魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
最後の確認。女子の控え室に向かう前の栞にそれを行った後には、もはや刹那の仕事はなくなる。
「色々とありがとうね刹那くん」
「愛梨からは心配されっぱなしだったがキミには意図が伝わったようで何よりだよ」
愛梨にとって自分は最強で無敵の男だと思われているようだ。魔獣嚇との戦いでやられたことは遠い昔の話のようだ。
「うん……窮屈な戦いをさせた分は―――あとでカラダで支払うよ」
別に窮屈だったわけではない。とはいえ後半の言葉は耳に残り。
「んじゃ疲れていなければ、夕餉の給仕係よろしく」
どういう意味なのか少しだけ怖くなってしまったので、機先を制するというわけではないが、内容を確定させることで悪い予感を回避するのだった。
「ええ、メイド服でもわたつみちゃん達みたいなワルキューレ服でも着ちゃうよ―――この衣装でもいいしね」
薄く笑みを浮かべながらそんなことをいたずらっぽく言う栞。そして戦いの鐘が鳴り響くように女子ソロ三回戦 栞とヒカルの試合のためのステージが空いた。
「じゃあがんばれよ栞。ヒカルは強いが―――決して無敵の存在じゃないんだからさ」
「―――うん。行ってくるよ」
これ以上は女子の控室に赴く時間がかかりすぎる。
それゆえだが……何度か振り返りつつもこちらを見てくる栞を最後まで見送ってから―――。
「羽瀬先生、ご協力感謝します」
「礼には及びません。彼女は戦う意志を示した。ならばそれは勇士の魂であるのですから、それを手助けすることは教師として当然ですよ」
その言葉に素直に頷けないのはどうしてなのだろうか? このヒトは―――。
「ですが、アナタは少々―――女性を周りに侍らせすぎだ! いいですか刹那! そういうことをしていると、クー・フーリンみたいにろくでも無いことになるんですからね!」
勢いよく自分の生活態度を修正したいと言わんばかりに迫る羽瀬先生にどうしても動揺してしまう。
「わ、分かってますよ! けどだからと頼りにしてきた相手を無碍に追い返せないし!!」
「安心なさい。その辺りは今後、ロード・エルメロイII世が担ってくれるでしょう。アナタの役目は、ちゃんと想い合う女性と結ばれることですよ」
勢いよく小言を言われて刹那としても困ってしまったが、その後の優しげな……まるで昔の―――。
「では、ミス・シオリの観戦に行きましょう! 観客席に行きますよ!!」
ヒトの首根っこ(襟)を掴んでどこかへと急かすのはどうかと思うほどに、
「俺に対して女性関係に関する小言を言ったアンタと観戦したら本末転倒だろうが!!」
「は―――女教師はノーカウントです!!」
どんな理屈だよ。とか想いつつも、少しだけその女教師の
(バゼットにしか見えない……)
魔眼の使いすぎで自分の
だが、バゼットは亡くなった。自分にとっての『母』は2人とも失われたのだ……取り戻せないものだからこその『尊さ』があったのだ。
何かの影響で座の『神霊』の憑依先になったとしても、それは……。
(母であって母でないはずだ……)
そんなイジケた考えを持ちながらも羽瀬先生の拘束から逃れて共に観客席へと向かうのだった。
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「セツナは何かやったみたいだけど、僕に通じるだけの武装を用立てられたのかな?」
「油断はしない方がいいよヒカル。何せ、刹那は全ての相手に対するジョーカーだから」
「分かっているさミノル―――だから、楽しみにさせてもらうのさ」
時間はそろそろ今日の試合刻限たる午後四時に迫ろうかとなっている。シールダーファイトも男女、ともにベスト8が出揃っている。
ここがある意味、正念場である。
(小兵の戦術・戦略・あがき―――そんなものにやられちゃうのは傲慢な『カミサマ』ぐらいだけど、あいにく僕は違うよ)
そんな決意と守るべきものたちの為にも……九島ヒカルという名を『着名』された伝説の竜は、戦場へと向かうのだった。
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「なんで三高生が連続で当たっちゃう形になったのかなぁ……」
「運営委員会のミスだろ。どう考えたって」
喧々囂々の言い合い。確かに2高の九島ヒカルという十師族の選手と三高の生徒が連続で当たることになるなんて、少々三高としても意地悪なくじ運にも思えたのだ。
だが、それでも試合をこなしていけば九島ヒカルに勝てる芽があるか? 当然、上で当たれば加点範囲に入れるかもしれない。
しかし、その考えは弱気にすぎている。三高が目指すべきは総合優勝ただ一つなのだから。
「だが頼るべきなのが、遠坂っていうのは情けないよね」
「言ってくれるなよ。
「何の話だかわかりませんねー」
新境地を開拓していく
「無理かもしれんな」
「七宝君曰く、ヒカルちゃんはアヴェンジャー・平景清ともやりあっていたそうだからね」
デミサーヴァントあるいは英霊憑依能力者、その類であるかもしれないのだ。
っていうかバッチリそうなのだろうが……。
ともあれ賽は投げられた。
試合時間10分前に高台に現れた2人の美少女の姿に歓声が沸き起こる。
片方は少女革命で世界の果てを目指す―――ぶっちゃけ天上ウ○ナのコスプレであった。
片方は三高にとっては若干見慣れているともいえる系統の衣装だ。ケルトの勇士たちが着る類のものでスカサハ先生及び、ソレ系統の衣装を着させられている前田先生(若、熟)でとっくにご存知なのだが……。
(刹那の趣味か?)
