魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第358話『魔法の宴 ~2日目終了~2』

 

夜が更けていくにつれて、昼の熱狂を冷まし、明日への英気を養おうと人々は眠りに就く。

 

当然、戦うもの以外……戦うものの盾、槍剣と銃を調整する役目のものたちは早々に寝ることは許されない。

 

よって―――。

 

「明日に向けてお前は夜明かしせにゃならんとおもうけどな」

 

「まぁそうかもしれないが、これも軍の命令なんだ。パートタイマーとしてはこれぐらいはせにゃならんのだよ」

 

検査場所で響子の言っていた迎えの人間とやらが、達也であったのは少々予想外。というか一高のスタッフであることは承知なんだから、頼むなよと思うのだが……。

 

「遠上遼介のことは知っていたか?」

 

「米国に留学して行方知れずの長男がいることは、教えられたよ。まぁさして心配している風でなかったからな……せいぜい、俺とリーナが知らないかどうか程度の確認はしてきたが」

 

その家の方針次第ではある。何も言わないのも家の方針なのかもしれない。特に巨額の金を要求されでもしないし……。

 

(そういう家族なんだろう)

 

それも絆の在り方。として、納得しておくことにした。

 

(……見られているな。誰かは、言わずもがな。遠上遼介が契約していたサーヴァントだ)

 

武蔵からの報告で、アサシンのサーヴァントであることは理解している。

 

「なるたけ基地の兵隊たちは外に出しておけ。恐らく、俺が踏み込んだ時に侵入するはずだ」

 

その際に邪魔立てすれば、どんな結果になるか分からない。

 

「クイーン・モルガンの結界では弾かれないのか?」

 

「難儀なことに俺が入り込んだ時にどうしても『撓み』が発生するらしい」

 

それは刹那の力が倍増していることに他ならないからだ。

 

だが、事態は予想外の方向に向かう。

 

それなりの街灯で照らされながらも暗闇の世界を行く2人の男子は遂に基地内に入り込んだ。

歩哨というかゲートの兵隊たちは事情を理解していたらしく、特に誰何されることもなく内部の建物に入り込むと……。

 

「我が夫、待ちくたびれました。よって抱きしめて下さい」

 

いきなり銀髪の幼女に抱きつかれるのであった。

もう飛びかかるような調子、今日の夕食会で航くんに抱きついたヒカルのような調子であった。

 

タッパ(身長)が同じくらいの男子中学生と女子高生という構図だったが、体重は軽い方なヒカルを航くんは抱きとめることができた。

だが、モルちゃんの重さはそれなりであり、まぁ刹那は少しだけバランスを崩すのであった。

 

「っとと! いきなりすぎないか。モルちゃん?」

「サ〜〜プラ〜〜イズ♪ というものです」

 

なにその知識。と思いつつも、抱きかかえながら基地内を進む。流石にその様子は色々とアレであったようで。

 

「達也、お前の友人は女に絡まれ過ぎだな。負けるなよ」

 

「柳さん、俺ちょっと前の夕食会でJCに告白されました。心配には及びません」

 

「我が隊から犯罪者が出る……」

 

などと微妙な会話が刹那の前で繰り広げられたのだが、目的地である遠上遼介がいる場所……基地内にある牢屋まで行くことに。

 

案内された場所はまぁ普通に牢屋であった。

 

てっきり拘束衣でも着せているかと思えば、そんなことはなかった。外観だけならば頑丈な監禁室だが、魔法師相手では、物質的にはあまり意味がない。

 

例え、彼らからCADを取り上げたとしても口頭での術式詠唱ができない訳ではない。もっともそれとて術者次第なわけだが。

 

〝マギクスは捕虜(POW)にできない〟は北米でも古くから言われていることだそうだ。彼らから『POWER』を無くす……無力化するには、最終的には喉を潰すか殺すしかない。

 

もっともそれとて、最近ではまだ人権的な扱いもあったりするが、それでも力が強すぎる魔法師にはそんなものは意味がない。

 

「―――あんたが俺を呼びつけていた遠上遼介サンかい?」

「……そういうキミは、遠坂刹那で間違いないようだな」

 

モルガンを地面に下ろしながら、そう言ったのだが、どうやらこのヒトのオーダー通りであったようだ。

 

(それにしても奇妙な符牒ではあるか)

 

傍からその邂逅を見ていた達也としては、そんな感覚を覚える。

 

