魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
「今の所、一回戦は大丈夫みたいですね」
「ええ。全ての一高登録選手は勝ち上がっています」
まだ一回戦のプログラムが全て終わっているわけではないが、一高はとりあえず問題なく勝ち上がれている。
何気なくエルメロイの勝ち上がっているところをピックアップする。
男子ペア ピラーズ 女子ペア ピラーズ
男女混合ペア ピラーズ
女子ペア シールダーファイト男女ペア シールダーファイト
意外というわけではないが、男子ペアシールダーではエルメロイは一回戦で全滅したようだ。
とはいえ、その戦いぶりは激しいものであったことは間違いなく、一高側の有間・高橋ペアと桐原・十三束ペアがかなり消耗したのは間違いない。
(他高で注目するのは三高の女子ペアピラーズ 一色(翠子)・十七夜と同じく女子ペアシールダーの一色(愛梨)・光主タチエ)
この組が一高のペア、ないしエルメロイのペアとぶつかることはトーナメント表から分かっていた。
深雪はその中でもなにか妙な動きを感じていた。
エルメロイが、今日は低調になっている中、何か奇妙さを覚えるのである。
ホクホク顔でいる中条会長には悪いが、何かを見落としているような気分で居ながらも男女ペアピラーズ最後の試合が始まろうとしている。
その片方の組は深雪にとって既知の男女であった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
『九島光宣・桜井水波というルーキー男女ペアと相対するは五高 伊達・佐竹ペア!! 西と東の戦いが始まります!!』
黒を基調としながらも赤をアクセントカラーとして入れている怪盗衣装。刹那への対抗意識なのか同じくステッキを持っている(恐らくCADないし礼装)九島光宣。
同じく桜井水波も黒赤のキュートな
白や青といった落ち着いた色味のマジシャンな怪盗衣装の刹那・リーナとは違い、ルパン三世かジェームズ・モリアーティな怪盗である。
対比。
対決姿勢というかとんでもなく意識しているのが理解できる。
白に対する黒
青に対する赤
光に対する闇
正義に対する悪
そういうものをイメージさせるのが彼らなのだ。
衣装だけならば、そうだろうが果たして……どうなるのか。
本来ならば自分のガーディアンとして、後輩として一高にいたはずの水波がどれだけ成長したのかを見たいのであった。
兄ほどではないが深雪とて自分と関わりを持っていたかもしれない相手は気にかける。それがあの『桜』シリーズで、あのヒトに似ている子ならば……。
そして、2人のスーパールーキーのデビュー戦が始まる。
深雪も見慣れてしまったスタートランプの読み込みの間の術式の読み込み。そこからコンマ秒で解き放つ術の応酬。
そしてスタートランプが開始を告げた時、3人が解き放つ術の中でも硬すぎた水波の複合障壁が相手の魔法を全てシャットアウトした
全てやられたことで、今よりも強力な魔法をと考えた五高側のCADの操作―――しかし、その前に理解してしまった。
かの九島の術者が構築している魔法の構成とでもいうべきものの巨大さと緻密さを。
空間に投射しようとしているその構成の広さと濃さが見て取れる。
慌てて攻撃のための魔法起動を中止してでも防御の術を打ち込むべくCADを操作するが、それよりも早く鋭い圧力が、防御しようとしている氷柱に伸し掛かる。
泣きたくなるほどに見事なそれは十師族など選ばれたものにしか編み出せない奇跡。
いや、十師族でもそう簡単にできるものではないと判じる十師族がいたのだが……。
だが九島光宣が解き放つ魔法が顕現した時に、それらの疑問は全て無くなる。
その魔法の顕現場所は―――五高の氷柱の真上。
神代の魔法陣としか言いようがないものが……。
いざ開け、神代の門。
仰ぎ見よ、定命の者。
平伏すがいい、現代の魔術師どもよ。
自然界において、最大の恐怖とともに語られたその名を──。
未だ知れぬその神威を―――。
「
渦を巻いた雷霆が、富士の晴空を切り裂く。
五高の陣地に落ちてくる閃雷の一本一本が、何もかもを蒸発させかねない破壊の具象化であった。
