魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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職場の事情で平日休みが貰えた。

まぁぶっちゃけ大体の企業で言う所の棚卸しなわけですが、そんな感じで深夜のテンションで突っ走った最新話どうぞ。


第34話『魔法戦争――破』

「やれやれ車一台をおしゃかにした甲斐はあったな」

 

 

 まさかジャック・バウアーか、ジョン・マクレーンばりのアクションで車ごと突っ込むなど正気ではないことを提案されるとは思っていなかった。

 

 ロマンは悠々と魔女の城に入り込むことが出来た。あのビーストの成り損ない。まだゴルゴーンか茨木童子、平将門ぐらいのレベルである。

 

 

 人類悪となる為には、足りないものが多すぎる。

 

 しかし、いずれ二体目のビーストは現れるだろう……魔法師が人類史を『穢していく』限り、遠くない未来にそれは現れる。

 

 人類の儚い願いを元にして全ての『やり直し』を求めるはず……。1999年より定まってしまった『人理定礎』を破壊する為に……。

 

 

「まぁ今は余計な事だな。この姿では本当に制限されてしまうが―――、いずれ……」

 

 

 自分も本当の意味で『人間』になれるだろうか? その問いに答えてくれる稀代の天才は居らず、その意識体はまだ眠っている。

 

 まさか性転換した後は、魔法使いの杖に宿るなど……ロリータになったり、サイボーグになったりするよりはマシかもしれないが。

 

 

「……自由奔放すぎるだろ『レオナルド』?」

 

 

 心底の苦笑をしてから『指輪』を外して、空中に放り投げる。手助けはここまでだ。後は―――この世界に流れついた『はぐれもの』(オーフェン)と魔法師の中の『はぐれもの』(オーフェン)とが解決すべきことだ。

 

 そうして、栗井健一は残っていたグールを殲滅するべく廃工場の周りを飛んでいくのだった。

 

 

 † † †

 

 

「「打ち砕く雷神の指(トールハンマー)!!!」」

 

 

 刹那が解放した魔法陣―――と言うよりも何かの鍵穴のようなシンボルを何個も正面に出してリーナと共に放った『魔力砲』は、それが収束装置であり加速装置……ビームコイルであり、ちょっとした陽電子砲も同然のエネルギーとプラズマの奔流に対して―――。

 

 

「私の戦いの号砲にしては少し寂しいわね」

 

 

 気だるげな言葉で、その魔力砲を魔力で完全に抑えきった。着弾すると同時に、爆発するはずの威力も、余波すらも呑み込んだ掌に生み出した魔力の底なし沼に戦慄する間も―――。

 

 

「パンツァ―――!!!」

 

「ふっ!!」

 

 ―――間もなく隙を突いてレオとエリカが背後と側面から迫る。徹底的に考える寸暇もなく攻め続けろ。全能を誇るものに、思考の余地を与えればどのような手になるか分からない。

 

 刹那が童女に対する対策として語った言葉を思い出して玉座に迫るレオとエリカ。一太刀で玉座の背面が裂かれて、横合いからの衝撃で砕かれる肘掛ごとの椅子。

 

 

 しかし『マナカ』は、黒翼をはためかせて一瞬早く、玉座から飛び立っていた。

 

 その時には、その座標を捉えていた深雪の魔法が炸裂する。

 

 

 ニブルヘイム―――。領域干渉の系統としては高難易度魔法として知られている魔法が発動。

 

 煌めくダイヤモンドダストが『マナカ』の周囲に散っていく―――しかし―――。

 

 

「綺麗な魔法ね。お姉さん―――けれど、わたし、寒いの嫌いなのよ」

 

「!!!」

 

 

 驚愕する深雪。手振り―――ただそれだけで放ったはずの魔法式がエイドスに対する書き換えが、違うコードに書き換えられた。

 

 春風のような温風が周囲を覆った結果に、誰もが停滞して―――その様子に嗜虐を浮かべた超越者ではあるが、それを崩すべく司波達也は、廃工場から変質した『神殿の壁』を蹴って超越者の近くまでやってきていた。

 

 

「―――」

 

 

 魔法ではない純粋な体術でやってきた達也に瞠目するマナカに対して蹴りが飛ぶ。妹の魔法を穢したことに対する懲罰の如く、鋭く重い蹴りに対して踊るように舞うように躱すマナカではあるが―――。

 

 その時には、落ちていく達也が投げつけた小剣一本、相手の眼に対して投げたそれ―――投擲速度としては殺人技術として一流。しかし、魔力で対処しようとした。

 

 浅知恵だ。として『黒鍵』を消去しようとした時、堕ちいく達也を受け止めるためなのか真下にいる遠坂刹那と『眼』が合う。

 

 

(っ!!!)

