魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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うふふ。連休一日目は仕事だったが、ニューヨークが至極作業ゲーム。

なかなか出ないアイテムアップ礼装の前に万札が消えそうになるが、自重せねば……。


というわけで最新話どうぞ。


第32話『乱戦終結』

 もはや決着は見えた。ここまでの数十合。練達の剣士の技を食い止めた防壁。しかし防壁とて無傷ではない。

 

 

 だが明らかに消耗していたのは―――剣士の方であり防壁は動かずに全てを受け止めて、それでも緊張を隠せないでいた。

 

 

「この一撃に懸ける―――虚仮の一念岩をも通すか、否かだ」

 

「受けて立つ。甲」

 

 

 ボロボロになった壁を消去して新たなる壁を纏う巌―――十文字克人に対して棍の『先端』を槍のように向ける剣士―――司甲。

 

 両者の間に殺気が充満し、闘気が満ちて空気が、破裂を果たした瞬間。剣士の激発。視認できるスピードではない身体ごとの打突に対して、巌もまた吠えながらの防壁による押しとどめ。

 

 次々砕かれてガラス片のようになる術式にして魔力の塊。最後の一枚が砕かれて十文字克人の胸郭を衝撃と共に貫いた時に―――剣士は敗北を悟った。

 

 

「通せなかった、か」

 

「―――いいや、重く鋭く、だがどこまでも優しい一撃だった」

 

 

 十文字克人の身体が、最後の壁となるほどのサイオンに包まれて、一撃を通さなかった。身体を張ってでも全てを守ると決意した男の最後の意地であったが、ダメージが無いわけではない。

 

 

(甲の持つ、この棍は……聖遺物か?)

 

 

 掴んだ瞬間に虚脱状態となり、へたり込む甲。支えようとしたが、それを拒否して拘束するように言われてしまう。

 

 

「……お前も見たな。あの童女は―――化け物だよ。『怪物』……とはああいった存在を言うんだ。この『眼』で見た時に、悟った」

 

「何者なんだ? あの少女は……」

 

「分からない。だがいつの間にか義兄さんが連れてきて引き合わされて、その棍……『無敗の剣客封じの杖』と言われるものを持たされて、司波くんへの襲撃の際にもこの『カード』を持たされた上で……」

 

 

 とんでもないことだ。こんな『最高位の道具』を『二つ』も持ちながら……恐らく―――。

 

 

「他の人間達も、か?」

 

「ああ……特に壬生は『才能』があるとか言われて特殊な強化を施されていた……いま考えれば……なんであんなことに手を貸していたんだ俺は―――けれど、力が欲しかったのも事実……もう病で先が長くなかった義兄さんが『超人』となることだけを希求するならば……」

 

 

 頭を抱えておぞましいことを思い出して震える司の姿に克人も考える。あの少女だけが1から10までの三味線弾いていたわけではないだろうが、それでも……。

 

 

「頼む。壬生や皆を止めてくれ……克人―――」

 

「当たり前だ。俺はお前によって心に傷を負ったばかりか物理的にも痛手を負ったんだ……。それでもお前との関わりが俺を『会頭』に『不動明王』にしたんだ。この『借り』を返すには、それをしても足りんな。これ借りていくぞ」

 

「もらっていいよ。多分……遠坂君だったら、その『棍杖』の封印を解けるはずだ。仁王にして不動明王が持つ剣となりえるはずだ…」

 

 

 もっと、こんな風な会話を繰り返すべきだった。何気なく二人して部活連の本部部屋を見る。ここにて喧々囂々の予算の奪い合いや、己の主張ばかりを通そうとする馬鹿者どもを諌めようとする中にて従容としていた男。泰然としていた男は、そんな風な後悔をする。

 

 

「十文字君」

 

「廿楽教官。甲のことお願いします」

 

 

 頭を下げて、追いついてきた教官に『友人』を『親友』を預けてから正門前へと向かう。こんな時に迎えずに―――。

 

 

(何が仁王、不動明王だよ!!)

