魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
削除した作品も原作改変の一編の長編化が、あれやこれやの展開の悪さに繋がり―――。
とにもかくにも最新話お送りします。
――――状況は混沌としていた。
真由美の『マルチスコープ』が捉えた限りでは戦場は三つ。
正門前にて続々と出てくる獣人への対処。さながら土中の巣穴から出る蟻を小石で抑えるか、水で通らせないようにする策だが、蟻の中でも最強の兵士が出てきたことで、段々と押されつつある。
増援として今まで他に回っていた連中が正門前に駆けつけて纏まった魔法で組織戦を挑むも入り込まれた段で獣人たちは縦横無尽に移動して襲いかかろうとする。
木々に上り三次元の機動戦を挑まれてケガを負う者も出てきた。
「風紀委員を中核にして段構えで陣地を敷け! そうだ。姉川合戦の織田信長のように!! 機動力に機動力で対抗するな!! こちらも殺傷性Bランク以上の攻撃で相手を戦闘不能に出来るんだ!! 外れても次の相手に撃たせろ!!」
全隊指揮を執っている『織田信長』もとい『渡辺摩利』の甲高いがはっきりとした声が大講堂の一角に響く。今のところ、見えているリアルタイムの映像で状況は確認している。
個々の防備も執っている摩利の苦労は尋常ではあるまい。しかし、真由美も、このままの状況推移では不味いかなと思う。
第二の戦場は甲と十文字克人の『私闘』だ。否、もしもこれが一高の精神的支柱たる彼を正門前から引きはがすというのならば、正しく上策すぎて天晴と言いたい。
甲も武芸者としては然るものがある。そうそう簡単に決着は着かない。少しだけ……恨み言を零したくなる。
第三の戦場は驚くべきことに空中戦であった。正門前の戦いに援護を割いてほしいが、恐ろしいことに今までアンジェリーナ・クドウ・シールズは、空中からやってくるはずの鳥のような獣人を相手取っていた。
(ハーピーだかハーピュレイだかだったかしら?)
一応、座学として魔法歴史学で出てきたもの、『存在している』などとは到底信じられていない『幻創の生き物』。それが作られた背景を考察せよというものを思い出して……。
生物の歴史を一新してダーウィンに文句を言いたくなるほどに、その鳥女や鳥男たちを雷霆系の魔法で迎撃して打ち落としていたのだが、手が回らなくなったのを察して―――高射砲撃として弓矢を放つ刹那。
『閃光の魔弾』が飛ぶ度に、シールズの周囲にいたハーピーが消滅する。サイオンの粒子に還ったり肉片としてなるも、大地に落ちる前に焼失する。
燃えカス一つも落ちない火葬のセットで、やっていくも……。
『ゴメン、セツナ! ヘルプ!!』
『分かった。いま『向かう』!!――――』
苦しかったのか、急に珠の汗を掻きだしたシールズに対して、片割れの男が地上から返事をする。
大地に手を着けた刹那が何かを口にしている呪文だろうかで再びの援護射撃が再開した。どうやらあの魔法陣には自走砲かカウンターアタックが可能な術式があるようだ。
そう感心したのも束の間、『黒い特徴的なCAD』。『羽根と星』をあしらったものに指を走らせてから―――『飛翔』をした。
そんな色々と常識、非常識が混合した『混沌』の場を整理するには、やはり正門前の戦いを制さなければならない。
「摩利。ここは私に任せて正門前に合流――――……しなくていいわ。全体指揮……」
「何を見たんだお前は……? 頭抱えるほどのことならば向かうが―――」
「いえ、一科と二科の違いって何だっけか? と考え直していたのよ……」
「魔法力の差だろ?」
摩利は意見を異にしがちだが、多くの人間……魔法力を純粋な戦闘力に置き換えがちの一科であるが、二科の学生三人が増援なのか何なのかしっちゃかめっちゃかな戦場乱入を果たして、いよいよ戦場は混沌としてくる。
しかし、それは終結のシグナル―――。乱痴気騒ぎに少しの区切りが着きそうになる。
