魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
準決勝アイスピラーズ・ブレイク
それは男女同時に行われる九校戦の競技の中でも最大級に激しいものだ。
4つの場で交わされる魔法の猛り、そのエネルギーが最大の熱を生み出し、観客たちを熱狂させる。
どちらもファイナリストへと進むべく最大の力を発揮してくるのだから当然だ。
だが同時に悩ましい面も抱えている。
それは4つの試合が同時進行ゆえに、観客はどれを見たらばいいのかという話になるからだ。
当然、自校の応援があるという人ならば、例え男女で被っていたとしても若干は融通が利かせられる。
基本、男は男の応援。女は女の応援であるが……まぁその辺りは、色々であったりする。要は
「とはいえ決勝次第では偵察班役も必要なんですよね」
「ああ、ケントは一条と二三草の試合を頼む」
「お任せを」
映像記録機器と解析班として記録映像だけでは見えない自分たちが見た所感を伝えることも時には必要だ。
信頼する後輩を送り出してから、達也はテントの中で少しだけ考える。
(泉美には深雪と九島の試合……香澄は刹那と太助の試合……)
当然、壬生とシオンの試合にも偵察役は向かっている。偵察班であると同時に応援役でもあるのだが……。
(ここまでアイスピラーズにばかりかまけているが、シールダーファイト……盾打ちにはあまり人員を寄越していないよな)
別に応援役がいないわけではない。高得点競技だからこそ『つらら』に人が集中していた。
(エリカを見に行くか……)
そんな決意で達也は『シールダーファイト』のベスト4に残った親しい少女の姿を見に行くことにするのだった。
妹の試合を無視するという不義理……理解していても、それでも達也はエリカを見に行くことにするのだった。
シールダーファイト女子ソロ 準決勝。
シールダーファイトの基本的なルールは、派生元の競技であるシールド・ダウンと殆どは変わらない。
相手が持つ『盾』という器物を如何にして破壊するか、その一点に集中する。
細かなルールは、色々とあるが、それでも一つだけ重要な変更点がある。
それは『盾』がどのような状態に置かれるかである。
例えるならば、相手側が『盾』を攻撃させないために、ある種……隠し持つような。または姿勢を低くして、相手側に容易に遠距離魔法を撃たせないような態勢を取ったりということも考えられる。
もちろん近接攻撃において、シールドアタックが基本である以上、それは攻撃手段の放棄にも繋がりかねないが……。
それでも、盾という『ライフ』を破壊されないための行為としてはありである。
(これが柔道やボクシングなどであれば『積極性を疑われる行為』……バッドマナーとして減点などもあるのだが)
とはいえ、まぁそのことは蛇足である。
(最大の違いは、これがシールド・ダウンとは違って場外勝ちなどを許さない。かなり広いフィールドを使っての戦いだからだ)
押し相撲とも評されるシールド・ダウンとは違い、コートフィールドは広い。
(だからこそ激しい戦いになる)
中距離・近距離どちらを選択したとしても戦いはとてつもない。
そして『手持ちの盾』以外に、攻撃側が穿てる盾がある。
「アーマーのショルダーガード、その両サイドに着けられているラウンドシールド……」
これが2つ砕けても敗北となる以上、中距離・遠距離だけで決着とは成りえない。
当然、遠間からの攻撃を得手としている選手は、そちらの方がいいかもしれない。だが、一つでも砕ければ、砕かれた方は積極果敢に相手の盾を壊しにかかる。
先の例で言えば柔道で『有効』『技あり』を取った方が、ポイントで有利になるようなものだ。
それがこの競技のキモだ。
「ここまでは全員がそれぞれに様々な戦い方をしてきた……正直言えばハードすぎるからな」
接近戦で組み合おうとしても透かされてきた相手もいれば、強烈な接近戦技能で相手の懐に入り込んでのシールドブレイクもあった。
単に魔法力の強弱では決着が着かないその試合は『つらら』以上に白熱していた。
「ソード&ウィザーズが城を守る・城を攻略する『籠城戦』『攻城戦』ならば、シールダーファイトは、一兵卒、あるいは『英雄』『英傑』が己の技量を尽くして戦う『野戦』である」
そんな訳で―――バトルは白熱していた。
『チーム・エルメロイ 火神アンジェラのサイドシールドが破壊された!!! これで両者 1−1の五分、お互いがどう出るかは、分からない!!!』
「千葉先輩!!! ファイト!!!」
「エリカ!!! 相手はビビっているぞ!!!」
『『『『お嬢さん!!! ファイトォオオオ!!!』』』』
(そう言えば、こんな光景は前にも見たな……去年の九校戦でもこんな感じではあったよな)