 

 

 超越者に苦渋が浮かぶ。もはや『眼』を回復させて『七色』で見てくる執行者によって空中で動きを縫い付けられて『魔力』を『引き剥がそうとしてくる』。

 

 

 小賢しい。『愛華』もまた『眼』を開いて対抗する。魔眼と魔眼の撃ちあい。

 

 それゆえ―――意識から離れた黒鍵を認識しなくなる。その時には、『剣の操り手』が出てきていた。

 

 

 USNA軍の秘奥の一つ『ダンシング・ブレイズ』。ブレイズ(BLADES)だけでなく様々な質量体を操り自在に動かして相手に着弾させる術が達也の放った黒鍵を動かして、直下の急降下で刃は後頭部から脳髄を貫き眼窩に飛び出た。

 

 

「ッ!!」

 

「セツナの魔眼に気を取られ過ぎよっ!!」

 

 

 羽虫以下の毛虫が―――、怒りでマナカの身体に魔力が充足して、黒鍵が、眼球から溶けて消えた時には、五体満足のマナカの姿。

 

 はためく黒翼が、七枚に増えて強烈なサイオンが―――サイオンそのものが高密度の魔力の霧となりて攻防一体の術式となる。

 

 怪物―――そう言う風に称するに値する化け物である。

 

 同時に刹那の魔眼の拘束も解かれた。

 

 

「化け物かよ……」

 

魔道(まどう)を行くモノなんてどれだけ世間と迎合しようと異常者の類―――知らないわけではないでしょう?」

 

 

 言ったレオに対して返した言葉、苦渋の表情を見せるレオだが―――。

 

 

「だからこそ少しはまともなことに使いたいのよ!!!」

 

「詭弁よね―――」

 

 

 七草会長の魔弾―――刹那が貸した『ブラックモアの指輪』を介して放たれる羽魔弾が睥睨するマナカを穿とうとする。

 

 術を使うまでも無く己の身にまとうサイオンで砕かせる。反対に攻撃―――。魔弾というには、多すぎる……魔力雨が、自分達ごと床を穿とうとする。

 

 

(魔弾においても刹那以上の使い手か!)

 

「レオ!!」

 

「分かってる!!」

 

 

 思考と同時に言った言葉で、足元の床をかちあげて壁面を『傘』として上空に持ち上げるレオ。同時にその床であり傘に対して情報強化。

 

 

「甘いわね。その程度の防壁で」

 

 

 幾らかのホーミングが可能らしく真正面や左右、真後ろに回り込もうとする魚のような動きの魔弾に対して―――。

 

 

「耐え抜くぞ! 西城!!」

 

「押忍!!!」

 

 

 十文字会頭のファランクスがフォローに入る。マナカの魔弾は全てが無系統魔法の類でありながらも、密度が異常であり加重と振動の要素もある。

 

 正確に、それらを見極める会頭の眼が魔弾を封殺する。背中合わせになる偉丈夫二人のたのもしさに誰もが安堵して―――。『瞬間』を待つ。

 

 

「耐えるわね。けれど―――もう少し圧を上げるだけよ」

 

 

 生意気にも『魔法』(まがいもの)で、自分の『魔術』(まほう)を封殺したことでマナカは、絨毯爆撃に耐え抜く会頭とレオに対して苛立ち紛れに殺意を向けたが。

 

 

「言ってろ」

 

「!?」

 

 

 空中に足場を作り背後に回り込んだ執行者。その出現にマナカは驚いたが、拳が握りしめられて、一瞬早く魔眼を『撃たれた』ことで、動きに澱み。

 

 

 止まった少女の姿のグール。胸の真芯を貫き肺腑とあばら骨を軋ませる一撃が、放たれてマナカは大地に急速落下。飛んでいた鳥が猟師に仕留められた様子に見えた。

 

