魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
少々慌ただしい様子を何となく感じている九島光宣は『眼』を使って察する。
製氷機の運用が、かなりあやしいということを。
そして、ダ・ヴィンチ先生はどうやって気付いたのか『NOT VIEW!』などと筆談用の紙で光宣のピーピングに対してシャットアウトを命じてきた。
まぁそれ自体はいい。
ただ盗み見の結果……どうやら本日のペアピラーズは最終プログラムの自分たちで終了だろうということを。
それ以外では隠しても隠しきれぬ強烈な『波動』がビリビリと繊細な光宣の身体を震わせる。
どうやら……刹那が乱痴気騒ぎを起こしているようだ。
それはサーヴァントなど超常存在を使役しての闘争である。これが仮に『神代秘術連盟』の仕掛けた戦いであるならば、当事者の一人として参戦せねばならない。
同時に、あの日以来……対等であろうとして『憧れる』のを止めた。憧憬を抱いてしまえば絶対に勝てないと分かっていたから。
そして年上だからこそ『刹那さん』と呼んでいたものを改めたのだ。
子供っぽい反抗心と思われたかもしれない。けれども、それがミノルにとって譲れぬラインだったのだ。
「光宣さん。そろそろ―――」
「ええ、行くとしましょう」
身体に力を込める。あれほどまでに重苦しかった身体を思えば、こうして人並み程度どころか人並み以上に動けることに感謝をする。
だからこそ……己がどこまで
・
・
・
「チカラにはチカラ、パワーにはパワー。ということでオリオン! 押さえろ!!!」
「おうさっ!! 膂力が自慢と見受けるぜ!! 緑髪の偉丈夫どの!!」
「⬛⬛⬛―――!!!」
昨夜の闘争では黒髪で鎧を纏っていたはずだが、どうやらアレは偽装したものだったようだ。
裸身の剛力こそが我が宝具と言わんばかりの男の正体はまだ不明だが―――。
オリオンの拳を前に戦士の誇りが刺激されたのか、魔力が高まる様子。
そして―――。
「っ!!!!」
マスターの負荷はとんでもないことになる。
それを後ろ目に見た大戦士の表情が少しだけ曇るが、オリオンの攻撃は容赦なく畳み掛ける。
必定、レナ・フェールというマスターの負荷が爆上がりだ。
「くっ! 狂戦士が抑えられてしまっては―――」
恐れおののく周だったが黒犬を出して抵抗を試みる。ただではやられないと言わんばかりの態度だが、しかし―――。
「その程度の傀儡ではな」
「ぐぶっ!!!」
「殺すな。召し捕るんだ」
モルガンが拘束の術式にしてはズイブンと凶悪なもので周を縫い付けていた。
光の鋲とも釘杭ともいえるものが美麗の青年の『ガワ』をした人間を捕らえている。
「これでも私はお前に感謝しているのだよチョウ。結局、お前が要らぬ茶々を入れてくれたからこそ、私はクドウの、いや死徒の製造機から逃れて最愛の夫をこの世界で得られたのだからな」
やはり九島家のデミ・サーヴァント製造にはあの錠前吸血鬼が関わっていたようだ。
まぁその事は、今はどうでもいい。
問題は―――。
「あの
「やめろ……!」
魔女らしい酷薄な笑みと言葉で周を甚振るモルちゃんに少し苦笑しながらも、終幕は近い。
こちらもこれだけのサーヴァントを現界させて威圧しているのだ。
(まぁ小田原城のような総構えがあったわけじゃないからな)
それを予期して、ここに入り込んだのだが……。
「成程、聞きしに勝る超抜能力だな。USNAスターズに在籍していた『セイエイ・タイプ・ムーン』は数多の『ヒトガタの使い魔』を扱うと側聞していたが……これは確かに凄まじい」
そんな『おきらくらくしょーいってみよー』な刹那の気分を崩す声が聞こえてきた。
「背後には気を使っていたはずなんだが……」
そして、振り返るとそこには『仮面』を着けた男(?)がいた。着ている服装はどこかの社長かと言わんばかりに仕立てのいいスーツ。
仮面を着けていても溢れ出す髪の色は赤。そして声は……懐かしさを覚えるものだ。
「隠れていただけさ。砂を操れば王貴人さんが展開したこの風景の中に溶け込めた」
「闇討ちぐらいは出来そうですけどね」
「そういうのは王道・覇道じゃあないね。とはいえ、君の手勢を突破しなければ僕の同盟者を助けることも出来無さそうだ」
男の言う通りであるが……。
「アナタがどこのどなたか分かりませんが、そんなことが出来ると思いますか?」
「不可能を可能にしてきた君が言うことか!!」
言うやいなや距離にして30mは開いていたところから一挙に駆けてくる……というより飛びかかるように拳を振りかぶる男。
大仰な構えだ。そのような―――
(この既視感!!)