 

 

 そして壬生が『才能』があると言われたのは『執着』の度合いだろう。分かってしまうからこそ、その道に突き進ませてはならないのだ。

 

 

 † † † †

 

 

 そんな十文字克人の予想通り、壬生が元凶としたのは渡辺であった。

 

 

「わ、私なのか!? 壬生―――もしかして……あの時の新入生勧誘の剣術部鎮圧の際の……」

 

「言うべきだったよ。渡辺。あの後……甲から言われていたんだが、壬生はお前に相手にされなかったことを気に病んでいたんだ」

 

「だって、あれは、私の腕では壬生の剣捌きには合わせきれないからって意味だったんだが……そりゃ魔法含めての『剣術』では優ってしまうのに」

 

「そう受け取っていなかったことを言うべきだった……俺のミスでもあったが」

 

 

 擦れ違い。言い間違い。勘違い。相手を気遣った発言がふとした時に相手を逆に傷つけてしまう時もある。

 

 ディスコミュニケーションの極みが壬生紗耶香という少女に、ここまでの邪剣・凶剣を身に着けさせた。

 

 その事実に、集まった一高関係者たちは恐怖する。自分達にもいつか灯るかもしれない憎悪が、あそこまでのモンスターを育て上げるというのならば、魔法師の道とは、つまるところ『修羅道』なのかと……。

 

 

「セツナ、どうするの? サヤカ先輩の意識と『サーヴァント』の意識体が合一したら手遅れなんだよ」

 

「やるしかないか―――」

 

 

 リーナのNGワード含みの言葉に構わず刹那が『皇帝剣』と呼ばれる『魔剣』に魔術を上乗せして一歩進み出る。

 

 刀身に咲き乱れる花の意匠は、不吉なことに目の前の『華』を枯らすものにも見えたことで、誰もが止めようとするも、止められない―――と思った時に、皇帝の打擲を諌めるものが一人。

 

 

「待った。刹那君―――その役目はアタシのものだよ。1年前の新入生勧誘時期ったら、渡辺『センパイ』が色々あれな時期だったもの―――」

 

「何が言いたいんだ『エリカ』?」

 

 

 顔見知りであることが伝わる会話。最後の言葉を遮るように言う渡辺摩利の言葉が、焦りを伴っていた。

 

 正直……表現として適切かどうかは分からないが、『兄嫁』をいびる『小姑』(こじゅうとめ)な印象だ。

 

 

「いやいや、結局学校の事に『ウチ』のことが関わるならば、まぁ『門下生』の不始末は『私達』が取るべき―――ということで、『和兄』、いるんでしょ!?」

 

「お前ね。お巡りさんにも色々と事情があるのよ。分かっていてもそこは流せよ」

 

 

 気配を隠しているようで隠せてなかった―――動きを阻害しない程度に警察の鎮圧などに使われる標準装備のボディアーマーを纏って『木刀』をぶら下げた人が柵に乗りかかりながら言ってくる。

 

 くたびれた印象がするも、その身から漂うものは、十分に古強者だろう。

 

 

「寿和さん!?」

 

「どうも。まぁとりあえず今は、ウチの妹のリクエストを聞く意味で、ここに入ったんだ。それじゃな―――」

 

 

 驚きの声を上げる渡辺委員長に対して気軽に挨拶した人は、エリカに何か筒状のものを渡した後に、柵の反対側に戻っていった。

 この魔法科高校は余程の事が無い限り警察権が及ばない場所だ。

 

 国防の要でもあるから当然だが……ともあれ、そんなことはともかくとして、上質な布袋の中に入っていたのは、真剣だった。真剣のように見える『武装型デバイス』。

 

 

 しかし、その剣では―――まず壬生紗耶香の心を納得させることは出来ても、寄生している魂は納得すまい。

 

 

「これで……なんとかなるかな?」

 