 しかし、そこで油断しない。予定通り―――用意していた魔法を解き放つ双璧の美少女。

 

 

 雷雲が渦を巻き収束して放散を開始―――。

 

 氷雪が風に巻かれて生者に凍結を強制―――。

 

 

 互いの干渉領域をきっちり分けた上で、互いの得意手が炸裂。

 

 ムスペルスヘイム。

 

 ニブルヘイム。

 

 凍れる雪山に雷雲が轟く様子をイメージさせるものが、再現されて、その中にいるものがどうなっているかなど、考えるまでも無い―――はずだが、確かな手ごたえを感じるはずの二人に冷や汗が浮かぶ。

 

 マズイ。『破られる』―――直観で悟ったリーナが思念を飛ばして、受け取った時には、特大のルビーを七つは手に持った刹那がアンサズ、ソウェルなど『炎』のルーンを介して、『太陽』を作り上げた。

 

 

 特大の豪火球は、刹那の手の中に収まり、凍れる雪山、雷雲の中に投げ込まれた。

 

 

 名前を付けるならば「アールズレブル」とでも呼ぶべき特大の火球は、雪山と雷雲を壊すわけでもなく受け取り強化していく。

 

 

 そこで化学に強い達也が気付く―――深雪の放ったニブルヘイムが水と酸素、そしてそれを分解するリーナの電気―――そこに投げ込まれた『着火剤』……。

 

 

「伏せろ!!!」

 

 

 小規模な核融合反応にも似た大爆発が神殿を揺らす。水素爆弾も同然であろう威力が神殿の外観である廃工場すらも揺らす。

 

 

(狙っていたな刹那!!!)

 

 

 別に魔弾でも良かったのに、そこで炎系統の術を使ったことに、刹那の悪辣さを見る。だが―――そこまでやっても――――。

 

 

「ウソでしょ……!?」

 

 

 狙われた魔法師……否、魔術師は死んでいなかった。炭化した腕、恐らく防御しただろう術式が展開されていたものを斬り落としてから―――ドレスの袖の中に新たな肉が『構築』される。

 

 吸血鬼というものの伝承―――今では廃れて現代魔法で解き明かしたと見られている『昔話』も、こんなものを見ては、明らかにそういったものを信じてしまいそうになる。

 

 

 狂気に笑うマナカという少女。こちらは一方的に攻めている方だが、攻めきれない。

 

 

 魔法の相性を測る前により強い『神秘』で、弱い『神秘』を圧倒する。それこそが古式魔法―――『魔術師』の戦い方……教えられていたとはいえ、ここまでとは―――。

 

 炭化しきった爆心地より起き上がった少女はヘタすれば達也の『とっておき』を食らってもなお、起き上がれる可能性がある。

 

 

(とっておきの『マイナーバージョン』を試したいところだが―――)

 

 

 そうすれば、今度は『お遊び』ではすむまい……心臓を止めるほどの冷気……圧力を感じる。怒りだ。沙条愛華という童女の怒りが場を埋め尽くしている。

 

 

「おかしいわね。今の世に生きている連中の神秘以下の『技術』で私にそれなりの痛みを与えるなんて……。ああ、なるほど、この場にいる連中は全員、洗礼したというのね」

 

 

 眼筋にサイオンの集中。達也の『眼』のように、こちらの術式を看破したようだが、刹那の術式は自分でも見えなかったというのに、この童女は一発だった。

 

 

「テンプル騎士団の術法。言うなれば誓約であり制約を掛けることで能力値を上げたんだ。彼らの概念…今の世で言えば『エイドス』に『神秘』を『色づけした』……」

 

「カテドラルを作り上げたのは、その為か―――羽虫かと思っていたけど、存外楽しめるものね……けれど、外にいる『緑色の毒虫』が面倒ね―――これ以上は、『無し』だわ―――ハジメくん。頼んだわよ」

 

 

 これもまた予定……想定内にあったことだ。虚空を踏みしめて言の葉を吐き出しながら隙を窺っていた刹那と一瞬のアイコンタクト。

 

 マナカもまた控えていた『表向き』の代表者に視線をやる。

 

 

「お任せをミス・サジョウ―――私の望みを叶えてくれたアナタの望みを存分に叶えてください」

 