† † † †
「ヒャッハ―!!! 死ねやぁ!! 中村ァ!!」
「俺は司波ですがね。朝倉先輩」
刀型のCADに輝きをのせて振るってくる『剣術部』の朝倉に対して返しながら躱す。
振り下ろしたことで隙が出来た所に体で肘を打とうとしたが、驚異的な体術で避けられた。
「くっくっく!! 司先輩の狂言に乗った甲斐があるぜぇ。ここまで自分が高まるとはな。あの幼女サマ様だぜぇ」
いかれた言動をしている朝倉のCADに『分解』を掛ける。特化型CADとしての弱点というわけではないが、刀剣類などは、その形状から刀身を失ってしまえば、少しばかり起動式の形成に難儀をする。
特に以前の桐原の使った高周波ブレードなどであれば、あの場合は汎用型から竹刀にという違いはあったが、これがナイフほどのサイズになれば、ナイフ程度のサイズにしか魔法を『纏えない』。
もちろん達也の銃型CADとて照準装置の役目が損なわれれば、照星を合わせ、レティクルを『着ける』というイメージ作業が随分と面倒になる。
結果的に刃を失い感応石まで消し飛ばしたCADでは―――。
「――――!!!」
「なるほど。アンタも人間を辞めてたクチか」
遠吠えで虚空に『サイオン』の刃を掴む朝倉。それを両手持ちで、こちらに向ける様子は完全に狂っている。
見る限りでは、どうやら術式などもないただの魔力刃。
だが――――。
(見えない得物とはけったいだな)
サイオン粒子塊射出とも違うが、あれで切られれば少し術式に不安定さを及ぼす可能性もある―――ならば―――。
術式も何も無い『サイオン弾』でこちらも対抗するだけ。
銃と剣。その狭間での戦いは完全に距離の取り合いとなっていった。
そんな風に達也が剣術部の一人を相手取っている間にも状況は推移する。
マナカ・サジョウとかいう魔法師に操られた連中は何かの強化措置でも受けたかのように、容易く倒せる相手では無くなっていた。
それがどういうことなのか気付けたのは美月であった……。
「全員が、『熊』の毛皮を纏っているように見えます……」
「熊、もしかして『喚起魔法』かな? 神霊や精霊を乗せるのと同じく……」
速度では現代魔法に先んじれない古式の使い手である幹比古は必然的に、同じく『索敵能力』というか分析官的な役割で眼を使っている柴田美月の側にて護衛をするような形となっていた。
幹比古でも見切れないものを見ている美月の眼はかなりこの戦場では有利に働く。しかし、戦闘用魔法という意味では少し心もとなかった。
「吉田君の精霊はすごく『視やすい』んですけど、壬生さんや他のエガリテ構成員たちのは凄く視づらいというか……『生きていない』んですよ」
「……呪いか? ったく専門家はこんな時に通信してこないし」
幹比古が嘆いてから戦場を見て―――。
その時、エリカと剣術部『梶田』との戦いに援護を入れたタイミングで美月の頭に自然物ではない『鳥』が乗っかった。
上目だけで頭の上を見る自然な女の子らしい動作に少し心動くも、幹比古は、それが誰の仕業であるかを悟った。
「刹那か?」
『ああ、すまん。ちょいとマイハニーの援護に手一杯でな―――』
余裕が無かったのは同輩も同じであったことに少し安心する。そして翡翠の身体と紅玉の眼に黄金色の嘴を持った
『ふむ。『ベルセルク』だな』
「ベルセルクって……あのガッツな大剣持った漫画―――かっ!?」
言葉に反応した最前線で応戦しているレオだが、ショルダータックルをかまして『佐藤』という男を倒そうとするも、あちらも然るもの受け流した上で、剣を振りかざしてくる。
正門からじりじりと後退されつつあるこちらの原因である剣術・剣道部の混成部隊が非常に厄介だ。その他の部活……非魔法競技系の部活の連中も強化されているようで、しごく厄介。
『操られているとはいえ、その状態は強化されている。俗に
何でも書いているんだな。と思わせるだけの言葉と何度も見たんだなと感じて、刹那も最初っから天才的でなかったことが少しだけ嬉しく思えた。