「なんで最後は自信無くすんだよ。まぁいい。かしてみ」

 

 

 やはり尋常の理ではない相手なだけに、最後には刹那に困った顔で確認を取るあたり、エリカの本性を見た気がする。この女はともすれば男に甘えたがる気質なのだろう。

 まぁ甘えられて悪い気がする男もそうそういないのだが……。そう嘆いてから、状況を確認。

 

 

 その間、壬生紗耶香は動いていない。力を溜め込んでいるというよりも―――『眼』を介して、『こちら』がどれだけ出来るかを測っているのだろう。

 

 ゾンビ女の『使い魔』と化した壬生先輩から『雷切』の英霊『立花道雪』の魂を打ち砕くために―――。

 

 

 大蛇丸なる『武器』に『九字』を『上乗せ』することで、武装の『深層真理』を解き放つ。

 

 

「ほら―――。んじゃ後は任せたよ」

 

「って!? エリカだけに任せていいのかよ刹那!?」

 

「やるっていった女の(いき)を邪魔立ては出来ないよ。そして最後の軍勢を解き放っている。俺たちの仕事は―――ここから先に敵を通さないことだ」

 

 

 責め立てるような声で言い募るレオに返してから猫のように跳ね回り正門前から消え去って、いつぞやの第2小体育館へと向かう壬生先輩を追うエリカを見送る。

 

 見送ってから正門前を見ると先程の『刑事』さんが乗っていた柵の向こう側にも蠢く影を見る。ずらりと整列して眼を炯々と輝かせる死せる人間『グール』の姿。

 

 

「広く散開しろ!!! 一人でも入れれば終わりだぞ!!!」

 

 

 会頭の言葉で、敵を視認した義勇軍が、持ち場を自動的に担当する。しかし多すぎる。今まで正門前への『正攻法』の突破だけだったのは、この為だったのだと気付く。

 

 

「途中から獣人の姿だけになっていたのも……この為か」

 

「野次馬に紛れれば、生者か死者かの区別が着かなくなる。ヒトか、ケモノか、の区別もな」

 

 

 とはいえ、ドンパチやっているにも関わらず柵の近くまで入り込む野次馬はどう考えても野次馬ではない。恐らく先程の刑事などは獣人化した連中を切ったりして対処してくれていたのだろうが、ことが内部に入ると途端に警察の権利縮小のあおりを受ける。

 

 

「エリカの兄貴とやらも融通が利かない」

 

「責めないでやってくれ。あの人も立場上辛いはずなんだ…妹の苦境を分かっていて何も出来ない『辛さ』を何度も味わっていた人だから」

 

 

 言葉から察するに、どうやら渡辺委員長は、千葉家……その『剣術道場』と関わりが深いと見える。

 

 家族ぐるみの付き合い……というよりは誰かと親交が深いといった印象。まぁ勝手な推測ではあるが……。

 

 

 そんな渡辺委員長から離れて平河たちを見遣る―――。

 

 

「さっそくやるとはね」

 

「きよちゃんもひよちゃんも『そういう家系』だから試させてもらっただけよ。優秀な生徒で嬉しいでしょ?」

 

 

 お前が理解して実践レベルにしただけでも十分賞賛に値する。しかし猫津貝と鳥飼……名前からしてあからさまではあるが―――。

 

(混血か)

 

 一人で結論を出して、『獣性魔術』のマイナーバージョン『獣化魔術』を展開する猫津貝―――司波深雪系統ながらも深雪よりもすっきりとした黒髪を長く伸ばした女子の纏うサイオンのオーラが子猫になったり……頭の痛い事に、ネコアルクになったりしていた。

 

 

「いやー魔力のイメージって大事だよねぇ。つなちゃんが、デフォルメされた『きのこ』みたいなの見た時から「これだ!」って思ってて」

 

「わたしも同じ。せっちゃんが、あのエーテルとかの説明の際のあれを見て、鳥を再現したかった」

 

