魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
『ほぅ。中々に刹那の行動を予測した攻撃だな』
『ルーンピラーは、喉に刺さった魚の小骨も同然。ただ、ここを起点に攻撃を展開するには少しばかりムリがあったな』
『やっぱり、爆裂を起点にして闘うべきでしたかね?』
『そうだな。ただ、それだともはや勝負は着いていただろうからな。本人の資質・性格と考案した戦術がミスマッチだった』
結論としては、遠坂刹那は一条将輝にとって相性が悪い敵だということだ。
本人にとっては忸怩たる思いばかり覚えるかもしれないが、魔術の世界だけでなくともあらゆる分野で、そういう相手というのはいるのだ。
そして刹那の資質はS級だ。時計塔では長じれば冠位にも届くのではないかと思っていた。その前に母親が継承できなかった『魔法使い』の『地位』を宿すのではないかと囁かれていたが。
(その前に魔法使いが、この世界に飛ばしたからな……)
そしてやったことは『集めた神秘』を秘蔵するのではなくて『再分配』することだった。
魔術時代の最後に現れた
そうしていると、刹那の『獣弾』……その中でも強烈な『蛇弾』が放たれて、上空からの爆撃へとなる。
『七頭の蛇。照応させたのは『七頭の戦鎚シタ』だな』
『イシュタルが生まれた時から手にしていたと言われている、七蛇を模った戦鎚か。しかし、決めきれなかったな』
Ⅱ世とライネスの会話。本来ならば、それで終わりだったのだろうと予測される内容だ。
ただ在るだけで敵を討ち滅ぼすと言われるその戦鎚を、振るった時に万物万象が砕け散る……。
まぁ『本物』なわけもなく『矢』にした時点で、少々グレードダウンなのかもしれない。一条将輝の陣には残り2本の氷柱……とはいうが、いつ
ここまで来れば
(刹那、安全策を取って神殿で守りに入ったらば許さんぞ)
ウェイバーには絶対にできない
変化球での逃げなど許さない。頭の悪いど真ん中ストレートで相手をねじ伏せてこそ、この戦いには意味があるのだ。
一条将輝が選択した黄金爆光―――ロンゴミニアドのミニサイズ版のごときものの連発に対して刹那が選んだものは―――。
「グガランナ・ストライク・エクスパンション!!!」
神牛の蹄によるスタンプ―――真正面に対してのものであった。
実況解説を任されている身でありながら、小さくガッツポーズをしてしまうのは、チーム・エルメロイの教導役だからだろうか。それとも……。
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(自分では到達できない領域の戦いを見れるからだろうか)
解説席のウェイバーと同じような懊悩に陥っていた遠上遼介は、その戦いを見ながら……何故か疼くものを感じていた。
「グガランナ……シュメールの神牛というのは、神々ですら御しきれぬ兵器なのだ」
「その威容は正しく雲上の闘牛。鼻息一つですら雲形を一瞬にして吹き飛ばすもの……豪雷、暴風、暴雨、荒天……あらゆる天空の気象を動かす存在」
中東圏の英雄だろう
そんな風に想いながらも、一条将輝の黄金光とぶつかり合う天牛の蹄の圧は、暴嵐豪雷を纏いながら黄金の爆光を打ち破っていく。
その光景に既に会場はヒートアップ。現代魔法的な感覚では大味ではあるかもしれないが、それでも派手なぶつかり合い……己の中からチカラを捻り出すそれは、人の心を奮い立たせる。
「ちなみに言えば私が見たグガランナは、全長500kmを超える『暴虐の化身』ともいえる巨獣で、新大陸の巨大都市をあらゆる天候に関わる現象とともに蹂躙しながら、そこに集った名だたるサーヴァント・魔術師・代行者などを薙ぎ払っていたよ」
その中の一人に私もいるのだが。と付け加えた疲れ気味のマイヤの言葉の後に遼介の脳内にその戦いの様子……その激しさが映し出される―――。
