魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第362話『魔法の宴 氷柱死闘編Ⅲ』

 

 

 

 作り出された霊刀は、幾何学的模様を幾重にも作り出し、実在の刀ではないというのに業物としての格を見るものに感じさせる。

 

(投影魔術の幻体……そういう規模じゃないな)

 

 その模様を描く線は、主に七色に輝く……赤もあれば青も、黄も、緑も……。

 あの剣は何なんだろうか……。

 

「だが、僕の影の沼……虚数空間(有るが無い)からの干渉は、切り裂けない!!!」

 

 疑問は覚えども、太助の影の沼は刹那の氷柱の陣を脅かす。さながら黒い濁流が川から溢れ出て全てを飲み込むように……。

 

この世(人理)にあらざるもの切り裂けぬもの(実なき虚)を切り裂くのが俺の剣製の秘術さっ!!」

 

 だが、そんな状況も刹那には脅威ではない。

 薙ぎ払いの一撃。

 心得のない素人よりはややマシという程度の剣戟だが、それでも意を込めて払った一撃は、濁流の先端に食いつき、押しのけていく。

 

 範囲攻撃である影の沼の流れに対して堤防(つつみ)のように、範囲攻撃がその進行を防ぐ。

 

 やはり対策はされると分かっていた太助は、特に思うところもなく次撃を放つ。金色の群雲……出来上がった魔法の産物から落雷を降り注がせる。

 

 氷柱を真上から直撃するはずだったその魔法が、再び一閃した剣で、落雷が散らされる。

 

(アンチ・ライトニングの術式もあるのか……? いや、違う………)

 

 考えないようにしても、どうしても考えてしまうのはそれだけ遠坂刹那が脅威だからだ。強いからだ。

 この男こそが自分たち世代を代表する術者の一人だ。それと相対するだけで緊張をする。

 

 だからこそ、その離れたところから放たれている連続斬撃が、既に詰みを生んでいることなど分かっていなかった。

 

「なっ!?」

 

 生き残っていた氷柱の内の一本が砕けたのを認識する。どういう攻撃なのか!? 

 

「―――影の沼に『川』を引いたのか!?」

 

 蟠る影の沼に『何筋もの路線(ながれ)』が出来上がっておりそれが、太助の陣まで『チカラ』を届けていた。

 

 光り輝く赤と青の幻想的な色を魅せる川の路線(ながれ)は、影の沼を左右に拡張しながら、氷柱へと流れを届かせていたのだ。

 

 影の沼の進行を防いでいたわけではない。どうやって攻撃するかを刹那は考えていたのだ。

 

 虚数領域に浸された空間というのは一種の異界へとなることを刹那は良く知っていた。流石に原理血戒(原液)持ち連中のそれとは違うだろうが、そこに攻撃を通すことはかなり難儀なのだ。

 

 しかも太助の攻撃の起点は彼の自陣から湧き出ているのだ。

 

 ならば―――。

 

(影の沼に(ロード)を刻み、そこからチカラを繋げていったのさ)

 

 情報体に現象改変を強制するだけの現代魔法の使い手ならば、詰みだったろうが……。

 

(通せぬはずの『神秘』と『無理』『無茶』『無謀』を通してきたエルメロイ教室を舐めるなよ)

 

「影の沼が―――引きずられる!!! 金色の群雲も!!!!」

 

気象天候操作系統(ウェザーニューズ)の術と虚数のコンボは中々だったがな。それならば、現実の自然災害と照応させるべきだったな!!」

 

 群雲から『雨滴』もあれば、こちらも本当に難儀したろうよ。と内心でのみ言いながら刀を握りしめながら詠唱すると赤と青の川が渦巻く。

 

 全てのチカラを吸い込む二重螺旋が出来上がり―――。

 

「―――ロンゴミニアド・フェイク!?」

 

 誰かが上げた疑問の声であり正解の言葉。

 

 それらが太助の生き残った氷柱を全て砕く。まるで回転する蛇の噛み砕き(スクリューバイト)のごときものが襲いかかるような様子。

 

 それを前にファイナリストの1人が決まり―――他の競技場でも最終の攻防が始まる。

 

 ・

 ・

 ・

 

 閃光と閃光が交わされる。そしてお互いに躱される。

 

 その一方で、気付かれず放っていた『空気打ち』の剣戟が、シオン・エルトナムの氷柱を砕いた。

 

(―――分かっていたことだ)

 

 彼女のスペックは分かっていた。サヤカ・ミブという少女が魔法師としてそこまで『優秀』でないということは……。

 