『遠上』と『遠坂』……一字だけが同じ文字を持ちながらも、その長男2人は心根も経歴も違いすぎる。

そもそも遠上も『十神』という結構、仰々しい名前なのだが……、それはともかくとして2人の会話はどんなものかと思ったのだが。

 

「簡潔に言おう。ミレディ……レナ・フェールの元に着け」

 

「囚われの身でありながら居丈高な。生憎、全然心が動かされない」

 

「そうか。ならば―――」

 

「一応、言っておくがアサシンを呼ぼうとしてもムダだ。令呪なんぞ使おうとしても使わせん」

 

「そうするだけの結界は私が張っておいた。ムダだマギクス―――」

 

袖をまくりあげて手の甲を輝かせようとした牢の中にいる遠上遼介に刹那とモルガンは言ったわけで……。

 

少しだけ詰まってから、着ていたシャツをはだけてから遠上遼介は口を開く。

 

「ならば、このシリウスラ―――」

 

一々、脱がなきゃならないわけではないだろうに肉体の一部を見せようとする辺り、こやつ『露出狂』なのではないかと思った矢先。

 

「せ、刹那くんはいるかい!?」

 

牢屋に至る扉を乱暴にぶち開けて入ってきたのは、独立魔装の真田さんであったりする。

 

「おい真田。いま、取り込み中だぞ」

 

「それを中断してでも応対してもらう!!! 刹那君!! アサシンのサーヴァントが基地ゲートを突破してやってきたんだ!!」

 

「正面突破とはアサシンのクラスの割には何とも剛毅な……ジェーン、ムサシ! いけるか!?」

 

屋上あたりから侵入してくるぐらいは予想していただけに、それを外された形だ。そういう意味では奇襲の意味はあったかもしれない。

 

「「当然だよー!!!」」

 

2騎士が霊体化を解いて迎撃体制を取る。今までは意図的に魔力供給を絞らせてもらっていたが、此処に至れば、全力で戦うのみ。

 

だが、刹那が予想した以上に事態は入り組んでいるのであった。

 

「戦うのは良いんだけど!! それだけじゃないんだ!!! アサシンのサーヴァントは2人の少女を『人質』にして向かってきているんだ!!」

 

「―――アンタの手筈か?」

 

「僕はそんなことは命じていない!!! 第一、念話すらも出来なかったんだぞ!!」

 

それは刹那も承知の上だ。鉄格子を掴んで言い放つ遠上に対して思いながらも、事態は動くわけで……。

 

「うん?―――こいつは随分と奇妙な事態だな」

「何を見たんだよ。お前は?」

 

達也がある種の千里眼で、襲撃者を見たのだろう。

 

そして襲撃者は……。牢屋があるこの部屋に上を突き破ってやってきた。

 

崩れ落ちる瓦礫を止めつつも、その襲撃者に対して、眼を見据える。

だが、その襲撃者を見た瞬間、流石の刹那もビックリせざるをえなかった。

 

「お(にい)!! マイヤさんと一緒に助けに来たよ!!」

「遼介さん!! マ、マイヤさんと、お、お助けに来ましたよ!!」

 

快活な言葉を吐く遠上遼介にとっての実妹と、戸惑い気味の言葉で言う義妹。

 

その姿に、殆どの人間が戸惑った。

 

「茉莉花、アリサ……何故、此処に来たんだ……」

「アンタを助けに来たんだろ」

 

苦悩するような言葉に、返しつつ……どれだけの伸縮性があるか分からない黒衣に包まれながらやってきた2人の美少女はまごうことなき遠上遼介の関係者であった。

 

 

―――Interlude

 

黒い少女を尾行するために行動を開始したアリサと茉莉花。

茉莉花は、未だに誰がいるかも分からないようで、少しだけ戸惑っている様子。

 

「アーシャ……どうしたの?」

「ミーナ、ごめんね。こんな不可解なことに付き合わせて」

 

自分だけが見えている幽霊を追うということは、こういうことにもなる。

 

「ううん。久しぶりにアーシャと一緒だからいいんだよ。けれど、そろそろ目的を教えてほしいよ」

 

その見上げながらの言葉にアリサは教えることにする。信じてくれるかどうかは分からないが……。

 

「じゃあそのアーシャにだけ見えている女の子からは、お兄のサイオンを感じるの?」

 

茉莉花は自分の兄である遠上遼介をお兄と呼ぶ。だからといって軽んじているわけではなく、どちらかといえば甘えている。あの四葉の兄妹ほどダダ甘ではないが……茉莉花からすれば、現在、大学生である兄は若い父親的な感覚かもしれない……。