遼介が若干『あっちの世界』にイッちゃってる間にも試合は動き続ける。
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黄金の爆光……ブリテンに刻んだアーサーの魔術基盤を応用したことは理解していた。
インデックスに登録することは無いが、エクスキャリバーというどこぞの『ブラッキー』がフルダイブMMOで使うような剣の名前だったりする。
それに相対する刹那が発動した術は、黄金の牛蹄であった。暴風雷轟を纏いながら発動する術を前に、エクスキャリバーとぶつかり合い相殺する。
真正面からの魔力攻撃の連続。
力と力
技と技
魂と魂
それらのぶつかり合いをその様子から感じるのだ。
だが、そこにこそ策謀があるのだが……。
(将輝…ここでルーンピラーを介して爆裂を叩き込んで―――欲しいんだけどなぁ……)
エルメロイ先生の解説を観客席から聞いていた吉祥寺真紅郎としては、悩ましい話だ。
こうして真正面から戦いを挑んだ時点で、将輝には力勝負で遠坂を下すしかなくなる。
ルーンピラーは力を発しているが、リソースの大半をエクスキャリバーに向けている以上、大規模術を発動することは出来ない。
(よく考えれば遠坂は、4月の新入生との勝負で使った恐るべき消滅術も使っていない……色々と考えるに戦上手すぎる。変化球も直球もアイツは達者すぎる……)
だからこそ『誰もがアイツと勝負したくなる』。
だが……。
「もうこうなれば、思う存分打ち合え―――!!! マサキ―――!!! 真正面から遠坂を打ち破って三高の魂を見せてくれ!!!!」
『『『『イッチジョウ! イッチジョウ! イチジョ―――!!!』』』』
三高から割れるようなコールが湧き上がる!!!
一条コールを受けながら一条将輝は、この声援に賭けても刹那を倒すと決める。
だが、刹那も必死である。曲がりなりにもロンゴミニアドのチカラの一端。一撃ごとに圧は感じる。
何より如何に真正面からの戦いとはいえ、一条には
だからこそ―――。
(全弾注ぎ込んでやる!!!)
決意、同時に宝石の魔力も付与されながらスタンプは加速する。
加速する圧、倍増する圧を前に一条将輝は圧されそうになる。
(明日は男女ペアでの戦いもあるってのに、余力すらつぎ込むつもりかよ!)
もしくは
(俺も司波さ……深雪さんとペアでの戦いが出来るならば良かったのに!!! くそっ!! 一高と三高との違いが―――)
「雑念だぜ!!!」
そんな将輝の思考の隙を見逃す刹那ではなかったわけで、生き残った氷柱の一本が、爆光の圧を退けてからルーンの防御を越えてスタンプで砕け散る。
『『『『バカ―――!!!!』』』』
『『『『司波深雪のことを考えたな―――!!!』』』』
一条コールの全てがいきなりなブーイングに変わる。しかも女子陣は見抜いちゃっているし。
そして一条の残存氷柱は―――。
『『『あと一本! あと一本!! あと一本!!!』』』
『『『『イッポン
エルメロイ方向の観客席から上がるコール。九校戦の係員が、そのコールをバッドマナーとして抑えようとするが、どうにも止まらない。
場内の歓声が大きく上がる!! その勢いを以て―――練り上げていた術を解放する。
いつの間にか牡牛の角のようなものが刹那の眼前に浮かび上がり。
ラピスラズリで出来たと思しき角から―――蒼輝の閃雷が放たれる。
どこからあれを持ってきたのか? 誰もが宝石で鍛造したと見た中。
『一条生徒のルーンピラーを!!!』
『奪ったのか!? いや魅了して『在り方』を変えたな!!!』
エルメロイ先生からの、端的な解説でありながら驚愕を覚えていると思しき言葉が全員の耳に届く。
そして、やられた一条将輝はそのグガランナ・ボルテックとでも言うべき閃雷から氷柱を守りながら反撃をするべく、魔法行使を密にしていく。
(逆に考えろ!! 守るべき点が一つになったのだからその分、防御のリソースが集中できる!!)
