魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
ただ新刊でサンフランシスコ……まぁ微々たるものだが、ここがリーナの故郷とかだったら少し改訂を入れるようだななどと思いながら長めの新話お送りします
毎度お馴染みとなってしまった……というフレーズすら既に意味をなさないほどにお約束となってしまった、九校戦夕食会の遠坂刹那の超大作料理のそれが、今日は披露されようとしている。
昨日は有名寿司職人たちによって名人芸の限りの寿司をいただいたわけだ。しかも、獲れ立ての本マグロをいただいていたわけだが。
「そういえば今日は、昨日の職人さんたちから宿題を渡されたんだったか」
「ええ、確か……サンガイカイクというテーマを渡されたと聞いています」
サンガイカイク……今更ながらどういう言葉の意味であるのかを、光宣と水波は「?」を浮かべてしまうのであった。
だが答えは意外なところからもたらされた。
「三界皆苦―――、三界とは欲界、色界、無色界合わせて「全世界」を示す言葉」
長身の男が現れた。その姿に二高全員が喜色を出す。
「ゆえに全世界の苦しみ。この世にあるべきものはすべて苦しみの渦中にある―――お釈迦様が「三界」に生を受けてからいいはなった世界の結論よ♪」
二高でも有名な「寺の子」が、詳細な説明をしてきたのだった
「「
「お久しぶりね。ミノル。ミナミちゃん―――」
「普通に見えていたのに中々、話す機会が無かったからな。というか……避けてただろ?」
「あらジェラってる? 私をエルメロイに取られたことが不満?」
そりゃそうだろと、光宣だけでなく、二高全体がそう思う。
だが、父母会が求めた以上……親に養われている以上は、あまり我を通せないのだった。
「そう言ってくれるだけでも救われるわ。いずれ来る「戦い」のためにも魔宝使いサマを直に見たかったもの―――ある意味、エルメロイにいるのは私のワガママでもあるのだから」
「それは予想外ですね……」
水波とて最初は本当に学校判断だと思っていたというのに、鴉郎がエルメロイにいることは、彼自身の目的でもあるとしてきたのだ。
四葉のガーディアンとして訓練されてきただけに、その言葉の不穏当さに少しだけ緊張したのだが……。
「ノンノン!女の子がそんなこわばった顔しちゃダメよ!!ミナミちゃんを守護している盾持ちの女の子も、それを望んではいないわ!」
「むぎゅっ!!!」
「鴉郎の表情筋マッサージ―――まさか水波さんにそんな疲れをさせていたとは、同居人として不覚!!」
「そんな結論でいいのカナー」
水波の表情筋を一瞬で解した鴉郎。彼に下心はないと理解しているとはいえ、他の男―――いや厳密に言えばオトコではないのだが……生物学的にXY染色体が、自分の女に触れていることに怒れよと九島ヒカルは思う。
しかし、そんなことは些事であった。マジカルエステティシャンとして知られている彼の手によって
「テーマが三界皆苦。すなわち「苦しみを料理で表現しろ」ということか」
「なかなかの奇問ですね」
「天上天下唯我独尊 三界皆苦 吾当安此―――釈迦の結論を果たして……」
言葉だけならば、如何様にも解釈できるものであったりする。
遠坂刹那という男が今まで味わってきた最大級の苦しみを「美味なる料理」で表現する。
とてつもない難問奇問に対する「解答」を楽しみにしながらも、二高は水波を中心に写真を撮ったりしているのであった。
そんな様子を少し離れた所から眺めていた達也は、ちょっと淋しくなりつつ口を開く。
「水波は、二高であんな感じなのか……何というか、複雑な気分だ」
「お気持ち、お察しします」
深雪の言葉を聞きながら、達也はいつぞや刹那が言っていた「才能は分散していた方が輝く」という言葉を思い出していた。
仮に水波が、当初の予定通りに一高に入学していたならば、その才は双子たち、毒舌系シスター天使ちゃん(死)によって埋没していた可能性は高い。
まぁガーディアンとしての適正だけならば、それでいいのだが……あんな風にみんなと横ピースなんぞしている妹分を見ると、色々と複雑だ。
ただ、あの妙漣寺鴉郎とかいう男は少々チェックしておかなければなるまい。
そうこうしている内に、昨日は自分たちに寿司を振る舞ってくれた寿司職人のうちの2人……松田シェフと鬼島シェフがやってきた。
刹那の「テーブル」の椅子に座るは四名。