 

「うん。おじさんとおばさんはあんまり気にしていないようだけど……私は、遼介さんが心配だよ」

 

アリサが十文字家に引き取られる前に描いていた人生計画の中には『遼介』と一緒になることで、遠上医院の獣医として北の大地に根を張るというものもあったのだ。

 

遠上夫妻もそれを望んでいたし、別にアリサもそれを望んでいたぐらいだ。

そこに魔法師としての人生が出てきたことで、何ともその辺りは宙ぶらりんな気がする。

 

(あの時、遠坂さんの言葉に私は十文字家に行くことを決めたけど、もしも……あの場に、せめて日本の東京に遼介さんが居たら……)

 

どんな事を言ってくれただろう。それはあり得たかもしれない未来を知ろうとする本能でしかなかった。

だが、それでも遼介に繋がるかもしれないあやふやな存在に接触を図ることで、遼介の行方を―――。

 

「お前たちはリョウスケ・トオカミの関係者なのか?」

思考に耽った一瞬、アリサの横から掛けられる言葉。見ると、そこには自分だけが認識していた黒衣装の女性が佇んでいた。

 

(いつの間に)

 

尾行をしていた2人。特に姿かたちを認識していたアリサは驚愕。気配を感じ取れなかった茉莉花もビックリするのであった。

 

「もう一度問うぞ。お前たちは―――」

「アンタこそ! お兄の何なのさ!?」

 

ズビシッ!という指差しで黒衣装の女性に問いかける茉莉花。しかし、その言葉に察したのか、指を顎に当てながらこちらを見ながら女性は言う。

 

「なるほど、リョウスケの妹か。まさか金髪で白人種の特徴を持った妹までいるとは想像していなかったが」

 

「あっ、いや私は―――」

 

自分まで妹扱いされたことに訂正をしようとしたアリサだったが。

 

「で、アナタは!?」

 

結論を急ぎたがる茉莉花の言葉が放たれて最後まで言えなかった。三編みを二つ下げた麗しき女性は―――。

 

「マイヤ・シグマ、日本(ここ)風に言えば『志熊 舞弥』……リョウスケとは公私を共にするパートナーだ」

 

聞いた瞬間、アリサの目の前が『真っ暗』になった。いや、そういうイメージでしか無いのだが、それでも少しだけそんな気分になった。

 

「お、お兄のパートナー!? え、え? え゛どういう意味で?」

 

流石に実妹である茉莉花も混乱してしまう。

 

「まぁ色んな意味でだ。私とリョウスケは一心異体で繋がっているのだからな」

 

その言葉にもはやアリサは立っていられないほどの衝撃を受ける。やはり『留学なんてしないでください』とか引き止めるぐらいのことは言うべきだったのだ。

 

合衆国でこのような美人と知り合うなどと分かっているならば……。

 

「っと、大丈夫か? 何か、精神干渉術(マインドステア)でも受けたのだろうか?」

 

「いや、そうじゃないと思いますが舞弥さんの言葉が衝撃的すぎて、そういう術も同然にはなっていたとは思います……」

 

コンクリートの地面にぶっ倒れそうになったアリサを『片手』で受け止めるマイヤに対して少しだけ同情しつつ茉莉花は言うことに。

 

「そうか……まぁアイツは私以外の女、USNAで金髪若作りの教祖様にも、って重い重い!!! どうしたんだこの子は!?」

 

いきなり片手に感じる重みの増大から、かつて同じ北米にて世話を焼いた子供を思い出す。

 

無論、彼女の方が幼童ではあったが……。

 

「―――とりあえず自己紹介しないか?」

「そ、しょうですね……お願いします……」

 

もはや半泣きのアリサは、立ち上がりながらもボロボロだ。ともあれ夜中の富士の市街で三人の少女が話し合う。

 

――5分後。

 

「つまりお兄は、USNAで魔法師の権利向上団体に所属して、そこの女代表に骨抜きにされた上に、マイヤさんともパートナーで、二人で活動を行っていると」

 

茉莉花がまとめた内容は、大筋で間違いではなく、特に訂正すべきところはなかった。遼介関連でならば。

 

「私自身は別にその団体の教主・教祖に心酔などしていないのだがな。必要だからその団体にいるだけだ」

 

ビジネスライクな態度で言うマイヤに対して少しだけ反感を持ちながらもアリサにとっての本題に入ろうと思うのだった。

 

