魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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本当だったら今話で、女子決勝は終わる予定だったのだが、色々と筆が乗りすぎた。




第368話『魔法の宴 氷柱死闘編 女子決勝Ⅱ』

 

 

 

相対する敵は強大だとか言うレベルではない。

強敵などという単純な言葉では表せない。

 

高くそびえる山のごとし、だ。

 

そして―――山の頂を巣とするドラゴンが目の前にいた。

 

『成程、飛ぶ剣戟で僕のドラゴンブレスを切り裂こうということか。随分と不器用な限りだが―――嫌いじゃない。けどね―――それならば砲門の数を増やすだけさ!!』

 

絶え間なく魔法の剣戟を放ちながらも、チカラを練っていたヒカルが動き出す。

 

『誰が呼んだか分からないが、喰らうがいいさ!! ゲート・オブ・アルビオン!!』

 

虚空にゆらぎを発生させ、複雑極まる魔法陣が描かれ中心部から幾つものレーザーブレスが飛んでくる。

どういう原理なのかはわからないが、それでも飛び来るレーザーブレスを前に双『大』剣と壬生の動きは絶え間ない。

 

防戦一方の戦い。だが、むしろその攻撃を勇気を持って応じている事自体が称賛に値する。

 

九島ヒカルのような力自慢の力持ち相手に対して退いて戦っては、自ずとソレ以上の追い詰められ方をしてしまう。

 

「刹那の九島ヒカル対策はある意味では正解ではあった。だが一発一発の攻撃が重いファイター相手に退くことは悪手だ」

 

「ピラーズのフィールドは、別に直接戦闘ではないということを差し引いても『狭い』。このリングにおいてありったけの術が押し合っているんだ。自ずと干渉力の強い術の方が『場』にダメージを蓄積させていく」

 

どれだけ相手の術の影響を洗い流したとしても、そこにある空気組成や残留魔力……何より氷柱というものにもそれらの微かな「(ひず)み」は堆積・蓄積していく。

 

「防御してしまえば、やはり防御しきったとしても影響は出てしまう。そんなことは当たり前なんだが、特級の力持ち相手に『防御』で凌いだとしても、最後には押し切られてしまう」

 

竜の息吹(ドラゴンブレス)は止めどなく紗耶香の陣を襲ってくるが、それを双大剣から放たれる神速の遠隔斬撃(スラッシャー)は、散らしていく。

 

時にはあり得ざる角度―――横合い(サイド)に展開した魔法陣、真上に展開して襲いかかる攻撃も『見えている』のか迎撃している。

 

「となれば、他のもので『防御』しきるしかない」

 

だが、その防御こそが決定的な『敗北』(おわり)を遠くしていく。

少しの汗を掻きながらも一高生徒の中でも精神統一(メディテーション)の深度が段違いな壬生の剣戟の練度は段違いだ。

 

「まさか、それが『相打ち戦法』の肝―――自分の『身体』で、魔法を受け止めているも同然ということですか!?」

 

「ああ、防御術では凌ぎきれない。ならば、その前に術を打ち消す―――もっとも、当たり前に壬生くんの負担は大きいな」

 

だが、それでも受け取る報酬は大きすぎる。

 

魔法陣が視えた段で斬撃が飛び、それを砕く時すらある。先の先という勝機を突いた結果。

 

それゆえかヒカルは少しだけ苛立っている様子である。その苛立ちがより攻撃を単調にしていき、壬生に優位をもたらして行く。

 

そんなエルメロイ兄妹の解説を試合を見つつ観客席から聞いていた刹那は、防御に関しても先生の担当だったかと思う。

しかし、ここまでは防御に関してだけ。防御だけでは戦いには勝てない。

 

「攻撃手段はドーするのカシラ? 確かに幾らかは、合間に攻撃したり、ヒカルの拡散レーザーの影響で自殺点ヨロシクも発生しているけど」

 

リーナの言う通り、SAWでのことと同じく己の『過大すぎる攻撃力』が反射とまでは言い過ぎだが、エネルギーの余波が幾つかの氷柱を相手にも自分に与えて――――

 

ヒカル 10−7 壬生

 

というスコアを与えていた。ある意味では健闘ではある。だが勝利するには一手足りない。

 

「壬生先輩の手がもう一対あればいいんだけどな」

 

レオの幻手よろしく阿修羅観音、刀八毘沙門天のような……その時に少しのインスピレーションが発生したが、その前に―――。

 

『ロンギヌス・ストライク!!!!』

『スヴィアスライダー!!!』

 

盛大なまでの打ち合いに入る。槍と剣、どちらも遠間を超える武器ではないはず。それでも―――。

 