 

 やだ。この子ら。トラの子とフェニックスのヒナが、囀る様にとんでもねーことを言ってやがる。

 

 

『やはり、天才か』そんな感想を出してから疑問を挟む。

 

 

「つなちゃん。せっちゃんって誰の事だよ?」

 

『『『ん』』』

 

 

 人差し指で呪いでも掛けるようなG組女子の行動。

 

 やだ。この子ら。おれにそんなあだ名を付けてくれちゃって。定着したらどうしてくれるの。

 

 

 などなど思っていたらば、柵に手を掛ける様子のグールが一体。鬨の声を上げるような様子。

 

 

「先制打撃は、こちらが取りましょう。『動きを縫い付けます』―――」

 

「全員、反魔法師の獣人及び屍食鬼が止まり次第魔法で攻撃。術式の重複がどんな結果になるかぐらい分かるだろうから言わないが、気を付けろよ」

 

 

 渡辺委員長の言葉が全軍に響き渡り、どんな手を使うのかは分からないが、一歩前に進み出た刹那の姿に誰もが口を閉ざす。

 

『何か』をやるということは誰もが知っている規格外の存在だ。今更過ぎて何も言うことは無い。彼が危機に陥るときあれば……そん時は人類全体の危機なのではないかと思う人間もしばしば……。

 

 

『『『『『ゴアアアアアアア!!!!!』』』』』

 

 

 彼我の距離100mといった所で一斉に乗り込んでくる敵の姿。それに対して―――刹那の眼が『緑色』に輝く。

 

 大地に降り立ち獲物に眼を向けた連中全員が、一歩前に進み出ていた刹那に視線を合わせた段で、あらゆる活動が『停止』した。

 

 肺は酸素を取り込めず、それにともない血流運動すらも止まり筋肉の動きすらも……。死者であっても『生物』である以上は、絶対の法則を崩せずに、その法則に突きこむ。

 

 

 刹那の魔眼―――『七輝の魔眼』(アウロラ・カーバンクル)は、ともすれば吸血鬼の王が持つ『虹色』にも見えるかもしれないが―――。

 

 一段下がって、『宝石』のランクの魔眼である。

 もっともそれですら普通の『魔術師』では手に入らないものなのだが……。失われた秘術の幾つかを『貯蔵』してある魔眼は……もともとのものが、変化したものだ。

 

 もともと、そうであって『進化』するようなものだったのか、それとも何かの外的要因で『変化』したのか、ともあれ『魅了の魔眼』だけであったものがいつの日か、変化していたのを感じた。

 

 

 そして『系統七種 統合二種』の魔眼の変化を人知れず鍛え上げることとなった。

 

 

(緑は『停滞の魔眼』―――お前たちを動かせない)

 

 

 王手を掛けた状態のように動けなくなっていた敵勢が、魔法で吹き飛んでいき消滅していく。

 次勢、少し血塗れの連中もいる中―――もう一度の停滞を仕掛けようとした段で―――。

 

 

『その眼は厄介ね。封じさせてもらうわ』

 

 

 言葉が現実になったかのように、魔眼の輝きが明滅して、敵勢が停止と行動を断続的に行い―――。

 

 結果として魔眼が封印されてしまった。

 

 

(最初っから七輝にしておくべきだったな)

 

 

 力の消費をケチったせいで、『神殿』にいながら、こちらに術を掛けてきた相手を忌々しく思う。

 

 

「遠坂! 眼は!?」

 

「封印されました。来ます」

 

 

 端的な回答と同時に前へ出る。時間を掛ければ眼も回復するだろうが、こればっかりは自分の失策ゆえだ。横一列に広がって迫ってくる連中。

 

 統率されているようでいて、乱雑な動きのそれに対して―――手に持つ魔剣が煌めく。剣帝と称されし男の魔剣が莫大なサイオンの軌跡を空間に残しながら斬を連続する。

 

 