(相変わらずマニアックな男だ)
(((し、栞
色々な感想をもたらす格好をしている同校生に対して言葉は集中するのだった。
「翠子、いつまでも落ち込むなよ。十七夜が九島ヒカルを倒す。それを願おうぜ」
「う、うん……分かってるよ将輝……」
どうにも不調気味というよりも落胆は深すぎる彼女に掛けるべき言葉が浅い。だが、それでもこのままではマズイのだから一条将輝という男は言葉を尽くすのだった。
かたや一高側では……。
「十七夜さんに刹那は手を尽くした。そこに九島ヒカルの攻略のヒントがあるかもしれない」
「何か一点でもいいんです! 穴を見つけてください!!」
副会長と会長の言葉に全員が目を凝らす。ひと仕事終えてベスト8を決めてきたエリカもまた眼を凝らす。疲れているだろうに、申し訳ない気分でいながらも構わずに戦いは始まる!
「―――」
魔法の発動で先手を取ったのは、栞の方であった。十八番たる破壊の合成波が上方より放たれるのだが……。
「ちっちゃいよ」
魔法の効果そのものを無くす過干渉すぎる『竜』による攻撃。通常の世界には響かない遠吠えが魔法式を砕いた。特殊な眼や『聴覚』を持たない人間でも何かを気付けるだけの圧が栞の張った全範囲に対する合成波を砕いた。
(流石に、これじゃ通用しないか。ならば……)
こちらも『変化』をつけるしか無い。
腰から抜き払うは一本の細剣……豪奢さなど無いが、その剣を抜き放った所作に誰もが眼を奪われた。
抜く手が見えなかった。それぐらいに鮮やかなものだったが……。今のこの場においてはあまり意味を成さない。
だが、それでも抜き放たれた剣は『縫い針』を拡大したような少しだけ奇態で、それでも強烈な魔力を感じさせるものだ。
「―――――ふぅん。それで僕を倒そうっていうのかい?」
持ってきたのが霊器……概念武装の類であったとしても、ヒカルが恐れる必要はない。
何故ならば―――。
(既に竜鱗による
竜という特級の幻想種が居座るだけで、その『巣』が霊場・真エーテルを孕んだ場所になるのだ。
巣作りドラゴンは恐ろしいのだ。
(僕が巣作りした場所を脅かせるものか)
だが、その予想はたやすく覆される。パーシヴァルの『聖槍』を模した光の武器で、いざ攻撃を、と想った時に……。
「グリシーヌ!」
言葉と同時に振るわれるレイピア。突きの動きで振るわれたそれから―――。
「
藤色の花弁が大量に撒かれていく。その数を数えることなど出来ないほどに……。皆の視界を奪うものだ。
「ぜぇあぃ!」
美少女が上げるにしては勢いありすぎる声で槍は振るわれ、栞側の氷柱が2つほど横薙ぎに裂かれ砕かれる。
だが同時に上方から掛けられた圧が、ヒカルの氷柱一本を砕いた。
(今だ!!)
望んだタイミング。言われた通りならば、ここで発動するしか無い。触媒たる花弁は振りまかれた。ここでしか出せない。
「魔境にして異境たる世界の写し身よ! ここに只一度、その姿を現せ!!