物理法則を無視した渦重振動が、地上にあるものすべてを許さない。大気中の水分などたちまち干からび、万物は分子に分解される。
遠坂 刹那のグガランナ・スタンプが身体の芯をドンッ!と貫くような圧を感じるものならば。
九島 光宣の雷霆は身体の
まぁ幾つもの落雷なのだから当然なのだが……。
そして、勝者が読み上げられると同時に、強烈な歓声が沸き上がる。
「光宣さん!」
「水波さん!!」
その声で感極まったのかカップルが抱きしめ合う。お互いに頑張ったからこそのご褒美としてなのか、なんなのか、その様子にさらなる歓声が降り注ぎながらも―――。
『そこのカップル!! そういうのは櫓を降りてからこっそり人目につかない所でやれ!! まだ一回戦でそういうものを見せるんじゃねー!! 優勝決めてからやれ!!』
倒されたのが同校たる五高だからか、いつにもましてキレ気味のアナウンスをする水卜。何か去年もこんなことあったような気がする。
デジャヴュか? と思いつつも、九島光宣が放った驚異の術に魔法師・魔術師誰もが推測を巡らせる。
「九島連理の術者というのは電気・電圧系統の術に長けている。今更ながら、これは生家―――土地に関連するからだろうな」
「マムもグランパから教えられていたわ。『クワバラクワバラ』って、ドウイウ意味なのかしら?」
「くわばらくわばら、端的に言えば『厄除けのまじない』だよ。かつて京の役人が政争の末に左遷され、その後に祟り神となって京の町に災いを起こした―――都には悪天候が続き、落雷が頻発したんだな」
科学的な見立てをすれば清涼殿落雷事件は、菅原道真公の祟りというよりも当時の日照条件……太陽暦に直せば7月下旬という状況が影響していたのだろう。
清涼殿に落ちた理由は、推測だが内裏……尊き方々の御所なので、その分―――宮中警備のものたちは帯刀しているものが多い。そして生活においても民衆よりもアレコレと金属製品なども多かったと見られる。
要するに、あの時代において珍しくも住処の内外で鉄・銅などの伝導体が数多く存在していたので、高所ではなくとも雷を誘導するものがあったのだろう。
これは科学的な見方だ。魔術とは直接関わるものではない。
「その後、菅原道真公のお怒りを鎮めるべく当時の京の人々は、『祭』によって良き神様に転生させた。怨念と悪意に満ちたその
アナタを見ます。
アナタを知ります。
アナタを称えます。
アナタを子々孫々伝えていきます。
―――だからアナタも私達をお守りください。
その心が、多くの怨霊……
「ニホン独自の考えよネ」
リーナの言葉に少し違う意見もある。信仰というものが、多くの神を作り出す。
プトレマイオス朝の開祖たるプトレマイオスとて、ヘタイロイの主たる征服王イスカンダルとエジプトの神々を習合させることで、ディアドコイで有利に立った。
生きているならば、どんな神様でも
「ゆえに学問の神様であると同時に
「じゃあクドウ家が雷霆術に優れているのは、古式魔法の現代解釈ってだけじゃなくて」
「
だが、アメリカのクドウ家においてリーナ母には、それがあまり遺伝しなかったのは、どういう因果なのか……。
どこでも隔世遺伝というのはある。
何だか少しだけエスカルドス家とヴォーダイム家を思い出させるのもアンジェリーナの境遇ではあった。
「んで光宣のあのネガ・ケラウノスだが、ありゃ道真公とは無縁だな」
「
バカにすんなと言わんばかりのリーナの笑顔での圧を受けてから説明をする。
「君たち
さらなる説明をしようとした時、不意に声が差し込まれる。
「正解だよ。ロード・トオサカ」
刹那とリーナがジャージ姿で駄弁っていたカフェに現れたのは……。
「―――さらなる説明を求めるかね?キミたちは?」
どこぞの怪しげな骨董品売りの魔女よろしく『箒』のような『砲機』とでもいうべきものを持った九島ヒカルと……。
「夕食会ではお見受けしていましたが、お久しぶりですお二人共」
北山航が現れたのであった。
† † † † † † † † † †
「ネガ・ケラウノスか……元々、九島家は雷霆術に長けていたからね。ただ、ここに来てゼウスの権能とは」
「チカラの引き出し先は、九島ヒカルか?」