「セツナだけが、『インストーラー』『インクルーダー』じゃないわよ!!」

 

 

 飛翔する星の如き少女の輝ける槍が、死者たちをあるべき場所へと還すように煌めきを発する。

 

 振るわれる『虹色の槍』から、七色の槍が整列するように顕現して―――それらが、リーナの意思に従い、追尾しながら逃げ惑う死者たちを貫く。

 

 星晶石(ダイヤモンドスター)を用いて稀代の天才アビゲイル・スチューアットと意思持つ魔術礼装カレイドオニキスの共同開発で作られた槍であり、鎧は、アンジェリーナ・クドウ・シールズの魔術特性もあり、かつての刹那の世界における錬金術の極みともいえる『月霊髄液』『生きている石』の如く際立ったものとなっている。

 

 

(成程、遠目で見ていたがリーナが持っていたあの宝石はCADの役割もあったんだな)

 

 

 もっともCADという割には、随分と変化の多様性がありすぎるのだが……それでも武装一体型の一種とも言える。

 

 サイオンの入力と起動式によって自在に『形態』を変える宝石であり鉱石であり……錬金された『結晶星』が時に鎧となり、時に剣となり槍となる。

 

 サイオンの入力と与えられた圧で様々なものに変化する攻防一体型の武装であり、その形状は創造者の意思に従うのだろう。

 

 

「九島の家の秘術は確か『仮装行列』(パレード)という一種の幻影であり夢想の姿を見せるものだが……成程、刹那はリーナの魔術特性を『変化』に向けたんだな」

 

「それだけで、ここまで違うスタイルになるなんて―――」

 

「元々、どちらかといえば『俺と同じタイプ』の魔法師だったんだろうなリーナは、そこに刹那が現れて適切な指導をしたというところかな?」

 

 

 みんながいるだけに、深雪との私的な会話にも気遣いながら、そう言っておく。確かに授業におけるリーナは、深雪と双璧の実力であるが―――、戦闘においてここまでプレデトリーに動くタイプであると思っていなかったのだろう。

 

 そんな会話をしながらも、司波兄妹もまた前線の二人に負けない戦果を挙げていた。『こいつら会話しながら、とんでもねぇ』などという視線を浴びながらも、破壊は止まないでいた。

 

 

(しかし、やはり気になるのは刹那だ……あれほどの戦闘スタイルの変化。何があればああなる……?)

 

 

 リーナの想像は洞察できないものではないが、刹那の戦闘スタイルの変化。そして持っている『魔剣』の威力。溢れ出るサイオンの量はダムの放流を思わせる勢いだ。

 

 

 魔剣フロレント―――。

 

 かつてブリテンの永遠の王として数多もの戦いを勝利に導いたのちに、湖に眠りしアーサー・ペンドラゴンの最後の『外敵』として登場するローマ皇帝ルキウス・ヒベリウスの持つ魔剣。

 

 そしてその英雄の『技能』全てをインストール(夢幻召喚)しているのが、今の遠坂刹那であった。

 

 

 かつては、『君の特性からいって、あまりにも英雄の魂に近寄り過ぎる。これは危険だ。私の指示なく無暗に使ってはダメだよ』などと口うるさく魔術礼装が言っていたことを思い出す。

 

 流石の刹那もステッキが意思を無くしたことで、『人工精霊』が持っていた機能を限定回復させて、己で制御できるようにしなければいけなかった。

 

 その過程で……オニキスの心を知り、少しだけ涙した。

 

 そして―――帰ってくることを約束してくれたのだから、精一杯……まずはやってみようと思うのだった。

 

 

「魔剣―――限定解除―――」

 

 

 言葉に従い朱雷(シュライ)を纏う魔剣を振るい襲いかかる獣の波に敢然と挑む刹那。その背中を守護するようにワルキューレ……羽翼兜(ウイングドヘルム)なのかウサギの耳にも見えるものをはやしたリーナが低空を飛翔しながら、雷を纏う槍と術を放ち刹那の背後を守る。