細剣を掲げながら唱えた呪文の効果は、間違いなく発揮されており、幾重ものルーンが回転と明滅を繰り返して栞の陣を庇護下に置いた。
(なんて術だよ。けどそうか。アレはただの剣じゃない。魔神フォモール族と戦ったダーナ神族が妖精となっても手元に持っていた光の剣のレプリカ)
後世にてクラウ・ソラスという名で知られているダーナ神族の持つ四種の神器の一つとも言われている剣だろう。
だが、魔神との決戦で使われていたのはフラガラック、ブリューナク、魔弾タスラムと称されるものが主だ。
ヌァザの剣の一つだろうとされているクラウ・ソラスが実は英雄フェルグスの振るったカラドボルグとも捉えられるので真相は分からない。
(だが仮にヌァザの剣がクラウ・ソラスであるならば、その剣は彼らが神トゥアハ・デ・ダナーンから妖精ダーナ・オシーへと
その剣は『一寸法師』のようなものであったはず、そしてダーナ・オシーは、エリンに現れた新たな英雄たちの為に手を貸していく。即ち、その剣が人の手に渡った時に……。
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「あのクラウ・ソラスの術式はお前が打ち付けたものか?」
「ええ、どうしても逆転の一手が欲しいと言っていたものでね。栞の魔術特性とか魔眼とかの相性を考えてそうしたんですよ」
「ミス・シオリの魔術はどちらかと言えば、『アトラス』向きではあるが……そうか。そちらを一旦、忘れさせて『図太くなれ』とさせたわけか」
「上位存在……英霊のチカラを借り受けさせるのは時間が足りなすぎました。となればあるもので何とかするしか無い」
来賓席から何故か観客席にやってきたエルメロイ兄妹の言葉に答えてから、説明を続ける。
まずは栞が得意手としている武器……得物から入ることにした。
当たり前の如く、これはフェンシングなどで使われる細剣の類だ。だが、一般的に『競技用剣術』などで使われる得物は、ヒト相手ならば不足はなくとも、幻想種はおろか猛獣相手でも普通ならば不足の得物だ。
ゆえに、手に馴染む得物でありながらもこの類で、いい得物といえば……。
「妖精に伝わる武器か」
「人工妖精とかは置いて、『神霊』から『幻想種』に『還った』存在はあくまで、人理版図の世界では生きづらくなっているから『常若の国』を作ってそこに移住した。他の妖精郷と同じく最初っからあったのかもしれませんが、ともあれ栞との共通点たる
「……一言言わせてもらえば、お前サイテーだな」
「言われると覚悟していたのでダメージは軽微です」
ライネス師匠から軽蔑するような視線が来た。分かっていたとはいえちょっと傷つく。
だが、ライネスはそれ以上に栞が、もとの家で『色々』あって現在は、十七夜の姓を名乗っていることは存じていたようだ。
そしてそういう人の生きざまの『変遷』を利用した刹那の行為に対して怒るのは当然であった。魔術師ならば、それぐらいの倫理を犯すのは当然だが……それでもいい気分になれないのはライネス先生の性分なのだろう。
「続けろ刹那」
だが、それでも『チカラ不足のもの』が足掻いて、藻掻いて戦う決意を固めたことをウェイバー先生は良しとしてくる。
本音を言えば先生にも怒られてから話を続けたかった。
「はい。ここまでは彼女の起源を利用して行った結界術の一時的なドーピングです。次には、攻撃能力を考えました」
九島ヒカルの『攻撃』に対する防御術を構築させた後には、相手への攻撃を考えた。
九島ヒカルが『鎮座』させている
となると、ここには同じ幻想種かあるいは神霊由来のチカラでないといけない。
すり抜けるように『氷柱』だけに『干渉』を果たそうとしても、中々に難しい。氷柱は竜と化しているはずだからだ。
「となると妖精由来のものをと思ったのですが、中々にこれといったものが無かったので、栞の魔法から連想させました」
「それが天の牡牛の
ヒカルの氷柱を砕いたのは上からの『圧』でありながら『大地』にまで浸透する足撃である。
「柄部分に魔牛……グガランナとお前が名付けた幻想種の幼生の爪を基材としたものを貼り付けたか」
「しかもルーンによる振動、ウルズとライドーによる二重、いえ三重の波動による攻撃ですか」
羽瀬先生の言葉通り『獣魔』『ルーン』『妖精』という魔術特性を利用した攻撃である。
一度目のスタンプで浸透する圧は『揺り戻す』形で『天へと昇る』衝撃へと変わる。