シェフ2人と、リーナ。愛梨。
「君が出した三界皆苦の結論、見せてもらおうか―――」
「お手並み拝見させてもらうよ遠坂君」
ゴルドルフコートを着た刹那は対面する料理人2人。そして愛し愛される女2人に余計なことを言わずに頷く。
(やはり点心でも蒸すのか、いやあの対面テーブルの形状や周りにそれらが無いところから―――)
何かしらの即興料理を出すのは分かるのだが……分からないわけはない。どう考えても「あれ」だ。
だが、達也の「予想」が「現実」になったとき、それが怖い。
(お前の前にいるのは本物のプロフェッショナルだ。確かに素人以上のアイデア料理があるし、その手並みも尋常ではないのは理解しているが)
松田シェフはわからないが、その道10年以上ものプロであろう鬼島シェフに通じるものだろうか―――。
「では三界皆苦の料理―――出させていただきます」
調理台兼テーブルにあったゴルドルフクロスを取りさって全ての食材を白日の元にさらした刹那。
やはり、アレは―――。
「掌全体に酢を「回す」―――」
手酢の所作である。そして用意されている米びつからおそらく「酢飯」を右の素手で掴む。飯玉に空洞を作るのも見た。
そして左手には魚の切り身。
同時に右の指で緑の練り物を飯玉の真ん中に挟み込む。
一連の手技は―――素人のはずなのに。
熟練の職人かのように
「完璧に処理を施した海鮮を中心にした具の数々、酢で切ったつややかな
リーレイが何かを言っている。その鮮やかな儀式を解説しているようだ。
「宝石大師、やはり作っているのは極東絶海の神国にて極まったミイファン料理―――「寿司」を作っているのですね!」
大仰な説明。ありがたい限りだが―――。
「いや知ってるよ!!」
「昨日も食べたよ!!」
「熟練の職人さん相手になんて無謀な……」
いろんな声が魔法科高校の生徒を中心に湧き上がるも構わず、刹那は4人に2貫ずつを握り終えた。
「さぁ、とりあえず気取らず手元の醤油でどうぞ」
「やれやれ……魔法科高校の料理人と世間では言われている君が、こんな浅知恵で来るとはな」
苦いもの―――すなわち
鬼島シェフの期待外れだという嘆息気味の言葉は、まぁその通りではあろう。「正面」から見れば、そうとしか捉えられない。
もっとスゴイ驚きある料理が欲しかったという失望も分かる。
だが―――刹那の料理を深く識るものたちは分かっているのだ。ここから奇跡は生まれるのだと。一見しただけでは刹那の料理の真髄は見えない。
そしてそれを理解している人がいた。
東京で開かれた寿司職人の大会でチャンピオンベルトを手にした松田シェフだ。
出された2貫の寿司―――おそらく「鯛」であろうそれを前に緊張しているのが見えた。
(感受性が豊かな人だな……)
本籍地こそ日本で生まれたそうだが、育ちは完璧なハワイアンという御仁は明らかに緊張をしていた。
(察するに、これを食べてしまえば自分の何かが揺らぎかねない。そんなところだろうか)
何かの一流は他の事物の一流に対しても感ずるところを持つ……基本的に技術屋で理屈屋の達也ではあるが、そういうプロ同士のシンパシーというのは分かる。
ゆえに。
手掴みでいった四者。
その鯛が導く味とは―――。
沈黙。同時に沈黙した4人。
目を瞑り、咀嚼している様子は、その味わいに酔いしれているのが分かる所作だ。
「これは―――」
「中華寿司か!!」
職人2人が言い放ったあとには大仰なのか、はたまた魔術的演出なのか、4人の鼻から煙のようなものが吹き出た。
鼻腔が爆発したとしかいいようのないもの。大丈夫なのか!?と誰もが驚くが―――。
「セツナ……リンお義母さんから受け継いだものを使ったのネ」
「そういうことさ―――」
「普通のワサビではありませんでした。鯛の湯霜作りの凄まじい皮の脂すらも美味く食べさせる―――正しくセルナのように
ワサビの辛さ苦さゆえのものであったようだ。だがそれは寿司の味を損なうものではない。
刹那の愛し愛される2人の乙女の恍惚した言葉とは別に職人2人はその味を分析する。
「ネタとシャリの中華的な調味も完璧。同時に込められた空気が口の中に放られ咀嚼。開放された時にとてつもない味の爆発を見せる―――だが何よりもこの「薬味」。ワサビであってワサビではない苦みの根源だ」
「あらゆる旨味を「一刹那」に開放して数十倍に膨らませる―――これは一体……」
