魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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冒険に『ヤツ』と『ヤツ』が出やがった。

かつては朱月さんのイメージで髭を生やしたナイスミドルでダンディズムな起業経営者イメージだったのだが、こっちかぁ。

そしてヤツは……まぁ通常通り。全方位にモテモテですねぇ(爆)

というわけで新話お送りします


第363話『魔法の宴 氷柱死闘編Ⅳ』

 

 

 

作り出した巨大な氷柱というよりもサスツルギのような氷の刃をいくつも飛ばして、巨竜の防御を崩さんと深雪は踏ん張る。

 

しかし、九島ヒカルには『ゆらぎ』一つ発生しないのだ。

だが、だからといって現代魔法でと思っても、それを許さない。

 

「地力で勝てないからとメルトリリスのチカラを借り受けたとしても、ボクには勝てないね!」

 

「ナマイキ!! この最強生物!! 私の波で吹き飛ばす!!」

 

言いながらも深雪は側にいたペンギンたちと一緒に高台で舞うようにしてから『水』を湧き上がらせる。

下のフィールドが水で満たされていく。そのダンスに誰もが魅了されている中でもヒカルは、厄介なことをされた気分だ。

 

(フィールドを水没させる気か?)

 

自分も相手の陣も関係なく満たされていく魔力の水。だが、とにもかくにも攻撃である。

 

(水を利用させてもらおうか!)

 

ヒカルには現代魔法などのような『七面倒臭い』術式は必要としない。

自分にとって必要ならば、必要な場所に必要なものを出すことが出来る。それだけの『力』と『頭脳』がある。

 

ゆえに―――。

 

満たされていく水に干渉。

 

―――目標、魔術境界、補足。

―――真名、偽装展開。

 

「清廉たる湖面、月光を還す! 降り注げ!!

『今は知らず、無垢なる湖光』(イノセンス・アロンダイト)!!」

 

言葉と同時に水の塊が、今の時代には失われた業物の剣を模した形として幾つも浮かび上がる。

 

昨年に続き、銀髪の術者はこんなことばかりするのかと皮肉が出てきたが、状況は良くない。

 

作り出された剣はアロンダイトの投影品のようなもの。水で出来ただけに当たり前だが透明な液状の剣だが―――。

 

(内部で高圧水流が絶えず回転している水の剣!)

 

常人にはただの被造物にしか見えないが、見抜いた人間は驚愕する。

そんなものが、氷柱と接触すれば―――。

 

砕け散る。砕け散る。砕け散る。

 

寸前で深雪も対抗術で、その水の剣をどうにかしようと防御したのだが……。

 

(完全に逆王手を掛けられたな……)

 

達也としても、こればかりは読みきれなかった。

 

最初は九島ヒカルの疑似サーヴァントとしての力は脅威でも、混戦というかこちらのフィールドに引きずり込めばどうにかなると考えていたのだが……。

 

「あちらの雷霆術を封じるだけの場を作れば、深雪のニヴルヘイムも通じさせることも出来ると踏んだんだが……」

 

勿論、深雪も必死に攻撃している。水中を進むパラディオンの槍(レーザーランス)は、九島ヒカルの氷柱にヒットして破壊している。

 

だが、それを逸らすかのように、九島ヒカルは満たされた水を盛大に使い、剣を作り……その際に発生する揺らぎ、水の動きが深雪の攻撃を逸していく。

 

「仮にもしも深雪に大海を凍結させるだけの力があったとしても、強烈な存在が『感覚』を広げれば、それは強烈な防壁となる……」

 

まるでプロスイーパーが極寒の海から氷の大陸(南極)に揚がり、そこで深い穴を彫り、捕らえたペンギンを様々に利用して生き残ったように……。

 

九島ヒカルはそういう存在だ……。

 

(深雪、お前が俺を輝かせようと奮闘するのは、嬉しいが……それでも俺ではお前を勝利に導けなかった)

 

だが、自分(たつや)では手の打ちようがなかった。九島ヒカルという少女のスペックは、三高女子一色翠子のムスペルヘイムを無効化した時点で、深雪の十八番(おはこ)たるニブルヘイムが効かないことは分かっていた。

 

「他に手の打ちようがなかったからな……だが落ち込む必要はないぞ深雪……」

 

聞こえていないと分かっていても、観客席の外れから慰めるように言う達也。

 