先程までは氷柱の間隔が離れすぎていたからこそ、手間であったのだが、今ならば防御に集中出来る。
そして将輝から奪ったルーンピラーは既に砕けている。触媒としての利用は一回が限度だったようだ。
その上で―――。
「負けるものかあああ!!!!」
意気を上げながらあらゆる魔法を発動させていく。それでもエイドス改変での相克が起こらない辺りは流石であったが。
「Die Zauber ist ein Spiegel ihrer Zeit.
Die Dinge haben sich zum Guten gewendet.
Laast uns in dieser Zeit viel Zauberer erschaffen.」
シメのための呪文口決が行われる。刹那の術式完成のために、魔術刻印は最大限に補助のための詠唱を行う。そして―――肩の刻印も展開。
血縁ではない他者刻印のせいかもしれないが、刹那の背後に万華鏡にも似たステンドグラスのようなものが展開される。
それを見た瞬間、会場内にいる三人の男女の中に言い知れぬ『なにか』を覚えさせたのだが、まぁそれはともかくとして、三種の魔術刻印による術の完成が一条将輝の氷柱へと向かう。
「将輝!!!! マックスガード!!!!」
凌げ! 凌ぎきれ!! という真紅郎の言葉に従い、防御にチカラを回す。コレほどの大魔術が呪文詠唱という手段で出来ることに恐ろしさを感じつつも、放たれたものは―――。
先程よりも
蒼雷と黄金の『神気』を纏った牛蹄を前に最後の抵抗を試みる。術で受けた瞬間、全身が痺れるような痛みで動けなくなりそうになるが、それでも必死に、抵抗を試み。そして反撃を―――。
砕ける氷柱―――2本。
最終的なスコアは5−0で、刹那の勝利。
チーム・エルメロイが優勝へとまた一歩、いや7歩ぐらい近づいた瞬間であった。
(このままだとマジック点灯するぐらいになってしまうかもしれない……いや、そうはさせないつもりだが)
大歓声を浴びている魔宝使いの狙いを防ぐためにも―――。
(壬生先輩! 頼みます!!)
達也の他力本願を受けたわけではないが―――控室の壬生の状態はトップになっていた。
「相変わらず派手な戦いだなぁ……」
「本当ですよね」
「けど、同時に羨ましいかな。彼には勝利が似合うわけだからね」
ジャイアント・キリングなど起こさせない。いや、そもそも十師族の長子を破っている時点でジャイアント・キリングなのだが、彼を見ているとどちらが巨人であるかすら分からなくなるのだ。
だが、彼と壬生は違う。
壬生は、この決勝戦に相応しくない『ただの魔法師』であったのだから。
(大久保さんも、こういう気持ちだったのかな……)
そろそろ卒業後の進路というものを考えつつある紗耶香にとって魔法を熟達する度に考えていることがある。
一高に入学する前の中学最後の剣道大会で自分と競った相手。そして、
(面をかぶれば、容姿なんてものは分からない。本当に実力勝負の世界であった。その世界で勝ったというのに、
全国2位だというのに、何を自分は思い上がっていたのだろう。そんな色んな人に持て囃されている自分を見ていた大久保 薫という同級生が、どんな気持ちだったのだろうか。
そんな他人の気持ちに最近は思い至れた。
それは自分が、この一高では下の立場にいたからだろうか、それとも魔導を極める度に、上り詰める度に何かを失っていく……いや、誰かを超える度に考えてしまうからだろうか。
答えは出ない。だが、分かることはある。
あの頃の自分は浅薄すぎた……。
(どうせ九島家の人間に勝てるなんて誰も思っちゃいないわよね。勝ったとしても私には何もない)
あの頃の大久保の心が分かるかもしれない。
勝利を得たとしても賞賛されないことの虚しさを。
その心を知るためにも、壬生は九島ヒカルを倒さなければならないのだ―――魔法科高校の劣等生として。
「さて、それじゃそろそろよね」
「はい。頑張ってきてくださいね先輩」
ただ……そんな後ろ暗い挑戦をする片方で、今回の九校戦にて自分のCAD及び
そして、ドラゴンガールとサムライガールの戦いは始まろうとしていた。