 

 刹那が見せてくれたルーン魔術の源流…調べて出てきた『ヴォルスンガ・サガ』の大英雄シグルド、そのシグルドに絶対の愛を誓い、シグルドによって破滅を与えられし『シグルドリーヴァ』にも見える。

 

 だが、伝説における原点など知らぬとばかりに剣士と戦乙女は、決めた演舞でも踊るように血の華を咲かせる。その様に見惚れてしまえば、敵対者は死にゆく定めなのだ。

 

 

「全員、一高のバカップルが最前線で半分以上を受け持ってくれている以上、我々に失態はゆるされんぞ!! 長丁場に備えつつも、己の魔法の輝きを見失うな!!」

 

 

 十文字会頭の少しだけおどけた指示を聞き、全員が持ち直す。士気が崩れかけていたわけではないが、少しだけ異常事態に腰を砕かれそうになっていたのだ。

 

 その五分後―――増援が切れて外の千葉寿和さんからの通信で次勢も確認出来ない事を知った。残る敵は一体。

 

 下半身が蛇のようになっているヴァースキかラミアのような獣人をレオが硬化拳(ベアナックル)の一撃で打ち倒すと、第二小体育館での戦いも終わりを告げたらしく、エリカから通信が入った。

 

 

 勝鬨を上げている連中から少し離れて、達也たちが受け取ったエリカからの通信内容。

 

 

 言葉の深刻さ。サウンドオンリーということがどうしても気になり、重傷かと思った男子四人を筆頭にして向かうのだった……それが致命的な間違いであるなど気付かずに―――。

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

「せいっ!!!」

 

「――――」

 

 

 強い。強すぎる。しかし、先の戦いほどに圧倒的なものが見えなくなっていた。息を吐いて限界一杯なのだろうと思えるものがある。

 

 

(雷を斬り捨てて、『千鳥』ね……降ろされているのは、『立花道雪』ってところかな?)

 

 

 第二小体育館に幾重にも刻まれた剣筋に従いエリカの衣服も多少は露わになったものがあるが、それでもそんなことに構えるような相手ではない。

 

 超一流の剣客の技を再現できるだけの―――壬生の身体の持つポテンシャル―――実に惜し過ぎる。それを伸ばしていけば、いくらでも『自力』で『地力』を上げていけたのに。

 

 

(どっちが正しいかなんて、アタシにも分からない―――けれど、ね)

 

 

 泣いて喚いてそれを聞いてくれる相手がいるだけアナタは幸せなのよ。力なくば、お前は『認められない』―――そう言って自分を痛めつけた兄貴の言葉。

 

 今ならば分かる。生まれが卑しい私が家で認められるには、『力』を身に着けなければいけない。『力』で周囲を納得させろ。

 

 千葉エリカは、『ここにいる』と証明しろ―――と。

 

 

(柳生家か、ウチは!?)

 

 

 考えながらも、そういうことなのだろう。門下生連れて『千葉新当流』『新陰流』でも作れというのか……そう言われている気分だ。

 

 

 大蛇丸・改とでもいうべき刹那の持つ魔剣なみの刀で打ち合い、都合100は打ち合って弾けあう二人。

 

 並の剣客であれば勝敗がついている中―――、遂に壬生紗耶香の意識が出てきた。

 

 

「わたしは、あの人に認めてほしかった。わたしが無価値じゃないって証明するためにも、あの人と戦うことで自分を保ちたかった……なのに」

 

「あの人も言葉が足りなかったことは失態でしょうけど、アナタもアナタですよ。先輩―――誰かを討ち果たすことでしか保てない価値ならば、それはいずれ全てを殺しつくす修羅の剣ですよ。そんなのアタシは認められない」

 

 

 その道は自分にもあったものだが、それでも最後には……そこまで行き着かなかった。それは誰かを羨むだけの話になるから。

 