もはや深雪はヘロヘロだ。流れ出る汗は色香よりも悲壮さを彩るものでしかないし、焦る表情もそれしか匂わせない。

 

一高の女子エースが、

十師族の系譜が、

四葉の最強魔法師が、

―――只者の魔法師も同然にやられてしまったのだ。

 

「このワンサイドゲームはお前のせいじゃない。刹那と近くにいて話して、どれだけ理解を深めたつもりでもいまだ分からない、計り知ることの出来ない英霊の力……。

境界記録帯(ゴーストライナー)という魔法師以上の存在がしでかした事故なんだからな……」

 

言いながらも虚ろな結論ではある。だが、それでも使い魔ペンギン達のフォローありでの特大のパラディオンが、九島ヒカルの氷柱を三本砕き、それと同時に深雪の12本目の氷柱が剣によって砕け散った……。

 

 

「男子の方は黒子乃の体調次第だが……やれるか?」

 

会頭である服部の言葉に対して座って黒糖飴を口に入れていた黒子乃は平坦に言う。

 

「決して絶好調ではないですが、問題なく。流石に三位ぐらいは取っておかないとマズイでしょ?」

 

「それは君の体調次第だ。ドクターチェックを入れるよ」

 

そんな太助の決意も九校戦全体のドクターであるロマン先生からの検査次第ではある。瞳孔の肥大・拡散、軽い血液チェック―――そして何よりサイオンなどのアレコレから。

 

「まぁ問題ないだろう。流石に大規模術を使った影響はあるが、それぐらいは許容範囲だ」

 

ドクターストップがかかるほどではないと言われて全員が胸をなでおろす。酷い話だが3位のポイントを得るためにも気張ってほしいのだ。

 

「黒子乃はいいんですよ!! 壬生は! 紗耶香はどうなんですか!?」

 

何故か達也の身体をぐいっ!と押しのけてやってきた桐原の言葉に対してロマン先生は。

 

「そちらも問題はないよ。桐原」

 

その優しげな笑顔と言葉に誰よりも胸をなでおろす桐原。その様子は、妻を案じる夫のようだ。

そんな蛇足を思いながらも戦う前の問題としては……。

 

「千葉の方も決勝に出れる。問題は……」

「深雪ですか」

 

消去法からいって実妹しか無いのだが、それでも一応は尋ねると、頷くロマン先生。

 

「決して魔法行使に問題があるわけではない。だが、無理無茶させていいものじゃないね」

 

その言葉に試合後の深雪の様子を思い出した全員が思い悩む。

 

「しかし、それは今後のことを考えての僕の検診の所見だ。別にここが無理すべきところ『決戦の日』じゃないんだ」

 

「ちなみに本人は?」

 

「出ると言って聞かないよ」

 

それならば―――。

 

「本人のやりたいようにさせましょう」

 

「仮に彼女が出ない(不出場)と言ったらば?」

 

「出ろといってケツを蹴って立たせます」

 

鬼のような兄! 一年の時とは違い、実妹に厳しくなった司波達也。演技かもしれないが、それでもその言葉は本気と書いてマジと読ませるものを感じさせた。

 

「上級生である壬生先輩だって倒れ込むほどの戦いを以て決勝戦に進んだんです。下級生である深雪…一高の副会長を務めている人間が、戦いから逃げるなんて無責任は許されないんですよ」

 

前言撤回。どうやらマジのようだった。

 

「医者の立場としては悩ましい話だね……だが、このままいけば壬生もアルビオンの竜の餌食だ」

 

「それは一高教師としてのアドバイスなんですか?」

 

「そうだね。少し判官贔屓な所はあるかもしれないが……このまま最上級生たる壬生が、敗北するかもしれないならば、ね」

 

今の一高にとって壬生紗耶香という少女は色んな意味で象徴なのだ。彼女がいたからこそ、今まで『旅路の先』を見れていなかったヒトは前を向けた。

 

刹那が言っていた言葉……。

 

―――誰に笑われたっていいさ。

―――笑われても何度でもやってやる。

―――それが出発点からでもな。

 

その言葉を象徴する魔法剣士なのだ……。

 

だが、今の一高に刹那はいない。あの時にリズリーリエとの決勝で一矢報いることが出来たというのに……。

 

「確かに刹那との『コラボ』は無理だ。これは確実に委員会から目を着けられる案件だからね」

 