プロの職人が驚きそれでも分析した正体を刹那はもったいぶらずに晒す。
「それはこれです。これをワサビと合わせることでオリジナルのワサビとしました」
「「ゴーヤ!!!」」
刹那が調理台の下から出した笊にあるそれはワサビと同じく苦みを芯にした食材であった。苦瓜とも称されるウリ科の野菜は南国での定番の一つである。
驚く2人の職人と同じくこの場にいるほぼ全員が同調するのだが……リーナだけは普通なのだ。
「ゴーヤとワサビを合わせたオリジナルの薬味で、俺の「寿司」を味わってもらいましょう。まぁ流石に江戸前や加賀前ほど本格的ではないが―――これが俺の三界皆苦の料理です。存分に堪能してくれれば嬉しいですね」
「よ、よし! もっと食べさせてくれ!」
「―――お願いするよ刹那君」
姿勢を正して魔法使いの挑戦を受けて立つ様子のシェフたち。
それを受けて刹那の手技―――握りの速度が上がっていく。
決して雑な仕事、やっつけではない。むしろ洗練されながら舟形とも俵型―――どちらとも取れる見事な造形の寿司が次々に作られていく。
「よく考えてみれば刹那くんは、小さな頃から宝石を用いた造形においてもとんでもない才能を見せていましたからね」
「つくるものとしての本領なのかもしれない……」
恐らくそれ以上のものがあるのだろう。
そして中華寿司の名称通りにアレンジされたものが刹那の手で握られていく。
甜麺醤の煮ツメらしきものを塗られた穴子
や煮イカ。エビもまた生も煮たものも殻を炒って擦った粉末を忍ばせる。
基本的に、エビチリの原型とて殻ごとの調理・食味をする中華の伝統に沿った形だ。
変わり種では肉、牛肉をステーキにしたものが振る舞われる。
薄くスライスしたものや少しだけ分厚いものが、それに適したシャリの量とゴーヤワサビの適量で最高の美味へと変じる。
脂と肉汁がマッチした逸品。
その他には焼き鯖を寿司にしたものまで―――しかもそれは陳皮……みかんの皮を香り付けに使ったらしく先のステーキ寿司をリセットしつつ、肉厚なサバの身が満足をさせる一品だ。
ここまでバリエーションに富んだ寿司ネタの数々を見せられてきたメンツは思う。
そして最後にシメとして出されたのは、王道中の王道である―――
「狙いや奇策もなく。最後はコイツでシメに来たか―――」
「涙が止まらない……ゴーヤワサビのせいなのか―――」
挑戦的な鬼島シェフとは違い、涙を流している松田シェフ。刹那の寿司には彼の心の琴線に触れる何かがあるのかもしれない。
多めのゴーヤワサビをネタの上に乗せた鮪の握り寿司。
それが導くものとは―――。
「熟成した鮪の身と多めのワサビが刺激しあいとてつもない味を引き出している……」
「まさしく「苦」を表現しながらも多幸を膨らませる寿司だ……」
侮っていたわけではない。だが、ここまでの職人技を魅せられ、味わうとどうしてもその根源が知りたくなる。
それは隣にいる2人の少女から伝わる。
「セツナの苦悩、その源流は……
「されど展開する食材の命、そして繋がりながらも失われていくその密度の濃い悲喜交交も一瞬の輝き、それらが最後は一片の名残すら断ち切って去ってゆく―――」
目を瞑りながら刹那の料理世界に入り込んでいる2人は目尻に涙を浮かべているぐらいだ。同時にその関係の深さに嫉妬が出ていたりする。
「リンお義母様と合わせたセツナの掌……そこからヒンヤリ消えていく魂を感じながらも、掌から受け継がれていく魔術刻印……求めていく根源への苦行」
「されど、遠坂凛師母の以前から時を超えて引き継いできた遠坂の魔導と衛宮の心……ゴーヤとワサビの合わせはそこにあったのですね」
例えるならば、あのゴーヤワサビは、刹那の両腕にありし両親の魔術刻印も同然だったのだ。
遠坂家という長い魔導の道がワサビならば、ほろ苦いゴーヤは衛宮の魔導。
それらが混ざり、シャリの中に込められたひと握りの空気と化合した時に三界皆苦を表現したものが生み出される。
(迂闊でしたねシェフ)
達也が考えるところ刹那の魔術の全てはいうなれば苦行の連続なのだ。
もちろんそれなりに何かの楽しみはあれど、呪いのような先祖代々の魔術刻印を受け継いでいく過程すら彼は普通の魔法師とは経験値が違いすぎるのだ。それでも受け継いでいくそれらを次代に引き継ぐ。
どこかでゴールを迎えるとしてもそれは……まだまだ続いていく「苦」であるのだ。
「
「さすがですセルナ―――最大の苦悩を再葬すると共に再奏する。これは正しく