同時に危険を察知した刹那が選んだのは、何の容赦もないガンドによる迎撃だった。
それによって動きが遅滞することを理解したのかスカサハとヒッポリュテが側面からの攻撃を企図する。
しかし、それは呆気なく散らされる。
豪腕が―――巨腕が……神腕がサーヴァント2騎を退けたのだ。
振り回されたそれは港湾の荷降ろしのためのクレーンが勢いよく旋回するようなものだ。そして、その先端にある鈎すら凶器となる……つまり。
「凄まじい!! その仮面の向こうのツラを拝ませてもらいたくなる!!!」
「同じく!!!」
「おっと、戦士の誇りを刺激してしまったか―――だが、僕の目的は!!!」
あくまで
既にレナ・フェールは魔力の使いすぎで倒れて偉丈夫も霊体化をしている。
周はいわずもがな。ガンフーも王貴人もあまり拮抗しきれていない。
むしろ逃げ支度しているようにすら見える。だが、ここで逃がすわけにはいかない。
たかが神腕の使い手が出てきたぐらいでは退けぬ・媚びぬ・省みぬ!!
「投影・現像!!」
その手に確かな重みを感じてから神腕の使い手と戦う。 陰陽の双剣が震えているように感じ、そして戦いは……20分間も続き、その間に件の下手人どもは全員……異空間から連れ出して国防軍に引き渡すのであった。
「王貴人殿の結界が未だに継続されている……。なるほど、奪い取ったのか」
「正解だ。喰神を成したもの」
モルちゃんの断言と赤髪から『人物』を想定する。しかし、断言するには情報が少ない。
そして、刹那も『彼』のことを詳しく知っているわけじゃない。魔術的なスキルは知っている。その由来も……。
しかし、肝心要の『彼』自身がどこのどなたか知らなかった。
というか教えてくれなかったのだ。母も父も。教師も、だ。
故に『どっかの魔術実験用のホムンクルスが自我を得たのか?』神臓鋳體もその過程で―――という自分の推測を打ち消すものを感じる。
だからこそ―――。
「そのツラを拝ませてもらう!!
「―――!?」
カタチを欠けた状態の投影武器。如何に親父のインチキありきでも本来ならば消え去るはずのそれが今までそこにあったのは―――この為だ。
剣の墓標とでも言うべきもの―――その剣は全て干将・莫耶の陰陽剣。
それらが輝き、力を取り戻す。仮面の男を取り囲む形で浮かび上がるのだ。
驚いた男だが神腕はそれらを吹き散らすべく振り回されようとしていたのだが。
動かぬ神腕。同時に身体全てが動かせない状況に戦慄しているのだった。
(糸―――宝石か……)
一般流布されている現代魔法に落とし込んだバインドの術式よりも数段上の霊基錠が『彼』を拘束していた。
干将莫耶を触媒にして緑の魔眼による『停滞』がこのような形になったのは分からない……わけではない。
おそらくジェーンがいるからだろうと思いつつも……。
「我が夫! 腕を玉座に!!!」
「こういうこと!?」
「その通りです!」
飛び跳ねるようにやってきたモルちゃんを姫抱きで受け止める。
この場所がモルちゃんの玉座のようだ。
笑顔を見ながらも肌越しに感じる宝具の開帳の波動。それを刹那と同じく感じたのか『彼』は全力で対抗しようとする。
檻に入れられた獣が藻掻くように鉄格子を砕くような様子から―――それよりも速くモルガンの宝具は発動をする。
「―――
発動するその宝具。虚空より降り注ぐ『槍』はロンゴミニアド。妖精の魔力により黄金色の輝きを失った槍だが、それでも勢いよく降ってくる槍の全てが『彼』に向かう。
その数十二本―――磔刑されることを嫌うように、雷を帯びた神腕は魔槍の魔力に抵抗しようとする。
しかし―――。
「
「我が夫との連弾絆奏の前にひれ伏すがいい」
マスプロダクツされたロンゴミニアドを前にして『彼』の腕は抗しきれず。
そして……漆黒と水色の閃光が光柱を吹き上がらせ、同時にロンゴミニアドとは少々意匠が違う『槍』のようなものも地面から吹き出たのだ。
「……殺してないよな?」
「安心なさい。神腕を防御に回してこちらの攻撃に耐えきったようです」
姫抱きされているモルガンの一連の宝具開帳が済んでから槍が密集した地域の惨状を見て疑問を呈したのだが、どうやら『彼』は生きているようだ。
むしろモルガンとしては、自分の宝具を受けても生きている存在に苛立ちを隠せないようだ。
武器を魔術的な消去で避けて、そこにいる相手を確認。透明な幻手。されど実体を掴むことは容易なもので身を守ったスーツ姿の仮面は割れていた。
容姿を確認すべくその眠りに就いたような顔を詳細に見る。
そこにあった面貌は……。
「エルゴさん―――じゃない……?」
似ているようでいて似ていない。
なんというか……似て非なるものという表現も正しくないが、それでも自分が元の世界で接してきた神腕幻手の兄貴分とも違っているように見えた。
当然、髪型の違いで印象は違うとも、眠りに就いているからそう見えるだけかもしれない。
神腕に包まれ『おくるみ』状態となっている青年のような若さを持った赤毛の御仁を前にして刹那は―――。
「とりあえず響子さんに引き渡すか」
そして、その際に赤毛の青年の『正体』からシオンを少し問い詰めることになるのだが……それは後の話である。