しかし、状況は何一つ好転していない。ヒントを求めて美月はページの項目を読みあげる。
―――狂戦士。
英語にてBerserkerと読まれる言語の元は、北欧神話にて『熊の毛皮』を纏う者という『ベルセルク』である。
このベルセルクという存在は、主神オーディンの魔術にて強化された存在であり『身心狂化』を施されて、その力は正しく野獣にして鬼神のごときもの。
一種の『呪術』でありルーン魔術の一つにもあるこれを解くことは容易ではない。
特に主神オーディンなどのように位階の高い術者によって仕組まれた術は、被術者の身心を燃やし尽くすまで動かすであろう。
「じゃあ、彼らは『心』を操られただけでなく、『体』も操られているのか…!?」
『己にかける
美月に見えていた『熊の毛皮』は正しく呪いであったのだ。北欧神話における戦争は主神オーディンが勇者たちの魂を集めるために、人間界で戦争を起こしていたとも記述されている。
勇者たちの魂を『エインヘリヤル』にするか『ベルセルク』にするか、正しく幹比古風に言うならば『左道』の極みを行っていたのだ。
「対策は!?」
『ぼかして、こかして、ふみつけろ。相手を気絶させろ。相手を上回れ―――以上』
『『結局、肉弾戦!!!』』
それは対策ではない。ただの『いつも通り』でしかない。としてエリカとレオのシンクロツッコミが決まる。
それはそれでどうかと思うが、幹比古としても、ここまで来ると『やはり肉体は鍛えないとダメかな?』ぐらいに考える。
もう一つの対案が魔法師の中の魔法師から出てくる。
「―――『精神』を凍らせてはダメなんですか?」
『カッカしているから、冷やせばとも思うが、とりあえず試してみ』
「結果は分かっているのに教えない! もういいですよ!!」
『言っても聞かないだろ? 一学年主席――――っ!!!』
『セツナ!! カンニンブクロの『尾』が切れたわ!! もう許さない!!! アンタら全員
次代の『三巨頭』とも目されている三人の会話。最後、激昂したリーナの声が傀儡から聞こえてきたあとに―――空に稲光が奔った。
……まさか、こいつらさっきから見えないと思っていたらば―――『空中戦』をやっているのか!?
誰もが一瞬、上空を見ると黒雲が雷を放ちながら広がる様子。何と闘っているのか―――正直知りたい気分だが、知ったら知ったで頭が痛くなりそうだ。
ともあれ深雪がCADから広範囲の術式を選択。
『ルナティック・サークル』
精神攻撃魔法『ルナ・ストライク』の広範囲魔法。威力としては単体向けとは違い、少し落ちるもそもそも『精神』などという人間にとっても『あやふやなもの』に干渉しようというのだ。
むしろこれぐらいがいいというか、あまり強力なものを使うと『深雪』としても『正体』に勘付かれそうになる。
しかし、それら広がる幻影の精神攻撃が効果を発揮することは無かった。身心を強化された魔法師の自制が崩れないことを悟る。
「―――悔しいですね」
『今の『魔法』。少し変化させられるか? 出来るならば『――――』、にしてくれ。それならば効くはずだ』
結局、効かなかったことに口惜しさを滲ませた深雪だったが、エルメロイ教室の末弟である男の眼。傀儡を通しても見えたものから『アドバイス』が飛ぶ。
「出来ますけど……それでいいんですか?」
『精神というものをどこに置くかの文言を『先生』ならば言うだろうが、今は時間が惜しい。もう少しで俺もそちらに向かえる』
「だが深雪が、ベルセルクの解呪に回ると今まで獣人たちの対処をしていたのが疎かになるぞ」
達也としては深雪の安全を考えての発言。倒した朝倉など操られている連中の実力は尋常ではない。正直、このまま遅滞戦法でいいのではないかと思いたい。
それもまた一つの策だが、と前置いてから『魔法使い』は言葉を放つ。
『一応、言っておくがそもそも魔力……サイオンをここまで盛大に放っていて、目の前の連中が後日、無事に済むと思うか?』