光の圧が互いの氷柱を攻撃し合う。

 

盛大なまでの砲撃戦へと移行する。だが、それではヒカルの独壇場……壬生先輩には勝ち目のない戦いに―――。

 

「ううん!?」

 

誰もが目を疑う光景がそこにあった。

 

「僕の眼がおかしくなったんですかね……壬生先輩が、壬生紗耶香という女子が……」

 

――――5人いる。

 

怪談話のような事を言う刹晶院に対して、誰もが見えてるまんまだと言っておく。

 

 

Interlude……

 

「ハッキリ言わせてもらえば、魔力の質、魔力量、術の構築力、大胆さ、精密さ―――に関しては少々疑問符だが。ともあれ君と九島ヒカルとの戦いは戦車とアリの戦いといっていい」

 

ぐさり!ぐさり!!ぐさり!!!

 

ハッキリした物言いに、壬生の心はブレイクしそうである。隣りにいる桐原が平静を保とうとしても保てぬほどに教師を睨みつけるが―――、

 

「だが、これは単純な『直接戦闘』での差異だ。アイスピラーズブレイクという『競技種目』での戦いならば、決して勝ち筋が無いわけではない」

 

その言葉に、何とか平静を保つことに成功した。

 

とはいえ話は続く。

 

「ここまで九島ヒカルの戦いを見てきたが、彼女の戦いは本当にヒトをナメた戦いだ。実に余裕のよっちゃんな慢心王の戦いだ」

 

「―――それは深雪さんもですか?」

 

「ああ、恐らくだが彼女がペンギンスーツ(リヴァイアサン)のチカラを使うことも理解していた節がある。彼女に目に見える隙はない」

 

その言葉に、ならばどうするというのだと聞く。絶望感しか増してこないのだが、それでも希望は見せるようだ。

 

「彼女と真っ向から打ち合え。防御術による『氷柱』の守護ではなく、攻撃術による相打ちで、相手の攻撃術を相殺する」

 

「義兄上の無茶苦茶なプランの為の『剣の皮膜』(黄金鞘)は、こちらで用意させてもらった。チアキ君、フィッティングしたまえ!!」

 

ライネスがトリムマウに持ってこさせたそれは、いわゆる魔術触媒の一つ。あの英国にアーサーの基盤を打ち立てた際に『泉』より『湧出』(ドロップ)したものである。

 

内訳としては、あの東京魔導災害でアレコレと関係した国に与えたのだが、多くの国では『扱いきれない』として『所有権』こそ米英仏日など四カ国が持つも、アーサー王の触媒の『器物』として加工するには、刹那の協力が必要として刹那に預けられていたりするのだが……。

 

当然、それに立ち会った人間の中には『ガメた連中』もいるわけで、その一人がライネスなどであったりする。

 

「は、はいライネス先生!! 手伝ってネコアルク、ネコカオス!!」

 

「わかったニャー! 最近登場していなかったから(TYPE LUMINA出張)すっかり読者に忘れさられていたアチキたちだけど、キメる時はキメるニャ!!」

 

「我輩もまた暗黒面(ダークサイド)なミステリーで、闇の案内人(栗○千○)の手先になってばかりな日常には飽き飽きしていたので、我輩―――普通のNECOに戻ります!!!」

 

お前らのどこに普通のネコ要素があるんだよ!?とかツッコんではいけない雰囲気なので、まぁその辺は特に誰も言わない。

 

だが、トリムマウという水銀ゴーレムと同じく、ある種の高度な端末という機能もあるわけで機器に入れられた壬生の剣(魔術礼装)に『黄金の鞘』という特級の触媒が装着されていく。

 

「―――道具の方は問題ないな。後は君自身の問題だ」

 

それらの様子を見た教師は、壬生に向き直って『授業』を開始する。

 

「はい!よろしくおねがいします!!」

 

「ならば壬生くん。君は―――」

 

――――――分身したまえ――――――

 

その言葉を聞いた瞬間、全員は思った。

 

魔術界の革命児……今まで存在を疑われていた伝説の教師は狂ったのだと。

 

「勘違いをするな。いわゆる高速移動による残像ではない。どちらかといえば、魔力で構成した自身の『人形』を作るということ。ダブル、ドッペルゲンガーともいえる」

 

そう言われれば、まぁ何となくは理解が及ぶが、あまりにあまりな発言に少しだけおどろいたのだった。

 

「そう言えばエルメロイ教室で幻体作りは、やりましたね……けど私では、そこまで凄いものは―――」

 