 だが、それは『本来の運命』での彼女の有り様。刹那という特級の触媒(キャタリスト)が、様々な改変をこの世界に与えた。

 

 だから剣からビームを放つなどという現象も剣という杖を用いた共鳴破壊という現象も……当たり前になっている。

 

「決して侮っていたわけではない。ですが違った……私の相手は『アナタ』であったのに!!」

 

「やれやれ、別に剣道部でもない後輩相手に言いたくはなかったんだけど、ようやく『こっち』を見たのね」

 

 言いながらも焦れるような攻防は続く。ビームを撃ち合いながらもそれを防御術で防ぎ続ける。しかし熱量の限界ゆえにかお互いの氷柱に溶解が出てきた。

 

 まるでお互いに理解をしているかのように、千の言葉を交わすよりも速く、打ち合う魔法が全てを語るのだ。

 

「アナタの向こう側にいるチアキだけを私は見てしまっていた……なんたる傲慢、なんたる意識の欠如……!!」

 

「まぁそんなところだろうとは思っていたわ。けれど知ったならばやることは一つでしょ? シオンさん」

 

 エジプトに生きる貴族として、かつてのアメン・ラーの神官時代から無礼をしてしまったがゆえの返礼は心得ている。

 

「ええ、ここで私の最秘奥を放つ!! ここまでの無礼の返上をさせてもらう!! 受け止めさせてもらいますよサヤカさん!!!」

 

 言うやいなや、お互いに攻撃の手を止ませる。無粋な声は出ない。両者ともに深い集中に入ったことを伺わせる物音一つすら誰もが立てないほどに見入る領域の姿。

 

 その中で音が聞こえてくる。お互いの回路が『振動』を立てているのだ。血流よりも早くチカラが外界と繋がる。

 

「―――渦巻く雲より舞い降りし一柱、其の御手は万物裁断の鎌刃、謡え(さけべ)! 汝、暴食の化身の如く! 無限の水晶を以て星の滅びを廻せ!!!」

 

「―――スヴィアブレイク―――」

 

 長い詠唱(テンカウント)と共に糸で形作られるワ■・ラ■■ア■ス・■■グの儀体。

 短い詠唱で幾重にも整列を果たす大・中・小の魔法陣。もはや円状の森である。

 

「―――スライダァアアアアア!!!!」

「レプリカント・ウォーキュリー!!!」

 

 お互いの攻撃準備は済み、何を言うでもなく最大攻撃と最大防御とがぶつかり合う。

 

 何も言わず会場中の全員がサングラスをして耐閃光防御をしてそのぶつかり合いの結果を見る。

 

 風属性の限度を超えたレーザービームの雨あられ。もはや宇宙戦艦か……いや寧ろ波動砲艦隊かと言わんばかりのビームの圧を前に『蜘蛛の儀体』は、防御しながら進む。

 

(流石は究極の一の偽身……操るだけでも、とんでもない感覚だ)

 

 巨大宇宙人に対して立ち向かうべきは光の巨人ではあるが……こういう風なこともありえるのかも知れない。

 

 そもそもアトラスは、『蜘蛛』を殺すために『波動砲艦隊でも作ろうか』などと考えるのもいたとかなんとか……基本、研究成果を公表しないアトラスで、そうなる(既知の事実)ということは結構大掛かりなプロジェクトだったのではないかとか……。

 

 そんなことは兎も角……蜘蛛の進撃に対して、壬生紗耶香の攻撃はといえば……。

 

(はっきり言おう。痛すぎる……!!!)

 

 エーテライトはその特性上、様々なものを感じ取れる。霊子ハッカーとは、その辺りに由来するのだが……。

 

 完璧すぎる身体を再現したがゆえに、その攻撃は『通じない』『最硬防御』として封殺出来ると思ったのだが……。

 

(考えてみれば刹那は、『脱皮殻』を手に入れただけと言っていましたからね)

 

 それでも押し負けるということは、単純に壬生が『揺るぎない』(強い)のだ。水晶の柱へと変質させた氷柱が砕けていく。

 

 負けじと蜘蛛の糸というには凶悪すぎるものが吐き出されるも、壬生の波動砲は絶え間ない『閃光』(フラッシュ)のごとく続き、そして……お互いにとんでもない攻防の末に―――勝敗は刻まれた。

 

アルビオンの竜(九島ヒカル)との戦いで使うはずだったものを使わされた……だが、全力を以て戦ったのです……」

 

 ―――悔いなど無い。

 