「後遺症が残るか?」
『捨てきれない可能性だ―――『トレース、オン』。決断はお前ら次第だ。その場合、達也は『解体』幹比古は『解呪』の準備―――見えたならば撃て。後は任せるよ。こっちも佳境だからな』
曹操が、南軍攻略の際の万が一のために書き残した書物の如く言ってくる刹那、そう言ってからあちらも戦いに興じているようだ。
遂に傀儡に光が無くなり、美月の手に収まった。そうして後は……こちらに全てが委ねられた。
「深雪―――怖いならば、俺がやるだけだ。『良く視れば』『視えないわけじゃない』―――」
『精霊の眼』は、確かに刹那の言う通りバーサーク、ベルセルクなどの術式を見通していた。
怒りを司る精霊と信じられているフューリーが見えている訳ではない。しかし全てが見えている訳ではないので、どうしても―――不安が残る。
相手を終わらせてしまうのではないかと……。
そうしている間にもエリカとレオは苦境に至り、壬生と斬り合っていた桐原もまた吹っ飛ばされた。
あの時の如く手加減しているわけではないので、正直、壬生の強化の具合は生来の『資質』もあったのだろう……。
「いいえ、私はやります。お兄様の優しさは嬉しいです。ですが、それ以上に私自身の矜持に懸けて―――一高一年主席としてお兄様の妹として恥ずかしくない自分として向かいます」
「深雪―――分かった。お前がそういうならば、俺には是非も無い。もう一度お前の魔法の輝きを見せてくれ」
言葉が終わると同時に集中に入る深雪。空間に浸透する意識、余剰のサイオンの光が世界を照らす。
危険性を認識したのか、獣人たちが深雪に殺到しようとする風紀委員を中核とする陣構えを死体を乗り越えてでも深雪に害を為そうとするのを見て―――。
達也の意識が塗り替わり容赦ない殺傷を決意させる。相手のエイドスが視えにくというのならば、視えるまで視つづける。
極限の集中力が、達也に獣人たちの心臓を詳細に見せていた。放たれる『ディスインテグレイト』。防御など不可能。躱すことなど無理な魔弾が都合二十体の獣人を消滅させたが、数はまだいる。
最後のオーダーかと思うほどに都合100体以上が時に血塗れになりながら正門からやってくる。
そこに―――。
「
『『りょうかーい』』
G組の平河を筆頭に同クラスの『猫津貝鬼代』と『鳥飼雛子』とが、恐ろしいほどのサイオンのオーラを放って、横合いから突っ込んで集団を壊乱させた。
「猫又と朱雀の
幹比古の言葉で見ると確かに恐ろしいほどの『情報』が両者に付属して、彼女たちが腕や足を振るうごとに獣人たちが吹っ飛んでいく。
呂布か? 本田忠勝か? と思う程に力任せの突撃で完全に敵は混乱した。中核であった狼の獣人たちが怯んだのを見て、風紀委員たちの魔法が撃たれて――。
即座にG組女子たちが巻き添えを食らわんように来た道を後退。
後ろに戦力が無くなった。それを悟った連中が、眼を前に向けた時には―――。
深雪の魔法が放たれて、それでもしっかりとした足取りで進もうとした時には、すっころぶ。
落とし穴ではない。足を相手に『視えない』位置から引っ掛けたのだ。
足癖悪くエリカがやった後にレオが延髄を打つ。力加減は大丈夫かと思う程に専門家である達也からすれば乱暴ではあったが意識を飛ばしたことで、『呪い』が動こうとしたが―――。
「平河達が獣人を抑えている間、深雪の魔法が効いている間に全員のめすぞ!」
『『『応ッ!!!』』』
深雪は確かに先程と同じ魔法を掛けたが―――それは、どちらかと言えば、『空間』に対する魔法であった。
系統としては振動系魔法に属するかもしれないが、空気中の酸素に『精神支配』を掛けて、『躍らせた』のだ。
『見えすぎる眼が、敏感すぎる肌が、知覚よりも早く反応する反射行動が―――総じて、通常の位置にいるはずの『対象の像』を結ばない。正しくクレタ島にかつて存在した半牛半人の化身『アステリオス』を封ぜし
