魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第357話『魔法の宴 ~2日目終了~1』

 

 

―――厄介だな……。

 

遼介が囚われている軍の基地に幾度か侵入を試たアサシンであったが、その都度…追い返される事実に歯噛みするのであった。

 

そうしていると……遼介から念話が届いた。

 

遼介の魔術師としての位階ゆえか伝わる言葉は明朗ではないが、アサシンの方で噛み砕くに……。

 

(今晩、魔宝使いがやってきた時が好機か)

 

そんな風に考えてから夜闇に紛れながらも基地施設を一望出来る木々の上にいた名を持たないアサシンは飛び退きながら―――。

 

(お腹が空いたな……)

 

――空腹を覚える。

 

魔力をロクに供給できないマスターを恨むつもりはないが、こういう時には不便を覚えてしまう。

 

魔力が足りないならば、食事が必要なのだ。

現代知識を持つアサシンは現在の世界では、アサシンが生きてきた時代のように貨幣(コイン)や、それより進んだ時代の紙幣(ペーパー)すらも主流の決済方法でないことを理解している。

 

ゆえに……。

 

(宴に紛れ込んで馳走になるぐらいは出来るだろう)

 

無銭飲食という行為に及ぶのであった……。別に教団の教義に反する行為ではない。

 

立派に刑法上の犯罪であることは間違いないが、そういうことを言っている場合ではないのだ。

 

(気配遮断を用いれば、不可能ではないだろう。あの宴にはどうやら学生の関係者も多くいた。つまり、私服であっても問題ないだろう)

 

寧ろ、アサシンのような格好をしていれば怪しまれる。

 

こういう時にアサシンの同期であり、尊敬すべき山の翁の御業たる『百貌』の能力が羨ましい。

 

そう色々と述懐(言い訳)しながらも、英霊の座に登録されたアサシンはホテルへと向かうのであった。

 

無銭飲食(タダ飯)をするために――

 

 

「結局、いい感じに試合進行は済んだな……」

 

「明日が勝負所! 天下分け目の関が原だね達也君!!」

 

「ああ。期待しているよエリカ」

 

気合を込めて言うエリカにそう返しつつも考えるのは今後の展開だ。

 

今日のところはポイントそのものに変動は起きていない。当たり前の話だが、まだファイナルまで競技が進行していないのだから当然。

 

だが……現在まで残っている面子、ファイナリストに到れる可能性ある人間から明日の得点勘定が動く学校が少しだけ分かるのだ。

 

まずは達也の母校である一高からは……。

 

女子ソロ シールダーファイト

千葉エリカ

女子ソロ アイスピラーズブレイク

司波深雪

壬生紗耶香

男子ソロ アイスピラーズブレイク

黒子乃太助

 

以上が現在も残っている面子ではある……。

 

目立つところのもう一つ三高では……。

 

男子ソロ シールダーファイト

吉祥寺真紅郎

火神大河

男子ソロ アイスピラーズブレイク

一条将輝

一ノ瀬界人

女子ソロ アイスピラーズブレイク

前田千代子

 

以上だが……問題は、一番多くの生き残り(サバイバー)を出しているチームである。

 

男子ソロ シールダーファイト

上田武司

女子ソロ シールダーファイト

レティシア・ダンクルベール

火神アンジェラ

男子ソロ アイスピラーズブレイク

遠坂刹那

二三草七郎丸

女子ソロ アイスピラーズブレイク

シオン・エルトナム

桜小路紅葉

 

チームエルメロイの面子は本日の競技男女全てで生き残りを出しているのだ。

 

驚異的なことである。

 

「参っちゃうわよね……初戦もそうだけどエルメロイ先生の教導チートすぎない?」

 

「そういうヒトだしな。サバイブのカードで全員を強化していて(戦え、戦え(シスコン))も俺は驚かん」

 

ただ今日のチーム・エルメロイが、ここまで凄いのはやはりチームリーダーたる刹那が遂に出陣したからだろう。

 

(点での戦いそのものは個人競技とはいえ、チームによる戦い『面』でのことがある以上、ある種の『勢い』というのは侮れない……刹那はチカラで勝ったとはいえ、他の面子はその勢いで導かれた節もある)

 

ゆえにチームリーダーが活躍すると周りも盛り上がる……。

 

(しかも刹那の術は見ているだけでも小気味良いものがあるからな。色彩も豊かであるし、術のリズム(律動)が、チームに勢いと『刺激』を与えた)