 卑しい話を断ち切る為には、誰かの手で未練を断ち切るしかないのだった。

 

 

「来なさいよ。アンタの全霊を破って、あの女の幻影を断ち切る―――上には、上がいるということの現実を教えてあげるわよ」

 

「―――」

 

 

 言葉に正眼に構える美少女剣士。その刀に魔力が―――ここぞとばかりに全霊の魔力が叩き込まれて―――。

 

 赤い刃が輝く……。

 

 

 同時にエリカも正眼に構える。正当の構えの一つ向ける刀から『臨む兵、闘う者、皆 陣列べて前を行く』という意味で九字が浮かび、大蛇丸に吸い込まれた。

 

 大太刀が白く輝く……。

 

 

 紅白の剣士。されど持つべき印象は逆。白が赤を持ち、赤が白を持つ―――『太極の構図』になる剣道場にて瞬発した両者。

 

 

 百の刃の重ね合いよりも、速く重く鋭く迫った一撃が互いを穿ち、大太刀を杖にして何とか立っているエリカの姿と赤き剣が『ぞんぶっ』と床に深々と刺さり込みながら得物を失って脇腹をぶっ叩かれた壬生が蹲る。

 

 

「どうや、ら―――ダメだったようね。確かにあなたの剣は渡辺先輩よりも上で、すごすぎたわ―――サジョウ・マナカから貰いうけた力で闘うべきだったのに……」

 

 

 だから、呼び掛けた。壬生紗耶香の意識に対して、本当の立花道雪ならば、エリカの剣で勝てる『謂われ』にはならないはずだ。

 

 気絶して剣道場に伏した壬生紗耶香を前にして、結局……勝敗などどこで決まるか分からないものだ。

 

 

(あのまま雷切の剣豪の技を使われていれば―――)

 

 

 ようやく立つことが出来たエリカの前に広がる病葉と化した分厚い扉が紙切れの如く破り裂かれているのと同じくなったはず。

 

 

「……剣だけでなく兵法家としてアタシの方が上だったということでご勘弁を」

 

 

 気絶した壬生に半分申し訳なく想いながら……壬生の身体から幻想的に浮かび上がったカード。何かが描かれているものを手に取ってから連絡。

 

 替えの服を持ってきて更に言えば男子は侵入厳禁であることを伝えて―――我が身を見直してから……構わないかなぐらいには考える。

 

 緑色のスポーツブラをしてきて良かったぁと思っていたのだが、存外エリカと仲良くなった男子四人は心配していたようで―――。

 

 

『『『エチケットを守りなさい!!』』』

 

『『『『ごめんなさい!!!』』』』

 

 

 体操服を手にやってきた美月の後に、まさかまさかの男子四人(命名ボンクラーズ)に下着姿を見られるのだった。

 

 心配されているのは理解していた。心配でやってきた四人の男子に少しだけ感謝して、嬉しさを覚えるのだった。しかし、何の興奮もしていない達也と刹那に対しては少し釈然としない想いもある。

 それでも嬉しく思うあたり、エリカは自分が存外安い女であることに苦笑してしまう。

 

 

 そうしてから気絶している先輩に声を掛けておく。

 

 

「アナタにも―――そういう人はいるわよ」

 

 

 安宿先生が傷の具合を見ている壬生紗耶香。声こそ聞こえていないだろうが、エリカは構わず呟いた。

 

 ……きっと桐原の声が、叫びが、想いが、壬生紗耶香を取り戻したのだから……。自分の声が彼女を取り戻したわけではない―――そう思っている。

 

 

 そして状況は推移する。壬生が持っていた刀と……クラスカード『アサシン』と刹那から説明を受けたものを手にして魔法使いたちは次なる戦場を見定める。

 

 

 時間は正午を過ぎて、もはや二時を回ろうとしていた。

 

 

 しかし……戦いは、まだ続き、『首謀者』(化け物)をどうにかしなければならないと誰もが理解していた……。

 

 

 


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