あの時は、自分が担当したほのかが戦うので応援は出来なかったことを思い出しつつ、千葉組応援隊から離れたところで、それを見ておく。
エルメロイの火神アンジェラは最初は優勢を取っていたようだ。その名前が示す通りに放たれる火炎弾の乱舞を前にエリカは、接近戦を挑もうとしていた。
魔力放出と水を応用した鎧を『上乗せ』しながら剣士として恐るべき歩法を駆使したエリカだったが、火神の攻撃は、その動きを見切りエリカのサイドシールドに火炎弾が叩き込まれた。
(エリカは『右』よりも『左』の方が反応が悪い)
利き目でも見切ったのか鮮やかな攻撃が決まり、当然、火神としてはもう片肺を落とす。という気持ちが急いたのだろうか……。
そこに付け込んだエリカの高速移動が決まった。
相手の正面へと『突っ込む』ように見せかけて、その実、ベクトルは左側に傾けられていた。
火神からすれば直進していた砲弾―――視認できていたものが、いきなり直角に曲がったようなものだ。
そして、そこから先は盾に被せられていたエリカの『心念武装』が変化を果たし盾の表面に幾つもの
ここで有効を取られないためならば、持ち手の盾で防御―――する暇もなくサイドシールドが砕かれた。
(ここで火神は少し考えたのか、距離を取った。当然、エリカも追う構えだが…)
火神からすれば、自分がアレだけ火球を放ちまくってようやく取れたポイントを、一瞬で取り返されたようなものだ。
心の余裕は奪われた―――だが、そこで決戦を挑むのが粋な女の態度である。
『いいでしょう……このワタクシに最後のシャルジュを強要するならば、アナタの負けですよ!!』
『やってみせなさいよ! シュヴァリエ・ブリュレ!』
お互いに盾を前に出しての『バチバチ』のブチかましを強要し合う2人。
魔力放出の勢いがコートフィールドの土砂を巻き上げながらの高速の
炎を伴う魔力放出。
水を渦巻く魔力放出。
赤と青の正反対の女騎士の激突。盾と盾がぶつかるように互いの領域がぶつかり合う。領域干渉や
力任せに身体から放出したエネルギーが『テリトリー』として形成されているのだ。
(ここからどちらが均衡を破るか……)
最初に仕掛けたのは、火神アンジェラである。
更に上があったらしく火勢が増して、エリカを襲う。
「あれがアリュマージュ―――。ここまで多くの実力者を沈めてきた爆裂の魔法か」
空気を膨張させてある種の『空気弾』とした後に、それを着火させる魔法……。
あるものは口さがなく『キラー・クイーン』などと称するそれだが、爆発の圧を受けているエリカは溜まったものではないだろう。
「本来の用途は『ランス』などの大質量の刺突武器に応用させての攻撃なんだろうな」
しかし、得物違いの盾であっても威力は減じない。
(十三束にさせようとしたゼロ距離ブラストよりも高度だ)
そんな十三束 鋼は刹那がいい感じに『改造』しちゃってくれて達也は正直やることがなかった。
めんどくさいこと(起動式のアレンジ、CAD本体の改良)になるよりは良かったかもしれない。
結構、今回は達也もあれこれ駆り出されていっぱいいっぱいだったのだ。
そういうことにならなくて良かったと思いつつ、戦いの様子を見ると……。
(かめは○波の押し合いで何週間も持たせるなんてこともないからな……)
趨勢は定まりつつある。接近戦に至った時点で互いのサイドシールドは、背面に回る。アーマーに設定されている自動機構の一つなのだが……。
SAWにおける戦いのように手持ちのシールドに亀裂やひび割れが走る―――ダメージが入っているのは、エリカの方だ。
境界面で爆発を何発も食らっているのだ。当然、受け止める盾に物理的な破断が走る。
「―――」
受け止めるエリカの苦衷が分かる。だが、会場中が押し黙るほどに強烈な戦い。
当然、エリカも水流で対抗している……。同時に水鉄砲のようなものが叩き込まれている。
心念武装の変形である銃口が被せた盾から『生えてる』。押し合いが終わるのは盾が物理的な脆さを見せた時にだ。
(エリカ―――)
―― ばきばきっ! ひゅぎっ!!!――
強烈な破断の音が離れたこちらからでも聞こえるのは、達也が『音』を情報として精霊の眼で捉えているからだが。
その音の発生は……チーム・エルメロイ 火神アンジェラの盾から発生していた。
「そうか、 熱疲労。急速に熱された物質を冷やしたことで柔軟性を無くした物質は脆くなる……」
だがそれならば、エリカの方の盾にも影響は出ているはずだが……。
「―――何のことはないな」
よく見れば分かったことだ。水の薄膜のような鎧がエリカに纏わりついている。
魔力放出をする際に彼女はこの魔法の鎧を纏う……。その水がエリカの盾の破断を遅らせていた。
『風鋼水盾』……風と水の複合属性たる彼女の十八番を忘れていた。
(去年のボードでも、コレが勝利の一手になったんだよな。もしかして遠上茉莉花と話していたのは、それもあったのか?)