 

それらが相乗効果を生んで強さを与える……他チームとはいえ、刹那を個人的に慕っている一色愛梨がシールダーのソロに出ていたらば、とんでもないことになっていたかもしれない……。

 

そして、この刹那の勢いとリズムは……予定通りに進行するならば明後日から明々後日まで続くことになる。

 

「やはり刹那を止める人間がいなければダメだったんだな……」

 

「悲観的だな司波」

 

いきなり現れたというわけではないが、先程まで歓談していた相手はいいのかと言いたい御仁がやってきたのだ。

 

「ならば十文字先輩はどう思います?」

 

「当然、遠坂を止められる存在が必要だな。ヤツが戦うだけで味方には強烈なバフがかかっているようなもんだ」

 

同じ意見じゃないか。と思いつつも刹那の用意した『牡丹燕菜』を食べる手は止まらない。

 

「今日、負けた人間を励ますための料理か。一条が頼んだ以上、狙いは十七夜栞と一色翠子を落ち込ませないためだろう」

 

「あの2人は次の競技にも出ますからね」

 

落ち込ませたままではチームの士気に関わるということか。などと思いながら大根麺に細工を施して皇帝を満足させるものを作った刹那の解説を思い出す。

 

ホワンホワンホワンシバシバ〜〜〜〜

 

 

「刹那君、ありがたいんだけど……こんな贔屓してもらっていいのかな?」

 

「別にそこまで深い考えは無いさ。それにそんなことを言えばウチの長谷川も同じだしな」

 

「負けてしまって申し訳ないわーキャプテンー♪」

「不甲斐なくてすまない」

 

今日の負けでトーナメント敗退を喫した連中でいえば、別にチームエルメロイにもいないわけではない。

長谷川のおどけたような声と真剣な声で言う逆神に『お前らの負け分ぐらいは取り返してやる』という意味で胸を叩いてから持ってきた料理の蓋を取ることにした。。

 

「チームメイトの次の競技に影響を残したくないのは俺たち(エルメロイ)も同じ――そんなわけで作らせてもらったぞ。洛陽にて作られた『皇帝料理』をな」

 

皇帝料理……。その姿は……大器に満たされた『スープ』の中に『丸い玉』……赤色をしているものがあるだけだった。

 

「これが皇帝料理……」

「何とも拍子抜け―――」

 

流石に全員が刹那の調理失敗を予測したのだが、瞬間……その『玉』に変化が起こる。

 

丸い玉が段々と開いていく、一枚二枚……何枚も花弁のように、蕾が花開くかのように……。

 

「た、大輪の花が開いた!!!」

 

器から溢れんばかりに大きな花弁を何枚も持った花が器の中に出来上がったのだ。いきなりな変化を前に誰もが驚くのは当然だ。

 

「中華史上初の女帝 武則天に由来持つ『牡丹燕菜』―――ご賞味あれ」

 

畏まったように言われても、どう食べたものかと思っていた処に花弁を何枚か箸に取り、小皿に移したのは十文字克人と七草真由美であった。

 

「美しき花弁ではあるが、これがいかなるものなのかは俺たちの舌で鑑定する―――」

 

「いただくわ―――って! 花弁が極細の『麺』に自然と分裂していく!?」

 

真由美の驚愕の言葉で同じく見ると、各テーブルにある器の牡丹の花弁を取った連中の大半がその現象に驚いていた。

 

そして……その麺を啜り込んだ時に食べた人間たちが、恍惚の表情を浮かべる。

 

「麺料理の中でも未知なる大食感……。スープを存分に吸い上げた大根麺と、その他の肉麺、玉子麺、人参麺……細切りにされたものがハーモニーを奏でる……」

 

「俺も牡丹燕菜は横浜の中華街で食べたことはあるが、こんなんじゃなかったぞ―――だが、こちらの方が驚きと味において群を抜いている……」

 

花弁を取る度に、花弁が分裂を果たし細麺になる様子に全員がとんでもない『魔法』を感じるのであった。そしてその細麺―――芳醇なる『湯』(スープ)を存分に吸い取った大根麺を中軸に据えた麺の味と芳香に全員が酔いしれる。

 

「リーレイさん! 解説お願い!!」

 

「はい、真由美さん。十文字さんが仰るとおり本来の牡丹燕菜というのは――――『こういうもの』なんですね」

 