「そうさせてもらうわ」

 

 

 一歩進み出た男。三十に届くか届かないか……そんな所だろう歳の男の姿は、説法をするキリスト教の司祭の格好に似ていた。

 

 もはや形骸化した反魔法師団体のリーダー。そんなお飾りの神輿でも、それを気にするような男ではなさそうだ。というより、そうさせられたというべきか……。

 

 

「明確な合理性を持たぬお前は『全知全能』であっても『万能』ではない。スペックは過剰でも、力に見合うだけの合理的な裏付けも精神力も無い。だから先程みたいにオレにぶん殴られるのさ。魔術とは執念であり、己をそのための『歯車』に置き換えることだが、お前にとっては執念も歯車の感覚も無いから、簡単に裏手を取られる」

 

「言ってくれるわね。たかだか魔法(まほう)の一端を手にしただけの一族の末子ふぜいが、確かにかつての根源接続者を渇望した家は、いずれ訪れるだろう『力』を『両性』に分かたせることで、片一方にだけ寄らせないようにした―――だから雌性にせよ雄性にせよ。『万能』では無かった。開眼するための『努力』が必要だった……言わんとしている事はわかるけれど、実に胸糞悪い講義ね」

 

 

 サジョウ・マナカは完全に刹那を敵と見做した。刹那は、何かの動作かのように右腕を振り上げた。右腕の『刻印』が輝くその様子に、少しの緊張を見せるマナカの姿。

 

 ここまでは『プラン通り』―――ここから先は――――。

 

 

 天井を貫いて神殿全体を貫く『光の群龍』が、矢となりて降り注ぐ様子から決まるのだ―――。

 

 

「!!!???」

 

「現代に生き残っていた古式魔法も捨てたもんじゃないだろうが!! お前は仕留める!!!」

 

 

 言葉で群龍をものともせずに掴みかかろうとする刹那。強烈な勢いの一撃が躱されて―――翻すように神殿(廃工場)の奥へと飛んでいく様子のマナカ。

 

 

「セツナ!!」

 

「ああ、行くぞ!!!」

 

 

 プラン通りに今まで共用で着ていたUSNA軍のスラストスーツを剥いで、彼ら曰くの『魔術礼装』を身に纏って、奥間へと行く『ツインスターズ』(双星の魔法)

 

 それこそが相手の狙いであり、こちらの狙いだ。

 

 追い縋る様に達也たちもアーマースーツのままに行こうとしたが、その進路を塞ぐ司一の姿。

 

 

『ガァアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

 ただの呼気。叫ぶだけと言ってもいいそれによって、こちらが押しとどめられた。予定通りではあったが、予定にないものも一つ。相手の能力値だ。

 

 幹比古の放った魔法によって吹き抜けも同然となった神殿にて哲学者のような男が、立ちはだかる。

 

 

「さてさて、ミス・サジョウがいて挨拶出来なかったが、僕が司一(つかさはじめ)です。甲の同級生や後輩が大挙してやってきてくれて嬉しい限りだね」

 

「客人を持て成すならば家に招待するのが礼儀じゃないか?」

 

「ごもっとも。しかし僕の『仕事場』にやってきてくれたからには仕方ないな」

 

 

 あくまで自分は反魔法師団体の首魁であるという態度は崩さないでいる司一に少し怪訝な想いだ。

 

 のらりくらりと言ってくる司一に、誰もが掴めない印象だ。

 

 調子を狂わされる前に、己の言い分を通すことを十文字克人は選んだ。

 

 

「甲の同級生の十文字克人です。このような無礼な訪問で申し訳ない限りですが、あなたには即座に警察なり司法への出頭が適当だと思われます。即時の活動停止を―――」

 

「ブランシュ日本支部なんてものは、もう無いんだよ。仁王の十文字君。まともな意味での生きた構成員なんて僕一人―――見てはいないけど、まぁみんないい死にざまだったんじゃないかな。大敵たる魔法師に恐怖と最大級の底なしの憎悪を見せられたんだからね」

 

「戯言を―――テロリストにそのような事を言う資格などあるものですか!?」

 

 

 深雪の激昂を受けても、司一にとっては、別段問題ないことのようだ。恐怖を患うでもなく、細い眼で見てくる。

 

 