「……舞弥さん……遼介さんはいま、何処に居るんですか?」

「あそこの軍事基地だ」

 

簡潔な言葉と指差しで、あっさり所在が知れた。

国防軍の基地に工学専攻のただの学生である遼介が―――、いや伝えられたことだけならば、もはや『ただの学生』ではないのだろうが……。

 

「まぁ端的に言えば軍の敷地内に不法侵入の上に戦闘行為までやらかしたからな。お縄につかざるを得なかったのだ」

 

「ああっ……遂に我が家から犯罪者が現れてしまった。きっと遼介お兄は、囚人服を着せられてマグショットを撮られてしまったんだぁ……」

 

言葉の割には何というか面白がっている風な茉莉花に、 頭を痛めつつも罪状がそれだけなのだろうかと思う。

 

「―――意図的だったからな。FEHRという組織と協力関係にあるこの国の組織が、何故かリョウスケをここに寄越して結果的に」

 

「……まだ解放されていないのは、容疑が晴れていないからなんですね?」

 

「そうだな。あらいざらい吐いてしまえばいいのだろうが……そうしていないからこそ、こうなっているんだろう」

 

「ではマイヤさんはどうなさるんですか?」

 

「特攻を仕掛ける。アイツはアイツなりの目的で、何かやっているようだが、いつまでもこのままというのは間尺が悪い」

 

恐らく言葉を濁している部分は分かるのだが、それでも……。

 

「遼介さんを助けに行くのならば、私たちも連れて行って下さい!!!」

 

「お兄を助けるためならば私も行くよ!!!」

 

「―――――――」

 

正直言えばマイヤことアサシン・フェイクとしては、彼女たちを連れて行きたくはない。足手まといであるとか、そういうことではなく。

 

明らかに不法行為であり違法行為―――要するに犯罪に加担することになるからだ。

 

かつて『生きるため』に『銃』だけを持たされた少年。それだけが生きる術として『洗脳』されつつも俯瞰で『自意識』を得ていたもののことを思い出す。

 

だが、少年は生きるために世間一般では悪徳とされてきたことをやった。

そして、一人の少女を救うために、少女を『眠り』に着かせた少女の両親に……。

 

それを例え少女が望まなくても少年は―――。

 

「……お前たちも犯罪者になる可能性があるんだぞ?」

 

「その時は―――私達もそのFEHRとやらにお世話になるだけだ!」

 

「そうだね……うん。舞弥さん!お願いします!!」

 

などと少女特有の無軌道な思い込みなどがありつつも……。

 

「―――分かった。では超速で向かうとしようか」

 

瞬間、その覚悟を受け止めたマイヤは衣装を変更してゆったりとした『アサシン服』。暗器類を多数仕込める衣服の中に二人の少女を包み込んだ。

 

「舞弥さん、アナタは―――」

 

ヒジャブで口元を隠した自分に掛けられたアリサからの言葉。恐らく舞弥の正体を察したのだろうアリサの疑問に答えずに―――。

 

脚を溜めて飛び立つ。

 

黒衣の暗殺者が闇夜を滑るように駆けていく―――その両脇に、二人の少女を抱えながらもその速度は変わらなかった……。

 

Interlude out……。

 

 

「成程、そんな経緯でやってきたのか」

 

「ぐぬぬ! いたいけでめっちゃぷりてぃきゅーとなJCを縛り上げるだなんて遠坂刹那はヘーンターイダー!!!」

 

おのれは小学生か。と言わんばかりに古典的なことをやる茉莉花に頬を引き攣らせながらも、同じくちょっとした戦闘のあとに拘束したアサシンと遠上遼介の近くに行く。

 

「まぁこの通りだったな。アンタが何を望んでいるのかは分からないが、暫く俺はここでの戦いに集中せにゃならないんだ」

 

「―――――実力差があるから抵抗をやめろと言うのか?」

 

「いいや、俺とサシで戦いたいというのならば、もう少し『成長』(進化)してからにしてくれやという話さ。俺と戦うにはアンタは手札が少ない。持ち札の数字が低すぎる―――そこを埋めるためにも、暫くは九校戦での戦いを見てくれ。ついでに言えばウェイバー先生でもライネス先生でもいいから聞いておけ」

 

「……自分を倒すかもしれない相手を育てようというのか?」

 

疑わしい眼でこちらを見上げるは、同じく拘束された遠上遼介。

 

牢屋をぶち壊したアサシンによって自由の身となった彼が真っ先に挑んできたのが刹那だったわけだが……。

 