「とはいえ、身心を強化し過ぎた人にしか通じないのですから、随分と使い勝手が悪いですね」
空間歪曲の一種かもしれないが、ただの幻影魔法である。今もあらぬ位置に突撃を仕掛けて、得物が虚空を切ることで騙されていることを悟った剣道部員が、達也の延髄打ちを受けた上で『呪い』を解呪される。
しかし、そんな小手先では止まらぬ人間もいた。風紀委員たちの援護攻撃も刹那の魔力の驟雨すらもものともせずに動き回り段平を振りかざす美少女剣士―――。
その動きが隙を見極めて、後方にいる深雪と幹比古たちを見据えた―――。殺気が貫いてくる。
「幹比古ォ!!」
「司波さん! 柴田さん下がって!!!」
達也の叫びに反応して、幹比古が身を挺する形で術式を展開。その前の風紀委員などの段陣が迎撃しようとするも神速の剣士はものともせずに壁を砕いて後方に迫ろうとする。
あまりに早すぎて魔法の座標設定が間に合わない。予測する形でもそれを裏切る壬生紗耶香の動きが次から次へと打ち倒していく。
「がっ!! 強いでござるな……!」
「後藤君!!!」
義勇軍の体で場にいた打ち倒された後藤狼と気付いた十三束鋼の声が響く。やむなく鋼も体で挑む。自分とて百家の中でも鍛えてきた人間だ。
『家伝』こそ習得出来なかったが、魔法戦闘には自信がある。いや無くても挑まなければ、司波さんどころか誰もが斬られかねない。
身を撓ませるピーカブースタイルで打点を減らしつつ接近。迎撃する光のような突きの一撃。肩で流す。浅手だが痛痒はそれなりにある。
剣のサイオンは異常だが、それでももはや剣の距離ではない。決める。
「すみません! 先輩!!!」
懐に潜り込んでのリバーブロー。剣士として鍛えているとしても、壬生紗耶香の華奢な身体が折れるだろう一撃が触れた身体ごと、叩き込まれる前に―――。
虚空を切る十三束鋼の拳。理解を超えた現象に驚く間もなく「上です! 十三束君!!」。柴田美月の警告で振り仰ぐと、そこには虚空を踏んで上昇した剣士の姿。
太陽を背にしたことで、眩む眼。そこから回る様にこちらに斬りかかろうとする壬生の尋常ならざる剣捌きに十三束は死を覚悟する。
だがただでやられるものか―――。剣を急所ではない箇所に突き刺させた上で一撃を叩き込んでやる。
(それでも怖いなぁ……)
痛いのは当たり前だが、自分も男。男 十三束、名はハガネ。窮地に陥る同輩や先達の為に命を張れずに何が『鋼』だ。
気合いが満ちて、鷹のような一撃を振り下ろそうとする剣士を迎え撃とうとしたが、その鋼の前に立ちはだかる巨漢。
巌のような姿が、入ってきて剣士の一撃を『棍』で受け止めた。受け止めたことで周囲に衝撃波が同周円状に広がった。ひっくり返りそうになるが、誰もが入り込んだ巨漢に対して言葉を出す。
喝采であり、歓喜の声が響く。
「会頭!」「十文字先輩!!」「十文字!!!」
その言葉に応じるわけではないが、剣士と巌は手を変え方向を変えて攻撃を繰り返す。常に制空権を得て攻撃の主導権を握る剣士に対して巌は待ち構えての攻撃。
手に持つ棍と音に聞こえし『絶対防御』の名もあるファランクスで相手の攻撃を防ぎながらも、それを超えていく剣士の剣。
『矛盾』の故事を思い出させる構図。そこに――――。
「
上空に現れた巨大な『黄金の魔法陣』。誰もが見たことも無いそこから『強烈すぎる魔力』が飛ぶ。
威力としては流石に宝石の魔力が少し足りなくて、『抑え気味』となったがアゾット剣の向けた切先通りに閃雷を伴う魔力の砲撃が壬生紗耶香を襲う。
誰もがやり過ぎだ。と思う―――過剰殺傷の程を想起させる。壬生を直撃して正門前が吹き飛び校舎すらも―――そう思わせるそれが―――。
「宝具解放
『『『『『『―――――』』』』』』
周囲に残った雷が帯電して地面に走って何人かが感電するも、それすらも遠い現実のように感じる目の前のことに対処しきれない。
「――――」