「その通りです……」

 

悔しいことにそうだったのだ。突きつけられた事実を前に思い悩む。

 

「おまけに当の刹那も遂に一条の出してきた『秘策』を前に、どうしたものかと思い悩んでいるだろう。それでも頼めば何かを出来るかもしれないが……この際だ。君たちは『先生』を頼るべきだよ」

 

その言葉に全員が誰のことやら……と考えて、まさか現在、深雪と壬生のメンタルバランスや女性としての身だしなみをアレコレやっている真夜では、本格的な対策は出来ない。

 

となれば……。

 

「来てくれますかね?」

 

()は自分の生徒を見捨てることはしないさ。それに刹那と一条将輝の戦いは刹那の方で何とか捻り出すだろうしね」

 

ロマンの言葉を受けて、達也は即座にコールを出す。力を貸してくれるだろうか? そんな不安を覚えつつも……、壬生先輩が勝つためにはやはり……誰かの手助け……チートが必要なのだ。

 

「―――ウェイバー先生、手助けしてくれませんか?」

 

『分かった。ミス・ミブに関してだな。すぐに向かおう』

 

「―――いいんですか?」

 

『君がヘルプを出したんだろ。それにこのままあのドラゴン娘に独走をされるのは、流石に魔術関係者としても少々苦いのでね……それとミブ君は構わないのかね?』

 

そう言えば壬生紗耶香の方の意思確認はまだだったな。と思った達也だったが……いつの間にか室内に入ってきた壬生は強く頷くのだった。

 

事情は既に伝わっているようだ。

 

「―――大丈夫です。お願いします」

 

その様子を見てから再度の助力要請を出すのであった。

 

『委細承知した。では今から言うものをなるたけ用意しておくように―――』

 

これが刹那ならば口頭だけだったが、エルメロイ先生は、端末側にも情報を送信している。

 

口頭と文字の2つの言語でそれらを伝える先生に感謝しつつも、刹那はどんな調子なのかと少しだけ考える達也なのだった。

 

 

 

「こいつは難儀するなぁ」

 

「そうなんですか?」

 

「力押しで勝とうとすれば勝てるかもしれないが、まぁ宝石を少しだけ『変化』させておくか」

 

「宝具を使えば勝てそうですけどね」

 

「そこまでしたくはないが、疑似宝具を使うぐらいはするかもしれないな」

 

サポーターである刹晶院の言葉に返しながらも、厄介なものを持ってきたものだと思う。

 

まぁ去年は自分もモノリスでかなり大人げないものを使っていたから因果応報とも言えるかも知れないが……。

 

(短弓ぐらいは登録しても大丈夫だろう。黒薔薇の海鳴騎士ナルーセルとの戦いでも問題なかったのだし)

 

別に将輝をナメているわけではない。ただ、その術式の『先』があることを教えることも必要なのだから……。

 

(その上で勝利できるだろうからな)

 

自分にとっての投影魔術とは魂の鍛造なのだから―――。

 

「肚は決まりましたか?」

 

刹晶院の言葉に言うことなど決まりきっている。

 

「当然だ。俺は一条将輝を倒す。レティはエリカに負けんなよ」

 

「モンジョワ! 勝利をチーム・エルメロイに!!」

 

「タケシも吉祥寺に負けるなよ。アイツはとある英霊に憑依されているがお前の鋼も負けちゃいないんだからな」

 

「おっと、今まで勝利の希求は二の次だったキャプテンから発破かけられたな。こりゃ気合い入れさせてもらおう」

 

「三位決定戦も出来ることならば取ってくれりゃ嬉しいね」

 

「ダコール!! 当然、取れるものは取っていくよ!」

 

「君との戦いは叶わなかったが……エルメロイの一員として奮起する場面だな」

 

「私は少々旗色悪いですが……まぁ踏ん張らせてもらいますよ」

 

これから出場する選手全員に発破をかけておいたが、こういうのはガラじゃないなぁとか考えてしまう。だが、自分がキャプテンを務めて何より……。

 

(まぁ貯金はあった方がいいだろうさ)

 

後続の一年たちが、楽に戦うためならばそれぐらいは必要なのだから……。

 

(元の学校の後輩たちには悪いが、少々エルメロイの進撃で苦労してもらうぜ)

 

そんな心で今日の最後の戦いの場所へと赴くのであった……。

 

 

 

 

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