ご自慢のステゴロ(素手喧嘩)であっても、自分に通用しないことに、かなり悔しげだったようだが―――。

 

「安心しろ。アンタみたいに家族を捨ててまで得ようとした強さはしょせん砂の城。そんなものが俺に通じるものか」

 

―――刹那からすれば自明の理だった。

 

「我が夫よ。ギアスで縛り上げていいんですね?」

「ああ、頼むよモルちゃん」

 

踵を返しながら、壊された壁などを直しつつモルガンには、アサシンと遠上遼介の方を任せることにした。

 

「望んだ戦いと言うには少々、手狭だったかもしれないが……盛大に負けたものだなリョウスケ」

 

「君が虫の使い魔なんてものを盛大に解き放ったからだろ。アレでモルガン陛下の悋気はマックス!!

この軍事基地が爆散していないだけ儲けものだ!」

 

それぐらい危機一髪の瞬間であったのだ。酸欠に至らせず虫を駆逐した刹那の炎は大助かりであった。

 

「だが、アリサもマリカもお前を助けたい一心だった。そして私もこういう公的な場所を襲えば現代社会で権力を持たないものがどうなるかぐらい分かる……二人に逃亡生活をさせたくなかったのだ」

 

その結論として証拠隠滅よろしく基地爆散を画策するのは、アサシンとして如何なものかと傍から聞いている面子の大半は汗を拭いながら思っていたが……。

 

「―――……」

 

「遼介さん」

 

「お兄……」

 

アサシンの放った『事実』という短刀に対して、遠上遼介は沈黙を受けるだけであった。

 

そんな風な顛末を持ちながらも、最終的には遠上遼介は無罪放免とまではいかないが。

 

とりあえず『基地の敷地内への不法侵入』というだけではこれ以上は拘束しきれず、さりとて『物的な損害』や『工作活動』がない以上、サーヴァントによる戦闘跡など罪状として上げられず……。

 

 

「結局、魔法科生徒の親族たちと同じホテルに部屋を取ったわけか」

 

一夜明けて、ホテルで朝食を取りつつ対面にいる達也と話すことに―――。

 

「どうやら『上』の方で何かあったらしいからな。FEHRなる外国の魔法師の団体ともあまり揉めたくないんだろう」

 

達也の言葉を虚言とも思えんが、一応はそれで良しとしておいた。その辺りは刹那が関わる領分ではないのだから。

 

「ならば、あとは兄妹同士の話だな。あの三人はお前と深雪とは違った兄妹の形だからな。―――ただ三人分でお前たち兄妹の関係を補完している」

 

結論がどういうものになるかは、当人たち次第ということだ。

 

「―――言われてみればそうか。いや、待て。それだとアリサちゃんの思慕を伴ったものすら深雪は持っているという背徳的なものを肯定しかねないからYAMERO!」

 

そんな刹那の出した結論に噛み付く達也。それに対して特に言わずに刹那はジョッキに入れられた牛乳を飲み干して完全覚醒を果たす。

 

「……俺としては、遠上遼介氏と刹那が話すことで、刹那のメンタルにダメージがあることを期待していたんだがな。見る限りでは普通だな」

 

「それなりにくさくさした思いはあったさ。俺はああいう『親不孝者』なんて、大っきらいだ」

 

少なくとも刹那の見立てでも遠上良太郎・遠上芹花夫婦―――遼介にとっての両親は毒親には見えなかった。

まぁ魔法と縁遠い生き方を多少は、子どもたちに強いていた面はあるが、それとて強烈なものではなかったはず。でなければ、あそこまで達者に『鎧』を展開出来るはずがない。

 

「親の金で食わせて、育ててもらってきたのに、それを何かの形で返すこともせずに、ワケ解んない思想や宗教にカブれるようなヤツ。俺が好意的になれるわけないだろ」

 

「そうだな……」

 

「安心しろ……ではなく警戒しろ。去年のような失態は二度も演じるかよ」

 

「残念だ」

 

達也が欲しかったのは、去年の一条将輝と戦った時のような刹那のナイーブな心情を刺激することでの不調だったのだが。

 

言葉だけならば、そうなのだが……。

 

(出来ることならば黒子乃との戦いでそういう一穴が出来てほしかったんだがな)

 

刹那の強さを信じるべきか、それとも強がりと見るべきか……達也は少しだけ思い悩みながらも―――

 

大会三日目の幕は開こうとしていた……。

 

 

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