「恐らく。九島ヒカルが何者かは置いておくとして彼女は『竜』の属性を持っているから、そこから流れを辿っていきテュフォンという『太祖竜』へと通じさせたんだろうね。テュフォンは一度はオリュンポス十二神の主ゼウスに打ち勝ち、その手足の腱を切り落とした―――恐らく食したんだろう。そして、ゼウスのチカラをおのがものとした」
「己の生家が持つ雷霆とオリュンポスの雷霆を照応させたのか……」
「まぁ九島君も、最後に戦うのが刹那だと見据えているならば、これだけが『隠し玉』じゃないでしょ。恐らくだけどムスペルヘイムでも五高ペアに勝てただろうに、態々この一回戦で見せたということは―――」
更に
誰もが無言でイヤな想像をしてしまった。
だが説明役をした幹比古も美月とともに一回戦を勝ち抜いて、刹那の前へと出ることを目論んでいるのだ。その前に二高のミノミナ ペア(五分前に決定)が立ち塞がるならば倒すのみなのだから。
「誰もが刹那君とリーナに照準を合わせてますね」
「そりゃそうだろ。あいつらが最強であることは疑問の余地のない答えだ」
答えを覆すべく全員が隠し芸を、隠し玉を携えてこの大会に挑むのだ。
もっとも黒子乃の
(果たして光宣・水波のペアが刹那を打ち破れるか、だ)
他力本願ではある。しかし、自分の知人・友人・後輩が戦う以上……どちらかに肩入れは出来ないのだ。
・
・
・
「ほぅ。この立派な葡萄をローゼンの関係者から貰ったと」
「しょうなんだよね〜。もぐもぐ。怪しいものではないけども、ワタル君がホクザンの御曹司であると近づいてもぐもぐ、来たんじゃないかとおっかなびっくり」
だったら葡萄を食うなよ、喋りながら食うなとは思うが毒味のつもりかもしれないので、刹那も1つ食べることに。
「美味いな。欧州のベリーは
あちらで使われるフルーツとしての『葡萄』は『野苺』やオランダの『ストロベリー』などが主である。殆どにおいて欧州の葡萄は『ワイン』『プレーン』『ジャム』として使うのが一般的だ。
「ええ、渋味がない……フルーツベリーの類ですからね。まぁ何用なのかは分かりませんし、僕自身は魔法師でもない。確かに魔法関連の業態も持つ会社社長の長男ではありますが……なんだったのやらです」
怪訝そうにしながらも、甘いものに対する欲求は抑えきれなかったようで、ワタルくんも葡萄を摘む。年相応の笑顔が出来上がるほどにいい葡萄だ。
そんなヒカルとワタルのコンビに渡された葡萄はかなりの数―――ぶっちゃけ箱が20箱である。
術とかも応用して持ってきたんだろうが……。
「とりあえず全魔法科高校に通達しておくか。特に雫には連絡するのも吝かではないな」
実弟が、欧州の魔法産業の会社役員からブドウを受け取ったという事実がビジネスの世界でどういう意味を持つのかは刹那にも皆目見当がつかない。
何よりこれだけの葡萄を一校だけで食いきれるわけもないので、他校にも持っていってもらって消化するのだ。
―――――夏場は足が早いのだから。
「エルンスト・ローゼンが、日本の界隈では一番のメジャーネームなんだが……この『アレクセイ・ローゼン・クアトロ』という御仁が航くんに挨拶したのか」
自己紹介と名刺の手渡し、そして葡萄もお土産として渡した。
「ええ、ただどちらかといえば遠坂さんに『伝わる』ことを意図している感じでしたね。遠坂さんが言うエルンストという方が、アレクセイさんを『敬っている』様子でした」
「何だか王とその従者みたいだった」
その現場を見ていない。何よりアレクセイなる御仁も直で見ていないのでモヤついた話ではある。
だが、協賛企業の姓を名乗り、その名刺を渡す以上は詐欺でもない限り何かあるのだろう―――……。
「あと……なんだか西城さんにちょっとだけ似ている方でしたよ。アレクセイさんは」
その航君の所感が大当たりで、後にちょっとした事件を引き起こすことになるのだと知っていれば、この時に何が何でも接触を果たすべきだったと後悔してしまうのであった……。
ちなみに葡萄は集まってきた食べざかりの高校生たちによってあっちゅう間に捌けてしまい、航君は雫にちょっとだけ怒られるも、ヒカルと共に刹那はフォローに終始してしまう。
のだが……その間、ちょっとだけ雫が嬉しそうであったのは色々と謎である。(リーナだけは分かっているフシがあった)
そんなことがあるも、滞りなく二回戦は始まろうとしていた……。