 疲労の果て、高台に倒れ込む壬生。

 眩しくも輝ける太陽を仰ぐシオン。

 

 勝った方は最後の方まで気を抜けない。一瞬のミスすら敗着の一手に変わるかもしれない……読み違えることがないよう……張り詰め続ける。

 

 反対に負けを悟った側は、心を整理してゆく。

 敗戦の弁を吐くわけではないが、己の中身をもう一度積み直すためにも……。

 

 結果として、勝った方は脱力の限りで崩れ落ち、負けた方は少しだけ悔しさのままに受け入れる。

 

 そういうものだ……そして―――。

 

「面白おかしいコスプレしていると思いきや、ハイ・サーヴァントの霊衣。ボクと体重(weight)で競えるアルターエゴ・メルトリリスか」

 

「面白おかしいだと!? このハイセンス極まるペンギンスーツの良さが分からないだなんて! この野蛮なドラゴン娘め!」

 

「言ってくれるねぇ。まぁ事実だからしょうがないけど」

 

 言い合いながらも戦い激しくなる……。

 

 そんな様子を見ながらも、違うことを考える謀略家が存在していた……。

 

「ではアサシン・フェイクは既にマスターである男を奪還したのか?」

「そう聞き及んでおります。もっとも、どうやら遠坂にギアスを掛けられて、自由の身ではない様子ですが」

 

 その言葉に鼻を鳴らすは、一人の大男だ。

 大男にそれらを伝えた優男は現在は隻腕の身でありながらも、器用にセイロンティーを優雅に飲んでいたりする。

 

「あの横浜での戦いでは然程交流は無かったがな。この際だからはっきり言っておくぞ」

「はい?」

 

 いきなりな開口に、セイロンティーを飲む男は、少しだけ驚きながらも大男から位置関係上、見下ろすようにされながら言われる。

 

(チョウ)道士、貴公の許せん所は、自分以上に能力の高い者はいないと高を括って、人を動かしているつもりでいることだ」

「………」

「今は貴公の『仲介』と『手助け』を受けて生きながらえている俺だが、いずれ、お前のような蝙蝠は食い殺してくれるぞっ……あまりヒトを馬鹿にするな」

 

 その言葉を受けて優男―――周と呼ばれたものは……。

 

「―――令努努魂身肝銘(ゆめゆめ肝に銘じておきましょう)。それより奥方様が呼んでおりますよ。『ルオフー』さん?」

「……」

 

 そんな返しをした後には、少し遠くの方で呼んでいる美女の招きに応じて、『20代ほどの青年』は向こうに行くのだった。

 

 にこやかな笑顔を崩さない周は確かにそう感じられてもしょうがないのだが……。

 

(友人の一人もいない私ではサーヴァントと契約することは無理ということか……)

 

 結局の所、打算と計略だけで『永らく生きてきた』周はある意味ではこの世界でとても孤独な存在であった。

 

 だが、それだけが自分の『存在意義』だと理解していた。計略・謀略・奇計・奸計……呼び方は何でもいい。マキャベリズムの限りを尽くすことこそが、自分―――周公瑾なのだから。

 

 そんな自分の『起源』に囚われた―――魔術世界では起源覚醒者と呼ぶべき存在は、『若虎』との後の面談相手を待っていた。

 

「お待たせしました―――」

「いえ、ご多忙の所。私の要望に応えていただきありがとうございます」

 

 周が待ち望んでいた相手は、この極東においてはあまり馴染みがないが、欧州圏……あるいはユーラシアにおける魔法師の中でも知る人ぞ知る『トップ』であった。

 

「その腕では立ち上がるのもお辛いでしょう。お掛けになったままで結構ですよ」

 

 そんな訳で周も立ち上がり礼をしようとしたところに、機先を制するように『手』で、そっ、と椅子に戻されてしまうのだった。

 

 美麗の青年……その容貌は20代の青年のようだが、彼の実年齢は、実は周の師匠と殆ど変わらないはずなのだ。

 

「ではお話を伺いましょうチョウさん」

「ありがとうございます。マスター・■■■……」

 

 短めに切られて伸びている赤毛の持ち主も椅子を引いて、そこに掛けるのだった。

 

「有意義なお話をお願いしますよ」

「―――では、あなた方の悲願に関してです……」

 

 ムダな時間にさせないでくれと脅すように聞こえた

 周は緊張を出さないように苦労しながらも、口を開くのであった。

 

「ある『魔法科高校の生徒』について話が……」

 

 世界の分かれ道が再び広がる―――。

 

 

 

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