美少女2人の持ち上げた言動に引いているかと思えば、職人2人は感じ入るものを覚えているようだ。
「松田……どうやら俺達は、少々彼を見誤っていたようだ」
「ええ……ありがとう刹那くん。君は俺の心残りすらも再葬してくれたよ」
「詳しくは聞きませんが―――それでも世界大会を前に「なにか」を松田シェフが得たのならば、幸いです」
喪ったものどうしに伝わるシンパシー。言葉少なに通じあう「継いでいくものたち」の心が―――この場に無言ながらも響き合うのだ。
「ここまで来たらば、お客のままじゃいられない。刹那くん―――俺にもそのゴーヤワサビと戦わせてくれ!!」
その意味、本当にゴーヤワサビと蹴る殴るわけではない。要するに、自分の握りでどれだけポテンシャルを引き出せるかを知りたいという意味だろう。
実際職人の白衣を下に着込んでいた松田、鬼島の両シェフは最新の滅菌・殺菌のスプレーを施してから握りに入るようだが。
どう考えても人手が足りないのは当然で―――。
「ショウちゃん!!俺達にも手伝わせてくれ!!」
「松田さん!パリに行く前に腕をあげていきましょう!」
「ショウゴくん!」
昨日の夕食会でも見た職人さんたち―――以上の人数がやってきたのだった。
人は足りた。問題はどうやって寿司を届けるかだ。
「小皿は大量にあるようですね。ではモルガン陛下―――お願いいたします」
「モルガンズ・マジック♪」
その問題はあっさり解決するのだった……。
エルメロイ先生が確認したあとには、ルーラー・モルガンの面白がるような言葉とハリポタの杖みたいなものを振るったことで、全てのテーブルと職人さんが握る調理台が「水のレーン」とでもいうべき場と直結する。
循環する水の通路。つまり『回転寿司』である。
「こいつは粋な演出だ……ここまでされて半端な仕事は出来ないな」
「世界大会前の壮行としよう!ではゴーヤワサビ。作り方から勉強させてもらうよ」
「こちらこそプロの職人芸を近くで勉強させてもらいますよ」
そんな言葉で二度目の寿司ざんまいな夕食会が開かれるのだった。
因みに、シェフ一同の中でも松田さんの「くるくる」した握り方はいろいろな意味ですごかった。出来上がった寿司もとんでもなく美味しかった。
これが世界レベルか!と誰もがいつかは、この人の店で食べたいと思う。
食べれる人間になろうと誓うものである。
昨日は見なかった・見せてくれなかったそれを前にして刹那の料理技法は更に上がるのだが……。
「別になにか思惑とかはないぞ。ただ単に俺にとって料理とは魔術と同じ限りなき自己修練の道だからな」
作るのは己の為でもあり、他人の為でもある。
他者を喜ばせる道は己自身を喜ばせることに繋がる。
護身錬胆
健康増進
そして精神修行を合わせた自己改革の手段である。
「―――というわけで、甘鯛おまち」
「俺の邪推しすぎかよ」
疑いの目をかける自分を恥じ入りながら近場のテーブル席に座ったことで出された甘鯛の握りに多幸を覚える達也。
「まぁ専門的なことを申せば、料理は魔術の基本なんだよ。口にしたもの、体に入るものは、すべて自分を構築する。その良し悪しにかかわらず。だから実践派の魔術師は、最低限の料理はできるようにするものだ。ただ例外として貴族の中には、自分で料理を作るぐらいなら死んだ方がマシと主張する者もいる」
その後にはキャビアの軍艦巻きとヒラメのエンガワ握りを食っている金髪エルメロイ(CVいのりん)を見る刹那。
そうして裏側でいろいろな策謀が走りながらも4日目は終わり―――5日目の勝負が始まる。
おまけ……「料理人は魔法使い♪」
刹那「料理人は誰しも魔法使いではある。料理人であれば勇者ロボに相応しい『勇者メシ』を作って悪の力で苦境に立たされた勇者ロボのエネルギーを補給したりできる」
達也「それはロマンあるな」
刹那「はたまた本能寺の変で死ぬはずだった信長・信忠の親子を生き延びさせて唐入りするIFの歴史を作り出したりすることも出来る!」
達也「それは人理的にどうなんだよ」
刹那「ただし松姫が信忠と一緒になれる世界だぞ」
達也「山梨県民としてロマンを否定しきれない……信玄公が大好物だったと聞くアワビお願いする」
そんな風に対面で『岡星』なやり取りをする2人を見て鼻息を荒くするのは、泉美と美月であって、2人に妙な『素材』を提供したりする魔法使いであったりもする。