いや、そんな打算は殆ど、エリカにはない。ただ遠上という魔法家が体得していた鎧―――リアクティブアーマーに関して話が及んだのだろう。
あれこれ理由は着けられるが、エリカの方に運があったということだ。
破断する盾では押し相撲に負けてしまう。破断する前に押し通したエリカに勝利は刻まれたのだ。
『WINNER! 一高 千葉エリカ!!!』
盾が砕け散りエリカのアタックの勢いで後方に吹き飛ばされた火神アンジェラ。だが―――。
『戦場において寝そべることはあり得ませんね!』
背中の傷は剣士の恥だと言わんばかりにすちゃっ!と立った火神は、べそべその顔のままでもエリカと手を合わせてその勝利を祝福するのであった。
(決勝はレティとの戦いか、男子もまたエルメロイの上田が吉祥寺との戦いに挑むわけか)
総合得点で言えば、今日でエルメロイの優位は覆せそうにない。
なんやかんやと高得点圏に選手を送り込めているのだから―――。頭の痛い限りであり……少しだけ羨ましさも覚えてくる。
「エリカの回復に関しては言峰とレオにまかせとけばいいだろうな」
何故か『聖骸布』で保護されたエリカを神腕で運ぶ副会頭の姿を見ながらも氷柱はどうなっているのか、それを気にする……。
だが、それは決して妹の勝敗を気にしてのものではなかった。
この九校戦の賞金首。賞金額が30億ベリー超えの男に関してである。
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(金色の群雲に影の沼か、随分と大仰なものを展開する……)
黒子乃太助という男……一高では何度か訓練はしてきた。だが、ここまでとんでもない術を使ってきたことは無かった。
(こんな術を隠していたとはな……)
おそらく、太助は刹那の戦い方をとことん研究していたのだ。
よく考えてみれば、それも当然かもしれない。
彼の所属は、自分のような跳ねっ返りをカウンターするためにあったのだ。
しかし、魔法実技訓練で術を交わすときには、いつも正面から向かってきて、
(俺と戦うときのために、用意していやがったな)
思わず笑みが溢れる。楽しいのだ。
展開した宝石は、黄金の群雲……上空に漂う
虚数魔術―――エーデルフェルトに預けられた叔母が得意手としていたものが、刹那の氷柱の境界を脅かそうとする。
真っ白な半紙に黒い墨で文字を描くように、それはやってくる。
ルーン転写を刻んだ陣を脅かそうとする黒い沼を前にして……。
(あれこれ考えてもどうしようもないな)
空属性の宝石で『解体』することも出来るかもしれないが……それは面白くない。
鉱石科のロード『カルマグリフ・メルアステア』のようにはいかないだろうし―――。
何より……。
「さて、どうやって僕の構築した陣形を崩しますか刹那くん?」
「12本の内の9本を崩されているってのに強気だな太助」
「ええ、君の焦燥を感じ取れる……。伝説の終焉を僕が打ち立てる……」
そいつは気が早すぎる。別に伝説であった気持ちはないが……それでも……。
「ここまで『がっちり』嵌められて、どうするというんですか?」
瞬間、全ての魔術刻印と魔術回路を最大露出するのであった。肩にあるべき神代刻印もまた最大展開。
つまりは――――。
「力尽くでだ!!! シャドーマスター!!!」
「―――それは望みの限り!! 力づくも嫌じゃない!!」
眼を輝かせ、鋭くさせながらその会話の応酬が一部の腐った趣味の人々(内訳 泉美、美月)を高揚させたが、本人たちは至極真面目であり……。
黒子乃太助が、顔を戒めながら術式の操作に集中する様子。カンのいいものたちは気づく。
刹那が『全力』で回路を解放したことで場が『圧迫』されているのだと気付ける。
「投影開始―――
引き抜いたアゾット剣ならぬアゾッ刀を『変化』させて、この世ならぬものを断ち切るのだった……。