札を切らせてもらったよ!!!」
氷柱の上の鳥は『固定砲台』らしく、刹那の氷柱に対して光線がヒットしていく。
昨年……深雪と雫の戦いにて、雫に達也が授けた策のごとく光線(厳密に言えば音波ではある)がヒットしていき―――そして、ここまでパーフェクトで勝ってきた刹那の城塞に瑕疵が入った。
連発して放たれた砲撃が前面の氷柱三本を砕いた。
その様子に客席にいた四高生たちは、ガッツポーズを見せる。その一方でざわつきも見える。
刹那の対応は―――。
短弓を手に止り木としている氷柱を砕く魔弾を放っただけだ。
鋭い槍か銛のような魔弾が氷柱を砕くと、砕かれた氷柱を止まり木としていた鳥は飛び立ち、近くの氷柱を止り木とする。
「―――」
「―――」
にらみ合う両者。そして一つの氷柱に鳥が集中したことで、攻撃の圧が強まる。
刹那のやったことは拡散されていた『砲』の数を纏めた程度にしかなりえていないように見える。
ここからどうする気なのか―――達也が思った時には、疑似宝石たちは一斉に違う陣形を取る。
それは鳴瀬が操る鳥よりも何故か生物的なものを思わせる動きからのフォーメーション。
「Brennender Himmel」
そして言の葉を紡ぐは刹那の唇であった。
「Ich kenne den Kreis, Die Blumen beschützen mich, Der Wächter des alten Schlosses ist unerschütterlich」
滑らかに解き放たれる力強く、素早い詠唱。
現代魔法師が無用の長物として捨てたはずの『音韻』が、世界を変革していく。
放たれる緋色の光線に向かって、刹那はその手を掲げ、神秘を解き放つ。
「Eine Blume blüht in meinen Händen, Aias der Telamonier!」
六節の呪文が創造したものに、誰もが息を呑んだ。
七色の花弁と中央にある『紫色の花托』を模した巨大な盾―――呪文のワードと刹那に対する知識から、トロイア戦争におけるヘクトールの投擲を防いだアイアスの盾を
(お前ならば本物の贋作を用立てられただろうに)
チカラの消費を惜しんだのか? そう言いたくなるほどに分からぬ刹那の行動。氷柱の範囲全てを覆うように展開された盾―――それに対して……鳴瀬の行動は砲撃の続行であった。
(―――?)
達也としてはその行動に『違和感』を覚えた。ここで取るべき戦術行動は本当ならば―――。
「そうか。つまり……『悪手』であったんだな」
刹那はかなり悪どい―――とまでは言わんが、打ち合いを希望していたであろう鳴瀬を『フッた形』であると気付けた。
「達也さん。晴海
黒子乃のサポートを終えて一高テントに戻ってきた達也は、説明役及び観客としてここにいたわけだが、遂に雫に説明を求められてしまった。
「最良かどうかは分からないが、それでも……終わりは近いはずだ」
「え?」
「野球でアイツの
「鳴瀬選手の氷柱が!!!」
変化は遂に訪れた。ケントの言葉でディスプレイに注目すると、鳴瀬の方の氷柱が遂に2本まで減っていた。同時にその2本の氷柱に鳥が密集する。そして―――氷柱の融解は早くなるのだ。
「どういうことでしょうか?」
質問をしたのは雫ではなく泉美である。だが特に拘らず答える。
「去年のリズOGの攻撃と違うのは、やはり未熟ということだな。達者に使えない攻撃では、切り札といえ、やはり刹那には悪手でしかないんだ」
「未熟……。確かに羽ばたいて攻撃しているわけではないですね。リズOGならば、刹那先輩の盾を飛び越えるなり迂回するなりしますか」
「ああ、それも一つだが、恐らくあの
その言葉でよく見ると、鳴瀬が扱いきれなくなったのか、はたまた次の氷柱まで飛べなかった鳥の構成されていた針金はフィールド上に落ちて、まっ黒焦げになってへばりついていた。
「何より、鳴瀬さんにとってこの術式は『相性』が悪かったんだろ。現代魔法師としての資質でも、魔術的な観点からも」
雫が精緻で細かな術式よりも力任せの構築を好み得意とする辺り、同じく鳴瀬家の魔法師はテクニカルよりもパワフルな魔法使用が得意なのだろう。
更に言えば魔術的な観点で言えば、鳴瀬家は『鳴動』『振動』といった風に物質を鳴り響かせる性質を持つ。
コレはどちらかといえば恐らく『地』に由来するチカラ。
空気振動であれば『風』とも取れるが、雫と晴海―――両者とも『大地を震わせる』ことを得意手とする以上、大地に翼を落とせば生きられない『鳥』というものとは相性が悪すぎた。
「―――やっぱり刹那が負けるところは想像できないなぁ……」
「「「…………」」」
その惚けるように放たれた雫の言葉に物申したい面子は多い。そして画面上では最後の戦いが始まろうとしていた。
もはや最後の一本となった氷柱を冷媒にすることは、マズイと思ったのか、鳴瀬晴海の乾坤一擲の攻撃が開始されようとしている。
「まだだ!! まだ終わらせるもんかぁ!!!」
難儀するはずのシュトルヒリッターを『飛翔』させてのビーム攻撃。だがリズリーリエほど排熱が上手くない、というか出来ないのだろう鳴瀬の鳥はどんどん堕ちていき、そしてこの展開を前に刹那は―――盾の魔法陣の中心を狙い撃つように弓を構えた。
弓弦から解き放たれた矢は中心を射抜き、そして直後には巨大なエイドス改変としか認識できない圧が、鳴瀬の陣全てを揺らすほどの剛撃が発生。
それは天から振り下ろされる牛蹄の一撃。
鳴瀬家のお株を奪う形で大鳴動を発生させた。
それが齎した効果は、焦げた針金を微塵以下の分子にまで返して、飛翔していた鳥の全てが消滅するほどの強制力。
そして―――最後まで残っていた氷柱は個体から気体へと変わるまもなく散り消えた。
『WINNER! チーム・エルメロイ 遠坂刹那!!』
結果的には、下馬評通りの結果となったのだが……。
「グガランナ・ストライクの簡易版か……それにしてもこの対戦での刹那は少しばかり冗長だったな」
速攻で決めることも出来たはず。レーザー攻撃とて防ごうと思えばいくらでも疑似宝石によるカウンターを食らわせたはず。
チカラの消費を惜しんだというよりも……。
「―――ヒカルちゃんと戦う乙女の『手本』になったのかな?」
「えっ? それじゃ三高の十七夜センパイの為に、こういう戦いをしたんですか!?」
目ざとくか耳ざとくか、達也の呟きに最大級の驚きで答える泉美。彼女としてもなんか不満なのだろう……。
「あくまで可能性の話だがな。栞さんの魔法は先の鳴瀬家とは違い、上方からの『圧』であり『波』が主だからな。九島ヒカルとの戦いに際して何かを授けたんだろう」
それはまだ視えていないが、それでもそういった裏事情を何となく察してしまう戦い方だった。
そんなことを達也が明言したことで、2人ほどが不機嫌になったりしたのは、予想外ではないが……少しだけ後悔してしまうのであった。