「遠坂! クドウ!!」
今度は、剣士が振り仰ぐそしてそのことを認識した十文字が警告を同じく上空に発する。
そこにいた豪奢な衣装の―――『皇帝』とでも呼ぶような衣装の刹那。朱色の両刃に銀色の剣身の『魔剣』とでも呼ぶべきもので向かってきた壬生と鍔競り合う。
お互いに虚空を踏みしめての剣戟の応酬。凄絶を競うその場に―――。
「アタシもいること忘れないでよね!!」
『剛力』とでも呼ぶべきものを発して『拳』で壬生を殴り飛ばした刹那の攻撃。
追撃として髪を下したアンジェリーナ・クドウ・シールズの『スパーク』の変形とでも呼ぶべき
雷の槍が『飛翔している』戦乙女から放たれるも、やはり―――バチッ!!という音で一閃、切り裂かれた。
「う、浮いているんじゃなく―――やっぱり飛んでいる!? いや、それよりも何よりも……」
(なんなんだあのエイドスの『密度』は―――)
幹比古の焦った声よりも、精霊の眼を通して視えた刹那とリーナの『情報濃度』『情報量』……視れば見るほどに像が見えなくなる。
「すまん。遅れた」
『剣帝』とでも言えばいいかもしれない衣装の刹那が、もはや戦場跡も同然の場所に落着をしての開口一声が、それである。
待ち合わせに遅れて『心底申し訳ない』とでも言うべきその言葉に―――なんだか脱力する。
代表して達也が声を掛ける。なんせ他の人間もそんな『勇気』が無さそうな表情なのだから……。達也が『勇気』を振り絞って言うことに。
「刹那、その剣呑な長物はなんだとか、その豪奢な衣装とリーナも同じくけったいな衣装で何で飛べているのかとか、ついでに言えばなんていう威力の魔法を壬生先輩に使ってんだアホがとか、あとは上空で戦っていた映像は後で見せてもらいたいとか、こっちはこっちで忙しくて―――、今日のお前は色々と聞きたい事が多すぎるぞ! 阿修羅すらも凌駕し過ぎだ!!」
「申し訳ない」
『『『『『謝ってるし!!』』』』』
「いや、いつもクールで人情深いようでいてドライな所もある達也を、こんなキャラにしてしまったから」
言ってから指さす刹那の指先の向こうには、驚愕しきって言葉も無い深雪の顔が、『あばばばばば』とか意味の無い奇声を吐いているし。
察するに『私のお兄様が、こんなにギャグキャラなわけがない』―――『私兄』といったところだろうか。なんかの単語みたいに聞こえる刹那だったが、状況は終わっていない。
『ブラキウム・エクス・ジーガス』の膂力で吹っ飛ばした壬生紗耶香は、起き上がりこちらを見つめている。否、睨みつけている。
「やはり『憑依』されていたか……。第二小体育館の時から思っていたが……」
「やっぱり―――壬生は何かに取りつかれているのかっ……ッ!!」
服部副会長に肩を貸してもらって何とか立っている桐原先輩の質問に簡潔に答える。
「簡単に言えば伝説の英雄の霊魂―――と言っても信じてもらえるかどうか分かりませんが、それに類したものを『降ろして』、その
「そんな……壬生っ……」
「対策は!? お前に出来るのかっ!? 遠坂!!」
桐原先輩が肩を落とし、焦った様子で代弁する副会長。『無理』ではないが『無理やり』引き剥がせばどうなるか……。
「壬生先輩が―――『ああなった原因』。それが分かればいいんですけどね」
「……壬生ッ!! お前が、あんなに綺麗な剣筋乱してまで!! そんな凶剣を求めた理由ってなんだよ!? お前が、俺や剣術部を憎むならば―――俺の命ぐらいくれてやるっ!! だから、もうお前の剣で誰かを、一高のみんなを傷つけないでくれよっ!!」
必死の声で訴える桐原先輩。症状から重傷だろうに、潰れそうな肺に酸素を取り込み、喉を振るわせて声を発したことで、深層にあった壬生紗耶香の意識が覚醒したのか……。
人差し指を指して誰かを告げた。
その指の先にいたのは風紀委員長―――『渡辺摩利』であった……。それを見た十文字克人だけが悔恨の念でため息を吐いて―――状況は変わっていくのだった。