元々、振動波を合成させる形で、情報強化では防ぎきれぬ圧を発生させることを得手としていた栞だが……今回は三重の衝撃波とすることで相手の防御を超えることを選ばせた。
九島ヒカルの
「今までが拡散型のマシンガンならば、今回のは一点突破型のキャノンということか」
「それを可能としているのは彼女の魔眼か。もうちっと鍛えればオフェリアぐらいにはなれるんだがな」
今の時点では、少々難しいが精緻な術式を構築したという点で言えば、栞のマセマティックアイズには感謝である。
「―――三本目を崩したな」
「栞さん側は四本やられていますが……そうは問屋がおろさないですね」
バゼットの認識通りである。
一見すれば互角に渡り合っている風にも見えるが、こういう相手との戦いで怖いのは―――。
「対処されたならば『次のチカラ』を見せつけてくる……そういうカリスマ、大衆を心服させるような超人的なものを見せてくるのだから、怖い」
「私とて次なる自分を現したかった……普段は凡百以下の魔術師でも死地にあって生徒や誰かのために身体を張れるだけの何かが……」
そんな先生はある意味で怖くて、世話役であったグレイ義姉さんが泣いちゃうので、勘弁してほしいと思える。
「無理にユースタス・キャプテン・キッドにならなくても、千両道化のバギーでもいいじゃないか。戦場にて刃を振るうだけが勇者じゃないんだからさ」
「慰めてくれているのか?」
「いいや、敬愛する義兄上には無理だから
「FUCK! 改めて思うがお前は本当に最低のシスタープリンセスだな!」
悲しすぎる言葉の応酬の間にも、事態は動き九島ヒカル側に変化が出てくる。
最初のキッカケは栞の攻撃が通用しなくなったことだ。天空から振り下ろされしスタンプ。三重の衝撃を同時に与えしそれが、氷柱を砕くことはなかったのだ。
見えぬ壁に阻まれるかのように氷柱の上面に波打つような
しかし、スタンプによる
つまり―――。
「―――ッ!?」
「そのスタンプは少々重すぎるからね。少しだけ『外殻』と『鱗』を『硬く』することで対処させてもらったよ」
―――相手が次手を打ってきたのだ。
余裕たっぷりの笑みで栞に言うヒカル。
「悲しいね。力不足に授ける策も……簡単に対処される」
「言ってくれるね九島ちゃん……」
「事実さ。そしてキミが穿ち打ってくれたお陰でこちらも―――いい感じさ」
言葉は呪文。言葉を実行。全ては覆される。
痛みは還される―――ペインバック。
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「ムスペルスヘイムを収束させたようなものだ。いや、もはやそういうレベルではないな」
吐き出された雷鳴は雷雲を作り出さず『真横に放たれる落雷』というとんでもない現象を作り出していた。
現代魔法の内にあるスパークとは段違いのそれが栞の防御を突破しようと間断なく放たれる。
「ど、どどどどどどどどひゃあああ!!!」
「おおおおおちつけええなかじょうぉおおお!!!」
会長・会頭、両名が落ち着くことが出来ないほどにとんでもない力の応酬。対閃光防御(サングラス)をしていなければどうなったか分からないほどに試合の流れが変わったのだ。
九島ヒカルがキングギドラならば、十七夜栞はモスラというところか……。
「いやいや! モスラはともかく、キングギドラは私の相棒ですからね!
「どちらかといえば、
ドヤ顔で、鼻息荒く言う泉美。何というか此奴はこんな風な少女だっただろうか? そんな疑問を覚える。
もうちょっと楚々としたお嬢さんという印象だったはずだが……最近ではただのY木さんにしか思えないのだ。
「へっへっへ! アタイをこんなワルイ女にしたのは、どこのどなたでしたかしらねぇ」
どこでそういう台詞を覚えてきたのやらという台詞に対して達也は―――
「刹那だな。アイツに関わった瞬間に、何だか取り繕った仮面がアホみたいに思えてくる」
責任者はどこか!? という問いに対して刹那に丸投げするのであった。そんな風な刹那に関わったことで変になった男の筆頭と、女の一人だったが―――。
「「ううん? モスラ?」」
自分たちが発した単語の不可解さに疑問符を覚える。それはどういうイメージから来ているのか。
改めて戦いの場に目を向けたその瞬間……防戦一方であった十七夜 栞の背中に
戦いは―――まだここからである。そう言わんばかりに変化を果たしていく―――。