「ランサーのサーヴァント『長尾景虎』。セイバーのサーヴァント『立花宗茂』。君はこれだけの英霊と関わり合い、後者に至っては『根源接続者』…全能の存在によって処置された末に、戦国時代のサムライという多くの『面』(ヒト)を見て触れてきた。

そして君自身も『多面性』を持った存在だ。『面』とは即ち、己の『成りたいもの』を、己の『隠したいもの』を包むものだ。時に中華世界の王はそこに竜の意匠を込めて己を厳しく勇ましいものへ変化させてきたもの……蘭陵王」

 

言葉の一つ一つが、紗耶香に染み透る。それは紗耶香の人生の中で深く関わってきた人々だ。

 

「日本の剣術流派が剣道として『面』を着けてきたのは、頭部の保護というだけでなく浮世の柵を断ち切り、その『素のまま』の力を推し量る場として成立してきたからだと私は感じる。面の向こうにある顔は詳細には見えない―――君は、其処に長くいたんだ。そしてそこでの『悔恨』が傷となっている」

 

「先生……」

 

自分の内面を切り開かれているというのに感じるものは、どちらかと言えば怒りよりもうれしさを感じるのだ。

 

 

「君という『凡百』の魔法剣士をここまで活かしてきた存在。同時にその成長をここまで押し上げてきたもの。審神者(さにわ)として、ウェイバー・ベルベットが武神の名を審らかにする」

 

宣言し、ロード・エルメロイII世は言葉を続ける。 フーダニット。誰があったのか。 誰が壬生をここまで導いてきたのか……それが伝えられる。

 

「汝、サヤカ・ミブに加護を与えし其の名は──」

 

最後の呪文口歇が響いた。

 

 

「牛王招来・天網恢恢―――我が身は牛頭天王の御業を穢土に再現するもの也!!!」

 

「ライコウの分身宝具!? そうか! ロード・エルメロイⅡ世はキミの守護者を言い当てたんだな!!!」

 

分身した壬生紗耶香は当然、櫓に収まるわけもなく虚空に漂う幽霊のように壬生の背後に横に整列している。

 

その姿は一様に違う……厳しき武芸者のものもあれば、うさ耳を着けた昔なつかしのスケバン。艶やかなチャイナドレスに扇子を構えたものもある。

 

普段の壬生紗耶香のイメージではない。だがそれら全ての衣装は似合っていて、一刀からビームを叩き出すのに合わせて一斉攻撃を開始する。

 

「九島さん! アナタは確かに強いわ!! 直接戦えば、私は負ける!!」

 

言いながらも、(振動)(電磁力)(揚力)(放出)という『魔剣閃』を放つ『壬生たち』。

 

襲いかかるそれらは、九島ヒカルの防御陣()を突破しながら氷柱を砕いていく。そう氷柱を砕くのだ。

 

「けれどね! この試合は『氷柱』を崩す戦いよ!! 悪いけど、アナタをKOしなくてもいいだけだもの!!!」

 

「それを実行しようとしても出来なかったチカラ足らずの連中ばかりなんだけどね。僕の盾竜(シールド)を突破できるほどのチカラを持ったものはいなかったわけだから」

 

眩しいほどに己を輝かせるその姿に……見とれてしまいそうになる。

 

自分との戦いに至るまでは、まだまだ地味に確実に勝利を得ようとしていたが、ここに来て赤い着物以上のもっと派手(motto☆派手)に勝利を得ようとしている。

 

認めよう。

君は強くて。

そして僕を脅かす存在だ。

僕が最後まで認められなかったヒトの世(人理)の拡大の中でも最高に―――ヒトらしいかもしれない相手だ。

 

何本もの氷柱が砕けていく。

 

妖精の眼を持たないヒカルでも見えてしまう……壬生紗耶香の人生の変遷。

 

その全てが輝くものだけでなくても、酷い劣等感と挫折を覚えても、そこから立ち上がったそれは……自分が憧れた妖精に持ってほしかった……他者を慮る心。けれど絶対に無理だった。

 

彼女に決定的な挫折は無かったのだから……愛されることだけが、彼女の存在意義ならば無理なのだ。

 

残り3本になった時にヒカルはギアを切り替えた。

 

(だから、僕も全力で戦おう。アルビオンの竜、かつて神秘溢れる世界の裁定者(ルーラー)として生きていた以上、星のテクスチャを譲った君たちヒト―――その果ての魔法師が描く人理が、どのようなものかを)

 

裁定するのみだ!!

 

「ホロウハート・アルビオン!!」

 

全力のドラゴンブレスが、壬生の陣に襲いかかった―――。

 

 


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