「確かに、僕たちはテロリストだね。主義主張を通そうとして武力に訴えて、結局勝てぬ戦いをする愚か者。かつての赤軍ゲリラなどもその手の幻想に酔って、多くの災厄を招いた。そしてその思想の最たるものが粛正という名の『虐殺』ではね」

 

 

 思想論の次には歴史の授業。聞かされても揺るがぬ精神で―――今はいられる。そうでなければならない。

 

 

「けれどね。君達が『誰か』と何かを共有出来ていくのかな? 君達の魔法技能の大半は『遺伝』によって発現するものだ。片親が魔法師であれば高確率で子も魔法師になる素養がある―――つまり君達の力とは『独占』の真髄だよ」

 

「何が言いたい?」

 

 

 会話に乗っている状況で、あちらの思惑に乗っていると思えた。笑みを零す司一は言葉の続きを告げた。

 

 

「君たち魔法師は『自分達の力は努力して得たものだ』『だから他人に、その使い方をとやかく言われる必要はない』。そんな風に言っては―――己達の行為を正当化する。分かるかな魔法師? この論理の恐ろしいところが」

 

「……力を我が物として、力なき者を蹂躙する。そう言いたいのか?」

 

「もっと言ってしまえば、実際にも他者を圧倒する殺戮者に容易になれるということだな。君達が、結託して、結束して本気になれば、今の人類社会を支配することも容易なのだろう。君達を止めえるのは法律でもなく倫理観でも無く、君達自身の克己心だけだからな。相手の未知数な理性に期待するというのは良くも悪くも賭けだよ」

 

 

 そこまで言えば、自分達も容易に反論出来ない。結局、法の軛をいくらでも誤魔化せる異能力者が社会に紛れているというのは、多くのフィクション作品でもあまり好意的には受け止めてもらえていない。

 

 そういった作品を書いて『魔法師に対する差別』だと協会も訴えることもあったそうだが、フィクションの世界に現実の倫理や法をどこまで適用させるかというのは、いつの時代でも微妙な問題だ。

 

 

「まぁここまで言っといてなんだが、僕もそんなことで君達の意気を砕いたところで、面白くも無いからね―――だから……違う『超越者』としての道で、君達に立ち向かおうと思うよ」

 

 

 ざわっ。とでも言えばいいのか―――何かの圧が膨らむのを感じる。それは恐らく―――司一が隠していた一種の圧、存在感。

 

 それを解き放ったのだ……。

 

 

「君達が努力をして殺戮者への道を持ち得たというのならば、僕はそれとは真逆。突然現れた『魔法使い』や『神様』によって、力を得たものとして君達の理不尽となろう……。普通の人々が感じている劣等感。君達だけが全能感という快楽を得られることの幸福を今一度感じてくれることを願うよ」

 

 

 嫌味とも警告とも、何とも言えない男の言葉―――あえて言うならば『虚無』と『絶望』に彩られた男の言葉が全身を貫く。

 

 

 本当に理不尽だ。

 

 

 つい一週間ほど前までは、ブランシュなんて団体は、ただの反魔法師団体で、魔法師が本気になれば簡単に潰せる団体だったはずなのに、一人の強力な魔法師が入り込んだだけで、こんなことになった。

 

 

 刹那の説明を誰もが目の前の事態に対して麻痺している中、達也だけは疑問交じりで聞いていた。

 

 

 そんな魔法で『大それた家』があるならば、流石に日本政府も把握していないわけがない。

 

 

 沙条家なるものが存在しているのか、そこが魔法師の家系なのか、それとも……忙しい中でも調べた限りでは風間の送ってきたメールには、そんな『人間』は過去・現在において存在せず、死人などのデータも洗ったが……。

 

 刹那の語るところの家―――同じ姓も確かに存在していたが、そういう現代魔法はおろか、古式も何もかも関係ない一般人の家……。

 

 考えれば考えるほどに、達也の常識外の敵ばかりが立ち塞がり――――。

 

 

(それが楽しいなど、俺は―――どこかで狂わされているのかもしれない……)

 

 

 バイアス調整の利かなくなった頭の中でやれることなど一つだけ。

 

 レオが、床スレスレから放ったアッパーで、吹き飛んだ床の『石材』に対して魔法を仕掛ける。

 