「そう。これだ。俺が食べたのもこういうものだったんだがな」

 

すっかり解説役になってしまった中華料理屋の孫娘だが、今回は端末も用いて説明をする。

 

「牡丹燕菜というのは、武則天―――日本では則天武后という方が通りがいいですが、彼女に『献上』するために巨大大根に細工を施して供した料理が切っ掛けなわけです」

 

「それが極上スープを吸った大根麺なのか……」

 

「海燕の巣、鱶鰭、熊の手に代表されるように中華では『味のないもの』に『味を着ける』というのが代表的なわけでして、これも燕の巣のようなゼラチン質溢れるものにせんと工夫を凝らしたものなんですね」

 

その際に、ダ・ヴィンチが気を利かせたのか『本物の武后』に関わる映像を出したりしていた。

 

スパルタ師匠『ふむ。なんとも巨大な大根が採れたものだ。「ふーやー」に献上するのはいいのだが……これはズバリ、あやつに『呼延灼』のような太ましい脚で健康になれという暗示ではないか?」

 

オタク海賊(BBA好き)『デュフフフ! 分かっていないでござるなマスターケルト!! 「ふーやー」ちゃんの魅力はあの危険すぎる幼い肢体にあるのでござるよ!!』

 

赤き弓兵(刹那の親父さん)『その辺りはどうだか分からないが、まぁこれでは武后に供するには少々色気が無さすぎるな。改良するか、そして黒髭。あまりイリヤ嬢に近づきすぎるなよ』

 

オタク海賊(カリブの海賊)『エミヤ氏ひどいっ!!』

 

などという寸劇が映像として出されていて、その後にはエミヤというサーヴァントが刹那が作ったような大輪咲く牡丹燕菜を作るのであった。

 

「にしても美味いな……なんというか本来ならば素材が違う食材を細切り、条切りにしてしまうと麺類の命である喉越しという点が少々疎かになるのだが」

 

「すすり込む際に違和感がないわ」

 

「まぁその辺りは刀工の秘術なわけでして、繊維を断たず、そして『ざらつき』を生み出さない神業でやったわけですよ」

 

「あちきも手伝ったでちよ」

 

「寧ろ紅が超絶な包丁技術でやってくれたからだな。ありがとう」

 

「でち♪」

 

追加の超牡丹燕菜を持ってきた紅の頭(頭襟)を撫でておくと、妙な視線が飛んできたが、それはともかくとして……。

 

「俺にとって牡丹燕菜は、いうなれば『根を張る料理』なのさ」

 

「……それはどういう意味?」

 

栞が麺を啜りながら聞いてくる。

 

「リーレイの説明を継ぐ形だが、こんな逸話が残っている。ある日、武后は遊興で己が愛でている庭園の花に、季節が冬にも関わらず花を点けろと言ったんだが、他の花々とは違い、牡丹だけはそれをガン無視したそうだ」

 

そんな牡丹の花を疎ましく思った武后は地に出ている茎も葉も焼き払った上で『根』だけを庭園から洛陽に追い出したのだが、そんな牡丹の花は春風吹く頃、競うように大輪の花を根から咲き誇らせたという。

 

「―――」

「―――」

 

2人ほどの女子が少しだけ感じ入るものがあったのか、こちらを見てくる。

 

「古来より薬としても使われてきた牡丹の花の凄さは、『根』さえ無事ならば、翌年には花を咲かせることにある。ふてぶてしく、めげず、たくましく大輪の花を咲かせて、その美しさを短くも散らす牡丹を『洛陽の牡丹、天下に甲たり』と昔の中国人たちは称したそうだ―――どれだけ焼き払われようと逆境に負けぬ反骨の強さを牡丹はその花弁(はな)の美しさ以上に持っているのさ」

 

そしてこの牡丹燕菜という料理……特に大根はスープを存分に吸い上げて、最高の味に仕上がっている。

まるで……牡丹が大地にしかと根付き、己を『咲かせる』(輝かせる)ために水と養分を吸い上げていくように。

 

そういう心を感じさせるのであった。

 

「刹那くん……ありがとう……」

 

「いや、別に感謝されるものじゃないよ栞」

 

「それでも……ありがとう」

 

「言いながら今にも抱きつかんばかりに近づかないでくれ」

 

「リーナさんには内緒で浮気してもいいよ?」

 

「バレッバレすぎるから、もうちょっとコソッと話してくれ」

 