 

 戦略級魔法『マテリアル・バースト』のマイナーバージョン。広がりゆく魔法を抑え込むために刹那の言う所の魔力のイメージ訓練を要するが、十分すぎた。

 

 

 石材の質量が膨大な熱エネルギーに変換されて、それを形あるものに『留める』。作り変えて更に作り替えて―――数十個ものエネルギーの火球を司一の周囲に作り上げて『打ち出す』。

 

 

 本来の司波達也の魔法特性では不可能な技が披露されて―――しかし、放たれる『ブラスト・ボム』は、司一の身体を穿っていくのであった。

 

 

「お兄様!?」

 

「す、すごい魔法を見た気がするわ―――」

 

「来るぞ!!」

 

 

 深雪の驚きの言葉にエリカの驚きの言葉―――そして十文字会頭の警告の言葉に光の中に消えたはずの司一が、獣のような姿で焼けながらもやってきたことで、戦いはまだまだこれからなのだと気付く。

 

 

 

 

 † † † †

 

 

 

 奥間。魔術師にとって工房の奥の奥というのは入り込んだ相手に対する完全な処刑場なのだ。

 

 

 処刑場であり、祭壇―――これだけのものを作り上げておいて贄として捧げられる最初の人間が俺というのは、何とも……。

 

 

「元の世界では世話になったわね。ここならば気兼ねなく話せるわよ。そっちのお嬢さんも知っているみたいだしね」

 

「友達でも無いんだ。昔話することも、別に話すことなんてないな。とっととくたばれ。それだけだ」

 

 

 暗く暗く、されども地の底、獄の獄を思わせる場所にて沙条は語る。

 

 

「ずるくないかしら? 私は、ただ欲しいだけよ。彼が、他の世界の『私』が恋した彼と共にいたい……それだけなのに」

 

「その果てに人理の破壊をもたらすならば、それを許せると思うか? お前の愛も恋も、世界を犯す『過ち』だよ」

 

 

 とんでもない地雷女。呼べないならば諦めれば良かったのに、可能性があるから近づこうとする。

 

 こういう時に魔術師としての業をことさら意識する……自分とて求めなかったわけではない。

 

 

「……『経験者』だからこそ分かる。例え、求めていたとしても『手に入れちゃいけないもの』もあるんだよ。本当に、分かっていなかった……」

 

「セツナ、アナタがそれを求める気持ちは『人間』として正常よ。自分を卑下しないで、ワタシもアナタを失えばどうなるか分からないもの」

 

 

 ありがとう。―――無言で笑みを浮かべて返答とする。その言葉が、自分を止めてくれる。ここにいると証明してくれる。

 

 

 だからこそ、追ってきた過去に―――決着を着ける。それだけだ……。

 

 

双腕刻印・直列接続(ダブルドライブ)――――双腕基盤・並列接続(ツヴァイファンタスト)

 

 

 両腕の五指を開き前に出して何かを押しとどめるような動作。そうしながらも全身を苛む魔力が循環して一つの魔術を生み出そうと術式に叩き込まれていく。

 

 

「開くのね。―――『門』を、全ての破滅を止めるものを!!!」

 

 

 狂気の声が聞こえながらも、刹那は一つごとに集中する。その様子を何度か見ながらも、いつもリーナは思う。

 

 全身から出る余剰の魔力がスパークとなって刹那の周囲を照らしていても、彼は集中をとぎらせない。

 

 まるで、その様子は修験者の如く見えるほどに……苦痛に耐えている。

 

 

 そして両腕の刻印。刹那の両親が叫びながら、それを諌めるかのように……ああ、そうだ。あの動き、クリスチャンが行う祈祷のように手を組むのではない所作。

 

 ニッポンのブッディズム、シントウイズム(神道)で見られるもの……。手を胸の前で合わせる動作が似ている。

 

 

『セツナのポーズ……あれは、まるで『神への祈り』じゃないの……』

 

 

 勢いよく合わせられる掌。―――紡がれる言葉―――。

 

 

「―――I am the bone of my sword.(身体は剣で出来ている)

 

 

 言葉が全て紡がれた時、超越者が作り上げた『世界』を侵食する『セカイ』が出来上がり――――――――全てを決する戦いが始まるのだった……。

 

 

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