そんないつもどおりのシーン(鬼面組を背後にする刹那)を最後に達也の回想は終わる。

 

 

「そんな感じでしたね。で、もしや喝入れですか?」

 

あまりにも不甲斐ない一高の現状に『何故か』自分に『闘魂注入』をしに来たのか、と思ったが破顔一笑してから克人はそうではないと言ってくる。

 

「食事の場でそんな事出来るか。そもそもする気はないからな……ただ、少しデリケートな案件が発生したと小耳に挟んだ」

 

「一応は俺も聞いていますが……ある意味、十文字先輩関係だから言って良いのかどうか」

 

「だが……聞いた所によると『彼』とアリサは、何というか……将来を約束したとか、アリサが慕っているとかなんとか」

 

「一つ屋根の下にいれば、慕情も出来るんでしょうが……」

 

年齢差を考えると完全に犯罪である。

 

克人の言葉が明瞭ではないのは、北海道の獣医師の家からも詳細なことを聞かされていないのだろう。

肉麺と玉子麺と大根麺のコンボを口中で決めてから旨みに浸りながら達也は克人に答える。

 

ちなみにエリカは、女子陣と話していた。件の北海道の女子アーツ部の新進気鋭の子とも話している。

 

「被疑者『R』は、サーヴァントと契約しているようです……アサシンのサーヴァントそのものは、刹那が退けて、被疑者を拘束しているんですが」

 

「何とも……あいつは超人伝説すぎんか?」

 

「ですがアサシンは野放し、そして被疑者は『黙秘』という名の『抗議活動』をやっておりまして……まぁ責任者を呼べと言わんばかりに刹那を呼べの一点張りだそうで」

 

「国防軍の基地をレストランかなにかと思っているのか?」

 

だが、達也の言葉に克人としては少しだけ安堵する。被疑者Rこと遠上遼介という人物は、どうやら行方不明も同然だったらしい。

 

工学専攻の学生として留学した彼の所在を遠上家は、探そうとはしなかったとのこと。聞いた克人は『呑気な』とか『不安はないのか?』とも考えたほどだ。

 

真面目に勉強をしてそれなりに遊びに興じているならばともかく、世間的によくない友人とよろしくない遊びを覚えて、その上でろくでもないところで違法薬物に手を出してハイウェイにてオーバースピードで車をかっ飛ばして。

 

……などという安西先生の後悔である谷沢くんのような想像をしない遠上家の人々に、色々と物申したかったのだが、一応の無事を克人の方で確認できたのは僥倖である。

 

(まぁそういうのを素直に出せない気質でもあるのかもしれないからな)

 

第一、アリサを放っておいた我が家が言うべきことではないだろうから。そこは飲み込んだ―――。

 

だが、克人が知らぬことだが、遼介はある種、この日本で初のケミカルテロルを実行した宗教団体のようなものに所属していたのだ。

 

更に言えば克人はアリサにバレずに内密に接触出来ればいいと思っていたのだが……。

 

「―――………」

 

アリサは、喧騒なる食事会に招かれた現場で『それ』を見た瞬間、ありえざる想像が脳裏をよぎったのだ。

 

「アーシャどったの?」

 

「……ミーナ、ちょっとあとで大丈夫かな?」

 

「うん。いいけど―――何もない空間を見ているからちょっと心配だよ」

 

「……そうだね。ゴメン」

 

どうやら親友には、『彼女』の姿は見えていなかったようだ。

この一年、魔法師として鍛えてきたからかアリサの目は『見えないもの』を見て、更に言えば魔法師に必須の『サイオン』に……ある種の『匂い』すら覚えるようになっていた。

 

それは魔法師ならばあり得ざる想像として破棄するも、魔術師ならば理解できる理屈の一つだった。

 

そして、魔法師として鍛錬する前から、自然と覚えていた『匂い』があったのだ。無自覚に記憶していた『匂い』……。

 

(なんであの子……アダムスファミリーのウェンズデーみたいな子から遼介さんの『匂い』がするのよ……)

 

殆どの人間に気付かれず、牡丹燕菜に舌鼓を打つ少女(時折なにかに耐え忍ぶような表情をしている)の姿を見咎めたアリサは、現在のところ『所在不明』の遼介の手がかりとして接触を図ろうと思うのであった……それが最悪の結果を招くとしても、アリサは知りたかったのだ―――。

 

 

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